第三章 問いかける爺と永遠の夢を見続ける友の亀
宇宙 自動運転宇宙船が紀行してる
起きたばかりの岳斗、加那江、レオナルド、ジェシカは次の獣の手がかりを掴むべく、船の中に置かれてる資料や新しい新聞を片っ端から引き出して、大きな事件がないかどうか探してみた。 そこへ王国への電話を終えたシャルルが戻ってきた。
レオナルド「シャルル、電話終わったのか。
王国の人はなんて言ってたんだ?」
シャルル「獣の討伐報告を王様にしようとしたが、王様は遠征のようだった。
報告の伝言を頼んだよ。」
ジェシカ「どこに遠征してるかって、言ってましたか?」
シャルル「んにゃ、王国と親密にしてるワラリナ星に遠征に行って、復興支援をするんだそうだ。」
岳斗 「そのワラリナ星ってどんな星なんだ?」
シャルル「その星は地層の下に海があって、中心核になっているんだ。だが、3年前に大きな津波が起きて、地層に亀裂が乗じたのが原因で海が大量に溢れた。 その結果、空洞化した地層が崩れ、死者と行方不明者を多数出した。 王様はその災害を気にかけていて、インフラ復興や食料品の配達などを王国を挙げて実行しているわけだ。」
加那江 「王様もなかなか忙しいのね。 私たちも負けてられないわ。
頑張るぞー。」
一行が獣探索に改めて気合を入れた時、燃料の補給アナウンスが流れた
自動運転AI 「警告! 宇宙船の燃料が残り少なくなっています。
直近の燃料補給ステーションはサヴォアソン星のシラーコ市にあります。 そこに向かうことを許可いたしますか?」
シャルル「ああ、許可する。」
自動運転AI 「かしこまりました。 サヴォアソン星を目的地に設定します。」
太陽が登り始めた。 燃料補給のためにサヴォアソン星のシラーコ市にあるべバーガー宇宙空港に着陸した。
その空港は普段は高層ビルの形をしてるが、宇宙船が着陸する時、ビルの床の中から着陸板がスライドされ、そこに着陸した後、宇宙船ごとビルの中に入れると言う仕組みになっている。
補給とメンテナンスをお願いしたので、作業完了まで数日かかる。
その間、この星で獣に関しての情報収集することを決めたのだった。 ビルの1階に降りてきた岳斗たちは新聞、観光地や交通情報が書かれているパンフレットを買ってきた。 腹が減ってきたので、空港直属レストランに行って、メニューが届くまで作戦会議することにした。
岳斗 「んー。この星って遺跡が多いんだな。 しかも、探索者もかなりきてるみたいだ。 空港でも探索者らしい服装をした人たちがいっぱい居たな。」
ジェシカ 「5ヶ月前にサヴォアソン星一の大きさを誇るタウナー遺跡でとある王様の王冠を見つけた人がいたみたいですね。 ほら、この記事ですよ。 」
シャルル「まじかよ! ほうほう、その王冠は500年の歴史がある銀河オークションで出品された中で、最高値で落札されたのか。 夢あるぜ〜。」
レオナルド「こんな時じゃなかったら行ってみたいもんだな。 ロマンがある。
ここから南西に159キロのところにあるのか。
む? 」
レオナルドは宝発見の大きな記事の下にひっそりと書かれている小さな記事がふと気になり、目を落とした。
岳斗 「レオナルド? どーしたんだ?
なんか気になる記事でも見つけたか?」
レオナルド「うん…。 不思議な話だが、100年間ずっと眠り続けている街があるそうだ。
ここから70キロ南のミベールという名前の町か。」
加那江 「100年間…? それは気になるわね。」
岳斗 「眠るって…。 どーゆー意味なんだ?
ゴーストタウンって意味なのか?」
レオナルド「いや、ほんとに奇妙だが、外から見ただけでも地面に転がって寝たままの人を発見したとも書かれている。
これは町中の住民全員が眠りの呪いにかけられたと考えるのがいいのだろう。」
ジェシカ 「なるほど、確かに奇妙ですね。」
一行が眠りの町を奇妙に思っていると、シェフが料理を配ってきた。
シェフ 「料理でございます。ラッパンという生き物(頭がラッパという楽器のラバ 仲間同士のコミュニケーションにその多様な音色を使い、協力することでサヴォアソン星の厳しい砂漠環境をたくましく生き延びた そのラッパは金持ちたちのオークションでたびたび白熱した争いが見られるほど愛するものにはたまらない代物である)の脚の筋肉を弱火でじっくり焼き、上からツバリャーノ星のタミチャナなどの様々な唐辛子をブレンドした特製ソースを掛けました。 どうぞ召し上がってください。」
ジェシカ 「ありがとうございます。美味しそうですね。
…あっ。 ちょっとお聞きしたいのですが。」
シェフ 「はい。 何でございましょうか?」
ジェシカ 「ミベールが100年前から眠ってる町だと、この新聞で知ったのですが、どうしてそうなったか分かりますか?」
シェフ 「申し訳ありませんが、その時、私は生まれてないので、詳しいことは分かりません。 しかし、眠る街は他にもあったと聞きます。 なので地下二階から地下10階までの市立図書館でお調べになるのがよろしいかと存じます。 では失礼いたします。」
ジェシカ 「お話ありがとうございました。
さっ、冷めないうちに頂きましょうか。」
飯を食い終わった岳斗たちは早速案内してもらった図書館に行くことにした。
ビルの内壁に沿う螺旋階段を降りると1階ごとに天井で区切られる構造が見て取れる。 真ん中の大きな部屋に膨大な量の棚や本が規律正しく並べられていて、棚の横には共用テーブルや椅子がいくつか置かれている。
岳斗 「シャルル、旅してる割には、なんか結構図書館で何か調べてばっかだよな?」
シャルル「獣を探すんだ、しょうがないぜ。
考古学者の仕事の大部分が図書館での文献や資料集めって言われてるからな」
加那江 「この星の過去の歴史についての本は地下5階にあるみたい。 行ってみましょう。」
歴史書、事件簿などを引っ張り出して、眠る街がどこにあるのか、いつ眠るようになったのか、前後に何が起こっているのかなどをパンフレットの地図に書き込むうちに3時間経った。
シャルル「なるほど。 大体まとまったな。」
加那江 「ええと、まず150年前にウォーバー、112年前にスソリーチ、103年前にミベール、62年前にハフォーチ、46年前にマラマラという街が眠りに落ちているわね。」
レオナルド「この五つの街はいずれもタウチー遺跡から大きく離れてないな… 5つの都市は遺跡からそれぞれ26キロ南、64キロ東、89キロ北、102キロ西、118キロ南だ。
200年前ほどの事件を考えると無関係とは言えない。」
シャルル「タウチー遺跡のすぐそばにあるリオベール王国が一夜にして人々や魚などの動物が消え、亡国と化したとか…
謎に包まれているが、タウチー遺跡の中の王墓に捧げられていた副葬品が王の権力と比べてやけに少ないことから、規模のでかい盗賊の仕業と見られているな。 」
ジェシカ 「それでは終わらずに、そこから40年後ほど、つまり160年前に周辺の町や村で次々と住人たちが殺され、お金や食料を取られたり、オアシスに毒がばら撒かれたりなどが起きました。
次に130年前ほどに隣国との戦争で負けたウベリー王国の王様が民を引き連れ、東からやってきてリオベール王国を再建の地としたそうですが、そこから100年間ほどリオベール王国の豊かなオアシスを求め、たびたび周りの国から侵略を受け、国や周りの村の兵士や民が殺されたり、略奪されるようになりました。
そして、28年前に原因不明の疫病が王国内に広まり、多くの人々が病に倒れ、亡くなるという事件が起こりました。 オアシスや食料は何故か無事ですが、その疫病で『呪われた王国』と言われ、誰も建国しようとしないそうです。 これで全てですね。」
岳斗 「しかも略奪は白昼堂々とおこなわれていて、あえて全員殺さずに一部だけを殺している。
普通、深夜とかに夜襲して、奪っていくもんな。
王国の滅亡から始まって、住民の殺戮や盗み、そして、街全体が眠りに入る…
なんかきな臭くなってきたな。 ところで、眠る街の人口とかはどうなってる?
確か前回の結果から考えると例えば、人口がとびっきり多いとか。」
加那江 「いいえ、人口に大きな関連性はないわ。
一応病院も調べてみたけど、あちこちに大きな病院はあるので、次にどの町で眠る、つまり獣が現れるかもしれない可能性があるのか特定は出来ない。」
レオナルド「人々の殺傷事件と眠りがどう関係するのか分からんが、最初だけ何故か人々の死骸が見つからないのかも不思議だ。
何が違うのだろうか…。」
シャルル「とりあえずわかるところはここまでか。
タウチー遺跡が一連の事件の鍵のように思える。 そこに行ってみようぜ。」
岳斗 「そうだな。 タウチー遺跡ってここから南西159キロか。 ミベールを経由して、そこでも聞き込みするのはどうだ?」
加那江 「悪くないわ。 ここの2階のシラーコシティ駅からちょうどミベール駅を経由して、タウチー遺跡に行けるわ。
(立ちあがって)日が暮れないうちに行きましょう。」
レオナルド「うむ。」
蜃気楼が揺らめく砂漠を走る鉄道 黒い煙を出しながら勇ましく車輪を回している。
車内は観光客で溢れかえって、満席に近かったが、幸運にも向かい合いの椅子とテーブルが1つ空いているのを発見できたので、座ることにした。
岳斗とジェシカがカナエとレオナルドの向かい側に座る。 シャルルは氷魔法を自分にかけて、涼みながらジェシカの膝の上で寝てる。
岳斗 「しかし、本当に混んでるなあ。」
レオナルド「タウナー遺跡への見物、発掘などで観光地になってるだけあるな。
『呪われた王国』というのに惹かれるのだろう。」
岳斗 「それにしてもアチーな。 砂漠の熱気がこっちまで伝わっていくぞ。
水買っといて良かった。 (ゴクゴク)」
その時、皆に声が掛かった。 見ると岳斗の半分くらいの身長で、筋肉で勇ましい爺さんが立っていた。 背中に彼の身長ほどのハンマーを背負っていた。
その後ろには岳斗くらいの身長である若い青年のガゼル獣人がいる。 特徴的としては、赤い飛行ゴーグル、茶色の革ベストを着ていて、腰に巻かれている図太いベルトで銃を後ろに収納していた。
マック「こんちわっす。
相席いいっすか? なにしろ混んでるもんで…。」
ダニエル「有難いな! わっははは。 親切なお兄さんだ。
よっこらしょ。 」
岳斗 「いいよ。」
岳斗はそう言って立ち、廊下でテーブルに寄りかかった。 青年も隣に立った。
席に座ったダニエルがシャルルたちを見て、歓声を上げた。
ダニエル「おおっ!! こりゃあ、なんとべっぴんさんたちじゃ〜!
それにこの猫は毛並みがキラキラしてるな。 イケメンやなぁ。」
シャルル「呼んだか? そりゃ名誉なことだぜ。」
シャルルが耳をぴくんっと立てて目を開ける
尻尾を一振りして4本足でテーブルに飛び移る。 猫のポーズで体を伸ばして、大きくあくびした。
そして、毛繕いしながらダニエルに質問した。
シャルル「爺さん。 あんたは観光客には見えないな。 どっちかゆーと、職人の服装してるし。 」
ダニエル「その通りだよ。 わしは武器の鍛治が修理を主な職にしていて、ついでに他の壊れたものを色々直したりしているのだ。
おおっと、申し遅れたな。 わしはダニエル・ロワノフじゃよ。 こいつは弟子のマック・ハドールだ。」
岳斗 「俺は岳斗。 そんで、赤髪がレオナルド、一角獣がジェシカ、猫がシャルル、そんでポニーテールの女の子が加那江だ。」
マック「そんで、俺っちは今日、ダニエルさんの弟子として、お手伝いに行ってきたっす。
ダニエルさんはずっけー鍛治師で、今いろんな地方のお客さんからの依頼が殺到しているんす。 かくいう俺っちも憧れて、この道に入った口っす。
ダニエルさんみたいな鍛治師になるために色々頑張って、今はやっと独り立ちして、自分の仕事がもらえるようになったところっす。」
ダニエル「ああ、こいつはよく頑張っている。 元々が頑張り屋な性格じゃからな。
ま、わしから見たらまだまだ青二才というとこじゃよ。 わっはははは!!」
マック「並の人だったら言い返しているっすけど、ダニエルさんですからね。
なんとも言えないっすよ・・・。」
岳斗 「ほおー。 俺も色々頑張ってるよ。
そういや、、この列車は帰り道か?」
ダニエル「いや…。 墓参り…とでも言ってもいいかのう?」
加那江 「(歯切れが微妙に悪いような? 深い事情があるようだけど聞かないほうがいいかしら。)」
マック「ダニエルさんは時々、家族の墓参りに行っているんです。
1人で行くから俺っちもよくは知りませんけど。」
マックが暗い雰囲気を吹き飛ばすように話題を切り替えた。
マック「お兄さんたちはこんな大勢でタウナー遺跡に旅行っすか?
宝でも掘りにきたの?」
ジェシカ 「んっ…。(まさか獣討伐とは言えないよね。) えっと、眠りの町のミステリーを調査しにきたんです。
何故、街全体が眠りに入るようになったのか不思議に思いまして…。 ねっ、レオさん。」
レオナルド「ああ、彼女は疑問を持つとじっとしてられなくて、すぐ現地に調査に行ってしまうので、俺らは振り回されっぱなしだぜ。
ほんと、やれやれだな。」
ダニエルが一瞬上を見て、切なさそうな顔をした
ダニエル「・・・そうか。 そりゃ、立派だな。」
加那江は一瞬迷って、意を決したように聞いた。
加那江 「…ねえ。 こんなこと聞いていいかどうか分からないけど、あなたがお墓参りする人って、眠りの街と何か関係あったりするの?」
岳斗 「加那江…! おいおい、そんな質問していいのか…?」
ダニエル「気にせんでくれ。 もう昔々の話だがらな。
…そうだなぁ。 墓参りするかもしれないのは実は私の妻、娘と妻の愛犬なんだ。 なにしろあの眠りの街に閉じ込められてから100年ほど経ってるもんでな。」
岳斗 「100年? すると、もしかしてミベールのことか?」
ダニエル「そうだよ。 わしが遠くに仕事に行ったばかりにとうとう会えずじまいになってしもた・・・。」
ダニエルが湿っぽい空気にしたことに気づいた。
恥ずかしく思い、急いで別の話に切り替えた。
ダニエル「あっ、悪いな。 湿っぽくなっちゃった。 もしかして、あんたらもミベール駅で降りたりするのか? ほら、調査とかで。」
ジェシカ 「ええ。 そうですよ。」
ダニエルが胸を張って、言った。
ダニエル「よし、わしが案内してやろう。」
シャルル「ありがたいぜ。 ついでに悪いが、あんたがあんたの家族と会えずじまいって言ってたよな。
もしかして、眠り=死ぬって意味なのか?」
ダニエルは首を振って言った。
ダニエル「いや、会えずじまいなのはそういう意味でないのだよ。 街自体に入ることが出来ないからだ。」
レオナルド「どういう意味だ?」
ダニエル「外から街に入ると永遠の眠りに襲われるからだ。
実際、数十年前に旅行客が街に入った途端に突然眠気に襲われ、倒れてしまった。 そして、そのまま目が覚めないという事件が起きたんだ。
そこから、眠りの街が封鎖されて、アリ一匹入れないように厳重に警備されとる。」
ダニエルから衝撃の事実を聞かされて、愕然となる岳斗。
岳斗 「まじか。 入れすらしないなんて…。
どうする? このまま経由するのか?」
シャルル「いや、まだ手がなくなったというわけでないな。
それに周りの村で聞き込みしてもなんかわかるかもしれないだろ?」
岳斗 「お前がそういうなら、いいけど。
つーわけで、しばらくよろしく頼むぜ」
マック「こちらこそよろしくっす!」
ミベール駅に降りた一行 砂嵐もなく、良好な視界である。 晴天なり。 太陽が南中する頃。
岳斗たちはミベール街の近くの村で暮らしているダニエルの家にいくことにした。
レンタカーサービスセンターに行ってみたところ、4人乗りの車と駱駝馬がそれぞれいくつかあったので、岳斗が駱駝馬に乗って、あとはジェシカの運転で車に乗ることにした。
ダニエル、マックがパーティイン
砂漠の世界にいる狼蛇やハリネズミならぬハリモグラなど、多く湧き出るモンスターを避けながら目的地に進む。
岳斗 「うへぇー、こんなにモンスターいるんじゃあ命懸けだな。
爺さんって戦えたりするか?」
ダニエル「心配いらんわ! これでも武器扱ってるからな。 わし自身も武器持っていて、ほれ!(背中から武器を取り出して見せる) このハンマーで敵をホームランするんじゃあ! わっははは!」
シャルル「宜しく頼むぜ。 ダニエル。」
マック「俺っちも愛用の散弾銃で蹴散らして見せるっすよ!
親父譲りの戦士の血が騒ぐぞー!」
岳斗たちが旅の途中でたわいもない話をしていると突然駱駝馬に乗っている全身を黒いマントで羽織った黒い覆面の男が岳斗の横に並走した。
岳斗 「んあ? あんたも旅か? それにしてもこんな砂漠で暑そーな格好して大丈夫か?」
ゼロ「心配いらんよ。 それよりも二秒後の自分の身を心配しろよ。」
岳斗 「へ?」
黒ずくめの男はそう言うと仮面越しだが、不気味に微笑んだような雰囲気を出し、岳斗の剣の刃渡りと同じくらいの長さの黒い剣を取り出した。
そして、岳斗に向かって、上から振り下ろす。
岳斗驚きながらも剣で受け止める。
ゼロ「ふっ。 なかなかの反応だ。」
岳斗 「あんた、何するんだ! あぶねーじゃないか!(剣を左手に持ち替える)」
ゼロ「ククク…。 振り落とされんなよ。」
その一言が戦闘開始の合図になった。
ゼロと岳斗は互いに馬に乗りながら、殺陣のこどく、剣と剣が踊る。
その度に鉄がぶつかり合うシンフォニアが無毛の荒野に轟く。
岳斗 「っだ! ぬっ! ふん!」
ゼロ「はっ! やあ! ダァ!」
加那江 「助太刀しようにも付け入る隙がないわ。」
マック「俺っちの銃じゃ、岳斗も巻き込んじゃうっす。」
シャルル「それだけ奴がただ者じゃないということか。
いや、あいつは多分岳斗より強いだろう。 岳斗が腰や肩の回転を使って、体全体で斬りかかってるのに対して、奴は右腕以外微動もしないのに軽く渡り合ってる。」
レオナルド「確かに。 それに岳斗は汗を流してるが、奴は暑がる素振りも全く見せてない。
これは長期戦は不利だな。 どうするか?」
シャルル「よし、ここは俺がやる。 蜃気楼を映し出すサラマンダーよ、その幻想鏡に映る邪を爆せよ!(全体爆撃攻撃魔法だが、心の中に邪悪を持つものにしかダメージを与えない)」
岳斗とゼロの周りに爆撃が起きた。 もちろん岳斗には効かない。
爆撃の瞬間、土埃でよく見えないが、ゼロの血と服の一部が飛び散った。 その後に落馬の音が聞こえた。
ジェシカ 「やった! 大丈夫ですか? 岳斗。」
岳斗 「ああ、助太刀ありがと。 実はちょっとやばかった。
やれやれだ。」
安心したのも束の間、消えかけた土埃から駱駝馬から落ちたはずのゼロが現れた。
しかも、服も肉体も無傷!
シャルル「バカな! 血が飛び散るのをこの目で見たんだ。」
ゼロ「困るぜ〜。 せっかくの一騎打ちを邪魔しちゃ。
まっ、俺は岳斗の実力を偵察に来ただけだからな。俺の気は済んだよ。
もういいぞ! アニー!」
岳斗 「ぬっ? 仲間だと?」
岳斗が周りを見渡したが、どこにもアニーの姿は見受けられない。
その時、咀嚼音が短いリズムで連続して刻まれた。 地面の中から…。
岳斗 「どこにもいないぞ・・・?
ん? 地面から聞こえる…。 なんだよ?」
レオナルド「まるで土を食いながら追いかけてるような?」
ついに謎の声の正体が地面から出てきた。 そいつは前を地面を泳ぎながら、土を食っているっ!
アニー「もぐもぐ、ゴリっ(石を噛み砕く音)ごくっ。 マテ。 オラ、オマエ、クウ。」
ダニエル「なにぃーーッ! こりゃ驚いた! 土食いおなごじゃ!」
アニー「オマエ、ウマソウ。 オラ、トブ。
イタダキマァース!」
岳斗 「ヤバイッ!!」
アニーが地面から飛んで、岳斗を丸ごと飲み込もうと口を全開した。
岳斗は馬を右に動かして、アニーの飲み込みを避けた。 しかし、無理に避けたせいか、馬が岩に足をぶつけ、前に放り出された。 受け身は取ったが、ゼロが進行方向に道を塞いだ。
岳斗 「ウワァーーーーッ! マジかよ。」
ジェシカ 「岳斗! 今行きます!」
車を急ブレーキして、みんな車から降りた。
マック「大丈夫っすか!? 岳斗!」
岳斗 「ああ、大丈夫だ。 しかし、とんでもないことになっちまったな・・・。」
馬から降りた形になったので、戦わざるを得なくなった一行はアニー、ゼロと向き合う。
岳斗 「なあ、あんたら、何者だ?
はっ。 まさか、結社か!?」
シャルル「結社…。 憤怒?暴食?怠慢?それとも強欲? どれなんだ?」
ゼロ「ククク。 俺はゼロ・ラグナイド。 結社のボスだ。
ジョー、パイン、マドレーヌが随分お世話になったな。」
岳斗 「んだって! ボスがこのタイミングで出てくるのかよ!
フツー最後に、城の奥で椅子に座るもんじゃねーのか?」
ゼロ「そりゃ、ステレオタイプだぜ。
悪いがな、勇者様がくるまで待っていられるようなタチではないからな。 そして、こいつはアニー・ゴーウィンだ。」
アニー「ハラヘッタ。 クウ、イイ?」
ゼロ「いいぜ。 好きにしろ。」
アニー「ソウカ クウ、クウ…。
ウガァーーーーッ!」
アニーが口を大きく開けて、岳斗たちに全力疾走で走ってくる。
加那江 「そんなに食いたいなら食わせてやるわ! 最後の晩餐をね!
ゲリラサイクロン!(サイクロンクロウとガトリングスコールの合体技)」
アニー「ゴチソウ、ゴチソウ!」
アニーが思い切り吸うと大きく開けた口に大量の弾が吸い込まれる。 そして、驚くことに頭の後ろに貫通することなく、飲み込んでしまった!
加那江 「!! なんて事っ!」
レオナルド「なら、これは食えるか?」
レオナルドはそう言って、何の種もない鉄の矢を放った。
アニーも口を開けて待ち構えた。
アニー「クウ!」
アニーが鉄の矢の味を楽しみにしてると直前で矢に火が大きく燃え上がり、アニーを包み込む。
アニーは炎に燃えて、転げ回る。 周りにも炎が燃えてる。
アニー「グオオオオ! クウ…ノコサズ、クウ!
コオオオオオッ!」
なんと! 勢いよく吸い込んだので、周辺の炎が口に引き込まれて、完食してしまった!
レオナルド「ふむ、ダメージは与えられたが、これでは足りんな。 なあ、岳斗。」
岳斗 「ああ、なんでも食ってしまう口があるのなら切り落とせばいい! 疾葬昇虎剣!」
炎の十字架から脱出したアニーに、炎の中から現れスライディングしてからジャンプして襲いかかる岳斗。 アニーが気づくもすでに遅し。 大量の血飛沫と共に左肩から右腹までをつなぐ直線から上半身を切り落とされ、地面に落ちた。 下半身は立ってるまま。
斬り落としたアニーを飛び越えて、岳斗はゼロの前に着地する
岳斗 「さて、これであんた1人だな。 」
ゼロ「心外だな。 俺様がやられると思ってるところがさ。
それにアニーがくたばったと思い込んでるとこもだ。」
岳斗 「ぬ? 」
ジェシカ 「はっ…! 岳斗!後ろだっ!」
後ろからぬょるりと何やら蠢くものが擦ってる音が聞こえた。 岳斗は一瞬背筋が凍り、危険を感じたので、振り返らないで右斜に走ってから、後ろに疾潜土竜剣を出した勢いで、振り返った。
その瞬間、岳斗は鳥肌が立って、恐怖を感じた。
岳斗 「あ…。 コイツァ、あり得ねえ! 」
シャルル「これは…! 岳斗が斬った断面から舌が出てるぜ。 しかも、断面が丸ごと口になったかのような…。
暴食っていうだけあるな。」
アニー「オマエ、クウ…。」
アニーの舌がものすごい速さで岳斗に巻きつき、引き摺り込まれる。
岳斗 「やべえ! 手も足も出ん!」
ジェシカ 「貴様! その舌斬ってくれる!」
ジェシカが岳斗に巻きついた舌を斬ろうと駆けつけたが、アニーの下半身から新しい舌がどんどん現れ、ジェシカを突き刺そうとする 舌を切り落としてもキリがない
加那江 「ジェシカ! 私がやるわ。」
マック「俺も加勢するっす!
フルスロットルバースト!!(満杯の弾倉をリロードして、尽きるまで連続して射つシンプルな技。 しかし、この技は銃の連続した反動に耐え続ける腕がないとできない。)」
加那江とマックが岳斗に巻きつく舌を撃ち落とそうとするが、ここでも弾を舌に巻き取られ、食べられる。
マック「くそ・・・。 やばいっすよ。
岳斗、このままじゃ食われる!」
ダニエル「ふむ、閃いた。 わしな、自家作の爆弾持ってるんだが…。 かくかくしかじかでどうじゃ?」
シャルル「よし、それで行くか。
ジェシカ、ちょっと一旦下がってくれ」
ジェシカ 「わかった。(何か思いついたようだな)」
レオナルド「光を喰らいし冥門よ、焔龍に飲まれるが良い!
ポテュバラ・フレコン!(焔龍の冥門 矢を地面に打って、焔龍を地面の中にうねらせる。 そして、敵がいるところで、地上に出て、焼き飲み尽くす。)」
加那江 「そして、鱗から零れし龍の子よ、天衣無縫に揺らめく焔の羽織となれ!
カオスファンタジア!(シャイニングレインボーとゲリラサイクロンの合体技。 放った弾が炎、水、電気など、粒子に分解できる物質に触れると7色の光に分かれ、炎などの精を周りに回しながら、弾同士が旋風で軌道を変える予測不可能な攻撃で、敵に混沌の死を約束する。」
レオナルドが矢を地面に打って、焔龍を地面の中にうねらせた。
アニーが地面を泳ぐ炎のドラゴンの襲来を避けるために下に注意がいく。
そこに加那江が追撃し、予測不可能な弾の暴葬により、アニーの舌の処理が追いつかなくなる。
無数の火の玉が体を貫き、大火傷AND穴だらけになったアニー。 上からダニエルの爆弾がアニーの口にホールインワンする。
アニー「ナンダ? クチノナカ、ハイッタ。 ナニ?」
ダニエル「よっしゃ! わしの腕もまだ衰えてないわい!
ジェシカ、岳斗に巻きついてる舌を斬り落とすんだ!」
ジェシカ 「承知! 輪暴紅風舞!」
ジェシカが風のリングで舌を斬った。
岳斗 「よっしゃ、脱出できた。 サンキュー!」
シャルル「マドレーヌ、ちょいとパクるぜ。
セブレイトフィールド!」
シャルルが唱えるとアニーを包む半球形のバリアが現れた。
数秒後、突然、アニーの下半身が爆発して、木っ端微塵になった。 そこに追い打ちをかけるように爆弾の残骸から酸液のミストが噴出し、肉体を原子の一欠片レベルまで溶かす。
岳斗 「今度こそほんとにくたばったようだな。
あー、やれやれ。 SMプレイしに来たんじゃねーんだぞ。 ほんとによー。 唾液だらけでたいへ…、あれ?
