第25話 帝国への侵攻
ハルザンド・ジョルジア・スーベニアからの帝国への侵攻軍のうち、ハルザンドとスーベニアからの軍は陽動でしかなく、主力はジークが率いるジョルジアからの侵攻軍だった。この侵攻軍にはカインとイェルシアとキキが従軍した。カインは前線部隊の後方からの魔術攻撃を担い、イェルシアとキキは作戦参謀役を担っていた。
イェルシアの智者の力は権謀術数に優れ、それは本来は宮廷内や国家間での交渉で発揮されるものだが、ハルザンド防衛での戦闘を通じて智者の力が増してきた現在では、戦況の変化をある程度は予測できる様になっていた。その力を使い、イェルシアは戦術立案の中核として活躍していた。もう一方のキキは偽計や計略の面で貢献していたが、これは愚者の力と言うよりは本人の素養によるものの様だった。二人の立案する作戦は、ジークとカインの力を軸としつつも、複数の小隊を伏兵として巧みに使い、戦線での帝国軍の被害を増大させていた。
「スーベニアの枢機卿の調査によるとバラモス派が絡んでいる様だぜ。」
枢機卿にはシンシアやカインの情報が流出した原因の調査をお願いしていた。シンシアはジョルジア敗戦後にヴァルベルトと黒騎兵の急襲により聖者の力を奪われている。またシンシアは10年以上前にも黒騎兵に襲われている。なぜシンシアの情報をヴァルベルトが知っていたのか、その調査だった。その調査結果をキキが知らせてくれた。情報を盗み出したのは古道派に扮したバラモス派で、帝国の発行した許可証でスーベニアへ入国していた。スーベニアから帝国への出国記録も残っていた。統一教から異端と断じられたバラモス派がヴァルベルトと通じているかも知れない...これは帝国を揺るがすスキャンダルになり得た。
「この情報を神聖騎士団に流すと面白そうだよなぁ。」
帝国の神聖騎士団はカーマインでの反乱鎮圧へは参加せず、それ以降も一切の軍事作戦に参加していない。理由は帝国がスーベニア神聖国へ侵攻した為で、神聖騎士団が属する教会が帝国からの要請を拒否したからだ。拒否できる程度には教会と信徒である神聖騎士団の独立性は高かった。キキはそこにヴァルベルトとバラモス派の話を流し、教会と神聖騎士団を帝国から離反させようと言う。成功するかは兎も角、帝国の混乱を誘うには良い手段だと思えた。
キキは複数の情報網を使いヴァルベルトとバラモス派の繋がりに関する噂を流した。その噂は時間をおいて帝国の教会へも伝わり、帝国の教会は事の真偽をスーベニア神聖国に問合せ、その噂が真実である可能性が高いとの回答を得た。その回答を得てからの行動は早かった。神聖騎士団を帝都の周辺に布陣させ、新皇帝であるヴァルベルトへ質問状を送付すると同時に、教会関係者による帝都内の調査権を要求した。ヴァルベルトは近衛騎士団を城壁前に配置して威圧したが、教会と神聖騎士団は引かなかった。その状況は帝都だけでなく周辺地域をも混乱させた。
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ヴァルベルトが教会と神聖騎士団への対応に苦慮している間もジークは帝国内部への侵攻を続けていた。陽動を担っていたハルザンド・スーベニアからの侵攻軍はその役割を終え、ジークの侵攻軍に合流した。1つに纏まった侵攻軍は勢いを増し、徐々に帝都へと迫っていた。そうして帝都まで後数日という距離に着いた時、帝国の教会から派遣された司祭とその従者がジークの軍を訪れ、会談を申し入れた。
教会から派遣された司祭の要求は2つ、帝都内の一般民の保護とバラモス派の調査への協力だった。その2つが実現されるなら帝都内の信徒を扇動して城門を開けさせると言う。ジークはどちらにも協力すると約束した。それからジークと司祭は情報交換したが、話がカーマインの反乱に及んだ時、司祭は教会がナディアを保護していると告げた。ナディアは戦闘中に右腕と片目を失い、その後に帝国軍による酷い拷問を受け、教会が彼女の生存を知って保護した時には死の淵を彷徨っていたと言う。ジークとカインはナディアの生存を聞いて安堵し、司祭に対し深い感謝の言葉を述べた。
教会側との会談を終え、ジークは帝都へ向け進軍を再開した。
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