唾液ついてない。 」
ダニエル「なんと、奇妙な。 あのおなごは乾燥しているのか?」
シャルル「へえー。 なかなか面白いなあ。 (乾燥…?)」
ゼロ「ククク、なかなかやるじゃないか? おまえら。
でも、ほんとに終わりかな?」
シャルル「あっ、忘れてた! 下半身だけで動くなら、上半身だって動くかも!」
レオナルド「なんと! 今すぐ焼き尽くしてやる!」
ゼロ「もう遅い。」
ついさっきまで亡骸のようだったアニーの上半身がむくむく膨れ上がる。 彼女が砂漠の乾燥した土を貪り食って、下半身を再生させ、立った。 そして、太陽をも覆い隠すほど巨大になった。
さらに両腕が花のように裂けて、鋭い歯と蛇の体のように長い舌が現れた。
アニー「ヌアアアア!! マダマダ、クイタリナイ。 クウ、スベテクウーーーーーッ!」
ダニエル「これはビックリボンや! わしゃ、初めて見たぞ!」
マック「ダニエルさん、驚いてる場合じゃないっすよ! 逃げて!」
アニーが岳斗たちめがけて腕を向けた。 風がアニーの腕の方に向かっていく、いや、吸い込まれているのだ! 岳斗たちは掃除機のように吸い込まれそうになるのを踏ん張っているところだ。
ジェシカ 「ぬぬぬ、此奴、どこまで食えば気が済むというのだ!?」
ゼロ「アニーの食欲は満足することはない。 食おうと思えば、宇宙丸ごとだって食うさ。」
シャルル「(よし、これでいくか)命輝く王の星よ、我らを生かし殺す大気よ、今一度蒼のシンフォニアを奏でよ!」
シャルルが唱え終わったその時、この星の太陽が明るく輝いたと思うと、上空を雷が文字通り包んだ。
同時にけたたましい摩擦音が聞こえた。
岳斗 「ぬおっ! 雷!? それになんだ? パチパチ言ってるぜ。」
レオナルド「もしかして、乾燥と…?」
ゼロ「シャルル、オマエの魔術師としての腕はピカイチだろうが、しかし、たとえ見えない存在の物だろうとアニーはなんだって食うさ。 無駄だ。」
シャルル「それはやってみなきゃ分からんだろ! 見ててな!」
アニー「!! ナニカ、クル! クウ!スウウウウウーーーー!」
アニーが本当に宇宙を吸い込みかねない勢いで吸った。 なんと、アニーがたちまち地面に引き摺り込まれていくではないか!
アニー「ナニ、オキタ? ジャマダ!クウ!クウ!」
アニーが土を食っても食ってもどんどん沈む。 そのうち、顔だけ地面から出た状態になり、身動きが取れなくなった。
ダニエル「やったか! いやぁー、お前さんたちは強いな! わしゃ、感心したぞ。
わっはっはっは!!」
ジェシカ 「勝ったのはダニエル殿の協力もあったからこそだ。 礼を言うぞ。」
ダニエル「おっ、ありがたく受け取るぜ。」
ゼロ「・・・そうか。
太陽から水素を引き摺り出して、酸素と化学反応を起こすことによって、水を作ったか。 それを乾燥して、水を大量に吸う状態のアニーに飲ませた。 なるほど。」
岳斗たちはアニーとの戦いを切り抜けた。 しかし、奴は手をかざして、沈むアニーの口から黒い魂のような物体を出した。 そして、それはゼロの手の中に吸い込まれた。 アニーは途切れて、体を雪崩のように崩壊させた。
加那江 「アニーの魂を吸った…?」
岳斗 「な! ゼロ…。 お前、アニーは仲間なんじゃなかったのか!?」
ゼロ「それは貴様らの知ったことではない。」
その一言が岳斗の血管を浮き上がらせ、怒りを自覚させた。
拳を握りしめて言った。
岳斗 「…! アニーを殺したも同然の俺が言うのも何だが、仲間を蔑ろにするてめえはゲス野郎だ…。
必ずそのヅラ剥がして、倒してやるぜ!」
ゼロ「ククク、ぜいぜい芋虫のように醜く抗うんだな…。」
第二ラウンド、ゼロと戦う一行。 奴は仁王立ちしているが隙がない。
ジェシカ 「気をつけろ! 奴からかつてないほどのただならぬオーラが漂っているっ!
私の戦士としての勘が警告するぞ。」
シャルル「ああ、この戦力をフル稼働しなければ! 」
ダニエル「皆! わしの武器鍛錬魔術で攻撃力を底上げするぞ!
せいやーーっ! エカトロ・アディーラス!(ハンマーを地面に叩いて、赤い魔導陣を周りに刻む。 その紋の中にいる者の武器の攻撃力を大きく上げる効果がある。 情熱たぎる牛の化身よ、その爪に宿れ! スペイン語「¡Encárnate, toro ardiente, en estas garras!」」
岳斗 「へへ、力が湧いてきたぜ。 いくぜっ! 爆飛風刃散!」
岳斗が剣を刺して、勢いよく飛んだ砂漠の細かい砂をゼロに打ち込んだ。
ゼロ「目眩しだと、そんなチンケなものが効くか!」
ゼロが飛んできた砂を一振りで振り払う。
そこに岳斗が飛んできた。
岳斗 「ウオラァ! 疾双狼牙剣っ!」
ゼロ「ふん! ぬるいっ!」
ジャンプで砂竜を躱して、岳斗と剣を激しく交える。 岳斗はうまくゼロの剣捌きを逸らして、後ろの砂竜に垂直着陸した。
ジェシカ 「覚悟! 赦天十字星!」
ジェシカの一息付かせぬ連続突きを難も無く受け流すゼロ。
しかし、ゼロが避けた十字斬りが地面にヒットして、ゼロを砂ごと上空に押し上げた。
ゼロ「ッ!」
岳斗 「ナイスフォロー! ジェシカ。
散舞乱蝶斬!」
岳斗がゼロの一瞬の隙をつき、空中乱れ斬りを披露した。
ゼロは熟練の戦士だったが、流石に避け切れるものではない。 右肩に浅いながらも、傷をつけることに成功した。
ゼロ「ッ! 面白い…。 ここまでとはな。
だが、まだまだ俺の足下にも及ばない。 空を飛べないとでも思っていたか?」
岳斗の攻撃を受けて、斬り飛ばされたゼロが背中から黒い羽が出てきて、逃げようとするのを見て、マックがダニエルに作ってもらった爆弾を詰めた。
そして、ゼロ目がけてブッ放した。 (普通の弾だけでなく、爆弾など大きめの物も発射できる構造の銃である)
マック「逃さんっすよ! リルヴィア・デラー!!(ダニエルの麻痺爆弾を入れて、マックの銃性能で威力を上げている。 これを受けた敵は痺れで動けなくなると共に銃自体のダメージを受けやすくなる)」
蓮根状の銃口の一際大きい真ん中の穴から麻痺性能の爆風が、周縁の小玉から銃が飛び出し、ゼロに命中した。
一瞬だが、動きが鈍ったゼロにとどめを差すべく、加那江が上空に向けて弾を次々と放つ。
それに続いて、レオナルドも真下の地面に火矢を打つ。
加那江 「さっきの雷を使って…、カオスファンタジア!」
レオナルド「俺も追撃する。 ポテュバラ・フレコン!」
雷と炎をまとう数多の竜が上下からゼロに襲いかかる。
ゼロ「こりゃ、空中に投げ出されてしまっては流石の俺でも避けられないな。
参ったぜ。」
雷と炎のドラゴンが融合し、砂漠丸ごと吹っ飛ばしてしまうほどの大爆発と衝撃波がゼロと岳斗たちを襲った。
岳斗たちは吹っ飛ばされながらも、体勢を立て直して、何とか無傷着陸に成功した。
岳斗 「どわぁー!!
ふぅー。 おいおい、こいつは死んだな。」
加那江 「ええ、かなりの手応えを感じたわ。 レオ、いいコンビネーションだったわ!」
加那江がレオナルドとハイタッチした。
レオナルド「ああ、加那江。 雷を利用するというお前の発想力も凄かった。」
ジェシカ 「仲間が増えると戦術の幅が広まって、戦いがいがあるものだ。」
シャルル「ま、俺も雷に関してはアシストしたということで…。」
ダニエル「しかし、強そうだった割には呆気なかったのう。
見かけ倒しだったかな?」
ジェシカ 「いや、彼からは並の者ではない気配があったが…。
私の勘が外れたと思えばいいのだろうか?」
マック「なあに、この銃にかかれば、どんな奴でも地面に倒れますよ!
大丈夫っすよ。」
シャルル「ま、とにかく終わった。
日が暮れる前に急ごうぜ。」
岳斗たちが出発の準備を整えていると、爆発の痕の塊の中から突然、黒い光の筋が次々と伸び始めた。
あっけに取られる間もなく、黒い衝撃波が爆発の煙を勢いよく吹き飛ばした。 何と、ゼロが右肩の切り傷以外はほぼ無傷でいるではないか!
彼はゆっくり着地して、剣を肩に担いだ。
岳斗 「…! あんたは倒したはずだろ!
あんなとどめ刺されて、何故、何ともねえんだ!?」
ゼロ「貴様らに俺を殺すことは出来ない…。
そして、貴様らの最期の時は近づいている。」
そう言うとゼロは剣を天に向けた。 黒い霧が剣に集まり、剣を覆い尽くしたところで、剣を地面に地震を起こす勢いで刺した。
ゼロ「終末の裁きを受けよ。 ラグナロクソード!(漆黒のパワーで地面に邪悪な魔導陣を刻み、対象者は地面からの魔導陣のエネルギーで裁きを受ける)」
ゼロの誰も寄せ付けぬ一撃で岳斗たちは上空に大きく吹き飛ばされ、一瞬で全滅寸前までに追い込まれた。
ジェシカ 「くっ。 ここまで重い一撃があるとはっ!」
シャルル「ダメージで動けない…。」
ゼロ「どうやらここまでのようだ。 蜃気楼の砂漠でひとつまみの死の灰を見せてやろう。」
レオナルド「ぐっ…。」
ゼロ「終わりだ。 フェンリル・セヴァ!」
ゼロが左手を天にかざして、その上にテニスボールの大きさである黒い球体を召喚した。 それはたちまち天が見えないほど大きくなるだけでなく、表面に狼風の鋭い牙を持つ口が現れ始めた。 誰もが絶望に震えているしか無かった・・・。
その時、激しく突進する音が響き渡った。
ゼロ「むっ?」
岳斗 「うおおおおおーーーっ!! 疾葬昇虎剣!」
叫び声を上げながら剣を持って、走り寄ってきた岳斗。
今回はスライディングしたまま、下からゼロに斬りかかる岳斗だったが、大玉から出てきた黒狼が岳斗を激しく体当たりして突き飛ばした。
岳斗 「ぐああ〜っ! (地面に激突) ウッ! くぅ、く…そ。」
ダニエル「だ、大丈夫か!? 岳斗!」
加那江 「剣で咄嗟に防いだおかげで命に別状はないけれど、戦うにはきついわね。」
ゼロ「愚かが…。 死に急ぐつもりか? …?(上から音が?)」
そう言って、岳斗を見下すゼロの上から短刀が回転しながら、落ちてきた。
ゼロは直前で咄嗟に避けたが、その短刀はゼロの面に刺さり、亀裂を入れた。
ゼロ「ッ! なっ!?
岳斗…。 よもや、お前自身を囮にして、短刀でこの俺を殺そうとするとはな。」
ダニエル「加那江、あの短剣はお前のものじゃないか?」
加那江 「えっ! あっ、無い! 岳斗、いつの間に?」
岳斗 「ああ、ゼロの反撃にみんなが倒れた隙にこっそり拝借したよ。
正直、本命に気づかないことを祈っていた。」
シャルル「やるじゃねーか。 お前もなかなかの切れ者だな。」
亀裂が大きくなり、面がついに割れた。 そして、その顔が明らかになった。
岳斗 「さてさて、お顔を拝見いたしますか〜! ん?
なっ… お前は?」
加那江 「まさか…。嘘でしょう?」
ゼロの仮面が割れる少し前 ハワード星のマバラーニャ島にある第12実験棟
命を拒むほど無機質である外観のコンクリート部屋。 そこに規律正しく並べられた緑色の液体入りカプセルが置かれていて、その中に入っている死人のような顔をしている人型の実験体が不気味さを強調させている。
そんな部屋に響く足音二つ。 ジンとウィルソンだ。
ウィルソン「え〜。 こんなだだっ広いところから目的のものを見つけんのかよぉ〜。 まじ帰って寝たいわ。」
ジン「なら、さっさと済ませようぜ、ウィル。 それにどうやら、ビンゴみたいだ。」
ジンが指を指すと、木製の大きな机と数個の椅子があり、机の上に大小の書類が乱雑に散らばっているので、お目当てのデータを探すために書類を漁る。 数十分後、死者の実験データをまとめた書類を発見した。
ウィルソン 「ん? ジン、これじゃないか?」
ジン 「おっ! まさにこれだ。
ふむふむ。 どうやら、奴らは死者を人を襲わせる思考を植えさせたり、魂を吸うことで不死身に近づくモンスターの試作、知能を上げて、一般社会に紛れ込み、知らぬ間に人々をこっそり襲い、襲った人に死者のエキスを入れ、繁殖するなどの実験をしてたみたいだな。」
ウィルソン 「おっ。 この地図は獣の場所特定に役立ちそうだ。 よし、これを持って、めんどくさくならんうちにずらかろうぜ。」
2人がお目当てのデータを見つけて、立ち去ろうとしたその時、腹に響き渡るほどの音高い数人の足音が聞こえた。 そして、数人の兵士(中世ヨーロッパ風の足軽服装)が研究室の入り口に立ち塞がっていた。 彼らは警戒を隠さず、剣を2人に突きつけている。
兵士 「貴様ら! そこで何をしているか! 白状しないなら痛めつけてでも吐かせるぞ!」
ウィルソン 「おいおいおいおーい。 まじかよおー。」
ジン 「しょうがない。 正面突破だ。」
兵士 「いけ! 奴らを痛めつけてやれ!」
兵士が2人に向かって、走る。 そして、サーベルを上段に振り上げながら襲いかかる。
兵士 「きえええええーーッ!」
ウィルソン 「はあーあ。 怪我するのは痛いしめんどくさいから、戦いは嫌いなんだがな・・・。 しょうがない」
ウィルソンはそう言うと右手を兵士たちの前にかざした。 すると驚くことに兵士たちは入り口まで激しく吹き飛ばされた。
兵士 「なっ… バカな! くそ、あの犬を攻めるぞ!」
ジン 「ふん… 舐められたものだな。」
ジンはそう言うと右腕のクロコダイルのトリオが首を伸ばして、兵士に噛み付く。
叫び声を上げて抵抗していたが、そのうちに気力を吸い取られたかのようにぐったりしてしまった。 クロコダイルはそいつを丸呑みにしてしまった。 数分後、兵士たちは全滅した。
ジン 「よし、帰るか。」
2人が建物から脱出しようと黒いゲートを開けた。 その瞬間、音を置き去りにするほどの超音速で雷のかまいたちが切り刻んと向かって来た。 2人はジャンプして避けたが、黒いゲートは離散してしまった。 振り向くと大小の刀を腰に差している侍(まさに諸君が想像しているように青い袴、漆の鞘に収められている刀、そして、丁髷ちょんまげ)が立っていた。
「ふむ、なかなかの腕だな。
王様から預かっていた兵士を全滅させてしまった。」
ジン 「貴様は誰だ。 この俺を誰なのか知っていてか!」
トザェモーン 「それがしはトザェモーンと申す。 貴様らが獣を使って、何やらよからぬことを企んでいると聞いた。
我らにとっての障害は潰さなければ…」
謎の侍はそう言うと剣を上段に構えた。 と、突然雷のような瞬間移動でウィルソンに切り掛かって来る。
トザェモーン 「キエーーーーッ!! 」
ウィルソン 「はっ、瞬間移動かあ。 めんどくせー」
侍の鋭い刃風をステップバックで交わしたが、それで終わりではなかった。 刀の軌跡に残っている雷がウィルソンめがけて襲ってきた。
ウィルソン 「げっ! やっば」
何とかテレキネシスで刀から出た雷のかまいたちを逸らした。
「ぬう。 お主、中々やるではないか」
ウィルソン 「褒めても何も出ないぞ つうか、戦うのめんどくさいし、お互いに何も見なかったことにしない? こっちは2人だし、あんたにとってもめんどくさいことになるんじゃね。」
トザェモーン 「断る! 拙者はとある組織に忠誠を誓う身でござる。 武士に敵前逃亡はありえん!」
ウィルソン 「げえー こういうタイプが一番関わりたくないんだよな まじ帰りてえよ〜」
ジン 「だが、関わってしまったら仕方がない。 なあに、この『強欲』ジンの名にかけて、勝利を俺のものにするさ。」
ウィルソン 「今すぐ帰って、ポテチ食いながらダラダラしたいけど、そう言ってられないか。 わかったよ、とっとと殺すか。 この『怠慢』ウィルソンの名にかけて。」
ジンの右腕にあるろくろっ首クロコダイルたちがトンめがけて首を伸ばしながら自慢の牙をギラギラさせながら噛み砕そうとする。 しかし、侍の脚の周りに雷が光ったかと思うも束の間、消えた! いや、2人の後ろに瞬間移動したのだ。
ジン 「チッ。 素早い野郎だ。」
ジンが今度は尻尾の白蛇に侍を噛ませようとするが、奴め、残像を見せるほどの素早さで避けてしまう。 哀れな白蛇は実験体が入っているカプセルにぶつかり、ガラスと生命保護用液体を床一面にぶちまけた。
トザェモーン 「無駄でござる。 拙者の動きには誰もついてゆけぬ。」
ジン 「はん、そのスピードキングの座を貰い受けてやるぜ。」
トザェモーン 「強欲か・・・ 見苦しいわ! 切り捨ててくれよう。
雷遁燕突!」
目にも止まらぬほどの速さでジンに向かって走り、神速の突きを繰り出そうとした時、侍を緑色の液体に濡れたガラスの破片が襲ったので、仕方なく後ろに下がった。 ウィルソンがテレキネシスを発動させたのだ。
ウィルソン 「あーあ、こんなに散らかしちゃってさ〜。 一体誰が片付けるんだよ? 俺はいやだかんな。」
トザェモーン 「邪魔するでない! 貴様らには選択肢はただ一つ・・。 拙者におとなしく首を刎ねられることであるぞ!
コオオオオオオオ・・・!!」
目を閉じて、全力の呼吸をした。 しばらくして、奴の目が勢いよく見開かれた。
トザェモーン 「見えたぞ。 貴様らが拙者に斬り捨て御免される風景が! 音雷魔神斬!
とおおおおおおおーーーーーっ!」
侍が世界をも置き去りにするほどの神速、いや、侍速で全方向から2人を斬る。 斬られた心臓、筋肉、内臓の破片がめったやらに雷で焼かれ、無慈悲にも地面にぶち撒かれた。 そのあと、2人は倒れた。 斬られたことにすら気づかずに。 後には刀になぞるかのような雷の軌跡がパチパチ音を立てながら静寂を慰めているのみである。
トザェモーン 「あっけないでござったな。 斬り捨て御免被る。ではさらばじゃ。」
侍が二つの亡骸に礼をして、去った。 足音が完全に聞こえなくなったその時、ジンの右指がわずかにびくついた。
ジン 「・・おい。 ウィルソン。 聞こえるか? それとも、めんどくさくてくたばったか?」
ウィルソン 「おいおい、くたばるのもめんどくせーんだよ。」
ジン 「そりゃ、どう言うことだ? ただ寝てりゃいいだろ?」
ウィルソン 「はっ。 くたばった後、死の流れに乗りながら、アジトにまで行かなきゃならないんだせ。 はいこれ、めんどくさい❶な。 そんで、ポテトが食えないから我慢して泳がなきゃならん、めんどくさい❷だ。 後、アジトを探す・・・ つーか喋るのもめんどくせー。 とっとと起きようよお。」
ジン 「そうだな。 しかし、あいつ、俺らがわざとやられたことにも気づかないとはまだまだだな。」
2人は身体中が斬り傷でボロボロになった状態で立ち上がった。 周りには2人の内臓、血が散らばっている。
ウィルソン 「あーあ、人の体をこんなにしてくれちゃってさ、超能力で内臓繋げるのも結構めんどくさいしきつい。
しかも、ジンのと混ざってるから見分けるのもめんどくさ。 いっか、適当で。」
そう言いながら、ウィルソンはジンか自分のどうかも見分けがつかない内臓を適当に繋ぎ合わせて、修復した。
ウィルソン 「ん? つーか、ジン。 お前、心臓がほとんど持っていかれてるじゃねーか。」
ジン 「心配いらん。 材料は腐るほどあるからな。 ククク。」
牙を見せて、不気味に笑うとジンはなんと、自分の胸に左手を突っ込んで、心臓の残骸をむしり取って、地面に捨てた。 そして、無事だったカプセルを叩き割って、人型の実験体の胸に手を突っ込んだ。 実験体は一瞬痙攣させたが、すぐ動かなくなった。 そして、永遠に。
ジンは奪い取った心臓を自分の胸に抉り込んだ。 すると信じられないことにちぎられた心臓の血管がジンの血管に結合して、鼓動し始めたではないか! 驚く間もなく、ジンの胸が閉じられた。
ウィルソン 「あんたのそれ、何度見ても不思議だぜ。」
ジン 「いやいや、ちっとも不思議じゃあない。 たった一つのシンプルな理由、『俺のものは俺のもの、世界のものは俺のもの』だからだ。」
ウィルソン 「いや〜、ジン先生。 あんたはちっともブレないなあ。 そんな暴論言うのあんたとどっかのガキ大将くらいだよ」
ジン 「そりゃ、光栄なことだ。 さあ、帰ろうぜ。」
人知れず嬉しそうに尻尾を振ったジンは黒いゲートを開け、ウィルソンと一緒にゲートの中に消えた。
打って変わって、旅人殺しの砂漠。
そんな地獄で岳斗は暑さを忘れるほど驚いていた。
岳斗 「バカな・・・ あんたはッ! ありえねえ。」
ゼロ「どうした? そんなに汗を出すと死ぬぞ?」
そう言ったゼロの顔はなんと、岳斗の父親である北三郎にクリソツだった。 違いがあるとすれば、ゼロの顔には傷跡がなく、少し若く見える。
加那江 「あなたの顔は岳斗のお父さんとそっくりなのよ。 どうして?」
ゼロ「そうか。 あれの持ち主だったのか。 その息子にあい見えるとはなんと数奇な運命だな・・・
よし、楽しみはあとにとっておこう。 さらばだ。」
ゼロはそういうと黒いゲートを開けて、帰ろうとした。
岳斗 「待てよ! 説明しろ。 なんで・・
くそ、どういうことだ?」
岳斗は激しく困惑している。 ゼロは何も言わず、ゲートに消えていった。
太陽が傾き始めている。
マック「消えちゃった・・・。」
レオナルド「ああ、とんでも強かった・・・ん?」
岳斗の様子がおかしいことに気がついて、肩を揺さぶった。
レオナルド「おい、岳斗。 顔色が悪いぞ。 気をしっかり持て。」
ジェシカ 「加那江、どう言うことですか? あの人は岳斗のお父さんなの?」
加那江 「いいえ、お父さんは岳斗の故郷でお母さんと一緒に暮らしているわ。 そして、岳斗のお父さんは顔に太い切り傷が3本あるのよ。」
シャルル「岳斗が9歳の頃、熊に襲われているところを 親父に助けてもらったそうだ。 傷は熊にやられた時にできた。」
猛暑にも関わらず、顔色が青い岳斗が座り込んで、過呼吸気味で何やらぶつぶつ言い始めた。 脳内で過去のトラウマがフラッシュバックしている。 北三郎が岳斗を庇って、瀕死の熊にやられた風景が浮かぶ。
岳斗 「はぁ、はぁ。 違う、違う…。 親父は生きてるんだ…!! 違うに決まってるんだ。 ああ、いやだいやだ、ありえない・・。」
ダニエル「岳斗・・? おい、どうしたと言うのじゃ? あの魔王がお前の親父と似ていることが関係しているのか? おい、しっかりせんか?」
加那江 「どうしよう、困ったわ。」
シャルル「加那江、どいてくれ。」
その時、シャルルが真顔で加那江をどかした。 そして、座り込んでいる岳斗の前に立ち、何も言わずにパンチを1発喰らわした。
岳斗が鼻血を出しながら、よろめた。
「!?」
ジェシカ 「え・・?」
岳斗 「何、して・・」
シャルル「ばかやろーっ! まさか、てめえがそんな腑抜けとは思わなかった。 今すぐとっとと荷物まとめて、帰れ! 役立たすの荷物を抱えて戦えるほどの余裕は無いんだ!」
加那江 「シャルル! いくらなんでもそれはないわ。」
シャルル「加那江、黙ってくれ。 俺らは宇宙中の人々を襲う獣を倒す旅に出てるんだ。 そいつらは軍隊が命を落とすほどとんでもなく強い。 だから、生半端な覚悟を持った奴に来てもらいたくないね! 足を引っ張られて、道連れにされたらたまったもんじゃない。 」
岳斗 「・・・」
シャルル「さあ、帰るんだ。 もう2度と俺はあんたを兄だと思わん。 帰れったら帰れよっ!」
シャルルに一通り罵倒された岳斗はしばらく俯いていたが、鼻血を腕で拭って、シャルルを睨みつけた。
岳斗 「・・帰らない。 俺は獣を倒すと言う目的があるんだ。 だから帰るもんか。 たとえ、1人でも戦う。」
ジェシカ 「岳斗・・」
岳斗 「それに人々には親父のような目にあって欲しく無いんだ。 俺のせいで・・ 俺に力がなかったばかりに親父にあんな怪我をさせてしまった。 俺は悔しかった。 だから、8年間強くなるために血を吐いてでも鍛錬したんだ。 生きたいと言う人々の助けを求める声を無視できない。 俺は、俺はやらなきゃいけない。 獣と結社を倒さなきゃいけない。 そして、それは俺にしかできないことだ。」
岳斗は勢いよく立ち上がり、太陽を見据える。
岳斗 「俺は帰らない。 必ず獣と結社を倒すっ! だから、シャルル。 俺にこのまま旅を続けさせてくれ。」
シャルル「・・はあー。 わかった。 だか、次、泣き言を言ったら問答無用で放り出すからな。 」
岳斗 「ああ。わかった。」
レオナルド「よし、それじゃ行こうか。 ジェシカ、俺が運転しよう。」
ジェシカ 「ありがとう。」
日が暮れて、星空が出始めた頃
岳斗たちはロワノフが住んでいる村に到着した。 大勢の村人たちが出迎えてくれた。
大多数の村人たちがダニエルと同じようにドワーフ特有の低身長・マッチョの体型をしている。
村人 「ロワノフさん! お帰り! マックも疲れたろ、食ってけよ。
おや、そちら方は?」
ダニエル「眠りの街について、調べに来たお方たちだ。」
村人 「へえ! 学者さんですか?」
ジェシカ 「いいえ、単に好奇心から来ました。 不謹慎かも知れませんが、とっても興味が深いです。」
村人 「いや、気にしておらんよ。 しかし、なかなか行動力のおありじゃな。」
レオナルド「俺もそう思う。 彼女にはいつも振り回されてばかりだ。」
村人 「ささっ。 お疲れでしょう。 私が経営している宿は素朴ですが、どうぞお泊りください。」
加那江 「ありがとう。 お言葉に甘えて、泊まりましょう。」
岳斗 「そうだな。 ダニエル、マック、また明日。」
ダニエル「うむ、また明日。 」
マック「ええ、また。」
宿でチェックインを済ませ、明日からの調査のために寝る。 深夜、寝れないシャルルは暇つぶしに宝石のような星空を眺めに屋上に来た。
しばらくして、レオナルドも星を見に屋上に来た。
レオナルド「本当に星が綺麗だな。望遠鏡持ってくればよかった。 ん? そこにいるのはシャルルか。 眠れないのか?」
シャルル「レオナルドか。 ああ、まあ、そうだな・・
明日から忙しくなるというのに、全く眠れないな。 ふぅ。」
レオナルド「もしかして、悩んでいるのか? 悩みをいつまでも持ち続けるのは心に悪い。 言ってスッキリした方がいいぞ。」
シャルル「うん。 俺が岳斗に帰れと言ったこと覚えてるか?」
レオナルド「ああ。 俺、実はお前の気迫に少し圧倒されていた。
それがどうした?」
シャルル「俺、あの時、ハラハラしてたんだ。 ほんとはあいつが去ったらどうしようと思ってた。 」
レオナルド「じゃあ、どうして、あの時厳しい一言をかけたんだ?」
シャルル「獣とゼロはあいつにしか倒せないからだ。 実際、ラグナロクソードを放つ時、あいつの右肩の切り傷は残っていた。 あれは岳斗が斬ったものだ。」
レオナルド「なるほど。運命変転の力を持つ人にしか倒せないと言うことか。」
シャルル「そうだ。 俺の爆撃魔法も効かない。 いや、効かないことにされていたかも。
実際、あいつは血を出して、落馬した。 音を聞いたから間違いないはず。 」
レオナルド「俺と加那江の合体技も効かなかったと言うことに? あれは半端な威力では無いのに。 うーん。
これは仮定だが、もしかするとゼロも運命変転を持っているのかも知れない。」
シャルル「・・・。 そういわれば、それが一番しっくりくるな。」
レオナルド「しかし、今の岳斗ではゼロは倒せない。 単純な実力差が現れている。
あいつはもっと強くならなければならん。 俺たちの未来のために。 しかし、悔しいな。俺らにゼロを倒せないと言うのが。」
シャルル「ああ。 俺も悔しい。 しかし、これが現実だ。」
レオナルド「無力を感じるな・・。」
シャルル「いいや、お前は無力じゃあない。 パインたちと戦った時もお前がいなかったら1人もやっつけられず、全滅してただろう。
いや、お前だけじゃない。 誰かがひとり欠けてもダメだっただろう。 ありがとう。 俺たちの仲間になってくれて。」
レオナルド「とんでもない。 クリスとジェシカのいる世界を守るためなら俺はなんだってやるさ。
それにお前たちとの旅はなかなか楽しい。」
シャルル「良かった。 俺こそ感謝している。 クリスと10年ぶりに再会したと言うのに俺たちの旅に同行してくれて。 一緒にいたかっただろうに。
せめて、クリスを悲しませないように全員生きて帰ろう。」
レオナルド「もちろん、そのつもりだ。 これからもよろしく頼むぞ。」
シャルル「こっちもだ。 長話につき合わせて悪かったな。 さて、寝るか。」
レオナルド「うむ。」
同時刻 村
岳斗も眠れないので、村を散歩して、星空観察を楽しんでいる。
岳斗 「・・・綺麗だな。」
そう言ったきり、感傷的になって、喋らなくなった。
しばらく歩いたら石のベンチを見つけて、静かに座った。 長いため息は冷気に冷やされた水蒸気となって、空中に離散した。
岳斗 「はあ・・・・・・・・・・・・・・。
寒いなあ。」
マック「ん・・・? あれは岳斗?
おーい、どうしたんすか? こんな夜中に。」
ふと呼び声が聞こえて顔を上げると長袖の革コートを着たマックだった。
マックがやってきて、岳斗の隣に座った。
岳斗 「マックか・・・。 あんたこそどーしたんだ。」
マック「いやあ、俺っち、星空を見るのが子供の頃から大好きだったんすよ。
ガキの頃、戦争から帰ってきた親父によく砂漠の観測スポットに連れてきてもらって、そこじゃ、もうほんとに海が広がっているようっすよ!
寒かったっすけど、それよりもワクワクが余裕で勝ったっす。」
岳斗 「ふーん・・・
確かに綺麗だな・・・ うん・・・」
微妙に元気のない岳斗に気づいて、マックが言った。
マック「つーか、どうしたんすか?
元気なさそうっす。」
岳斗 「あ・・・ そうかあ・・・
まあ・・・・・・・・・・・・・・・」
重い口を開けない岳斗をよそにマックは話し始めた。
マック「あー、確かにあんなことが起きてりゃ、気が重いどころじゃないっすね。
ちょっとわかりますよ。 じゃあ、俺っちの話でも聞いてくださいよ。
これは親父や村の知り合いたちから聞いた話なんですがね・・・
これは親父や村の知り合いたちから聞いた話なんですがね・・・
俺の親父は元々はこの砂漠を駆け回っている兵士でしたっす。 確か、東のロエシ国についていたっけ。 親父は国の中でも凄腕の銃使いとしてちょっとした有名人でしたよ。 遠くにある敵の頭を正確に撃ちとったそうっす。 それは百発百中とか・・・」
岳斗 「お、おお〜」
マック「そんで、俺っちが5歳ほどの時でしたかね・・?
ロエシ国があのリオベール王国を7年ぶりに攻めるんで、親父はやる気満々でした。 前日に貴重な酒を一杯飲んで、闘志を高めていたそうっす。
翌日、親父が朝早く家を出て、程なくして、1人のお爺さんと楽しげに語りながら帰ってきたっす。
その人がダニエルさんで、親父はお得意さんだったそうっす。 最高傑作の銃を作ってもらったそうで子供みたいにすごい喜んでいたっすよ。」
岳斗 「無邪気な人かな?」
マック「そうかもっすね。
ダニエルさんは仕事の関係でしばらく俺っちの村に滞留するので、戦争に行ってしまった親父の代わりにいろいろ鍛造を教えてもらったっす。 ほんと魔法みたいでしたよ!
手助けしてもらいながらだけど、初めて自分で剣を作れた時はほんと、嬉しかったっすね・・・」
マックは楽しかった昔を思い返して微笑んでいる。
しかし、次の瞬間、少し悲しげな雰囲気が漂ってきた。
マック「まあ、ダニエルさんにいろいろ教えてもらいながら1年ほどすぎたある日・・・
親父が帰って来たんすよ。」
岳斗 「へえ〜、帰ってきてよかったじゃんよ。」
マック「ええ、まあ・・・
ただ、全身に銃で撃たれたりとかの傷を負って、しばらくして亡くなったんすよ。」
岳斗 「あ・・・」
マック「気にしないてくださいっす。 もう昔のことっすから。
死ぬ間際に親父はこう言ったっす。 『マック。 今思えば、俺は人を殺して、血を流してばかりの人生だったな・・・。
だがな、安心しろ。 俺の勘だが、戦争はもうすぐ終わるだろう。 血が流れることもなくなる。 その時、人を助けて、世界を輝かせる男にな・・れ・・・』
これが親父の最後に言った言葉っす。 今思えば、この時俺っちの夢は決まった・・・。
この魔法の鍛造術を極めて、皿、アクセサリーとか、みんなが欲しいものや必要なものを作って、世界を幸せにするって・・・」
岳斗 「・・・」
マック「それから本格的な修行が始まったっす。
ダニエルさんからいろいろ課題が与えられて、何度もやり直しになっても諦めず、工夫して、やっと!!
やっと、3年前に1人前として認められたっす!! 嬉しかった・・・」
岳斗 「おおっ!!
あんた、すげえ根性だな!」
マック「まあ、ダニエルさんに言わせるとまだまだ青二才ということっすけどね。 実際、ダニエルさんにはまだまだ追いつけてないっす。」
岳斗 「そうかあ・・・」
ここでマックが岳斗の方を顔を向けて言った。
マック「あの、岳斗。
俺っちがアドバイスなんておごかましいっすけど・・・
失敗しても、挫けてもいいっすよ。 休んで、また立ち上がればいいっす。
俺っちなんか今までそれの繰り返しなんすよ。 腕が上がったと思ったら、まだまだと自覚したり・・・
たまに嫌になることもあるっすけど、でもやっぱり、人生はそれで面白いんすよ。 へへ・・・」
ここまで言って、マックは星を見上げた。
岳斗も一緒に星を見上げ、ぼそっと言った。
岳斗 「・・・そうだな。
そうだよな、マック。 ・・・俺、頑張るよ。 一緒に戦おう。」
マック「もちろんっすよ!!」
岳斗とマックが友情に結ばれた男たち特有の握手を交わした。
どこまでも心細い蝋燭1本が部屋を薄暗く照らしている。 床には黒い魔法紋が4つ刻まれている。
ゼロが魔法紋の前に立っている。 どうやら彼が準備したようだ。
ゼロ「さて、やるか。 この世に非る三途の川を彷徨える魂よ、我が元に今一度来たれ。」
ゼロはそういうとナイフで自分の指を切って、黒い血液をそれぞれ数滴、魔法紋に垂らした。
すると、魔法紋が黒く光り始め、血液が魔法紋を覆うかのように広がった。 と、血液が奇妙にも形を得始め、それはだんだん人の形になってきた。
ゼロ「ククク・・ 帰ってきたか。」
ゼロが不敵な微笑みを浮かべる。 人の形をしたそれはゼロがよく知る者になった。 そう、ゼロの仲間たちだ。
左からアニー、パイン、ジョー、そして、マドレーヌだ。
ジョー 「やあやあ、ボス。 感動の再会だ。 素晴らしいじゃあないか。」
マドレーヌ 「そうだな。 復活に時間がかかるとはいえ、不死の身だもんね。
しかし、あいつら。 まさか、あたしの魔術を破るとは思わなかった。くそ!」
パイン 「ふふ。 次から気をつければいいでしょう?
あら、アニー。 あなたもやられてしまったの?」
アニー「ソウダ。 ヤラレタ。」
ゼロ「あいつらの見事なコンビネーションでアニーを葬り去ったぜ。 アニーの暴食を利用して、乾燥している砂漠の砂をたくさん食わせた。あれは乾燥したスポンジだ。そこに水を食わせるとはなかなか頭が切れるな。」
ジョー 「ほう? 砂漠に水などあったのかね? オアシスに引いた水を使ったのか?」
ゼロ「いや、太陽からの水素と星にある酸素を化学反応させて水を作った。」
マドレーヌ 「ふん。 元素の反応か。 あたしも魔法を学ぶときに一通り元素について学んだんだ。 魔法はいわば、元素をどう使うかだからな。」
パイン 「もしかして、最初からある水を飲ませるのではなく、直前まで見えない気体にしておいてから水にしたのね。
貴方が止めるのを見越したから・・・」
ゼロ「そうだ。 あの猫は本当に頭が回る。 マドレーヌ、お前より有能かもな。」
マドレーヌ 「なんだと! 言ってくれるじゃないか。 表に出やがれ!」
ゼロ「望むところだ。 返り討ちにしよう。」
ゼロとマドレーヌがちょっとした口論になったとき、ドアが開いた。 ジンとウィルソンだ。
ジン 「マドレーヌ。 お前にはまだ早いぜ。 それにボスの座をとるのは俺だ。」
マドレーヌ 「んだと! やってみなきゃわからねえだろ」
ジョー 「やあ! 数日ぶりだねえ。 ジン、君は相変わらず盗賊のような顔だ。 んん〜、そそられるねえ。
私の毒薔薇芸術のコレクションになってみないかね?」
ジン 「やなこったね。 全てこの俺のもんさ。 ワハハハーー!」
パイン 「相変わらずの強欲っぷりね。 あら、ウィルソン。そっちも相変わらず。」
ウィルソン 「あ〜。 生き返ってたのか。 また騒がしくなるな。 マジでめんどくさいなー。オタクらぶっ飛んでるもの。」
ジョー 「これで、オラフがいれば、全員揃うんだがね・・・。 彼は今どこだい?」
ゼロ「あいつには今、裏の世界で獣を探してもらっている。」
パイン 「ふーん。 あっ、ボス。 仮面が外れて、なかなかイケメンだわ。 魅惑したくなるわーん。(おっぱいを手で揺らす)」
ゼロ「そいつあ、どうも。 チョンチョン(おっぱいを手で突く)」
ウィルソン 「おーい。変態。 次はどうすんの? 俺は休んでも良いけど。」
ゼロ「んー。 どうすっかな〜。」
ジン 「考えつかないのか? なら、俺がボスになって、代わりに考えてやるよ。」
ゼロ「おいおい、ちょっと待てよ。 今考えてるんだから。
あっ。 確か獣はあと3体いるんだよな。」
パイン 「そうね。 朱雀は取られたから、玄武、白虎、青龍が残っているわ。」
ゼロ「うんうん。 そういや、ジン。調査の結果はどうだったか?」
ジン 「ああ。 大成功だ! これをみてみろ。」
そう言って、ジンは持ち帰った資料を足が高いテーブルの上に広げた。
ゼロ「おー! こりゃ凄え。 これであいつらの裏をかけるな。」
マドレーヌ 「玄武は眠る街で有名なサヴォアソン星にあるタウチー遺跡にいるのか。 それと白虎はマラバー銀河のトンファーヌという地下迷宮。」
ウィルソン 「あー、あれか。最近、近くの星に燃えた隕石が衝突して、壊滅状態になったんだよな。 それで復興しているとか。
ほんと、よくそんなめんどくせえことやるなあ。 また、壊れるかもしれないだろ。 俺には無理だね。」
アニー「メイキュウ・・ クイモン、アルカ?」
パイン 「今の状態だと、そんなにないと思うわ。」
アニー「ソウカ、ザンネン」
ジョー 「迷宮・・・ ロマンだねえ。
そして、最後の獣はリュカオーン星の春桜という秘境にいるようだ。しかも、そこは星の地下核の世界と表面世界をつなぐ門番の役割を果たしている。
なんでも星の宝を守っているようだ。」
ジン 「星の宝か・・・ そう言われると我が物にしたくなる。
なあ、ボス。 そこに行くんだったら俺にしてくれよ。」
ゼロ「やれやれ、お前の強欲には敬服するぜ。
よし、じゃあ、こうしよう。
ジン、お前はパインとリュカオーン星に行け。 地下迷宮にはウィルソンとマドレーヌ、タウチー遺跡にはジョーとアニーだ。
ジョー。 ヴィン爺に調査データの結果を伝言して、獣奪取を手伝え」
ジョー 「お安いご用さ。 このジョーに任せたまえ。 ボスは静観するのかね?」
ゼロ「いや、俺はちょっと別件を済ます。 よし、じゃあ、てめえら、行くぜ!!」
全員 「イエッサー! ボス!」
朝 朝日が砂漠を輝かせる。 これから仕事を始める人々で賑わい始めた。
出発準備を整えた一行は宿を出て、車やラクダ馬に乗る。
ダニエル「じゃあ、わしが周りの村を案内する・・・ と言いたいところだが、わしの仕事もあってな・・・
マックに案内させることになる。 マック、構わんな?」
マック「ええ!もちろん! お安いご用ですよ。
任してくださいよ〜!」
ジェシカ 「はい。有り難うございます。 みなさん、いきましょうか。」
シャルル「おう。レッツゴー!」
岳斗たちはミベールにより近い村を回って、聞き込みしたが、昔のことなので、はっきりした情報は得られなかった。
そして、今、5つ目の村に入るところだ。 今までの村と比べて、規模や人口が多く、一際目立つオアシスが太陽の光を受けて、輝いている。
岳斗たちはとある家の前に来た。
ダニエル「ワラベルさん。 折れた弓を治しに来たぞ。」
ダニエルが依頼者らしい人に呼びかけると扉が開いて、中からラクダ獣人が現れた。
ワラベル 「おお! ロワノフさん。 さすが早いね。
弓が折れるとあっしは死活問題なんだぜ。 どうぞ〜。」
ダニエル「うむ。 お邪魔するぞ。 お前らは聞き込みするなりして、自由にブラブラしていいぞ。
できるだけ早く終わらせるからな。」
加那江 「わかったわ。」
マック「うっす。 了解っす!」
戸が閉まった。 岳斗たちは早速眠りの街について聞き込みをする。
広場では、ラクダ、フェネック、トカゲ、ガゼルなど、砂漠に適応している獣人が商売したり、昼寝したり、踊ったり、噴水の水を浴びていて、賑わっている。
シャルル「ちょいと、聞きたいことがあってな。ミベールが眠りはじめた時のことについて知っている人はいないのか?」
村人 「うーん。 そうだな、何しろ100年前くらいだからなあ。 じゃあ、あそこにいるチャンピオンに聞きなよ。」
村人が指を差した所には、おそらく村一番の熱狂で包まれているリングがある。 ちょうど試合をやっていて、野次馬たちが盛り立てている。
彼らはビールを飲んでいたり、ギターを履いていたり、お祭り気分である。
村人 「あの人だよ。 カンガルーの獣人だ。なかなか歳食ってるだろ。」
岳斗 「ふーん。それに貫禄がある。」
マック「あっ、あの人はナバラチャ・ゴンザレスっす。彼は生涯一度も格闘技の試合で負けたことがないという伝説があって、男たちの憧れっすよ!」
村人 「そうそう。
お兄さんよ、お前さんも一回戦ってみなよ!」
岳斗 「へえー、さぞ強いんだろうな。楽しみや。」
岳斗たちは村人が案内したリングに行った時、ちょうどゴンザレスが叫び声と共に挑戦者を薙ぎ倒した。 挑戦者は転がって、リングのロープに勢いよく叩きつけられた。
村人 「これはっ! やはりこの男は最強だ! チャンピオン、今日で15連続勝利だーーーーー!」
村人 「うおおおおおおーーーーーーーッ!!!チャンピオン!チャンピオン! YES!!YES!!」
ナバラチャが勢いよくリングの隅に駆け寄り、コーナーポストの上にジャンプした。
ナバラチャ「我こそ最強だ! 誰か、わしを倒す者はおらんかーー!」
チャンピオンの決まり文句が響き渡ったその時、1人の男が雷のように駆け寄り、高くジャンプした! そして、反対側のコーナーポストを超えて、リングイン!
岳斗 「俺は澤宮岳斗だ! あんたを倒してやるぜっ!」
村人 「なんと! 凄まじいジャンプ力で文字通り飛び入り参加です! 」
ナバラチャ「おお! これは若々しいエネルギーに溢れているっ! しかし、わしは若いもんにはまだまだ負けんぞ!」
村人 「おーーーーっと!!これは世紀にも見ぬほどの激しい決闘になる予感がきましたよおおおーーーーッ!
果たして、この謎の若者は我ら自慢のチャンピオンを破るのでしょうか!? さあさあ、皆様、眼をがっしりお見開きくださいませええええ!」
村人 「チャンピオンチャンピオン!! ぶちかませ!
いいや、少年、その我らが誇りのジジイを倒してしまえーーー! いけ! 新しい時代を開けーーー! GAKUT!GAKUT!YES!YES!」
星が揺れるほどの村人たちの声量が響き渡る。 そこに追い討ちにリズムを合わせて地面を真下に蹴るので、まるで地震のように激しく揺れる。
加那江 「ひゃあ! すごい揺れるわ。まるで地震が起きたみたい。」
マック「いつもあんな感じなんすよ。
ほら、ここら辺は砂漠なんで、娯楽も少ないっすから。」
シャルル「こりゃ、レブリアム王国にも引けを取らないな。」
レオナルド「そろそろ始まるぞ。 しっかり見るか。」
岳斗とナバラチャの試合開始を告げるコングが鳴る。
ナバラチャ「くらえ! 我のタイフーンラリアットを!」
ナバラチャが激しく回りながら、文字通り台風として、岳斗に襲いかかる。
岳斗 「老いぼれめ! 無理しすぎて目を回すんじゃねーぜ! うおおおおーー!」
岳斗は台風にも臆せずに一直線に走る。 ナバラチャの目の前まで来て、左腕でナバラチャの右腕を掴んで、回転を止めた。 そして、右膝を挙げて、左脇腹に膝蹴りをぶち込んだ!
ナバラチャ「ぬうっ!」
村人 「なんと! 最強の男とはいえ、110歳の老人に膝蹴りをぶちかますとは只者じゃないッ! 」
村人 「おおおおーーーー!! そのろくでなしをぶちかませ! おい!ジジイ! クソ野郎をボコボコにしちゃまえ!この野郎!!」
岳斗がチョップでナバラチャの首に一撃を与えて、ロープまで飛ばした。 ナバラチャがその勢いを利用して、岳斗に強烈な張り手を喰らわした。
マック「出たっ! 張り手はナバラチャがよく使う技っすよ。」
加那江 「ああっ!!」
岳斗 「グベッ! 野郎!やりやがったな。」
岳斗は怒りをパワーに変え、ナバラチャを持ち上げ、パワーボム(相手を肩まで持ち上げて、背中からマットに叩きつける)を披露した!
ナバラチャも負けずに寝た姿勢から逆さ立ちして、岳斗の首を絞めた。
村人 「おーーーー! ヘッドロックだっ! いいぞ!そのままダウンさせちまえ!」
岳斗 「っ! くそ! 俺を甘く見るなよ!」
岳斗が首を絞められたままコーナーポストを蹴って、空中から落ちて、鳩尾にエルボードロップ(本来は寝てる選手に倒れ込んで、膝を打ち込む)を喰らわした。
ナバラチャ「ンゴお!! ふー、ふー、今のは流石に効いたな・・・。 しかし、これで終わると思うなよ。 地獄を見せてやる!!」
ナバラチャは気合声をあげながら、ラリアットを喰らわす。
岳斗 「今更それかよ! カウンターで冥土までぶち込んでやるぜ!!」
岳斗がラリアットへのカウンターとして、強烈な蹴りを喰らわすが、なんと! ナバラチャはタッキングして避けた!!
ラリアットを囮にして、岳斗の後ろに回り込む!
岳斗 「なんだとおおお!!」
レオナルド「おおっ! 囮で後ろに回るとは! あの爺さん、伊達に勝っているわけではないな。」
ナバラチャが岳斗の腹に両腕を回して、岳斗を持ち上げたっ! そして、そのまま、後ろにぶち込んだああーーーー!!!
村人 「うおおおおおおおーーーーーーーーーッ!!! ブラボーーー! ありゃ、死んだなあ!!! そのままくたばれーーー!!!」
村人 「出ましたあああああ!!!!! ジャーマン・スープレックス!! 彼のフィニッシュ技の一つで、数多くの対戦者を悉く沈めてきましたッ!!!
果たして、彼は起き上がれるのでしょうか!?」
ジェシカ 「嘘っ! 凄まじい技ですね! 岳斗は大丈夫でしょうか?」
シャルル「あいつも死線をいくつも潜り抜けているから、生きてるとは思うが、どうかな?」
カウントが青空に響き渡る。野次馬たちもそれに同調して、地面を蹴る。
村人 「1! 2! ・・・」
試合決着の数字が熱意で昇華しようとしたその時、なんと! 岳斗の体が回転して、絞技から脱出した。
村人 「OH MY GOD!!!!! なんと!!ギリギリで踏みとどまったあああーーー!!!!」
加那江 「やった!!」
マック「嘘っ!? こいつを喰らったら3カウントどころかその日は起き上がれないことで有名なのに・・・
岳斗、すげえっすよ!!」
レオナルド「よし! 岳斗! ここから逆転しろっ!!」
岳斗 「任せろ!!」
岳斗は起き上がったナバラチャをロープに突き飛ばして、助走からのジャンプで体当たりした(フライング・ボディ・アタック)。 ナバラチャはかわして、平手打ちを打ち込むが、岳斗はかいくぐった。 もういっちょロープから助走をつけて、ナバラチャに飛び込んだ! そして、頭を挟み込み、自分の回転を利用して、マットにぶち込んだ!
村人 「YEAHHHHHH!! ヘッドシザーズ・ホイップだああああ!」
追い討ちに岳斗はコーナーポストに上がって、倒れ込んでいるままのナバラチャにジャンプ! そして、自分の脚を喉に叩きつけた!!
村人 「アンビリバボー!! ギロチン・ドロップだ!! 流石にこれは効いたか!!」
村人 「ジジイ!!何やってんた!! とっとと起きやがれ!! てめえのヨレヨレケツに釘バット喰らわすぞ!!」
しかし、驚くことにナバラチャはなんとか起き上がった!
岳斗 「まじか、なかなかやるな。」
ナバラチャ「面白い!! こうなったら、絶対貴様には負けんぞ! わしのブレーンバスターで地獄に落としてやる!」
村人 「おおおおおおおお!!! なんとなんと!! フィニッシュ技を宣言いたしましたあああ!!!!
よっしゃああああ!! そのクソ若造の首をへし折れ!! ナバラチャ!ナバラチャ!チャンピオン!チャンピオン!チャンピオーーーーーーーン!!!!!」
野次馬のボルテージが最高潮に達した!! 足踏みでリングが揺れる!岳斗とナバラチャは同時に走る。
岳斗 「っの野郎!! これで決めてやるぜ!」
岳斗がナバラチャにとどめのジャンピング・ハイキックを繰り出したが、どうやら、両者、同じことを考えていたようだ。 両者、空中キックで互いの顔を蹴り飛ばした。 2人とも勢いよくロープに叩き込まれた。 それを利用して、再び助走!! 一旦交わって、反対側のローブにぶつかって、勢いを増やす。 そこから、互いに互いの腹を両腕で掴む!
村人 「おい!! 相撲を見にきてんじゃねーぞ! とっとと鼻から糞を垂れ流しやがれ!」
岳斗は関節技を決めようとしたが、そこはさすがその道のプロ、ナバラチャが手足をまるで蛇のように動かし、あっという間に絞技の卍固めを決めた!!
岳斗 「のわああああーーー!!! ちくしょう!」
ナバラチャ「わしもタダではやられる訳にはいかんぞ!」
岳斗はジタバタしようにも無駄無駄!! 卍固めで身動きが取れなく、口から泡が出始める。
レオナルド「おーーい!! 諦めるんじゃない!
つっても流石にダメか? ・・・一か八か、ジェシカ! これを持て!」
レオナルドはジェシカの薙刀を取って、彼女の手に置いた。
ジェシカ 「なんですか?レオさ・・・ 岳斗ッ!!! 負けたら、貴様をロンウオ崖(銀河一高い崖として、ギネス記録に乗っている。さらに、真下に鉄をいとも簡単に貫ける岩の針山がある。 落ちたら綺麗な死体どころか判別が付くかどうかすら絶望的だろう)から落とすぞ!!」
マック「うわっ!! 薙刀持つと人格変わるんすか!?」
シャルル「ああ、俺らにとってはいつも通りの風景だ。
まあ、数日前からなんだけど。」
岳斗 「ぬう!!! (どこかはわからんがとんでもなく恐ろしい場所だということが直感でわかる!! そして、彼女が本気だということも!!)
ぬああああああああ!!!」
岳斗の体からとんでもないパワーが吹き上がり、筋力で卍固めを破った!!!
ナバラチャ「何いいいいいいい!!!」
岳斗 「ジジイいいいいいいい!! 地獄に落ちるのはてめえだああああああ!!!!!!」
岳斗の中にかつてないほどのアドレナリンが迸る!!! そして、ナバラチャを背負い投げでコーナーポストに叩きつけ、地面に落ちる前に抱える! そして、コーナーポストの上に駆け寄り、天高くジャンプ!! そこから、5回転した上で、岳斗が両足でナバラチャの上半身を固め、ナバラチャの脳天をリングに叩きつける!!!!!!
岳斗 「うりゃあああああ!! スクリュードラゴン・ヘルファイア!!!(彼発案の技)
たあああ!!! チンコが痛えーーーーーー!!!!!!」
ナバラチャ「んげばああ!!!!」
股から脳天一直線まで、全体重かけられて、叩き込まれた!! カウントがはじまる!
村人 「1! 2! ・・・3!!! ガクトの勝利だ!!!!!
うおおおおおおおおーーーー!!!!!! なんと! 彼がやってくれました! チャンピオンの不敗の伝説を破ったあああああーーーーー!!!!!」
岳斗 「いよっしゃあーーーーー!!!」
シャルル「やったぜ!! お前ならできると信じてた!」
マック「嘘でしょ!? まじ・・・?」
戦いを終えた岳斗とナバラチャが互いを称えるハグをした。
そして、リングを降りた後もプロレスを愛すべき野郎どもとの熱ーいハグが待っていた。
レオナルド「よく頑張った!(ハグ)」
岳斗 「おう!(ハグ) おお。鳥さんって首元がもふもふなのか。(スゥーー)」
シャルル「チッ。 こいつの悪い癖だ。観客たちともハグの流れでちゃっかり首元のもふもふを堪能してるしな。
ところで何か忘れてないか?」
岳斗 「・・・ん??
あ! そうだった。話聞くんだった。」
加那江 「やれやれ。 こいつは3歩歩いたらバカか記憶喪失にでもなるのかしら。」
岳斗たちは先ほど死闘を尽くしたナバラチャに話を聞きに行った。
ジェシカ 「さっき戦ったばかりで悪いのですが、眠りの町について、聞いてもよろしいですか?」
ナバラチャ「もちろんじゃ! 何が聞きたい?」
ジェシカ 「そうですね・・。 じゃあ、ミベールが眠りの街になった時に起きたことを覚えていることはありますか?
些細なことでも構いません。」
ナバラチャ「ふうむ、あまりよく覚えておらんな・・ なにしろ100年も前のことだからな。」
ジェシカ 「そうですか・・」
ナバラチャ「そういえば、私の父から聞いたことなのだが、いっぱいの民を引き連れてどっかから現れた王国がタウチー遺跡の隣にあるリオベール王国の跡を再建の地にしたのじゃった。 そして、オアシスをめぐって、30年前くらいまで戦争が起こっておった・・。」
加那江 (図書館で調べた内容ね)
ナバラチャ「だから、病院にはいつも戦争で怪我を負った者でいっぱいいっぱいだったんじゃ。 そして、その中でも酷かったのはな、え〜と、でかい病院がある街ばかりのようじゃったがな・・・」
レオナルド「でかい病院にたくさんの怪我人がいたのか?」
ナバラチャ「おお! そうじゃ! まさにそれじゃよ。 それと言ったらもう・・・。 わしが昔もっと大暴れしていた頃、どこかの大会で優勝を飾ったんじゃが、無茶してしまい、頭を十数針縫う羽目になってしまったのじゃ。 そして、ええと、確か退院するまで暇だったから病院中をほっつき回ったような・・。 その時、戦争で怪我した人たちが廊下で寝てたのじゃ。 あまりにも多すぎて病院のベットが足りなくなってしまったようじゃの。」
シャルル「そんなに酷かったのか・・・。」
ナバラチャ「おお、おお、そうじゃよ。 中には腹わたの内臓が一通り飛び散ってもうめきながら治療を待っていたやつもいた。 廊下に溢れかえっているくらいだから、医者も看護師も大忙しでな、いつも怒鳴り声が響き渡っていた。まるでここも戦場だったかのよう、いや、実際ここも戦場だろう。 そしてな、白い袋に入れられて、火葬するためにトラックで並べられて送られていくことも珍しくなかった・・・ 内心わしも流石に怖かった。」
マック(そうなのか・・・
俺っちは親父から聞いただけであまり恐ろしいと思っていなかったけど、親父、そんな世界にいたのか・・・?)
レオナルド「どこもかしも戦争というのは地獄しか生まないというものだな・・。」
ナバラチャ「うむ。 まさにその通りじゃ。 お前さんも戦争の惨さを見た目をしているな。」
レオナルド「ああ。 大切なものがこぼれ落ちていくのを拾うことさえできない無力感を感じさせる。」
ジェシカ 「レオ・・・。(あの時、私もあなたを拾うことができなかった・・・)」
ナバラチャが暗い雰囲気を吹き飛ばすように話しかけた。
ナバラチャ「さて、ここから本題じゃ! わしが退院して、家に帰ったあと、ニュースを聞いたのじゃ。
わしが入院していた病院がある街にミベールと同じ現象が起きたことを。 つまり、眠りの街になってしまったのじゃ!!」
加那江 「その街の名前って覚えてないかしら?」
ナバラチャ「ああ、あれ、あれじゃよ。 えーと、なんとかチだったかのお・・・。」
岳斗 「なあ、もしかして、それって、ハフォーチか?」
ナバラチャ「おお! それじゃ!! よく知っておるな。 あれが起きたのはわしが50歳くらいの頃だった。」
シャルル「どうやら、ビンゴかもしれないな。」
一行がナバラチャに話を聞き終わった時、修理が終わったダニエルがこっちに向かってきた。
マック「ダニエルさん。 お疲れ様っす!」
ダニエル「うむ、マック。 待たせたな・・・んん?
ナバラチャじゃないか! どうした?」
ナバラチャ「ダニエルか。 今、眠りの街について色々聞かれたところじゃ。」
ダニエル「ほう・・・。 ところで、みんながいつもより騒がしいけど、何が起きたんじゃ?」
ナバラチャ「ああ、岳斗がわしに勝ったんじゃよ。」
ダニエル「えーーーーーっ!! 嘘だろ!? 見たかったのう・・・
岳斗、おめえ、すげえな!」
岳斗 「へへ、そりゃどうも。 あ、ところで、辛いことを聞くがいいか?」
ダニエル「ミベールのことか? いいぞ。」
岳斗 「あんたの娘が入院している病院では、戦争で怪我を負った人で溢れかえっていたか?」
ダニエル「!! ・・・その通りじゃ。」
シャルル「やはりか・・。 どうやら共通点が見つかったみたいだな。 戦争で怪我を負った人がたくさん入院している病院をもつ街という共通点がな。
とは言っても、残りの3つの眠りの街もそうなっているという裏を取らないと確実とは言えないけど。」
加那江 「でも、信憑性はあるわね。」
ジェシカ 「なるほど。 なら、戦争負傷者が多数入院している街を探せばいいということになりますね。 しかし、どこにあるのでしょうか?」
一行が話に盛り上がっている時、マックが横から口を挟んだ。
マック「あのー、お話してるところ、すんません。 戦争なら、ここ30年間は全くと言っていいほど起きてないっすよ。 少なくとも俺っちが5歳になってからは聞いてないっすね。」
加那江 「え!? そうなの?」
マック「そうっすよ。 俺っち、親父から戦争のことを聞いたのガキの頃までっすから。
大人たちがいうには、疫病が王国で広まって、1人残らず息絶えたみたいっす。 そこから、周りの王国も不気味に思って、誰も建国しようとしないという話らしいっす。」
ダニエル「そういえば、それ以来、眠りの街ができたという話を全く聞かないな。」
岳斗 「どういうことだってばよ? なんで突然戦争がなくなった? むむむ???」
ジェシカ 「・・・始まりは200年前、タウチー遺跡の隣のリオベール王国から突然人がいなくなった。
そこから、殺戮事件、略奪、戦争などが起きた。 それも全て白昼堂々と。 その後から、眠りの街が現れた。 そして、それは戦争の終結に後追いするように起こらなくなった・・・。
そして、怪我人が多くいる街が眠りの街となる条件・・? それと5つの街はタウチー遺跡からそう遠く離れていない・・。 始まりの事件だけ他の事件とは違って、神隠しのように消えてしまった・・。
まさか・・・!」(独り言)
レオナルド「ジェシカ、何やら思いついたみたいようだな。」
ジェシカ 「はい、レオさん。 私、もしかしたら恐ろしいことに気づいたかもしれません。
ダニエルさん お伺いしますが、こういう星座をこの星から見ることができますか?」
ジェシカはそう言って、ノートを取り出した。 そこに彼女の星でも親しまれているみなみじゅうじ座を描いた。
ダニエル「これは・・。 水を求めて彷徨う旅人を導きし神の十字槍を具体化した星座じゃな。」
ナバラチャ「むむ。 確か、槍の刃先がこの星から見て、常に北を向いて回っているのだったな。 わしも昔、武者修行の旅をしている時によくお世話になったものじゃ。
そして、交差点にある星は動かざる山の如しと言ってもいいほど不動なので、旅人の間では神として崇められている。」
岳斗 「へえ。俺の星では、こぐま座の北極星が不動の1点で他の星座がその周りを回っているけどな。」
ジェシカ 「もっと正確な形を表した図はありますか?」
マック「それならあてがあるっすよ。 知り合いの天文学者で、この村に隠居しにきた人がいるっす。 頼んで借りてきますよ!」
ジェシカ 「ありがとうございます!」
10分ほどして、星座の辞書を持ってきたマックが走ってきた。
マック「借りてきましたよ! これでいいっすか?」
ジェシカ 「はい、助かりました。 目次によるとみなみじゅうじ座は226ページにありますね。」
レオナルド「えーと、226ページか・・。 これだな。」
ジェシカ 「加那江、パンフレットをください。」
加那江 「わかったわ。 ・・はい、これよ。」
ジェシカ 「ありがとう。 やはり、こういうことでしたか・・。」
岳斗 「あー、なんとなくちょっと飲み込めてきたな。 タウチー遺跡で何かやばいことが起こるんだろ?」
シャルル「おーっ。 お前、そこまでバカじゃなかったのか。」
岳斗 「うるせーやい。」
ジェシカ 「ええ、岳斗のいう通りです。 タウチー遺跡で最後の悲劇がこれから起こるはずです。」
マック「最後の悲劇って、まさか、戦争がまた起こるんすか!?」
ジェシカ 「そうかどうかはわかりませんが、タウチー遺跡で大量流血を招くような出来事が起こり、眠りの街、いいえ、眠りの遺跡となる可能性があります。」
シャルル「待てよ・・・。 タウチー遺跡が最後で、みなみじゅうじ座が完成するということは、それだけでは終わらないかもしれないぞ・・・。」
加那江 「一体何が起こるのかしら・・? 儀式なの?」
岳斗 「儀式か。 クトゥルフ神話の流れで行くとクトゥルフ、ショゴスとかを召喚するということになるな。 神話生物は人間には抗えない。
んー? もしかして、裏で糸を引いているやつがいるんじゃないのか?」
シャルル「え?」
加那江 「確かにありえるわ。 なんかタイミングが良すぎる。
ねえ、ハドール。 タウチー遺跡に観光客が来たのはいつからなの?」
マック「あっ、ええと。 確か、5年前くらいからっすね。」
レオナルド「・・! あり得ない話だろうと思うが、リオベール王国から消えた人々は実はタウチー遺跡のどこかに隠れていて、何かしらの目的を企んでいるかもしれん。
もしくは彼らを儀式を遂行するための操り人形にしている黒幕がいるのだろうか?」
ジェシカ 「そこまでは憶測を出ませんが・・。 少なくともこの一連の悲劇が全て仕組まれていると考えたほうがよさそうです。」
ダニエル「そんな・・。 わしの妻と娘、愛犬はその企みに巻き込まれたということか・・。」
ダニエルの拳に力が入る。 元々赤い顔をさらに赤くし、肩を震わせている。
ダニエル「これも報いなのか・・・」
加那江 「報い?」
ダニエル「・・わしはタウチー遺跡に行かなければならん。 己の中の弱さと決着をつけるために!
頼む! 改めて、わしにも同行させてくれ!」
マック「ダニエルさん・・・」
真剣な眼差しで訴えかけるダニエルの前にレオナルドが片膝をつけて、目線を合わせる。
レオナルド「何があったかはわからんが、無理には聞かない・・と言いたいところだが、これから行くところは生半端なところではない。
平和に暮らしている人々を殺すことを厭わないどころか計画を立てたり、白昼堂々と殺戮する極悪人が待ち受けているだろう。 そして、彼らの背後には儀式とやらを遂行しようとする黒幕がいる。 一瞬の迷いで容易く命を落とすだろう。 私たちには獣を回収して、全員生きて帰るという目的があるのだ。」
加那江 「獣のこと、言っていいの?」
レオナルド「ああ、ここまで来たら調査では通らないだろう。 ダニエル・ロワノフ! 出会って数日だが、私は貴方も大切な友人だと思っている。 私は貴方を守りたいが、敵がどのくらい強いかわからないのだ。 守り切れないかもしれない。 だから、お互い生き残るために腹を割ってくれないか?」
ダニエル「・・わかった。 全て話そう。 しかし、貴方たちも話してくれないか? 本当の目的を。
わしの方こそお前を友人だと思っている。 それに一時的とはいえ、わしも仲間に加入するというわけじゃからな。 チームワークは大事じゃろ?」
レオナルド「いいだろう。」
みなみじゅうじ座が輝いている夜 村に一泊する。
食堂
宿に泊まっているのは岳斗たちだけなので、食堂は岳斗たちの貸切である。 宿の女将が運んできた手作りの料理から美味しそうな匂いが漂う。
レシピは
メダカくらいの小ささの蛇を体内に寄生させているアリクイの胃を切開して取り出したアリに漬けた蛇肉を強火で焼いて、唐辛子をたっぷりまぶした砂漠の旅に欠かせないおつまみ 疲労解除・血流改善・滋養強壮の効果あり
水分と脂分を大量にこぶに貯めているラクダエリマキトカゲを丸ごと使って、出汁にした味わい深いシンプルなスープ 発汗による熱の発散の能力向上・水分不足解除・代謝上昇の効果あり
村人 「召し上がれ!」
岳斗 「おお! いただきまーす。 」
加那江 「これは! 辛いけど元気が出るわね。」
マック「俺っち、風邪引いた時によく飲んでたっすよ。」
ジェシカ 「それにスープはこの暑い砂漠でも無理なく飲めますね。 優しい味。」
村人 「へへへ。 あーりがとうごぜえますだ。 おらの愛情たっぷりの手作りだべ。」
女将の料理を余すところなく堪能したあと、明日に向けての本題に入る。
レオナルド「ご馳走様。 さてと、聞かせてもらおうか。貴方の迷いの根源を。」
ダニエル「わかった。 では初めから話そう・・・」
ダニエルの回想は120年前ほどに遡る
ダニエルは仕事に行くために準備をしていたところ、彼が愛用しているハンマーが棚から落ちてきて、彼の右脚を骨折した。 当時シェアハウスしていた仕事仲間にかかえてもらって、入院した。 医師の適切な治療により、ダニエルの右脚は6週間ほどで完治する見込みだった。
入院生活5日目
それは突然のことだった。 若きダニエルは1人の看護師を見て、胸の高まりが抑えられなくなっている自分を認識した。
フェネック獣人の看護師である彼女は今、ダニエルの向かい側の患者に話しかけているところだった。
マリア「こんにちは。 お体の具合はどうですかー?」
患者 「まりあちゃーん♡ 君という天使が現れたら、僕ちんはどんな病でもピロピロリーンだよーん。」
マリア「あら、それは良かったですね。 腸捻転も治って、顔色も良くなっていますよ。」
患者 「当たり前さ! 僕ちん、マリアしゅんがいる世界に生まれてきて、幸せえええーーん♡
ただ一つ困っていることがあるのです。 マリアちゃん・・・ 僕ちん、実は不治の病を持っているのです。」
マリア「えっ! それは大変です!! 病気はすぐに治さなければいけません。 どこが痛いのですか??」
患者 「ああ、心臓が高鳴っている・・・ 僕には止めることができましぇ〜ん。 ぴえん。
そうれす。 恋です。 治せるのはあなたしかいません。」
マリア「そんな・・! 」
マリアは患者からの衝撃の告白にあたふたしている。
ただし、恋心ではなく、純粋な心配である。
マリア「私、その病を治す術は知りません・・・。 どうしたらいいのでしょうか?」
患者 「よくぞ聞いてくれました! それはキ・・・」
頭の中がタンポポ畑であるエルフの患者が最後の一文字を言い終える前にどこから飛んできた銀色のお盆が彼の頭にクリーンヒットした。
同時にドアから怒鳴り声が聞こえた。 その声の主はブルドック獣人の年配看護師だ。 化粧した赤い唇が不気味なほどに目立つ。
看護師 「この馬鹿たれが!! マリアちゃんにどんなことをさせようしてるんだい!? 言ってみな! えっ!?」
患者 「ちくしょーー!! クソババア! あとちょっとだったのに。」
看護師 「何があとちょっとだよ! ここは病院だ、キャバクラじゃないんだよ! 何度言ったらわかるんだ! ろくでなし!」
患者 「だあー〜〜!痛えええ!! やめろ!クソ婆あ。 お盆でガンガン叩くんじゃねー!
頭がパーになったらどうするんだ!」
看護師 「お前なんて元々頭の栄養が全部股に行くほどのクソ野郎じゃないか! わかったよ!去勢したろうか!!」
怒った年配看護師がメスを取り出し、もっこり患者の息子を独り立ちさせようとした。 流石にマリアが抱えて止めた。
マリア「だめです! そんな恐ろしいことしないで下さい。 大量出血・排泄障害・ショック性心停止・刃物恐怖症etc etc・・・が起こる危険があります!」
看護師 「マリアちゃん、止めないでくれ! 周囲の独身美人天然乙女大天使様にいかがわしい大罪の果物を食わせて、堕落させるろくでなしクソ野郎もっこり大明神様様の凶暴性の恐ろしさがわかるかい!? 」
患者 「おおおーーー!! おい! 見たか、グランドキャニオン皺々ババアめ。 マリアちゃんは僕ちん専属の大天使様なのだよ!!
ワハハハ!! 参ったか、どうだ、このやろー!!」
看護師 「・・・だから、お前は馬鹿だと言われるんだよ。 マリアちゃんはあくまで、純粋に看護師として、患者一人一人に向き合って、病気を治そうとしている患者を支えているんだ。 わかったらとっとと寝て、体治して、どこにでも行きやがれ!! このボンクラが!それとも冥土に送ってやろうか!? えっ!
あっ!そうだ! いい案がひらめいたよ!!」
患者 「え! やればできんじゃん!! それでどんな案だよ?
キャバ嬢100人招待してくれるとか?」
看護師 「それはね・・・
マリアちゃん、カーテンを閉めてちょうだい。」
マリア「はい。」
マリアがカーテンを閉める。
患者 「おいおい、マジでどんな話なのよ? あー、やべえ。 体が熱くなってきたぞお〜。ゲヘヘヘ。」
看護師 「あら♡ それはちょうど良かったわね。うふふふ。私の腕、鈍ってないかしら?」
患者 「・・・?」
カーテンを閉めたマリアがダニエルの方に向いた。
ダニエル「あ・・・。あの、あ・・。」
マリア「どうしましたか? 顔が赤いですよ」
そう言って、ニコッと微笑んだマリアの顔を正面から見たダニエルは意識が全て彼女に引っ張られていった。
地獄を今まさに味わっているチャラ男の悲鳴も彼の耳には届かなかった。
ダニエル「あ・・・ な、なんでもないです・・。」
マリア「そうですか? それなら良かったです。 もし、何か悩んでいたら遠慮なくお話ししてくださいね。 力になるなんて偉いことは言えませんが・・・」
ダニエル「あ・・いえ、いいえ。 あ、その・・、あ、あなたがいるだけで元気がもらえる人もいますし・・・」
マリア「そう言っていただけて、嬉しいです。 私、ケガや病気に苦しんでいる患者を元気にしたくて、看護師になりました。 まだまだ勉強することが多いのですが、一人前になりたいです。」
ダニエル「それは・・、立派です。 頑張って・・ください・・・」
マリア「では、他の患者にもあいさつに行ってきます!
お怪我早く治してくださいね」
ダニエル「はい・・・」
ちょうどカーテンから久しぶりに楽しんだ看護師が出てきた。
看護師 「マリアちゃん。 終わった?」
マリア「ええ。 彼はいい人ですよ。 なんだか元気もらっちゃった。」
看護師 「良かったね。 さあ、次の患者のところに行くよ!」
マリア「はい!」
そうして、去っていった2人 ダニエルは自分の記憶に刻まれたマリアの笑顔を忘れないうちに思い返していた。
次の日 体全体の筋力保持のリハビリのために松葉杖で病院を歩き回って、退屈を紛らわしているダニエル
風が気持ちいい野原の庭で休憩することにした。 ベンチに座って、友人が持ってきた鍛錬術の参考書を読み更けている。
ダニエル「ふむ。 ハリメルコンを800度で熱すると結晶方位が安定するのか・・。 しかし、20秒で型を作って、真水に浸けないと酸化で異臭を発して液化崩壊してしまう。 なかなかデリケートだな。」
マリア「あら、お勉強ですか?」
難しい顔をして、本を読んでいるダニエルの上から声がかけられた。
マリアだった。 結い上げられている髪が風でかすかに揺れ、それが彼女をさらに魅力的にしている。
ダニエル「はっ・・! あ、マリアさん。 こ、こんにちは。」
マリア「へえ〜。 武器を作る人なんですね。難しいことはわからないけど、頑張っている人はすごいと思います!」
マリアがダニエルの隣に座る。
マリア「ねえ。 ダニエルさん。 あなたってどうして武器を作る仕事をしたいと思っているのですか?」
ダニエル「ええと・・。 それはなんかかっこいいと思ったからです。
子供の頃、知り合いのおじさんも鍛錬技師で、よく仕事しているのを見ていたんです。 その時におじさんが壊れた剣とか弓を直すときに、熱した後に、ハンマーで叩くときの花火が綺麗だったので感動しました。 それに元通りに治っているのが子供だった私の目には魔法のように映って、なんてすごいんだろうと思いました。 大した理由じゃないですね・・・。」
マリア「いいえ! どんな理由だろうとこうなりたいと頑張った結果、今のあなたがいるのでしょう。 私は素晴らしいと思います!
私が看護師になったのも似たような理由ですよ。」
ダニエル「そうなんですか?」
マリア「はい。 私、子供のころは病弱で、よくお母さんが看護してくれたんです。 そのときの優しさは今でも覚えています。
私はお母さんがしてくれたように私も病気と戦っている人を助けて、生きる気力を取り戻してほしいと思って、看護師になったんです。」
ダニエル「すごいですね。 子供の頃からの夢を叶えたんですから・・。」
マリア「いえいえ、看護師になれたのはいいのですが、まだまだ先輩たちには敵わないです・・。」
ダニエル「大丈夫ですよ。あなたはいい看護師だ。」
マリア「ありがとうございます・・。嬉しいです!
そういえば、私の仕事とあなたの仕事ってなんだか似ていますね。 ほら、『直す』と『治す』でしょう?」
ダニエル「あっ・・、確かにそう言われてみれば、どっちも『なおしてます』! もしかして、気が合ったりしますかね・・?」
マリア「はい! もちろんです。あなたといるとなんだか元気が湧いてきます。」
ダニエル「それは良かったですね!」
2人 「あっははは・・・!」
こうして、気が合った2人は退院後も度々仲良く話をする微笑ましい関係になっていった。 そこから結婚を誓い合うようになっていくのは自然なことと言えるのだろう。2人はミベールを愛の新天地に決め、2人の間にマリアとよく似たかわいらしいフェネックの子供が生まれた。 名前をニコルと言った。 さらに白い大型犬ゴールテンレトリバーをイメージしてほしいであるアレキサンダーを迎えて、ダニエル一家は幸せを感じていた。
しかし、その幸せは長く続かなかった・・・。 ある日、それは突然起こったのだ。
大仕事がひと段落ついて、居間で休憩しているダニエルの元にニコルが学校から帰ってきた。
ニコル「ただいまー! パパ!」
ダニエル「おお!ニコル!おかえり。 学校はどうだったか?」
ニコル「楽しかったよ! 今日もね、ライラちゃんがお花の絵がよく描けていて、先生から褒められたんだよ。お父さんにも見せてあげたいな!」
ダニエル「それは嬉しいね。ライラちゃんはお絵描きが好きなのかい?」
ニコル「うん! ライラちゃん、将来は絵本を作って子供たちを楽しませる夢を持ってるの!」
ダニエル「それはすごい夢だね。 その好きという気持ちを大人になっても持ち続ければ叶うぞ!」
ニコル「ありがとう! 明日ライラにも言っとくよ。」
2人が楽しそうに話していたところにアレキサンダーが現れた。 日課の冒険から戻ってきたのだ。
ニコル「アレキサンダー! おかえり。ねえねえ、どこを冒険したの?
(地図を取り出して、地面に広げる)」
アレキサンダー「わん!わんわん、わぉーん!」
アレキサンダーはそう言って、冒険したところを指差した。 そして、そこで起きたことを説明しているらしい。
ニコル「ええ!そうなの。 へえー!」
ダニエル「楽しそうだな、ニコル。 アレキサンダーの言葉がわかるのかい?」
ニコル「うーん、はっきりとはわからないけど、目を見てたら、楽しそうとか悲しそうとかはわかるよ!」
ダニエル「おお〜。 すごいな! なあ、当てて見せようか。 きっと、アレキサンダーの夢は冒険家だろう。」
アレキサンダー「わんっ!」
アレキサンダーが尻尾を嬉しそうに大きく振りながら、一吠えした。
ダニエル「どうやら当たったみたいだな。 」
ニコル「すっごーい! パパ、天才かも!」
クイズに正解したことで、ダニエルは顔を赤くして、嬉しそうに笑った。 と、突然とある質問をしたくなった。
ダニエル「ところで、ニコルの夢ってなんだ?」
ニコル「えっ? そうだね、あたしの夢は・・・」
続きを言おうとしたが、彼女の口から「続き」が出ることはなかった・・・。 胸を押さえて、苦しそうにして、座り込んでしまった。
ニコル「あ・・?? く、苦しいよお・・。」
ダニエル「!? ニコル! どうしたんだ!大丈夫か?」
アレキサンダー「わうん? クーン。」
そこにマリアが1日半ぶりに家に帰ってきた。 彼女はすぐに娘に何か起こったことを察して、彼女をマリアの膝の上に乗せる。 そして、現役看護師として、ニコルの体調チェックを始めた。
マリア「どうしたの? ニコル。 どこが痛い?」
ニコル「ママ・・。 胸がなんだが爆発しそうで痛いよ。」
マリアがニコルの手首に触れて、脈を測る。
マリア「(脈が弱い・・・。 このままだとまずいわ) ダニエルさん! すぐに車にエンジンをかけて!!」
ダニエル「!! わかった!」
ダニエルとアレキサンダーはお留守番。 マリアは大急ぎでニコルをミベールの中で最も大きい病院に運ぶために激スピードで運転した。
数時間後 緊急手術が終わったので、マリアは医者からニコルの病状について説明を受けている。
マリア「ドクター。娘は・・ 娘はどうなったんですか!?
大丈夫なんですか?」
医者 「フランドールさん。 落ち着いてください。 手術は無事成功しました。」
マリア「ああ・・・ 良かった。」
医者 「ですが・・ ニコルさんは心臓の難病を抱えています。
そして、残念ながらこの銀河での今の医学技術では不治の病です。」
マリア「え・・・?」
医者がニコルのカルテや検査結果などのファイルを取り出して、机の上に並べた。
マリア「はっ・・ これは!
特発性拡張型心筋症!(心臓を動かす筋肉が弱くなる難病)」
医者 「奥様。 あなたは看護師ですね。 ならこの病の恐ろしさがお分かりになると思います。
しかも、娘さんの場合、それだけでなく、全身の動脈が炎症を起こしてしまっています。 このままだと、末端部分から血流が流れなくなり、組織が壊死してしまいます。 そして、やがて、大動脈までも流れなくなり、溜まった血液を送れない・・。 ついには心臓が止まってしまいます。」
マリア「あ・・」
医者 「持ってして、1年ほどですな・・・」
マリア「そんな・・ なんとかならないんでしょうか!? ほら、たとえば、心臓を移植させたり・・」
医者 「ニコルさんの歳くらいのドナーは大人ほどはいないんですよ。
それに移植手術に耐えられる体力を持っているか、移植した心臓に自己免疫が働かないかなど乗り越えるべき壁はあります。 また、そもそも全身に広がる動脈の炎症は現状、薬を飲んで、その場を凌ぐしかないのです。 なので、完治するのは難しいと言わざるを得ません。
力になれず大変申し訳ありません。 私どもはせめて、あなたたちが人生に挫けないで幸せに生きていくことを願っております・・・。」
マリア「はい・・・」
医者 「せめて医学技術が進んで治療方法が見つかるまで、心臓移植や薬で延命できれば、望みはあるのですが、医者として、無責任なことは言えません。」
マリア「はい。わかっています。 娘のためにここまで手を尽くしてくださってありがとうございます・・。
では失礼します。」
家に帰ってきたマリアはダニエルに一命を取り留めたが余命一年になってしまったこと、入院すること、残された時間を大切にすることを伝えた。
ダニエルは激しくショックを受けて、椅子に座り込んだきり、何も喋れなかった。
マリア「調べたけど、心臓のドナーは今、空きがないの。
マラジュバ銀河のユオバリャー星にはニコルの病気を治せるいいお医者さんがいるのだけど、そこにいくのだけでも普通の船では最低3年ほどかかるのよね。」
ダニエル「三年・・・か」
マリア「はあ・・・
ねえ、ダニエルさん。 とにかくできるだけやってみましょう。 それでもダメだったら、せめて、娘の最期まで一緒にいましょうよ。」
ダニエル「うん・・・」
8ヶ月後 万策尽きた2人は娘との別れを受け入れるしかなかった。 ニコルはその時、心臓の筋肉が本格的に弱まって、血液循環支援機のチューブに繋がれている。
病室ではニコルの誕生日パーティーが行われた。 ニコルの元に彼女の友達が何人か訪れて、プレゼント交換会が開かれている。
ライラ「ニコル! 来たよ〜。」
ニコル「ライラ! 元気? あなたが来てくれて嬉しいわ。」
キャシー「ニコル、早く元気になってね。 みんな待ってるよ。」
ニコル「ありがとう。」
マリノ「ねえ、ニコル。 誕生日おめでとう! 今日から8歳だね!」
ニコル「うん!」
キャシー「私たちプレゼント持ってきたの。 交換会しましょう!」
それぞれが持ってきたプレゼントを友人たちで回して、お楽しみルーレットをしている
まずはライラの自作絵本ルーレット!
ライラ「どれがもらえるかな〜
楽しみだわ!」
キャシー「そろそろいいわよね。 さ、あけましょ!」
4人がプレゼント箱を開けると
ニコルはオアシスの中で暮らす退屈そうな人魚が他所からやってきた寂しい魔女に歩ける足を授けられ、ワクワクする冒険に2人で出かける話
マリノは少年たちに棒で突かれているのを少女に助けられた丸っこい亀が恩返しするために奔走する話
キャシーは貧乏の少女がある日踊りの才能をたまたま通りかかった王子様に拾われ、世界が注目するバレリーナになるシンデレラ物語
キャシー「わあ! すごいわ。あたしもこうなりたい!」
ライラ「キャシー、あなたの歌はとっても上手だからきっとなれるわ。」
キャシー「ライラ、ありがとう。 ニコルの話、魔女さんが親切で良かったあ〜」
ニコル「うふふ。そうね。
マリノ、お亀さんかわいいわ!」
マリノ「うん。 あたしも飼いたいわ。 あっ。そうだ! あたしね、可愛いぬいぐるみ作ってきたの! お母さんにも手助けしてもらったけどね。」
ニコル「きゃー。 楽しみだわ。交換しましょ!」
マリノが作ったぬいぐるみの服袋を交換。 ライラはタンポポの花が縦髪になっているライオン、キャシーは小さい抱き枕として使えるヘビキリン、そして、ニコルは絵本で出てきた亀の縫いぐるみだった。
ライラ「キャ〜!このライオンかわいいわ! 大事にするね。 」
キャシー「このヘビキリン、模様がカラフルで綺麗! それに寝るときに抱きしめられるから寂しくないよ。」
マリノ「ありがとう。 あたしとお母さんが心を込めて作ったの。 ぬいぐるみたちも嬉しそうに見えるわ。」
ニコル「わあ!ライラの絵本で出た亀さんだ! 似てる〜。」
マリノ「そうなの! 実はライラと打ち合わせしたの。 その亀さんかわいいから作ってもいいかって聞いて、OKもらえたわ!」
ニコル「そうなの! それは良かったわ。 亀さんふわふわしてる〜。
そうだ。 お父さんがみんなに髪飾りを作ってくれたの。」
ライラ「ええっ! ほんと!」
ニコルのプレゼントもワイワイしながら交換した
ライラ「あっ! ひまわりだ!」
マリノ「こっちは紅葉の葉っぱよ。 きれい〜」
キャシー「これは桜だわ! いつか本物を見てみたいわ
あなたのお父さん、なんでも作るの上手いのね!」
ニコル「ありがとう。 お父さんは仕事してない時はのんびりや作ってる時はかっこよくなるの!」
キャシー「よし!最後は私の番ね。 では、一曲歌いまーす!」
ライラ「きゃー! 待ってました!」
キャシーは一瞬息を吸って、笑顔で歌い始めた。
キャシー「お日様が登る登る、こんにちは〜と言う〜
お花さんも笑う〜、草も笑う〜、動物さんたちも笑う〜
あっはっはっは〜、笑いましょう〜あっはっはっは〜。
みんな幸せ幸せ〜〜」
マリノ「キャシー、うまいわ! 将来歌手になれるわよ!!」
ニコル「感動した!」
キャシー「ありがとう!」
夜 パーティーが終わって、ひとりぼっちのニコルの病室にマリアが入ってきた。
ニコル「あっ。 ママ!」
マリア「ニコル、今日の誕生日楽しかった?」
ニコル「うん! お友達も来てくれて嬉しい!
これで、パパも来てくれたらいいんだけど・・・」
マリア「パパはね、あなたの病気を治すために色々頑張っているのよ・・・
パパだって、本当はあなたと一緒にいたいのだけど、あなたの病気が治ってくれることも望んでいるわ。 だから、パパはニコルの病気を治すお金を稼ぎに遠くの街に仕事に行っているの。」
ニコル「うん・・・ わかっているわ。パパにありがとうって言わないといけないもんね。 でも・・・やっぱり寂しいよ。」
マリア「ええ。そうね。 パパが仕事から帰ってきたら精一杯出迎えようね。」
ニコル「うん!」
数日前、家でダニエルはマリアと話し合いをしていた。
ダニエル「なあ、マリア。 ちょっと相談があるんだけど・・」
マリア「何かしら?」
ダニエル「調べてみたんだけど、やっぱり、マラジュバ銀河のユオバリャー星にいる医者しか病気を治せないんだ。 でも、そこまで1ヶ月ほどでいける超高速船があるんだ。」
マリア「ええっ!? それは良かったけど、高いんじゃないの?」
ダニエル「うん・・・ 我が家の貯金では手が出ない。 しかし、その船を利用するのにかかる費用を得ることができる仕事が見つかったんだ。
大富豪である依頼主が大事にしているお椀が割れてしまって、二つとない代物なので、直してもらいたいそうだ。 しかし、修理が難しいので、依頼値を急激にあげてやってくれる人を募集している。」
マリア「そう・・・ あなたの腕前なら大丈夫よね。 で、何を困っているの?」
ダニエル「依頼主の家まで、片道三日くらいかかるんだ。」
マリア「それって・・・娘の誕生日には間に合わないわね。
それにそのお医者さんだって、条件が整っても成功率は数%くらいしかないって言ってたわ。 たとえ成功したとしてもその後、5年生きられる確率は15%・・・ 」
ダニエル「でも、わずかにも可能性があるとしたら縋りたい・・・
ニコルには死んでほしくない!」
マリア「ええ、あなたの気持ちは痛いほどよくわかるわ。でも、考えちゃいけないと思っても、どうしても最悪の事態が頭をよぎるの。
もし・・・、もし、ニコルと一緒にいる時間を削ってまで、治すために何かをして、そうしてまでして、失敗してしまったら・・・。 ニコルをひとりぼっちで死なせたら後悔しても仕切れない。
だったら、治す望みは捨てることになるけど、一緒にいてあげたほうが良くないと思う。」
ダニエル「マリア・・・。 しかしな、俺だって、後悔したくない・・・。 救えたはずなのにって思いながら一生後悔して生きていたくないんだ。
だから、やれることはやりたい! わがままだってことは承知してる。ニコルが寂しがるのも承知して・・・」
ダニエルはどうしても最後まで言い切れずに黙って、俯いてしまった。 唇を噛み締める。
マリア「・・・わかった。 ニコルにも伝えとくわ。 だから、あなたは自分のやるべきことに集中して。」
ダニエル「もちろんだ。 」
マリア「一つだけ約束して。 ・・・ニコルのために早く帰ってきてください。」
ダニエル「わかった。 約束するよ。」
現在 ミベール近くの村 宿の食堂
老いたダニエルの昔話をみんな黙って聞いている。
彼は泣きそうになるのを懸命に堪えて、話している。
ダニエル「今思えば・・・わしはただ目を背けていたのかもしれないな。
ニコルの病気がだんだん悪化していくのをみていられなくなった・・・ わしは意気地なしじゃな。」
ニコルの誕生日の3日後 依頼主の家
ダニエルが壊れたお椀を直し終わって、報酬を受け取った。
大富豪 「ありがとサン! 私大事にしてたお椀直ったネ。」
ダニエル「もちろんです。 お客様のお願いとあらば、なんでも直してみせますぞ。」
大富豪 「頼もしいネ。 また何か壊れたら依頼するヨ!」
ダニエル「あはは。 ありがとうございます。
これからもご贔屓にしてくださいな!」
我が家に帰る途中の列車
ニコルとマリア、アレキサンダーが自分と一緒に写っている写真をみて微笑みながら列車に揺られている。
家族へのお土産が入っている荷物を椅子に置いて、その横に座っている。
ダニエル「報酬の振り込みは確認できた。 そして、船の予約支払いも済んだ。 向こうの医者と話をつけて、ニコルの転院の準備も済ませた。
やることは全てやった。 あとは帰るだけだ・・・。
はあ〜。 ニコル怒ってるだろうな。俺が誕生日の時に一緒にいてやれなかったから。 お土産で勘弁してくれるといいのだが・・・。」
ダニエルが思案にふけているとダニエルを乗せたミベール駅行きの列車(当時はタウチー遺跡に線路は繋がっていなく、ミベール駅で終点だった。)が線路の途中で停車した。
ダニエル「? どうしたのか。 事故なのかな?」
電車が止まって、ざわついている車内に車掌が入ってきて、説明を始めた。
車掌 「皆様。 大変申し訳ございません。ただいまミベール駅に止められない事情が起きました。 お客様の中でラジオを持っている方はおりませんか?
今、ラジオで説明が流れていますので、詳しくはそちらをお聞きください。」
乗客 「一体どう言うことなんだい?」
乗客 「俺、ラジオ持ってるぞ。 車掌さん、どこのチャンネルだ?」
車掌 「213−7です。」
乗客が持っていたラジオにチャンネルを合わせて、みんながラジオに意識を集中させている。
ラジオ 「・ザザ・・ザッ・・・うです、速報です。
今日正午頃、ミベール街で不可解な現象が起きました。街の周りを突然謎の青い半球型の膜がすっぽり覆いました。半球の正体は未だ不明で、調査を急いでおります・・・、おっと、ここで中継が入ります。 ロパートさん、どうぞ。」
ラジオ 「はい、こちらロパート・ミンシュルです。
私は現在謎の半球の近くにおります。 今ですね、リオベール王国の軍隊が駆けつけて、街の封鎖を行なっています。 私の前にも2人の筋肉が逞しい軍人が立ち塞がっています。 これから、周辺の人たちに何が起きたかを伺っていきましょう。
すみません。 HYJラジオ放送局です。今、お話を伺えますでしょうか?」
ラジオ 「はい。(インタビューされたのはマラマラに食料を輸送している民間企業のライオンドライバー)」
ラジオ 「あの膜について、何かが起きたかを見ましたか?」
ラジオ 「ええ。 あの時、私はマラマラに食料を運ぶためにトラックを運転していました。 近くまできた時、なんとなくミベールに青い霧がかかってなんだろうと思ってみてたら、だんだん霧が濃くなって、こんな感じになったんです。 それに、なぜかみてるうちに眠たくなってきました。ふぁーあ。おかしいな。事故防止のためにちゃんと8時間睡眠をとってるんですよ。」
ラジオ 「お話ありがとうございました。 他の人にも聞いてみましょう。
今、お話を伺えますか?」
ラジオ 「え!ホマンにラジオなの!? えーー!
まじ卍。うれうれビョンなんですけどーー!(肌黒いモコモコ羊ギャル3人組。 長いネイルとハートなどのデコレーションを飾っている頭が印象的)」
ラジオ 「今の状況について、何を知っていますか?」
ラジオ 「バヤイバヤイ、まじで聞かれたんですけどー!
えっとねー、あたち達が車で観光地巡りをしていた時にー、なんか、青い霧がポワーッと出てきた感じ?」
ラジオ 「そうそうソウメンス〜! それでね、だんだんはっきり見え見えのアゲアゲですぅ〜。
それになんか〜、霧の中で人が倒れていて、まじピンチ的な? あれは死んでない?」
ラジオ 「アタキ、卍助けたかったけんど、近づくとネムネムのアゲアゲで〜。 マジバヤイ。ぴえん。」
ラジオ 「・・・お話ありがとうございました。
どうやら、霧に近づくと眠たくなるということが判明しました。 では、マリキーさん。 スタジオにお返しいたします。」
ラジオ 「ロパートさん。 中継ありがとうございました。
先ほど、専門家から分析の結果が届きまして、ウォーバーやスソリーチでも似たような現象が見られることから、ミベールは眠りの街になったと断定しても良いかと思われます。」
乗客 「な・・! 眠りの街!? そんな・・・
ラヴァがいるのに!」
ラジオ 「今、マラマラの議長により、ミベールに入れない人々向けに仮の住まいやホテルを提供していますので、マラマラの市役所でお手続きください。」
乗客 「そんな事急に言われても・・。 気持ちの整理がつかないよ。
はあ・・・。 ラオガがあそこにいるなんて信じたくないな。」
突然の事実を聞かされ、愛する人たちを一瞬の間に失ったことを悟り、絶望に落ち込む空気が蔓延していた。
他にも信じられなくて、車掌に質問している人もいる。 そんな中でダニエルは家族と眠りの街が結び付かなくて混乱している。
ダニエル「そんな・・・。本当なのか? いや、やはり信じたくない。」
真実を確かめたいダニエルは近くの駅まで歩いて、ラクダ馬を借りて、ミベールに行くことを決意した。
1時間ほど後、ミベールに着いたダニエルは自分の目と耳が狂っていると思いたかったが、心の奥で正常だと悟っている。 ダニエルは過去に仕事でスソリーチに行く時に偶然スソリーチが眠りの街になっているのを目撃していた。
ダニエル「この眠くなる感じ、スソリーチと一緒だ・・・。」
最悪の事態が起きたと確信して、ダニエルは膝をついて、正座するように崩れ落ちる。
ダニエル「俺、俺・・・、なんてことをしてしまった・・・。 そんな・・・。
ニコル、マリア、アレキサンダー・・・、すまん・・・本当にすまなかった・・・
う・・・うっ、うわああああああああ!!! 嘘だと言ってくれえええええええええ!!」
ダニエルは声が枯れるまで叫び続けると気力を使い果たしたように倒れ伏して、人知れず涙を流し続けた・・・
ダニエル「うう・・・すまん・・すまなかった・・・。 俺が一緒にいてやればよかったのに・・・。俺は父親として失格だ・・・。 く・・・。」
現在 感情の糸が切れてしまい、涙を滝のように流し続けながら話し終えたダニエル。
この場にいる全員が言葉を失って、ダニエルを見るばかりだった・・・
岳斗 「そんなことが・・・。 それにしてもよく話そうと言う気になったな?」
ダニエル「う・・、よく分からんが、この兄さんになら自分の罪を許してもらえそうだと思ったんだ・・・。 許されるわけがないのにのう・・・。
はあ・・・。」
ジェシカ 「本当に申し訳ありませんでした・・・。 こんな辛い話をさせてしまって。」
ダニエル「構わんよ。
さあ、わしも話したから、あんたも話してくれないだろうか?」
レオナルド「約束だからな。 話すぞ。」
レオナルドとジェシカが自分たちの王国で起きた悲劇と旅している目的をダニエルに話した。
ダニエル「なるほどのう・・。 大切な人を失ったことは似ているな。 それと獣を回収するということもわかった。」
レオナルド「ああ。 俺がジェシカ、クリスと王国の皆を失うようなものか。とても耐えられるものじゃない。あんたは十分立派だ。」
加那江 「・・・(神妙な顔をして俯いている)」
シャルル「夜も遅くなったし寝ようぜ。 明日はいよいよクライマックスだ。」
岳斗 「そうだな。」
全員明日に備えて、寝室に入った。
とある一室、ジェシカと加那江の2人部屋。
ジェシカ 「加那江、さっきから暗い顔をしてますが、どうしました?」
加那江 「あ・・。 まあ、ダニエルの話でね・・。
大丈夫よ、寝ましょう。」
加那江は胸に手を置いて、軽くさすっている。
ジェシカ 「・・・。 レオさんはああ言ったけど、別に話したくないことは無理に話さないでいいのですよ。
誰にも『心の痛み』というものはありますから。おやすみなさい。」
加那江 「・・・。 おやすみなさい。」
翌朝 相変わらず太陽が砂漠を容赦なく照らしている。
一行は出発準備が整って、女将と別れのハグをした。
女将 「元気でやるんだよ! また近くまできたら寄っておくれよ。」
岳斗 「おうよ。 じゃあ、行ってくるぜ。」
女将 「しかし、マック。
あんた、イケメンね♡。 少女心が騒ぐわ!」
マック「あはは・・・
ありがとっす。」
昨日と同じように岳斗がラクダ馬に乗って、後は車に乗った。
運転はレオナルド。助手席はダニエル。
レオナルド「ダニエル。 昨日はすまなかった。貴方を守ってやるだなんて、言ってしまった。
プライドを傷つけてしまったかも知れない。」
ダニエル「いや、それは元々気にしておらんよ。 ・・・あんたらも大変だな。 まあ、獣が見つかることを祈っているぞ。」
加那江 「ありがとう。」
レオナルド「改めて約束してくれないか? お互いに守りあって、敵を倒すと。」
ダニエル「無論そのつもりじゃ。(ここで熱い握手をした)」
マックもやってきて、岳斗と固い握手をした。
マック「頑張るっすよ!!」
岳斗 「おうよ!!」
ダニエル「マックの奴、いつの間に岳斗と友になったんじゃ?
ま、このコミュ力の高さと愛嬌は奴の長点じゃからな。」
ミベール駅でラクダ馬と車を返却した一行はそこから汽車に乗って、タウチー遺跡に着いた一行
タウチー遺跡では灼熱にも関わらず、宝を掘り当てようとしてる人々で賑わっている。 中には発掘者に宝のありかを教える代わりに高い金をぼったくる輩もいるようだ。
そして、隣にあるリオベール王国の残骸はいまだに王宮がそのままの状態で残されている。
岳斗達はこれからの計画を立てた。
加那江 「すごい人ね。進むのも一苦労ね。」
ジェシカ 「ここで悲劇が起こるはず。 なんとしてでも食い止めなければいけません。」
岳斗 「百も承知だぜ。 でも、今回は敵のことについて、何にも知らねえな。
そもそも、ここで血が流されることは確定したわけではない。」
シャルル「そうだが、備えておくに越したことはない。 手分けして、調査しよう。
王国は岳斗、レオナルド、ダニエル、マック。 遺跡はジェシカ、加那江、そして俺、ということにしよう。」
岳斗 「シャルル・・。 ハーレム狙いか?」
シャルル「んなわけねえ! ちゃんと戦力と相性のバランスを考えた上でだ。
お前と一緒にすんな!」
岳斗 「俺な訳ないやろ。 どっちかつーと親父だ。」
シャルル「お前だってその血を受け継いでいるじゃねーか!」
加那江 「はい、そこまでよ。 時間がないんだから、無駄な喧嘩はやめて。」
シャルル「チッ、わかったよ・・・」
レオナルド「遅くとも日没にここで集合にして報告しよう。 何かがあったら通信機で連絡を取り合ってくれ。」
岳斗 「わかった。 それじゃ、行こうぜ!」
マック「うっす!!」
岳斗組 王国は滅んだ28年前のままの状態を保っていて、管理が行き届いてないせいか建造物にまばらに砂が降り積もっていた。
王国は人々が住んでいた粘土造りの家、今も美しいオアシス、一際目立つ大きさの王宮から構造されている。
王国の中に入って、敵の手かがりに繋がるものを見つけようと行動を開始した。
岳斗 「ここも人がいっぱいいるぜ。」
ダニエル「そうだな。果たして、疫病で滅んだのか・・。 」
王宮に入った4人は少し劣化したものの素人にも素晴らしいとわかるほどの価値があるような絵画が壁一面に貼られている風景に感動した。
中も美しい絵画に歓声をあげている人たちでいっぱいだ。
レオナルド「ほう・・。 芸術というのはやはりどこでもすばらしい。」
岳斗 「同感だ。 ん?」
マック「どうしたっすか?」
岳斗 「ああ、パンフレットに書いてあったんだが、今日の夜、206年ぶりにみなみじゅうじ座の交差点の星がタウチー遺跡の真上で輝くみたいだ。
なんでもこの星の自転周期が206年で、絶対的に不動なみなみじゅうじ座の交差点と必ず206年ごとに真上に来るからだと書かれている。」
ダニエル「ああ。どうりでなんかいつもより人が多いような気がしたんじゃ。」
レオナルド「206年前か・・・。 そういえば、みなみじゅうじ座は北を向く槍を意味してたな。 槍の絵を探せばいいのだろうな。
絵の中に何か手掛かりがないものか・・・。」
岳斗 「んー。 見る限り、槍が出てくる絵といえば、戦争してる絵くらいだったな。 星座が出てこないし、あまり関係ねえのか?」
マック「俺っち、絵の場所覚えてるので、案内するっすよ。」
レオナルド「ありがたい。」
4人はしばらく槍の絵を探して、手がかりを見つけようとしたが、槍の絵はいずれも過去の王国の戦争ばかりだった。
レオナルド「まあ、人の目に触れるだろう物をわざわざ証拠として残す訳はないか。
二階の図書室に行ってみるか。」
図書室 本はいずれも100年以上経っているかのようだったが、砂漠の乾燥した気候のおかげで保存状態は良かった。
岳斗達はスタッフからもらった白い手袋をはめて、本をめくった。
数時間後
岳斗 「うーん。 もしかしたら眠りの街を星座に例えた時のそれぞれの星がタウチー遺跡と重なっているかと思ったが、そんな資料は見つからなかったな。」
ダニエル「それに槍の神話にも旅人の星になったきっかけしか書かれてなかったぞ。 それに王宮や遺跡の建設設計図にも隠し部屋などがありそうな矛盾は見つからん。」
レオナルド「参ったな・・・。 このままではここにいる人たちが犠牲になってしまうかも知れない。 儀式とかをやっているかもしれない所はどこにあるのだろうな。」
岳斗 「わからねーな。見当もつかないぜ。 もういっそ、危険を伝えて、避難させるか?」
レオナルド「どんな危険があると伝えるんだ? 」
岳斗 「・・・。 やっぱ信じてくれないだろうな。 でも、槍は少なくともヒントにはなっている。」
ダニエル「そうだな。 5つの都市とここがみなみじゅうじ座の星にちょうど重なるから。
・・・? そういえば、さっきの槍の絵、確か5つだったな。」
岳斗 「それがどうしたんだ?(パンフレットを取り出して、次に行くところを検討している)」
レオナルド「あ、岳斗。 ちょっとそのパンフレットくれ。」
岳斗 「ああ、これか? ほいよ。」
レオナルド「ありがとう。 」
レオナルドはしばらく王宮内の地図を眺めていたが、閃いたようにペンを取り出した。
そして、星の印を書き始めた。 数秒後にみなみじゅうじ座が出来た。
レオナルド「もしかして・・・。」
岳斗 「レオナルド? これって、みなみじゅうじ座だな。・・・あっ! これは槍の絵があったところだ!」
レオナルド「その通りだ。」
岳斗 「でも、真ん中には何があったっけな?」
マック「確か、髪が長い女性の人魚がハーブを弾いている石像があるっす。 周りには水が湧き出ていて、オアシスから引水したんす。」
岳斗 「人魚か。 どうりで見逃したはずだ。行ってみるか。」
人魚の像の前に着いた一行
人魚は精巧に作られていて、今にも演奏をしそうだ。
岳斗 「お〜、こりゃ本物みたいだぜ。 よっぼとうまいやつが作ったんだな。
ん? 噴水の側に彼女が奏でた音楽を再生する機械があるな。再生してみよう。」
岳斗がその機械を再生するためにスイッチを押した。 すると、ハーブの音楽が流れ始めた。
岳斗 「おお、綺麗だな。 」
ダニエル「うむ。 しかし、この星のメロディーでないのが気になるな。」
マック「・・・そう言われてみれば、確かに今話されている言語とは発音とかが違うっすね。 変っすね?」
岳斗 「そうなのか? そういえば、言葉はその人の母国語に変換されるのにな。」
レオナルド「古代の音楽をそのまま伝えるために翻訳機能を無効にする機能が仕込まれているのか? 原語を研究したい学者とかが使うからな。」
岳斗 「なあ、不思議に思っていたことがあるんだ。 俺ら、ここまで証拠が見つかった訳だろ。
でも、普通、そういうのって見つからないように隠すよな?」
ダニエル「確かにな。 これじゃわざわざ見つけてくれって言うようなものじゃ。」
レオナルド「もしくは儀式のために誰かに見つけてもらう必要が・・ないな。」
岳斗 「わからないけど、とにかくおかしいのは事実だ。
でもあと一歩がわからねー。」
レオナルド「しょうがない。 とりあえず、バサーで売ってるのを買って、昼ごはんにしよう。」
岳斗 「そうだな。 腹減ったらなんとかだ。」
4人は結構遅めの昼ごはんを挟んで、気持ちを切り替えることにした。
ちょうどケバブの焼き立てを焼き上げたので、それを注文することにした。 そのケバブは皮がミイラナマコの内臓を取った体、肉は砂喰いトカゲ(彼は獲物を飲み込む時に乾燥した胃でも消化しやすいようにあらかじめ砂や岩を飲み込んで、そこから獲物を吐き出したり、飲み込んだりするのを繰り返して、砂や岩との摩擦で獲物を柔らかくする効果がある。 また、夜の砂漠でも冷えないように日没に熱い砂を精一杯飲み込んで、凍死を防いでいる)であり、観光客に大人気となっている。
岳斗 「フホフホ(熱かったので、口の中で冷ましている。)おお。食べやすい割にはかみごたえがある。
それにジューシーでうめー。 砂漠でもいけるぜ!」
レオナルド「うむ。 世の中にはまだ俺が知らない食べ物があるのだな。」
ダニエル「水分が少ない環境でも生きていけるように脂肪を蓄えている生物が多いから、ジュージーで身が柔らかいのが多いのだ。」
マック「親父もよく砂漠のサバイバルでお世話になったそうっす。
あれで生き延びられたことも2、3度でないと言ってたっす。」
岳斗達が未知の食べ物に感動していると大勢の子ども達が数人の大人に率られ、周りを見渡しながら歩いて来た。
どうやら近くの学校で修学旅行に来たようだ。
子供 「わあー!スッゲー!」
子供 「お宝〜。見つけてやるぞ!」
先生 「よく聞いてください!
みなさん、他の人も来てますからくれぐれも走り回ったり、大きな声で喋ったり、迷惑になることはしないでください。 分かりましたか?」
子供 「はーい!」
スタッフ 「私はみんなに昔の王国を案内するお姉さんです。よろしくね。」
子供 「よろしくおねがいしまあす!!」
レオナルド「子供達は元気だな。 微笑ましいことだ。」
岳斗 「修学旅行か、懐かしいぜ。 もぐもぐ。」
スタッフが数枚の紙を取り出して、子供達に説明を始めた。
スタッフ 「では、まず最初にクイズをしまーす! 」
そう言って、何かしらの文字が大きく書かれた紙を出した。
スタッフ 「これはかつて、ここで使われていた古代文字の一つです。どんな意味かを3択であててね!
1番:月、2番;太陽、3番;星 どれかな〜???」
子供達は自分が思ったままの答えを言った。
みんなが答えたところでお姉さんが答え合わせをするために紙を裏返した。
スタッフ 「正解は、2番の太陽でーす!
ファルエと発音します。 ちなみに月はルラナン、星はスチュタと言うんだよ〜。」
岳斗 「・・・?」
子供達の悔し声と歓声が混ざって聞こえる横で岳斗は記憶の糸が紡ぎ始めたような感覚に襲われた。
それはケバブを食べ終わった時に服になった。
岳斗 「! あの音楽だ!」
ダニエル「何か閃いたのか?」
岳斗 「わからんが、直感だ。 音楽の中に「ファラエ」が一文字ずつ聞こえたような・・・
それも途切れ途切れに。」
マック「ファラエ・・・? ん、太陽か・・・?
あっ、もしかしてウファマ語!?
それって、206年前に突然の失踪が起こる前はリオベール王国の公用語として話されていたっす。 失踪してからは、知っているのは学者か物好きくらいと言われているほど、絶滅危惧言語に指定されているっす。
はっ、間違い無い。 暗号になってるかもっす!!」
レオナルド「そうか? まあ、お前らが言うなら確かめるか。」
再び人魚の近くに来た4人は歌に注意深く声を傾けた。
レオナルド「これは・・! 確かにファラエという言葉が他の言葉の間を置いて、聞こえる!
太陽という意味か。」
ダニエル「なぜ太陽が関係するかはわからんが、これで一歩近づいたな!
このまま解読して行くぞ。 」
岳斗 「よし、紙に聞こえた音を書き込むんだ。」
10分後、音楽の音を全て書き終えた岳斗達。
岳斗 「ここから、ファラエを含む文を作ればいいのか。」
ダニエル「ふむ、ファラエの4文字はいずれも間に3文字挟むな。 お前達の文字でも同じか?」
岳斗 「おう。」
レオナルド「俺もだ。」
マック「こっちも同じっす。」
ダニエル「タタツエララゴバヴヴバー・・・
これで文を作ると4つの文字になるな・・。」
ここで、読者には岳斗の書いた4つの文を見せよう。 とは言ってもこの言語は翻訳機のカバー対象外なので、地球民の諸君にとって、意味不明な文である。
タラヴャラモーラドォクラヨエルパチヤナウユシャゴ
タラヴャラエラチボーカボンファラエウノルウユシャダラスハメドスシャンムー
ツゴバラチャーノファラユルウリャゴシャユウグバランドユース
エバーユノムラメールヴァッシャロエユンスプトゥロメリトコスチュタダラドラー
岳斗 「なんのこっちゃ。 (紙を見せて)間違いないか?」
レオナルド「大丈夫だ。大体同じような意味だ。」
ダニエル「こっちもだ。 それにしてもどう訳せばいいのやら・・・」
マック「あ。 俺っち、少しならわかるっすよ。
鍛造術の勉強のために王国の芸術品を見るために訪れるうちに、覚えたっす。」
ダニエル「えっ! そりゃ、頼もしいわい。
ほれ、何が書いてあるんじゃ??」
マック「この200年間の戦争や疫病、奇妙な現象などで言語のデータの大部分が行方不明になっているんで、全ては判明していないっすけど・・・
『〇〇を導く〇〇が亡国を〇〇照らす
〇〇を〇〇に招く神が〇〇の魚を輝させる
〇〇時、〇〇が〇〇大地を〇〇だろう
そして、〇〇怪物が現れ、〇〇の眠りをこの星に〇〇するだろう・・・』と書いてあるっすね。」
ダニエル「これだけ聞くとますますわからなくなりそうじゃ・・・。
神が太陽を意味するとして、魚はあの人魚で合ってると思うぞい。 ここら辺の周りには川などないからな。」
岳斗 「そうだな。俺もそう思う。 でも、やばいことだけはわかる。
なにしろ怪物が現れるんだもの。」
レオナルド「しかし、わからないことがもう二つある。
なぜ太陽が出てくるなら、今まさに怪物が出てこないのか?
なぜ『照らす』や『輝く』と言う似ている単語がわざわざ2回記されているのか?
あと2時間ほどで日没になるぞ。」
岳斗 「うーん。お手上げだな。
シャルルを呼ぼう。」
時を戻して、岳斗たちが王国に入った頃
シャルルハーレム組は多くの冒険野郎で賑わっているタウチー遺跡の入り口に来た。
シャルル「ハーレムじゃねーつってんだろーが!!」
加那江 「誰に喋ってるの?」
シャルル「えーと、まあ、天にいる人?
さっ、そんなことは気にしないで早く行こうぜ! なっ。」
タウチー遺跡は地上ではヨーロッパにあるような神殿の外形をしているが、奥に地下へと続く螺旋階段が大きくそびえている。 階段がある穴の直径は10メートルを下らないだろう。
一周階段を回り下るたびに石像のドアがあり、階段は闇の底まで続いているように見えるが、実際は最深部は地下206階だ。
ジェシカ 「これはなかなかでかい階段ですね。 降りるだけでも結構な段数のようだ。」
加那江 「なんか吸い込まれそうね。 落ちないように気をつけなくちゃ。
階段が広いのが幸いね。」
シャルル「それにしてもよくここまで掘れたな。」
シャルル達は1階ずつ遺跡のダンションに入って、みなみじゅうじ座が彫られている壁画などを探している。
今いる階は王国の民が使っていた器が長方体の箱である墓の上に置かれている。 どうやら、民たちの墓地にしていたようだ。
シャルル「さて、手がかり探すぜ!」
加那江 「遺跡のデカさの割には宝物が少ないのね。持ち去られたのは本当みたい。」
シャルル「でも、約200年前の消失事件の前に書かれた言葉とかがあるかもしれない。
しかし、骨が折れるぜ。」
ジェシカ 「ざっと見渡した限り、槍はまだ見つかりませんね。
儀式の重要なキーワードにもなっていますし、さらに下にあるかも知れません。 どんどん行きましょう!」
数時間後 206階まで行ったが。これと言った手がかりが見つからなかった。
ジェシカ 「ついに底に来てしまいましたね・・・」
加那江 「何か見落としているのかしら? それとも、盗まれた?」
シャルル「せっかく来たから、探してみようぜ。
しかし、建築技術はかなり発達しているな。立派な遺跡と言い、ここまで深く掘っても地上の天井が見えると言い・・・。 あっ。」
加那江 「どうしたの?」
シャルル「ああ、上見て思い出したが、途中、階段の裏に星が小さく書かれていたな。」
ジェシカ 「ああ、そうでした。 しかし、小さすぎて、ここからでは見えませんね。」
シャルル「よし、俺の出番だ。 宇と宙を彷徨いし運命の糸を解きほぐす神の手よ、我々が入りし魔窟をここに示せ! そして、我らの希望の炎で魔窟の道標となれ!」
シャルルが唱えるとタウチー遺跡の地下ダンジョンを小さくしたものが青い光を放ちながらその形を表す。 そして、小さき星があるところが金色に輝いている。
ジェシカ 「お〜。綺麗ですね。 それにしても星は何か意味があるのでしょうか・・?」
加那江 「それにしても・・・この間隔はどこかで見たような?
シャルル、試しに色々な角度から見たいけど、動かせる?」
シャルル「できるぜ。」
遺跡を90度傾けて、底から見えるようになったところで、シャルルが閃く。
シャルル「はっ・・!!こいつはみなみじゅうじ座だ!」
突然エネルギーを入れられたようにシャルルが遺跡を元に戻して、星があった階層を急いで数えている。
シャルル「ああ、やっぱり。」
加那江 「何がわかったの?」
シャルル「これは、地上が206年前、ここが今だとすると、眠りの街になった年、場所がちょうどパンフレットの地図と遺跡の階層と一致するんだ!!」
加那江 「え!? それって大発見じゃない!」
ジェシカ 「その階にある物がもしかしたらヒントになるかも・・・。 確か、上から順番に十字架を抱えた骸骨、魚を獲っている漁師が海に感謝している写真、地面に散らばったままの昔のワイン、大地が隆起して逃げ惑う人々を描いた絵、そして、『安らかに眠れ』と大きく書かれた数多の兵士たちの墓でした。」
加那江 「何のメッセージかしら?」
ジェシカ 「うーん? 全く見当がつきませんね。」
3人が手かがりを前に結論を出せずにいたその時、通信機が振動した。
加那江 「ん? 岳斗からだわ。何かあったの?」
岳斗 「こっちはみなみじゅうじ座を追ってたら、人魚にメッセージが隠されているのを発見したが、解読できないので、シャルルに相談しようと思ったんだ。
そっちはどうだ?」
加那江 「こっちもみなみじゅうじ座を見つけて、色々関係性がわかったけど、結論には結びつかないわ。
一旦戻って、情報を共有しましょう。」
岳斗 「了解。集合場所で落ち合おう。」
電話が切れ、加那江は2人に岳斗からのメッセージを伝えた。
シャルル「OK。 わかった。」
加那江 「しかし、この高さを上るのはきついわね・・・」
シャルル「心配いらねえよ。 魔法で一っ飛びだ!
時の神クロノスよ 今一度我らの休息拠点へ我らを導かんとせよ!」
シャルルが唱えると3人は白い光に包まれ、消えた。
太陽がかなり傾き始めているが、相変わらず灼熱世界だ。
岳斗組とシャルル組が集合場所に合流して、情報を共有した。
ジェシカ 「つまり、人魚が、みなみじゅうじ座が真上に来る時に起こることを伝えていたのですか・・・」
レオナルド「そういうことになるが、どうも解読されていない言語でな、未だ不明だ。」
岳斗 「タウチー遺跡での星と壁画がどう関係あんだろう?
どっちもみなみじゅうじ座と連動しているが、共通点がいまいち浮かばねー。」
ダニエル「しかし、連動しているということは法則性はあるようじゃの。
試しに「十字架を抱えた骸骨=〇〇の〇〇が亡国を〇〇照らす」にしてみたらどうじゃ? 何か閃いたか?」
シャルル「ひらめかんが、いいアイデアだ。
えーと
「十字架を抱えた骸骨=〇〇の〇〇が亡国を〇〇照らす」
「魚を獲っている漁師が海に感謝している=〇〇を〇〇に招く神(太陽)が〇〇の魚を輝させる」
「地面に散らばったままの昔のワイン=〇〇時、〇〇が〇〇大地を〇〇だろう」
「大地が隆起して逃げ惑う人々=そして、〇〇怪物が現れ」
「『安らかに眠れ』と大きく書かれた数多の兵士たちの墓=〇〇の眠りをこの星に〇〇するだろう」だな。」
加那江 「相変わらず謎だけど、両側にいくつか似ているワードが出てるわね。
骸骨は亡国、地面は大地とかね。それにワインが血を、魚は人魚を連想させるわ。」
岳斗 「それに繋げると『大地が隆起して、怪物が地上に現れる』とも考えられるぜ。 逃げてる理由も説明つく。
しかし、この順番だと血が流れてから怪物が現れることになる?」
ジェシカ 「眠りを星に約束するとは・・・。 やはり、タウチー遺跡だけでは済みませんね。」
マック「血が流れるのは親父の代で終わりだと思っていたのに・・・」
レオナルド「最初の十字架はみなみじゅうじ座がここを照らすという意味で間違いないな。」
ダニエル「加那ちゃん。 人魚は多分関係ないと思うぞ。
王宮では人魚が交差点だったんだ。 」
加那江 「ええ・・? でも、他に魚がいたのかしら? オアシスにはいたの?」
マック「オアシスには魚はいなかったっす。 困ったっすね。」
岳斗 「あとちょっとなのに嵌まらないのって、もどかしいぜ!
うーーん??? 何か見落としてないのか?」
日没が近いことに岳斗たちが焦っていると夜空を見に来たらしい観光客たちがバスガイドに案内されながら正門を通過する。
そして、バスガイドが腹から声を出して説明を始めたので、岳斗たちからも聞こえた。
ガイド 「みなさん。 今通った門は約200年前まであった王国の正門です。
当時の王国はリオベール王国と言いまして〜、ここの豊富なオアシスを巡って、昔からよく他の国に侵攻されていましたよ。 」
観光客 「へー。なかなか頑丈そうな壁だな。」
観光客 「こわーい。」
観光客 「ロマンがあるなあ!」
ガイド 「過酷な最後の砦だったので、多くの戦死者をこの門で出しました。 当時は戦争で死体を持っていく余裕がなかったため、数多の死体を数段に積み重ねて、銃を撃つ者の壁にしたり、敵からの目隠しからの奇襲に使われていました。」
観光客 「ええー。 とても信じられないなあ。」
観光客 「わしも昔は戦争していたのだが、そこまでひどいのは見ておらんな。
ふうむ、かなり激しい戦争だったようだ。」
観光客 「まじ〜? やば〜ん。」
ガイド 「そんな風景だったものだから、他の国から『死者の墓』と呼ばれていて、王国の身内からも恐れられていたらしいです。」
ガイドは門を説明し終わると観光客と共に岳斗たちの近くを通って、昔からの煤が付いている直径30メートルほどのお椀がある広場に行った。
今日は珍しくお椀の中で火が天を貫く勢いで燃えている。
ガイド 「そしてですね、このお椀は焦げていますが、何に使ったかわかりますか?」
観光客 「お祭りか?」
観光客 「うーんと、共同料理場!」
観光客 「あっ。 俺聞いたことあるぞ。 火葬するのに使ったんだ!
砂漠だから燃やす火種がないんで、とっても貴重な神木を王国が厳重に世話している!」
ガイド 「そちらのお兄さん。正解です!!
数十年に一回土葬(砂葬)されていた兵士や民を掘り起こして、火で肉体を焼くことで宇宙に浮かぶ星に魂を送り届けたのです。その際も火の粉が死者たちの星への道標とされていました。 その中でもみなみじゅうじ座の不動の星は死者にとっての輪廻転生への門と信じられていたので、206年ごと、つまり真上に不動の星が来るたびに王様も含めて、民が全員この広場に集まって、ご先祖様の輪廻転生を熱心に祈っていたのです。 さあ、皆様。 あなたたちを産んでくれた両親を産んでくれた祖父母を・・・そして、そのすべての始まりのご先祖様に想いを馳せてください・・・。」
観光客が想いを馳せて黙祷している。
岳斗 「死者の墓ねえ・・・
まじで恐ろしい時代もあったもんだな。」
シャルル「死者の墓といいやあ、5つ目の文にも書いてあったな。
・・・火を見てたら魚が食いたくなったな。 ここ数日食ってない。」
マック「そういえば、魚って460年前くらいの王様が他の星から連れてきてペットにしていたそうですよ。
そこからリオベール王国が滅ぶまで代々の王様に大事に育てられたみたいっす。 なんでも魚を手に取っただけで死刑にしていたほどっすから。」
ジェシカ 「そうですか・・。 魚を・・ん?
もしかして、そうか! レオさん、パンフレットください。」
レオナルド「新しいみなみじゅうじ座でも見つけたのか?」
ジェシカ 「はい! まさにそうです。
それも決定的な・・・」
岳斗 「えっ!?」
ジェシカがパンフレットを受け取り、広げる。
そして、ペンで彼女の中に思い浮かんだ場所に最初の星を描いた
ダニエル「これは・・!」
ジェシカ 「ええ。そうです。
まず、土葬した者をわざわざ火葬にし直す風習です。 数十年も土葬していたならばすでに骸骨になっているでしょう。 また、みなみじゅうじ座と火葬は密接な関係があります。」(ウォーバー)
ダニエル「輪廻転生だな。 王様も出席していたほど重要なイベントだった。」
岳斗 「繋がったな! この調子で残りも考えるか。
マックのいう通りなら、昔のオアシスには魚がいたということになる。これが二つ目の星か」(スソリーチ)
加那江 「ワイン・・血・・。 そういえば火葬場のさらに向こうに王国の拷問所や処刑場があったのよね。
罪人の血が多く流れていた可能性はあるわ。 3つ目っと。」(ミベール)
シャルル「『兵士の墓』と言われてきた門が5つ目の星だな。 4つ目の星はわからんが、位置関係から多分ちょうどタウチー遺跡あたりだ。」(マラマラ)
レオナルド「うむ。 タウチー遺跡を警戒しとくか。 ともかく、これで我々が探していた不動の星を見つけたな・・・。」(ハフォーチ)
岳斗 「ああ。 そこに行こうぜ!」
岳斗たちは不動の星がある座標に行ってみたが、そこは特になんともいえない砂が広がっているだけだった。
岳斗 「あれ? なんもないぞ。」
ジェシカ 「うーん。 3つのみなみじゅうじ座から全く無関係とはいえないのですが・・・」
シャルル「あっ。 俺らが手掛かりにしてたのって、いずれも昔からあった物だよな?」
ダニエル「そういえば、音楽も古代じゃったな。」
加那江 「壁画も数十年前に描かれた状態ではないわ。 絵の具が結構色褪せているから確かよ。
なんだが、予言されているみたいで気味悪いわね。」
シャルル「そうか・・・。 もしかして、2世紀も経っているから埋まってしまった?
なら、掘ってみるか? いいのかな?」
ジェシカ 「まあ、パンフレットには発掘した宝を国に届け出すことを条件に発掘を全面的に認めていると描かれているから大丈夫でしょう。」
岳斗 「よっしゃ。 やってみるか!」
マック「受付でシャベル、スコップが貸し出されているっす。
持ってくるっす!」
ダニエル「おう、頼む。」
岳斗 「俺も行くぜ。」
しばらくして、岳斗とマックが人数分のシャベル、スコップを持ってきて、発掘作業を始めた。
日没 あたりが薄暗くなり、月が出始めた時、突然スコップの手応えがなくなった。
加那江 「ん? 手応えがなくなったわ。」
シャルル「ああ、こっちもだ。 お目当てかもしれんな。」
ダニエル「何が出てきたんだ・・?」
皆が砂に埋もれた何かをのぞこうとした。
加那江 「これは・・! 白いゲート!
まさかこんなところでお目にかかれるとは思わなかったわ!」
シャルル「まさか・・、怪物というのは獣のことだった?」
レオナルド「ん・・? 俺には何も見えんぞ・・?」
ジェシカ 「私もです・・」
マック「俺っちも・・・」
加那江 「え・・?」
どうやら白いゲートが見える人と見えない人がいたようだ。
見える人に手をあげてもらった結果、岳斗、加那江、シャルル、ダニエルの4人が見えるという結果となった。
シャルル「まじ・・? 見えない人は白いゲートがあるところを通過しても裏の世界に行けなかったよな。」
ジェシカ 「前回はアビリアがそうでした。 どうして・・?」
シャルル「まっ、どんな法則があるかは全くわからんが、とにかく、それぞれでできることをやろう。」
レオナルド「わかった。 表の世界は任せろ。」
岳斗 「こっちも任せてくれ! じゃあ、みんな行くぜ!」
4人は白いゲートに向かって、穴の上から飛び降りた。
ジェシカとレオナルド、マックはそれを見守ってからタウチー遺跡に向かった。 その3人を見ている人影3つ。
ヴィンオラフ 「見つけましたか・・・。我々の予想以上に素晴らしいお方たちですね。」
ジョー 「そうだろう? 私の最高傑作のモデルになり得る紳士たちだ。
さあ、2人とも行くが良いさ。 あの3人は私に任せたまえ。 アニー、表と裏の世界の境界を食べてくれ。」
アニー「ワカッタ。 オラ、クウ。」
そう言うとアニーは口を動かす。 何も知らない人から見たら口バクしているようにしか見えないが、彼女はなんと境界を食べてしまっている・・。
その胃袋が気になって仕方ない。
ヴィンオラフ 「じゃあ、獣を手に入れてから、また合流しましょう。」
ジョー 「もちろんさ。 諸君に幸在らんことを!」
ヴィンオラフとアニーは裏の世界へのゲートを潜って消えた。
ジョーは今夜起こるショーに心を躍らせながら、日没して、宝石のように輝くみなみじゅうじ座を見上げていた。
ジョー 「・・・やはり綺麗だ。 芸術というのはこうで在らねばな。
絶対的な芸術の才能のおありの神よ、貴方が創った世界は素晴らしい・・・」
裏の世界 岳斗 加那江 シャルル ダニエル
彼らは今、白い円筒の中のように見える世界の狭間を重力に導かれるように落ちている。
岳斗 「うわあああーー! なんじゃこりゃああ!!」
ダニエル「一体いつ着陸するんじゃあ!?」
シャルル「わからん! いざとなったら浮遊魔法でなんとかしてやる。」
突然円状に眩しく光って、岳斗たちを照らす。
それは次第に岳斗たちの体を包み始め、岳斗たちは一瞬意識を失った。
加那江 「っ! 眩しい・・」
目が覚めるとそこは何も変わらない砂漠の世界だった。 ただ一つ違うとしたら、太陽が真上にあることだ。
岳斗たちは体を起こして、今の状況を認識しようとした。
岳斗 「・・うぅ。 ぬっ! ここは・・どこだ?」
シャルル「さっきまでいたタウチー遺跡とはウリ二つだな。
これは前回も変わらない。」
ダニエル「しかし、太陽があるぞ。 一体どういうことじゃ?
ああ、音楽の中に太陽ファラエがあったな。 そういうことだったのか。」
シャルル「気のせいか王国の壁が新しいような・・・
とにかく色々調べてみるぜ。 ぬ?」
シャルルが自分の目を疑いながらも改めて目の前を見た。
なんと、今では見かけない奇抜な模様をつけている服などの服装を着ている人々が王国を歩いている。 談笑をしていたり、商売をするなど、賑わいを見せている。
ダニエル「こいつは・・・ 古代の服装だ。
どういうことじゃ?」
岳斗 「さあな・・・? わからねえ。」
加那江 「とにかく行って見ましょう。」
一行は王国とタウチー遺跡を歩き回って、調査を始めた。
オアシスの近くに行ったところで新しい違和感に気づいた。
加那江 「ん? オアシスから音が・・? ピチャンって。」
岳斗 「・・! 魚が泳いでいるっ! とっくの昔に死んでいるはずだぜ。
生き返ったのか・・?」
シャルル「・・・あり得ない話かもしれないが、タイムスリップしたのかもしれねえ。」
岳斗 「タイムスリップだと? SFじゃないんだから。」
シャルル「この冒険も十分SFだと思うけどな。 いや、王国の壁が新しく見えたんだ。
見てみろよ。 王宮も新しそうだろ。」
ダニエル「ほんとじゃ! 不思議な世界じゃな。裏の世界ってこういうことが起こるのか?」
加那江 「いいえ・・。いつもはタイムスリップはなかったわ。
どういうことかしら?」
岳斗 「そんなの俺が知るわけないだろ。 そうだ、倒した後に獣にでも聞いてみるか。」
ダニエル「聞く?」
岳斗 「ああ、ダニエルは見たことなかったっけ。 でかい獣を倒すと獣の中に吸い込まれるんた。 普通の人が吸い込まれると獣に取り込まれて、次の獣になってしまうが、俺が吸い込まれると獣の中にある世界に辿り着けるわけだ。
そして、獣の核になっている魂を生前の姿に具現化している、なんつーか、神みたいな奴に一騎打ちで勝って、胸に手をかざすとその獣が仲間になる。」
シャルル「確か、レオナルドもそうだったな。」
ダニエル「ほへー。」
岳斗がダニエルに獣を説明している時、遊牧民族の住まいによく利用されているゲルから数人が出てきた。
亡国の民 「ワットラーメ ファエエバ?
トラリャエ オイラ!」
岳斗 「なんだ? おいおい、古代言語か!
くそ、ジェスチャーでなんとかするしかねえな。 多分、こいつら魚を指差して怒鳴っているから、俺らに魚取るなって警告してるかも。」
加那江 「なるほどね。 これ以上悪化しないうちに離れましょうか。」
岳斗は両手を2人の前で広げて、謝罪と了解の中間の意味であるジェスチャーを出した。 幸運なことに彼らは怒鳴るのをやめてくれたようだ。
岳斗たちは彼らの逆鱗に触れないようにその場を離れるのだった。 去っていく彼らをじっと見つめる一匹の亀・・・
岳斗 「やれやれ、裏の世界に入ったのはいいもの、どうすりゃいいんだ・・・」
シャルル「思い出してみよう。 俺らの目的は獣の回収だ。そして、獣の実体は裏の世界にいる。
一体目が朱雀となると、玄武、白虎、青龍のどれかだ。」
加那江 「それかただの思い過ごしの可能性があるわ。
・・・でも、一方でかなり大きい都市を5つも青い霧で眠らせて、そして、星をも眠らせることができるほどの力を持つのって、それこそ獣しかいないとも思えるかもしれないわね。」
シャルル「それにしても消えたと思っていたリオベール王国の人たちはここにいたのか。
どうしてこいつらだけ裏の世界に行けたんだ?」
岳斗 「わからねえ。 しかし、なんだか奇妙だな。 そもそもこいつらはほんとに生きているのか?」
加那江 「どういうこと?」
岳斗 「だって、よく考えてみろよ。 こいつらが消えたのって、206年前だろ。 どうしてこいつらは今もいるんだ?
それにこの世界は命を憎む魔物がウロウロいるはずだろ。」
加那江 「ええ。 そして、あたしたちが今まで入ったゲートは例外なく魔物があちこちいて、私たちを襲ってきたわ。
もしかして! 岳斗、貴方はこの人たちが魔物だと言いたいわけ?」
岳斗 「ああ、そうだ。」
ダニエル「確かにお前たちから聞いた裏の世界の殺戮さとは違って、まるっきり平和じゃな。」
シャルル「ふむ。 じゃあ、確かめてみるか・・・
お前ら、一応戦闘準備しとけよ。 全ての宇宙を産み落としマザーよ、我を命の炎となる標へと導け!」
シャルルが生命感知魔法を発動させた。 しかし、なぜか古代の人々には反応せず、唯一、オアシスの真ん中の岩にのっている亀だけ反応した!
シャルル「・・・!? なんであっちの亀にだけ反応するんだ?」
加那江 「何ですって? 亀だけ!?」
ダニエル「バカな。 じゃあ、この人たちは・・・」
驚いた一行の後ろから刀や弓などの殺気を形にした道具を持った民たちが襲いかかる・・・
と、刹那の一撃が彼らを葬り去った。 岳斗だ。
岳斗 「てめえら。 油断するんじゃねえ。 こいつら殺気がプンプンしてたぜ。」
加那江 「あ、ありがとう。」
どこからか出てきた民たちが岳斗たちを亡き者にしようと武器を構えて、囲った。
岳斗 「チッ。 やっぱりこいつら、猫どころか白い布をかぶっていたようだな。
最初から胡散臭えと思ってた。」
ダニエル「とにかくまずはこいつら全員倒すぞ」
亡国の民 「エルフャリ、ジュトラーバ レテナ!」
亡国の民 「ラファァァァ!!」
命を持たざる民たちが殺意を持って、一斉に襲いかかる。
ダニエル「ぬうう! そう簡単に殺れると思うな!
テラキュダス・ラサシェ!(魔力を込めたハンマーを地面に叩きつけて、天を貫く土槍をいくつも出す。)」
亡国の民 「ボオオオオ!!」
ダニエルの天槍に貫かれ、血を地面に撒き散らす死者たち。 しかし、驚くことに体に大きな穴が空いたり、手足がもげたりしても襲うことをやめなかった。
シャルル「くそ。 こんなんじゃ止まらねえのか!
なら、木っ端微塵にしてやる! 紅蓮の輪廻よ、常世の幻影を天炎塔へ誘え!」
敵どもは火の輪に縛られ、悲鳴を上げながら、燃えざかる塔となったが、骨になっても動く。
岳斗 「てめえら! とっとと成仏しやがれ!
疾葬昇虎剣!」
岳斗の激しいスライディングで、砂が勢いよく跳ね上がり、目潰しになった。
そして、虚をつかれた奴らの首を逆さ立ちで回し斬り、人形の糸が切れたように次々と倒れた。
岳斗 「首だ! こいつら首を切れば動かないぜ!」
加那江 「わかった! クリティカルハーツ!」
シャルル「よっしゃ! 対処法がわかれば、こっちのもんだ!
虚無の世界に住まし宝石よ、未練斬りのロンドを奏でよ! (砂の刃付きの円)」
加那江とシャルルも首切りに加わり、死者たちを全滅させた。 砂は血の海になっている。
岳斗 「よし、これで全部か。」
ダニエル「そういえば、あの亀だけ生きてるんじゃったな?」
シャルル「ああ、そうだ。 調べてみるか。」
オアシスに近づき、岳斗が亀を手に抱える。
岳斗 「んー? 見た感じ、変哲のない亀だな。 強いていえば、ちょっと甲羅が丸いな。」
シャルル「おい、気をつけろよ。 何があるかわからんのがこの世界だからな。」
亀 「クァー」
その時、亀が鳴き声のような音(呼吸音)を出すと岳斗は突然眠りに襲われた。
そして、亀を抱えたまま後ろに倒れた。
加那江 「・・! 岳斗!大丈夫!?」
岳斗 「んがー。 くかあ〜。」
シャルル「どうやら眠ってしまったようだ。 今、目を覚ましてやる。
明けない夜を彷徨う霊よ、幻海を喰らえ!(眠り解除魔法 半透明のバクがどこからかふわふわ漂ってきて、夢を食べることで、対象者を現実世界に戻す。)」
眠り解除魔法をかけたが、岳斗は一向に目を覚さないで、腹立つくらい無垢の表情で眠りこけている。
シャルル「嘘だろ〜。(肉球で岳斗の額をべしべし叩いている)」
ダニエル「悪いな。わしも眠くなってきたぞ・・・。」
加那江 「あ、私も・・・。」
シャルル「おい、れめら・・(眠りで舌が回らなくなる)」
眠りに襲われ、岳斗にのしかかるように眠ってしまった3人 あとは寝息が砂漠に響くのみ。
表の世界 観光客は火葬場や王国に多く集まっており、夜に危険な遺跡には、人1人いなかった。
砂漠の夜は昼と違い、一気に寒くなるのだ。 それに乾燥しているので、星がよく見えて、宝石箱の中にいるような錯覚に襲われる。
3人は怪物が出てくるであろうタウチー遺跡の入り口まで来た。
レオナルド 「ここならちょっと騒いでも大丈夫だ。
さて、準備はいいか?」
ジェシカ 「はい。」
マック 「こっちも大丈夫っす。
気合満々!!」
そう言って、ジェシカは薙刀を手にとり、戦士モードに移行した。
ジェシカ 「罪なき者を襲う不届きものども、この薙刀で成敗してくれるわ!」
2人がタウチー遺跡の中に入ろうとしたところ、遺跡の門から骸骨たちが剣や盾を持って襲いかかる。
ジェシカ 「・・! これはかつての兵士たちだ! こんなになってまで戦うのかっ!?」
守る国を失った哀れな兵 「エアウェス ラドルバ!
ムルガ、ムルガ!!」
レオナルド 「ジェシカ! 奴ら、くるぞ。
かつて国を守って散った兵士に敬意を表すが、今となっては現世にいてはいけない骸だ。 戦士として、奴らを倒すぞ!」
ジェシカ 「・・ああ! 承知!」
覚悟を決めた3人は死者たちを観光客から食い止めることにした。
レオナルド 「一気に行くぞ!」
マック 「ハイっ! ペガジュ・エコボータ!!」
マックが背中のバックから灰色の弾倉を取り出して、セットした間も無く、死者目掛けて撃った。 銃口から白いねばねば固体が飛び出して、死者たちを地面に釘付けにした。
その隙にレオナルドが火矢を撃ち、8つの大蛇が死者たちを煉獄に落として、焼き尽くす。
骸どもは断末魔をあげて瞬時に灰になった。
レオナルド 「よし、狙いやすくなった。
オキョーセ・ベゲス!」
守る国を失った哀れな兵 「ぎゃああああああああーーー!!」
ジェシカ 「私が楽にしてやろう! 」
ジェシカの乱れ斬りからの空中追撃で悲鳴と共に骨が飛び散った。
まだ地面についてないジェシカに残りの奴らが飛びかかる。
レオナルド 「まだ足掻くか! ラージス・フディラ!」
火矢が空に打ち上げられ、砂漠の夜に一輪の花火が咲いたかと思うと隕石のように降りかかる。
そして、骨の体を溶かしていった。
守る国を失った哀れな兵 「くあああ!!! ハドヴァ・・・」
マック 「ふう・・・ なんとかなった。」
ジェシカ 「助かった。 礼を言うぞ。」
レオナルド 「何、当たり前のことだ。 しかし、随分呆気ないな。」
ジェシカ 「苦戦するよりはマシだろう。」
平和が保たれたことに安堵したのも束の間、地面から這い上がるような音が聞こえる
ジェシカ 「・・なんだ? 敵か!」
2人の中で緊張感が蘇ったその時、砂から人が入れそうなほどの白い箱が次々と出てきた。
ジェシカ 「・・? 箱だと?
箱が這い上がったとでも言うのか・・・」
マック 「あの中に魔物が入っているんすかね?」
レオナルド 「ううむ。 気をつけろ。
どんな敵かわからない。」
白い箱が一斉に錆びついた音を出して、開いた。 そして、蓋が鈍い音を出して倒れ、中身が箱から出た。
なんと、驚くことに黄ばんだ包帯に覆われた人々が浮いている・・・。 いや、包帯の間から蜘蛛の足が8本出ている。
レオナルド 「なんと・・。 呪われているっ!」
マック 「うわあっ!! まじやばいっすよ!?」
ジェシカ 「なんの! 成敗してくれようぞ!!」
奴らは包帯でくぐもった声を出しながら、足をカサカサ言わせて襲いかかる。
蜘蛛怪物 「ハアボー・・。
ラリフェル! バラッタァァァァァァーーー!!」
レオナルド 「これは並大抵の攻撃では倒れないと戦士の勘が言っているっ!
クィンライ・イグトゥス!(五芒烈火風 矢を5つ一斉に射って、星を形作った焔龍が旋回して、竜巻となりて、敵を焼き祓う)」
星焔を前に死界からの招待客は言葉を失うほど、大きく焼き飛ばされ、灰も残さなかった。
しかし、それでもまだかなりいた。
ジェシカ 「これで終わると思うな! 貴様らの罪を吹き飛ばしてくれよう!
科戸風刃っ!(しなとふうは 薙刀に邪悪退散の気を宿して、悪霊を容赦なく斬り飛ばす 物理攻撃が効かないゴーストにも効く)」
蜘蛛怪物 「ボオオオオっーー!!」
悪霊どもはジェシカの神気に怨念を消し飛ばされ、器は粒子一片に至るまで消滅した。
残る奴らもジェシカを恐れ、慌てたように細長い足を醜く動かして、地面に潜り込む。
マック 「嘘!? お二人とも強いっすね!!」
レオナルド 「ジェシカ、なかなかやるじゃないか! ニノボン星での修行が役立ったな。」
ジェシカ 「ああ。 それに、私たちはまだ死ぬわけには行かんのだ。
クリスのためにも、世界のためにも・・!」
ジョー 「美しい・・!
その気高さ、気に入ってるぞ!」
マック 「誰っすか!?」
レオナルド 「! その声は・・・!?」
3人が信じられないという思いで振り返るとそこにはみなみじゅうじ座の反射光で服についている宝石が一層輝くジョーだった!
マック 「あんた、とんでもない服装っす!? 」
レオナルド 「・・な! バカな!貴様はあの時消滅したはずではなかったか?」
ジョー 「ふっ。 ボスが蘇らせてくれたのさ・・・。」
マック 「えっ?? どういうことっすか? 消滅?? 蘇る???」
レオナルド 「まあ、あとで説明しよう。 今はあいつを倒すことに集中するぞ。」
マック 「うっす!」
ジョー 「ああ、なんて幸運だろう。 最高傑作のモデルとアーティストがこうして、また合間見えるとはね!
しかも、今夜はまるでこの世界を祝福してくれるような星だらけだ・・・。 素晴らしいだろう、そう思わんかね?」
ジェシカ 「ああ、これで貴様が倒されてくれば、これ以上にない夜となるだろう!
かかってこい!」
ジョー 「おお・・・。 美しいっ! なら、始めよう。 星と砂が奏でる幻想交響曲を聴こうじゃあないか・・。
さあ、この私を楽しませてくれたまえ!」
レオナルド 「全ての力を賭けて、奴を倒すぞ!」
マック 「はいっ! 親父の名にかけて倒すっす!!」
ジェシカ 「もちろんだ! 抜かりはないっ!」
裏の世界 どこまでも青く見える世界で岳斗たちは倒れていた。
岳斗の目がかすかに動いて、やがてはっきり開かれた。
異変に気づいて、周りを見渡す。
岳斗 「・・? ここはどこだ?
確か・・亀を見てたら急に眠くなって・・。 はっ、加那江たちは!?」
幸い加那江たちは近くにいたので、1人ずつ揺り起こした。
ダニエル「んなああー。 あ・・? ここはどこじゃ?」
加那江 「わからないわ。 亀に連れて行かれたのかしら?
帰るにも帰れそうにないし・・・。」
シャルル「とにかく亀を探すのが先決だな。」
「ようこそ! 夢と眠りの世界へ」
岳斗たちが亀を探し始めた時、どこからか高い声が聞こえた。
ダニエル「・・!? この声は・・!」
全員がその声の方向に振り向くとそこには水色のワンピースを着るフェネック獣人の少女が立っていた。
外見に釣り合っている雰囲気を感じさせる。
ダニエル「お前はっ! ニコル!」
加那江 「え!? なんですって?」
ニコル 「パパ! 私だよ。ニコルだよ!
嬉しかったわ、すぐにわかるなんて!」
ダニエル「おお!今度こそ本物のニコルだな。 本当に久しぶりじゃ!」
親子は走りあって、感動の再会のハグをした。
数秒後に離れたので、改めて、ニコルは話し始めた。
ニコル 「ここは夢と眠りの世界なのよ。 私たちはここでずっと眠って、夢を渡り歩いているわ。」
加那江 「私たち?」
ニコル 「そう。 他にもいっぱい眠りの世界に来た人たちはいるの。
ほら、見てみて。 白い点が見えない?」
岳斗たちが目を凝らしてみるとかすかに白い点がいくつか散らばって見えた。
岳斗 「んあ? あー。あれか?」
加那江 「ねえ。 あれはなんなの?」
ニコル 「眠りの街で眠らされた人たちがふわふわ漂っているのよ。 私がきた時にもいっぱいの人が来て、2回、いっぱいの人が入ってきたの。」
シャルル「あんた、ミベールか。」
ニコル 「うん。 とってもいい街よ。友達もいっぱいいて、冒険できるところもあってね、アレキサンダーともよく追いかけっこしてたわ。」
ダニエル「それはよかったな。
・・・なあ、ニコル。 誕生日、来られなくてごめん。」
ニコル 「いいの。 パパは私のために仕事を頑張ってくれたでしょ? ママから聞いたわ。
私の病気を治すためにいっぱいのお金が必要で、仕事に行ったことも。 それにママとアレキサンダーもいてくれたから寂しくなかったわ。」
岳斗 「アレキサンダー? ああ、もしかして・・?」
ニコル 「そうよ、アレキサンダーはね、白い垂れ耳の犬でね、私の頼りなお姉ちゃんなのよ。
ぎゅーっと抱きついても嫌な顔ひとつしないの。 ほんと、いい子よ。それにね、冒険家でもあるの。 あちこち行ってはお土産を持って帰ってくるの!」
岳斗 「そうか・・。 それは羨ましいなあ。(羨ましいあまり、よだれが垂れそうになるのをなんとか我慢している。)
どっかの猫にも見習って欲しいね。」
シャルル「うん・・・。 どっかのバカにも自分の体のデカさともふもふ中毒度を自覚して欲しいもんだね。
あ、ニコル。 アレキサンダーは?」
ニコルはこの質問に顔を僅かに曇らせながら俯いている。
シャルル「あ・・ ごめん。
話したくなかったなら話さなくてもいいんだが・・。」
ニコル 「・・・大丈夫だよ。 アレキサンダーはね、この世界のどこかを彷徨っている大きい亀さんの中にいるの。
私もここに入ってから会えてないの。」
ダニエル「な、そうなのか・・? もしかして、その亀には長い毛がしっぽになっているのか?」
ニコル 「うーん。 それはわからないわ。 でも、人から聞いた話だと犬の尻尾らしいの。」
加那江 「なるほど、玄武か・・。
ニコル。 私たちは5つの街を眠らせた獣を倒して、ここから脱出したいのだけど、亀はどこにいるのかしら?」
ニコル 「今日は見てないから、ここにはいないわ。 亀さんを見つけるおまじない教えてあげようか?」
ダニエル「助かるわい。 教えてくれ。」
ニコル 「あなたたちがいる世界のルールにとらわれないで。
ここは夢と眠りの世界。 私たちの夢が望むなら、なんでもありなの。 これがヒントよ。 」
岳斗 「わかったが、どうして教えてくれるんだ? この世界がなくなったらどうなるかわからないのに・・。」
ニコル 「そうね。きっと、私たちも無に帰るのね。 この世界は大好きよ。 いつまでも雲で跳ねて遊んたり、わたあめの雲を食べたり、ふわふわの羊雲で寝たりしたい。 でも・・、もう眠るのに飽きたの。 そろそろ私たちは本当に眠らなきゃ・・。
みんな、頑張ってね。」
ニコルはそう言い残すと泡に包まれて、跡形もなく消えていった。
ダニエル「あ・・・。 ニコル・・!」
岳斗 「行こう。ダニエル。
ニコルを死んだ者と言っていいかわからんが、あえていうぜ。 ちゃんとお別れしよう。 そして、前に進むんだ・・・。」
ダニエル「岳斗・・・。 わかった。
ニコルやこの世界の人たちのためにも、倒すぞ!」
岳斗 「・・ああ。 じゃあ、獣討伐ミッション開始だ!」
そう言った岳斗はどこか寂しげだった。 そんな気持ちを忘れようとして、無理しているような表情を作って、みんなを鼓舞した。
岳斗 「とはいっても、どうしたものか。
夢が望むならなんでもあり、ねぇ・・・。」
加那江 「・・もしかして。」
加那江が空中に階段を登るように足を置くと、不思議なことに地面の感触があった!
加那江 「・・! 階段があるわ。 いいえ、私が作った夢の階段ね。」
シャルル「あ……、こりゃ驚いたな。 ほんとになんでもありだ。
この分なら、なんでも作れるな。 たとえば、エスカレーターとか。」
岳斗 「おお! そりゃ、いいアイデアだ。」
岳斗たちは発想をそのまま現像したような雲のエスカレーターで一気に移動した。(まだ、機械的なところが残っているエスカレーターで、床がそのままである)
隣の雲に着くとそこには木のテーブルに置かれているウイスキーを飲んでいる兵士(ガゼル獣人)がいた。
酔っ払い兵士 「んあ・・・? なんだ、あんたら?」
ダニエル「ちょいと亀がどこにいるかを尋ねていて・・・
・・・ん?? あんた・・・?」
加那江 「どうしたの?」
ダニエルが顔を覗き込んで、じっと観察すると突然ハッとした。
ダニエル「まさか・・・!? ヴォーベル!?
わしじゃよ!! ダニエルじゃ!!」
酔っ払い兵士 「あ〜? ダニエル・・・?」
兵士はダニエルの片肩を思い切り掴んで言った。
ヴォーベル 「そいつあ、俺の親友だ・・・
あれ・・・? お前、ダニエルじゃんよ!!」
ダニエル「そうじゃよ! わしじゃ!! いやー、まさかな・・・
こんなとこで再会するとは思ってなかったのう。」
ヴォーベル 「俺もだよ。 ワハハハ!! 酒でも飲んでいけよ。」
ダニエル「じゃあ、一杯だけじゃ。」
ヴォーベル 「チェー、しみったれてんなあ。」
ダニエル「まあ、用事があってな。」
2人が突然の親交を暖めていたのを3人は見ていた。
加那江 「この2人親友だったの・・・??」
岳斗 「そうか、このおっさんがマックの親父だったのか。」
シャルル「知っているのか?」
岳斗 「数日前にマックから聞いたんだ。」
岳斗の一言にヴォーベルが反応して、岳斗の方を見た。
ヴォーベル 「マックだと・・・?
俺の息子を知っているのか?」
岳斗 「ああ。 マックはダニエルの弟子になって色々頑張ってるぜ。」
ダニエル「わしが厳しく鍛えたからな。 当然じゃよ、ワハハハハ!!」
ヴォーベル 「へえ・・・
そうかい、よかった・・・ 俺はあいつの成長を見届けあげられなかったからな・・・」
ヴォーベルは涙を流し、腕で拭いている。
一行はしばらく見守った。 ヴォーベルが泣き止んでから質問が始まった。
岳斗 「亀がどこにいるかはわからないのか?」
ヴォーベル 「いやー、知らないなあ。 あれは結構目立つんだよ。
なんたって、こーーんなにでっかいんだぜ。(そう言って、両腕を精一杯広げる)」
ダニエル「そうか、ありがとう。」
ヴォーベル 「いや、どういたしまして。 ところで酒飲まんか? 美味いぞー。
ここじゃ、飲み放題だよ。 いくら飲んでも無くならないよお!」
加那江 「うまそうだけど急いでいるの。 ごめんねー。」
酔っ払い兵士 「気にするなよー。」
遥か彼方に去った一行を見て、ヴォーベルはつぶやいた。
ヴォーベル 「マック・・・
いい師匠と友を持って幸せだな・・・ 頑張れよ・・・!!」
その後も、飛行機雲、車などを使って、人々に話を聞いたが、亀に関する情報は聞けなかった。
シャルル「やれやれ、まさかここまで空振りするとはなあ・・・。
一体どこにいるんだ?」
加那江 「でかいと聞いたからすぐ見つけられるだろうと思っていたけどねー。
うーん。 何か発想の転換が必要かな。」
岳斗 「私たちの夢が望むならなんでもあり・・・
なんでも・・か。 もしかして、そうだ! ここは玄武の夢の中かも知れねえ!」
シャルル「なんだと! ありえん・・ことはなかったな。この世界では。」
加那江 「夢なら一回、目覚める必要はありそうね。 」
岳斗 「なら、めざまし時計かな。 ・・待てよ。 ダニエル、アレキサンダーが好きなものってなんだ?」
ダニエル「そうじゃな・・、あっ! あいつ、冒険家だから、よくトカゲのキラキラした鱗、どっかに落ちていた手首リングの宝石とかを持って帰ってたな。」
加那江 「なろほどね。 じゃあ、お宝を出しましょうか。」
加那江はそういうと海賊の宝のイメージを思い浮かべた。 すると雲のような煙が現れ、中から宝が現れた。
加那江 「わっ! ほんとに出た! じゃあ、夢の世界に穴を開けて、宝を投げ入れるわ。」
岳斗 「よし、やってくれ。」
加那江 「むむむむーーん!!!」
加那江が超能力マジシャンのように意識で外の世界への穴を開けようとしたが、ちっとも穴ができない。
加那江 「あれ・・? おかしいわね。穴ができない。
なんでもありじゃなかったの?」
シャルル「ひょっとして、夢と眠りの世界ではない?」
ダニエル「あ! わしら、亀に眠らされたんじゃな。 で、ここが亀の夢だから・・外の世界だ!」
岳斗 「そうか、世界のルールが違う・・。 だから通用しないってことが分かっただけでもマシだな。 じゃあ・・・。
って、どーしたらええんだ!?」
岳斗たちが打開策を得られず、悩んでいるとどこからか一定のリズムを刻む足音が聞こえてきた。
振り返ったダニエルは目を見開いて、喜びの顔で激しく驚いた。
ダニエル「・・・? ああっ!」
マリア 「ダニエルさん! 久しぶり!」
ダニエル「マリア! おお・・・、今日はなんて幸せな日じゃ!」
ダニエルはマリアにハグしたが、なにしろダニエルが1mくらい、マリアが1.6mだったから、マリアの腹に抱きつく格好になった。
2度目の感動の再会が終わり、マリアはみんなの前に立っている。
マリア 「それで、どうしたの? みんな困っているみたいだけど。」
岳斗 「実は、亀を探していて、ニコルからこの世界のどっかにいるって言われたんだ。」
マリア 「まあ! ニコルにも会ったの!」
ダニエル「うん。 ニコルは相変わらず元気だったよ。」
マリア 「そうなの! それはよかったわ。」
加那江 「? マリアさんって多分ニコルのお母さんよね? 会っていないの?」
マリア 「ああ・・。 この世界ではお腹も空かないし、ケガとかもしない、つまり永遠に死ぬことがないの。
それにニコルはご覧の通り、わんぱくでしょう? だから、楽しくなりすぎて、数日くらい戻ってこないことも結構あるのよね。」
シャルル「ふーん。 そうなのか。
ところで、亀のところに行く方法ってあるのか?」
マリア 「ああ、そうだった。 すっかり忘れてたわ。
亀は夢のさらに奥にいると思う。」
岳斗 「奥・・?」
マリア 「ええ、多分。
というのも、みんな、集合的無意識って知ってる?」
シャルル「ああ。 確か、人は個人の意識が全てだと思っているが、実際には無意識に体が動くなどの現象があって、その無意識は二つあると聞いたぜ。」
岳斗 「ん・・。 心理学の先生とのカウンセリングの時にチラッと聞いたが、無意識というものはカール・ユスタフ・ヤングが提唱した発想で、夢が生まれる原因とも考えられるんだそうだ。」
マリア 「ええ、そうよ。 そして、個人的無意識と集合的無意識の二つがあるの。」
加那江 「集合的無意識、個人じゃなく集団で共有している無意識ね。」
シャルル「外がダメだったら、中か。
この場合、この世界の人たちが見ている夢・・・」
マリア 「これでスッキリした?」
ダニエル「うん。ありがとう。 なあ・・ マリア、すまんが・・」
マリア 「謝らないで。」
加那江 「マリアさん・・・」
マリアはダニエルの口を指で挟んだ。 彼女はどこか真理を悟ったような清々しい顔をしている。
マリア 「この世界を創った玄武を倒すのでしょう?
ダニエルさん。 私たちのことは気にしないで。」
マリア 「もしかしたらニコルも言ったかもしれないけど、私たちは長く眠りすぎた・・。
心良い感覚に身を託すのも悪くないけど、この世界にも飽きてしまったわ。 そっちの世界じゃ、今夜はちょうどみなみじゅうじ座が真上で輝いているよね。」
岳斗 「輪廻転生か。」
マリア 「そう。 この世界を終わらせて・・。 そして、またどこかで会いましょう・・。」
そう言い残すとマリアは同じく泡に包まれ、消えていった。
ダニエルは膝をついて、しばらく呆然としていた。 加那江が彼の肩に手を置いた。
ダニエル「マリア・・」
加那江
ダニエル「加那江・・。 うん、わしは大丈夫じゃ。」
ダニエルはゆっくり立ち上がり、岳斗たちに宣言するように言った。
ダニエル「みんな、2人のために終わらせよう! この世界を!」
岳斗 「ああ! やってやるぜ。」
シャルル「よっしゃ! じゃあ、てめえら、準備はいいか!?」
みんな 「おう!!」
シャルルは目を閉じて、呪文を唱えようとする。
シャルル「夢喰いの妖精よ、我らを世界の根源へと誘え!」
シャルルが唱え終わった瞬間、全員の体が光に包まれ、この世界から消えた。
表の世界 ジェシカ&レオナルド、マックVSジョー
2人はジョーの右手から蠢く幾つものの薔薇の毒茎をなんとか必死に避けながら、反撃の機会を伺うが、隙が見つけられない。
マック 「ありゃ、人じゃない!?」
ジェシカ 「く・・! しつこい!」
レオナルド 「なんて速さだ! 避けるのだけでも一杯一杯だ。」
ジョー 「ふふふ・・・。 どこまで持ってられるかね?
さあ、ここで、もう一つの芸術道具を出そうか・・。」
ジョーはポケットから宝石をいくつか取り出し、右手に置くと宝石が右手の中に沈んていった・・。
マック 「はあ・・・
もういちいち驚くのはやめて、集中するっす。 命がいくつあっても足らんっすよ・・・。」
レオナルド 「それがいい。 奴は強敵だ。」
ジョー 「さあ、もっと盛り上げていこうじゃないか! 諸君!
ルビーオブレイン!(紅いルビーを薔薇からシャワーのように降らす 血の雨のように見える)」
ジェシカ 「笑止! うおおおおおーーっ!! 円雷飛龍斬!(薙刀を回して、十分に遠心力を蓄えてから、渾身の脱力で神速の竜巻を起こして、飛んで来るものを吹き飛ばす あまりの速さに雷が生まれる)」
ジェシカの一撃で宝石の雨が全て吹き飛ばされた。
ジョー 「ふむ、なかなかやるじゃあないか。 」
ジェシカ 「無駄だ! 貴様には触れなければどうということはない!」
ジョー 「美しいなあ・・・。 そのどこまでも気高い眼。
ますます早く私の最高傑作が見たくなったぞ!!」
レオナルド 「貴様には見れまい!!! オキョーセ・ベゲス!」
レオナルドが蛇の火頭を8つ放って、あっという間にジョーの茎を焼きちぎった。
そして、火にまみれた大蛇本体がジョーを焼き呑もうとしたが、ジョーが宝石を投げて、蛇を宝石にしてしまった。
レオナルド 「貴様の茎と薔薇が尽きるまで持久戦と行こうぜ。 こっちは3人いるからな。」
ジョー 「同感だよ。 この美しい夜はのんびり楽しみたいからね。」
レオナルド 「言ってくれるじゃないか・・・。 その余裕がどこまで持つか見ものだな。」
ジョーは一瞬微笑むと手に持った宝石を握りつぶした。
ジェシカ 「ぬっ! 何を企んでる・・? しかし、無駄だ! 吹き飛ばしてくれよう!」
宝石の粉を放り投げ、同時に宝石シャワーも振り注いた。
ジェシカ 「円雷飛龍斬!」
ジェシカがまた吹き飛ばそうとしたが、なんと、空気中に細かい宝石が現れ始め! それにシャワーも吹き飛ばされない。
ジェシカ 「な!?」
ジョー 「同じ技に2度引っかかると思うのはよろしくないな。 空気は全て宝石にした、つまり、真空状態だ。 押し飛ばす材料を無くしたのさ。
さあ、諦めたまえ。」
マック 「何言ってるんすか!? 弾丸は真空でも飛ぶっす!
フルスロットルバースト!!」
マックがジョーに弾丸を目一杯放ったが、空気中の宝石と反応して、大きくなった弾は失速して、ジョーの前に落ちた。
一方、2人は諦めず、宝石の間を縫うように避けた。
マック 「宝石になった!?」
ジョー 「ふっ。 無駄だよ、ボーイ。
全ては宝石になるのさ。」
レオナルド 「イジニ・ヴァクス!」
レオナルドが炎に燃える矢をジョーめがけて放った。
もちろん、矢の火が宝石に接触し、宝石となってしまった。
ジョー 「無駄というのがわからないかね?」
レオナルド 「それはどうかな?」(ニヤッ)
突然宝石が音を立て、割れた。 そして、中から火矢が飛び出した!
ジョー 「なっ!!」
ジョーは体をそらして、間一髪避けた。
ジョー 「バカな・・・!?」
マック 「惜しい!!」
レオナルド 「さっきの貴様の技がヒントになった。 矢と宝石との間を真空状態にすれば、宝石にはできないってな!
流石に真空は宝石にできないか。 なにしろ『無』だからな。 弱点見破ったり!」
ジェシカ 「レオナルドの言う通りだ。 それに触れられないのなら利用すればいいっ!
輪暴紅風舞!」
ジェシカの目にも止まらない捌きで猛風の輪を飛ばした。 宝石に触れ、その度に、さらに殺傷能力を高めながらジョーに飛んでいく。
ジョーは飛び跳ねて、避けながら、笑いを堪えきれない。
ジョー 「ふ・・。 こんなに心踊る戦いは数日振りだな。
やはり、諸君は素晴らしい!! 楽しくなってきたぞ!! ・・・ところで足元にも気をつけたまえ。 」
レオナルド 「何?」
地鳴きが聞こえ、数多の茎が勢いよく吹き出された。
ジェシカ 「まずいっ!」
マック 「取れないっすよ!?
やばい!」
茎に足を絡め取られ、上から3人が見えなくなるほどの宝石シャワーが降り注いて、ジエンド・・
とはならないのだ。 レオナルドとジェシカ、マックを炎が包み、茎を焼き尽くした。 そして、宝石は無の空間に阻まれ、地面に落ちた。
レオナルド 「無駄だ。 さっきもやったが、貴様をまねて、空気を燃やしたぞ。宝石になったのは外側の炎だ。」
ジョー 「はあ・・。 やれやれだねえ。
一進一退ってとこだ。(肩をすくめて、首を振る)」
ジェシカ 「いいかげん降参せんか!!」
ジョー 「ぬおおっ!?」
加護の炎を包んだジェシカが電光石火の速さでジョーをみなみじゅうじ座に磔刑にして、十字に切り裂いた!
しかし、なんと! 切り裂かれたジョーは宝石だった!
ジェシカ 「誠か!? 奴はどこだ?
ぬ・・、なんだか息苦しく・・?」
レオナルド 「俺もだ。 空気がなくなったのか・・くそ!
ジョー。 貴様、何・・・した!? まさか・・!?」
混乱した3人の後ろから一際大きく目立つ薔薇が生えて、花の中からジョーが出てきた。
ジョー 「諸君のお察しの通り、空気を全て宝石にして、君らの周りを真空にさせてもらったよ。
冥土の土産に見せようじゃあないか。 私の体はね、液化宝石でできているのだよ! 諸君。」
ジョーはそう言うと服ごと自分の胸を両手で引き裂いて、心臓を見せた。
驚くことに、心臓が眩しいほどに輝いており、心臓を何本もの薔薇茎が突き刺さっている。それだけではなく、茎がまるでポンプのように液体宝石を循環している!!
ジョーが両手を離すと胸をたちまち液体宝石が覆い、元通りとなってしまった。 ジョーが服を整えながら言った。
マック 「はあ・・・はあ・・・
いくらな・・んでも・・化け物にも程が・・・あるっす・・よ・・・!!」
ジョー 「さあ、チェックメイトだ。 芸術の一部となることを楽しみにするが良いさ。 ふふふ・・。」
レオナルドは火矢を放そうとしたが、酸素がないので火がつかない・・・。
3人とも酸素不足で動けなくなり、倒れ伏す。
レオナルド 「クソッタレ・・・。」
ジェシカ 「こんなところで終われるか・・・」
裏の世界 真っ暗な空だが、数多の星が輝いているロマンチックな場所
目が覚めると岳斗たちはこのただ広い世界の中にポツンと浮いていた。
一行はまるで宇宙に来たかのような絶景に心を奪われたが、ふと、亀のことを思い出した。
岳斗 「亀は・・?」
シャルル「どこなんだ・・?」
岳斗たちが見回すとふと純粋な宝石に見える一滴の丸い水が浮かんできた。
加那江 「この水は何・・? あっ!!
みんな! 亀がいるわ。」
ダニエル「あっ、ほんとじゃ!」
足下に岳斗達を遥かに覆い尽くすほどの大きさである亀が優雅に泳いでいた。 さっきの液体は彼女の涙だった。
岳斗 「亀さんよ、聞いてくれ。
泳いでいるところ悪いが、俺たちはあんたを倒さなくちゃいけねえ。 眠りの街を開放するためにな。」
亀 「クァー?」
岳斗 「いくぞ! 心の準備できたか?」
亀 「・・ククァァァ!!」
事情は飲み込めたが、自分の世界を壊されてたまるかという叫び声をあげて亀が向かってくる。
犬と似ている尻尾の毛を逆立て、泡を大量に岳斗達目掛けて吐き出した。
加那江 「させないわ! ガトリングスコール!」
シャルル「俺も加勢するぜ! 燃えたぎる豪炎よ、万物を無に返せ!」
炎と鉄が亀へ降り掛かろうとしたが、なんと、泡に炎と弾が包まれて、中身ごと弾けてしまった!
ダニエル「ムウ・・。 泡には触れない方が良さそうじゃ。 岳斗、気をつけろ!」
岳斗 「あたりめえさ! いくぜ、翔宙流星斬!」
岳斗は発想力を使って、周りに蜘蛛のトランポリンを作った。 そして、泡に触れないように気をつけながら、素早く亀を縦横無尽に斬りまくった。
しかし、不思議なことに、この亀は甲羅だけでなく腹も硬かったので、効果はなかった。
岳斗 「くそお! 斬れねえ。」
シャルル「外がダメだったら中だ! 時の軌跡を刻みし振り子よ、永遠の静寂へと堕ちよ!(心臓を停止させる即死魔法)」
しかし、亀はシャルルの仕掛けた魔法がかかってないらしく、優雅に泳ぎながら、岳斗たちを見据えるのみだった。
シャルル「こいつ! 心臓がないのか!?」
ダニエル「夢だから心臓が無くとも、どうもないと言うことか。
よし。 ならば、一回試してみたい爆弾があったんじゃ。 出でよ!マリゲータ!」
ダニエルはそう言って、亀にてんとう虫型爆弾を投げた。
ダニエル「ほれ! ご飯じゃ!」
続いて、亀が口を開けた瞬間に餌を口の中に投げ入れた。 とは言っても亀に餌付けしたわけではない。
てんとう虫が亀の口の中に続々と入り込んでいる。
岳斗 「へえ・・。」
ダニエル「よくみとけよ! わしの芸術を見せたるぞい!」
てんとう虫が丸っこい外形に似合わず、足を素早く動かし、口の中に入っていった。
しばらくして、それは亀の顎を爆裂させた! 全壊とはいかなかったが、ダメージと共に口を開けることに成功した。
シャルル「よっしゃ! 今だ!
ぶちこめえーー!! その身を神なる光に焼き尽くされてしまえ! 」
加那江 「行くわ! シャークトルネード!」
世界を貫く神の光とそれに巻きつく鉄蛇が亀の口にぶち込まれ、亀は悲鳴を上げた。
岳斗 「みんな。 じゃあ、行ってくるぜ!」
ダニエル「おう!」
加那江 「気をつけて!」
シャルル「お前なら大ジョ〜ブだろ。」
岳斗 「うおおおおおお!!! 堕鷲星震陣ッ!」
雲のトランポリンを発射台にして、漆黒の入り口に光をも超える速さで突き刺す。
断末魔が聞こえたと思ったら、口の奥からシャボン泡が岳斗をあっという間に包み込んで、マジックかのように泡ごと岳斗を消した。
獣も同じように黒い粒子を発して、消えようとしたが、消える直前に異物が飛び込んできた。
シャルル「・・!?」
アニー 「イッタダキマアーース!! 」
アニーが亀の甲羅に歯を立て、なんと、甲羅に穴を開けてしまった!!
そこから入り、まもなく亀は消失した。
加那江 「嘘!? 今のアニーよね? どうして・・?」
ヴィンオラフ 「蘇ったのですよ。 ボスの手によってね。」
ダニエル「お前は誰だ?」
そこには雲を地面にして扇子を仰いでいる着物姿のヴィンオラフがいた。
ヴィンオラフ 「これはこれは大変失礼しました。 わたくし、『憤怒』ヴィンオラフ・シャーガと申します。」(ニコッ)
ダニエル「憤怒? 雰囲気に似合わないな。」
ヴィンオラフ 「よく言われます。」
シャルル「これで、5人目か・・・」
加那江 「あなたがここにきたってことは獣の居場所を突き詰めたのね。」
ヴィンオラフ 「ええ、そうですよ。 我々は2度も遅れをとるつもりはありません。
あなたたちにはここで死んでもらいます。 そして、岳斗君もアニーに飲み込まれる運命・・・。」
シャルル「んなことさせっかよ!
たとえゼロが何度回復させようと何度も倒すだけだ!」
加那江 「そして、必ずゼロをこの世から抹殺してやるわ!」
ヴィンオラフ 「・・・祈っていますよ。 あなたたちがどこまで絶望に抗えるかをね。」
ダニエル「ふ・・。 絶望ならとっくに一度受けているぞ。
かかってきなさい!」
ヴィンオラフ 「ええ、受けて立ちますよ。 ふふふ・・・。」
そう言うとヴィンオラフは不気味な笑顔と共に体の筋肉を膨張させ、着物を破いた。 さらに額から細長い角が生え、爪や歯も鋭くなり、泣く子も失神死するほど恐ろしい鬼に変貌を遂げる・・・。
変身が終わったところで心臓を鷲掴みされるような叫び声をあげた。
ヴィンオラフ 「ヴオオオッーーー!! 貴様らぁ、全員殺してやる!」
シャルル「チッ・・。 やっぱりこう言うことか。
死力を尽くすぞ!」
ダニエル「おう!」
加那江 「もちろんよ!」
目覚めた岳斗 窒息するほどの量である泡にまみれている。
どこからか発生する大量の泡に揉まれながら、なすがままに流されていく岳斗
岳斗 「どわああー!! どこまでいくんだ!?」
永遠かのように感じたのも束の間、アトラクションの滑り台からプールに放り出されるように獣の中の世界に到着した。
しかし、その入り口は空中だったので、岳斗は落下の強圧に頬を凹ませながら落ちてゆく。
岳斗 「ぬあああ〜!! んががああ・・(息ができん・・。 今度はスカイダイビングかよ!?)
・・な!? 」
ふと、視界にどこまでも広がる地面が近くに見えて、心臓が縮み上がる思いになった。
岳斗 「ああーーッ! こりゃ、マジでやべえ! 死ぬ死ぬぅーー!!」
まもなく地面に激突・・・とはならなく、幸運なことに何か柔らかい球らしいものにぶつかった感覚を感じ取り、見事な体捌きで着地した。
岳斗 「ああ・・・。 危なかったあ。
ん、綺麗だな。 この玉。 それにマシュマロみたいに柔らかったし。 なんだろなあ?」
アレキサンダー 「それね、あたいのいちばんの宝物だよ。」
岳斗 「ぬ・・?」
声がする方向を振り向くとそこには地球でいうゴールデンレトリーバーの姿をした犬が立っていた。
ちなみに喋っているのは夢の世界だからである。 野暮なことは聞きなさんな。
アレキサンダー 「人たちの夢を渡り歩いているとき、向こうの陸が見えないでっかい水たまりがあるから、なんだろと思って見てたら流れてきたのがそれ。
あまりにも綺麗だから持って帰ってきちゃったんだな〜。」
岳斗 「そうか・・・。 ちなみにさ、その水って舐めて見たりは・・?」
アレキサンダー 「うん。 ただの水だったよ。」
岳斗 「(・・・別の星だから判断がむずいな。 その人が海を知らなかったか、塩がない海があるとか・・? そもそも、それって海・・? あれ、なんだかわからなくなってきたぜ。)
そうか。 ところで、玄武の魂はどこだ?」
アレキサンダー 「あたいがそれよ。 改めてようこそ、私の世界に。
私は四神の一つ、玄武。 像を得るにはあたいとの一騎打ちに勝ってもらうよ。」
岳斗 「へえ・・。 なあ。悪いが、あんたと戦うには可愛すぎる。
もうちょっと逞しい姿とかに変身出来ない? 」
アレキサンダー 「そお? なんか嬉しいな。
分かったよ。 夢の世界だから何にでもなれるわ。」
アレキサンダーは上に向かって、一回吠えると彼女の体が光に包まれた。 次第にその光は大きくなり、眩しくなくなる頃にはすでに神々しい姿になっていた。
額には紫色の菱形マーク、首周りには天女の羽衣、そして、身体中に歌舞伎風模様や赤い炎の模様が刻まれている。 尻尾を大きく揺らし、獲物に飛び掛かる姿勢になった。
岳斗 「うへへ。 なんか大きくなったらなったで、もふもふ感が増・・・」
アレキサンダー 「これで戦いがいがあるよね? じゃあいくよ!」
有無を言わさず、アレキサンダーが岳斗めがけて光のようにあっという間に飛び掛かる。
岳斗 「ぬお!! 疾潜土竜剣!」
回避から流れるように反撃したが、彼女は容易く飛び越えてしまった。
アレキサンダー 「空を漂うエクスカリバーよ、いけ!」
彼女がそういった数秒後、一点の光が見えたかと思うと光に包まれている伝説の剣が流星のように岳斗に降りかかる!
岳斗 「やべえ! 伝説の剣か・・剣といいやあ、抜いたものが勇者認定されんだったな。
よし! こいつでもくらえ! 爆飛風刃散!」
岳斗は自分の剣を地面に突き刺し、それごとエクスカリバーに向かって打った後、全力で走り逃げた。
合体し、岳斗がえくった地面と合体するように着地した。 アレキサンダーは剣を念力で抜こうとするが抜けない。
アレキサンダー 「なっ!? 何をしたの!?」
岳斗 「ふっふっふ。 剣に勇者しか抜けないという役割を追加したぜ。 ベタだが、夢の世界じゃ、なんでもありだろ?」
アレキサンダー 「ふうん。 知ってたのか・・。
じゃあ、知恵の比べあいと行こうか!」
そう言うと彼女は岳斗めがけてジャンプし、噛みつこうとした。
岳斗 「甘いぜ! 爆飛風刃散!」
神業の素早さで地面から掘った岩をアレキサンダーの口に向かって撃った。 今度はかまいたちで細かくして、銃のように撃つ本来の技だ。
そして、そこから避難するのを忘れなかった。
アレキサンダー 「そっちこそ、甘い!」
アニーのように口から岩を飲み込んで、そのまま潜ってしまった!
咀嚼音が聞こえるのは気のせいではあるまい。
岳斗 「な・・? 食えるのか?」
岳斗が地面の砂を食ってみるとなんと! 甘い!?
岳斗 「こいつはチョコレートだ!! って驚いてる場合じゃない・・
どこにいる?」
岳斗は感覚を集中させたが、咀嚼音に邪魔される。 聴覚を諦め、地面の振動による触覚に頼ることにした。
岳斗 「そこだっ!」
岳斗は地面から浮き出てくる衝撃を感じ、そこに剣をつき刺した。 しかし、感触がやけに硬い。
岳斗が戸惑っているとその正体が地面を掘って現れた。 ちっこい亀だ。
岳斗 「亀か!? 奴はどこだ?
あの大きさじゃ、見失うはずはない・・・」
岳斗が亀から地面に意識がかんぜんに移ったところで、亀の甲羅が炊飯器のように開き、そこからアレキサンダーが飛び出した!
岳斗 「なにぃーー!!」
アレキサンダー 「この世界じゃ、なんでも有りだぁーー!」
不意を突かれ、頭突きをもろに受けてしまった岳斗。 吹き飛ばされ、地面への激突からのスリップダメージでしばらく横たわっていた。
なんとか起き上がった岳斗はアレキサンダーを正面から見据える。
岳斗 「んだよ・・・。」
アレキサンダー 「降参する?」
岳斗 「まさか! それに、こっちにも考えがある。」
アレキサンダー 「何?」
岳斗がニヤリとして、指を鳴らすと突然チョコの表面が液体になって、体重の重いアレキサンダーは足を取られた。
その隙に岳斗は忍者のように液体の上を走り回りながら剣を振りかざして次々と波を作った。
岳斗 「ウラァ! ドラァッ!」
アレキサンダー 「それで目隠しのつもり? いくらなんでもお粗末すぎるっ!
これでもくらえ!」
彼女の前に赤い魔道陣が現れ、そこから大砲が顔をのぞかせ、岳斗が作った波に向かって発射した。
弾は爆弾になっていて、地面にぶつかるたびに強烈な爆発を引き起こして、一瞬のうちにチョコレートを蒸発させた。
アレキサンダー 「まだまだいくよっ!」
しばらくして、静かになったので、泡で足に埋まっているチョコを消滅させることにした。
アレキサンダー 「ふう・・。 やった?
でも、それにしても静かすぎる? 」
ふと、周りのチョコが固まっていて、ところどころ山や森のように見えなくもない。
さらに信じられないことに数多くのチョコの岩が空中に浮かんでいる。
アレキサンダー 「(あたいは固めてない・・・。 岳斗か? どこから来る!?)」
彼女が岳斗の襲撃に警戒していると、その通りで、岳斗が山の影から飛び出した。
岳斗 「そこだっ! 疾双狼牙剣っ!」
チョコで作られた狼が下から、岳斗が上から挟み撃ちするが、そこはさすが四神。 突然の奇襲にも驚かずに足で狼を踏み潰した。 さらにジャンプして、岳斗をあっさり飲み込んだ。
アレキサンダー 「ごくん・・。 あれ? これってチョコだ。」
岳斗 「かかったなあ!!! 全員突撃だっ!」
周りを見ると岳斗、いや、岳斗の分身たちが一斉に仕掛けた。
その数の多さに空が岳斗色に染まったほどだ。
岳斗 「いくらなんでもこれじゃ防ぎきれまい! 疾潜土竜剣!」
岳斗 「こっちは疾葬昇虎剣だあーーっ!」
岳斗 「遅れをとるなよおおおーー!! 飛天流星斬っ!」
アレキサンダー 「うるさーいっ! ちょっと黙ってな! 」
アレキサンダーは大きく飛んで、口からのビームで下の蠅どもを元の茶色液体に還した。
その時、下にある浮遊岩から小僧どもが発射した。
岳斗 「飛ぶのを待ってたぜ! 翔宙流星斬!」
アレキサンダー 「バカめ! 蹴散らしてやるよ!」
岳斗 「おっと、そいつは囮だ! 散舞乱蝶斬!」
アレキサンダー 「げっ!!」
空中に飛んでる時に上下からの挟み撃ちはたまったもんじゃない。 内心彼女は相当焦っていた。
彼女は体を光らせて、光の衝撃波を出した。
アレキサンダー 「まとめて消えやがれ!」
岳斗どもの悲鳴と共に酸性雨ならぬ茶色糖ゲリラが降った。
アレキサンダー 「あー・・・。 大変だったあ。
ふう〜。」
一息ついたアレキサンダーの足元で地面の下から泡が出始めた。 瞬間、そこからチョコまみれの岳斗が彼女めがけて特大ジャンプをぶち込んだ。
岳斗 「油断したな! 飛星裂突っ!(相手の隙が生まれるのを待ち、一瞬の隙を逃さずに連続した高速突きでとどめをさす。)」
アレキサンダー 「やばいっ!!」
岳斗の天を貫くような渾身の連続突きは見事にアレキサンダーの胸に刺さった。 彼女は空中に吹き飛ばされながらもなんとかよろよろ着地した。
アレキサンダー 「まさかこんな攻撃をしてくるとは思わなかった・・。 合格よ!」
岳斗 「やった・・。 」
戦いに勝利したが、意識を失い、チョコの湖に倒れ伏した岳斗。
アレキサンダー 「えっ? 大丈夫!? こりゃ、やばいわ。」
倒れた岳斗を救命するために陸まで口で軽く運んだ。
数分後、岳斗はチョコを吹き出しながら、目を覚ました。
岳斗 「ピーン、ピーン。(チョコを吐き出す音)
っ!! はあ、はあ・・・。」
アレキサンダー 「お名前は?」
岳斗 「イカ十貫です・・。」
アレキサンダー 「好きな人は?」
岳斗 「和田アキコです。」
アレキサンダー 「はい、良く頑張りましたね〜。」
岳斗 「どうも・・。 って、突っ込んでくれ!
ボケてるのが恥ずかしいだろ。 ん?」
体を起こした岳斗は目の前にいる人を二度見した。
岳斗 「マリア!? なんでここに・・?」
アレキサンダー 「あっ。 マリアの姿をしてるけど、あたしよ。 アレキサンダーだよ。
手足が長い方がやりやすかったから。」
岳斗 「そうなのか。」
アレキサンダー 「今、戻るよ。」
アレキサンダーが光に包まれ、丸っこい体型のシルエットになって、それは亀の甲羅を着ているゆるキャラ犬のような見た目になった。
岳斗 「・・・? 最初のと違わないか?」
アレキサンダー 「コレが本当の姿なんだよ。 どうだ、可愛いだろ! ふふん。
と言いたいところだが、前の玄武と戦ってから、なぜかこうなったのよね・・・? どうしてだろうね。」
岳斗 「・・・」
アレキサンダー 「どうしたんだよ。 驚いて声も出ないのか?」
何も言わない岳斗はそのままアレキサンダーのマシュマロのような頬をわしゃわしゃと撫でで、キスしようとした。
岳斗 「んーー!! マシュマロもふもふじゃないかあーーー!!!
ぶちゅ〜〜!!」
アレキサンダー 「なっ! やめろ、変態!」
怒ったアレキサンダーは岳斗に強烈なストレートパンチを繰り出した。
自分から当たりに行ったとも言っていいので、しこたま鼻血が大噴出した。 星とアヒルを回しながらぶっ倒れるバカ岳斗だった・・・。
アレキサンダー 「やれやれ・・・。 何しに来たんだい?あんたは。
像をもらうんじゃなかったの? だったらとっとと胸を触ればいいだろ。」
岳斗 「ああ、そうだ。 すっかり忘れてた。 でも、ちょっと違って、仲間にして欲しいんだな。」
アレキサンダー 「へ?」
岳斗 「俺らは今、結社というやばい敵と戦っていて、少しでも仲間が欲しいんだ。
握手すれば、この姿のまま一緒に戦える。 つーか、一緒に戦うのか?」
アレキサンダー 「いいよ。好きにして。
ちなみにもふもふしていいという意味ではないからな? わかった?」
アレキサンダーが鋭い爪を岳斗に見せた。 同時に顔同士をくっつけて、メンチを切った。
岳斗 「(アババババ・・・!!)大変分かりましたでごぜえます!!
へえ! 姉御、握手するでごんす!」
岳斗とアレキサンダーが握手しようとしたその時! 突然地面から2人を楽々飲み込めるくらい広げた口が出てきたが、2人とも素晴らしい勘で避けた。 しかし、別々に行ってしまった。
そして、口の正体はアニーだった! 彼女は今、顔のサイズを元に戻している。
岳斗 「貴様はっ!! アニーだと!?
生き返ったのか!」
アニー 「ボス、ヨミガエル。 オラ、クウ!
ウガアアアアア!!」
アニーが2人を飲み込もうと口を開いて、音をも置き去りにするように突進した!
2人はアニーの息をつかせぬ猛撃を避けるのが精一杯だ。
アレキサンダー 「うお! なんだよ!? こいつはどういうこと?
速すぎて反撃ができない!」
岳斗 「暴食だ! 食っても食っても気が済まんらしい。
くそ! ダニエルがいれば、爆弾を喰わせたのに!」
アレキサンダー 「ダニエル? それって、パパのこと!?」
岳斗 「あ、そういや、そうだったな。 確かにダニエル・ロワノフだ。
今、ここの外にいるぜ。」
アレキサンダー 「ほんと! 生きてるの!
やった・・、って今はそんな場合じゃないね。 爆弾がないなら作ればいいでしょ。」
岳斗 「そういや、そうだったな。
こいつでも喰らいやがれ!」
2人は雲を作って、爆弾の雨をアニーに降らした。 果たして、期待通りにアニーは全て吸い込んだ。
岳斗 「よっしゃ! このまま爆散しやがれ!」
アレキサンダー 「こいつ、食べることしか考えてないのか?」
しかし、驚くことにアニーは口の中の爆弾を全て、岳斗たちに向かって、吹き出した。
アニー 「コレ、マズイ。 イラナイ。」
アレキサンダー 「さすがにそこまではバカじゃなかったな。
バブルグラビティ!(泡を繰り出して、あらゆるものを閉じ込めると威力を泡が吸収してくれる。 現実世界では中身の重みで下に落ちる)」
爆弾が泡に包まれ、泡の中で爆発した。
岳斗 「くそ。 学んだってわけか。」
アレキサンダー 「閉じ込めてやる! バブルグラビティ!」
アレキサンダーはアニーを泡に閉じ込め、押し潰そうとした。
アニーの骨が悲鳴をあげて歪む。
アレキサンダー 「そのまま潰れてくれ!」
アニー 「セマイ、イタイ・・。 クウ!ジャマ!」
圧縮泡から逃れようと、アニーの毛穴が開く。
そして、泡が勢いよく全身の毛穴に吸い込まれた
アニー 「フウ、セマカッタ。」
アレキサンダー 「嘘!? 毛穴も口なのか?」
岳斗 「そうらしいな。 それに斬っても断面が口になるだけで死なないぜ。
だから、一片までこの世から消し去らないと・・・。」
アレキサンダー 「それって化け物じゃん! やばいにも程があるよ。」
アニー 「クウ・・・。 スベテノコサズ! スオオオオオオー!!」
岳斗 「来るっ!」
アニーが世界ごと食う勢いで吸い込むので、たまったもんじゃない。
咄嗟にアレキサンダーがアニーを閉じ込める半球型の壁を作ったが、間を置かずにひびが入り始めた。
岳斗 「コレじゃ、壊れるぜ。 早く次の手を考えないとまずい!
あっ! 消滅することを願えばいいんじゃないか。」
アレキサンダー 「言ってなかったかもしれないけど、この世界の中にいるあいつの夢や願望も影響するのよ。 結論を言うと夢同士がぶつかりあうのが唯一のタブーってこと。」
岳斗 「そんなのがあったのか・・・。」
ヒビが割れ、壁ごと岳斗たちを吸い尽くすアニー。 岳斗たちは次々と壁を作って、策が浮かぶまで暴風を凌いでいる。
アニー 「スオオオオオーー!!」
岳斗 「攻める隙がねえ! 材料はいっぱいあるとはいえ、倒せなきゃ意味がないぜ。」
アレキサンダー 「なら、風を閉じ込めてみる! バブルグラビティ!」
アニーの周りに太陽の泡を発生させ、風が泡の内側を回るように閉じ込められた。
アニーの肺に押し込まれる空気がなくなり、暴風が止んだ。
岳斗 「ナイス! チャンスだ、飛星裂突っ!」
岳斗は息を思い切り吸い込んで、アニーめがけて飛び込んだ。 そして、息すらつかせない猛撃の突きを加える。
アレキサンダー 「いけ! そのまま消滅させるんだよ!」
岳斗 「ぬおおおおおお!!」
一片も残さない執念の猛撃でアニーの顔、腹、手足が次々と抉られて、脳、内臓、血が空中に飛び散り、岳斗の服を汚していった。
しばらく経って、岳斗は肺が沸騰しそうになりながらも、息を切らしながらアレキサンダーのところまで来て、座り込んだ。 汗が滝のように流れている。
岳斗 「はあ、はあ、はあ・・・! 体が熱い・・・。
あとは頼んだ!」
アレキサンダー 「任せろ。 休んでな!」
目に見える限界の小ささになったアニーの体の欠片どもが暴食の本能に従って、岳斗たちを食おうと這い寄ってくる。
アレキサンダー 「諦めな! ヴァニッシュプリズン!(物体の欠片を泡にして、弾けさせることで消滅させる泡魔法)」
アニー 「!? アワ・・! クウ、キエル・・」
アニーの欠片が泡に変換され、次々と弾けていく。 アニーの欠片に口が現れ、泡を食おうとしたが、欠片が小さいので、泡を食う前に消滅してしまった。
全ての欠片が消滅された時、岳斗は体力の限界で仰向けに倒れ伏した。
岳斗 「はあ、はあ、か・・勝った・・んだな・・。
つ、疲れた・・。」
アレキサンダー 「やったね。 なんとか倒せたんだな。」
岳斗は口を動かそうとしたが、声にならずただ頷くしかできなかった。
岳斗 「・・・。 カモーン・・。
ちょっと一緒に寝よう。 起き上がれんぜ。」
アレキサンダー 「はあー、わかった。 特別だからな。
よく頑張ったよ。 そうだ、服についてる汚れを取るか。 ヴァニッシュプリズン!」
服の汚れが泡に分解され、新品のようになった。
そして、アレキサンダーを片腕で抱いて、しばらく寝る岳斗だった・・・。
岳斗とアニーが亀の中に入ったすぐ後 加那江、シャルル、ダニエルVSヴィンオラフ
彼らの移動方法は夢の世界での無重力環境をワイヤーアクションかのように移動することである。
ヴィンオラフが鬼に変貌を遂げ、加那江たちに爪を立てて襲いかかる。
怒りの一撃が当たったら無事では済まないだろう。
ヴィンオラフ 「ヴオアアアアアーー!!」
加那江 「遅いわ! シャイニングレインボー!」
加那江が7色の光弾を放ったが、ヴィンオラフは雄叫びで弾を失速させた。
加那江 「チッ・・。 厄介わね。」
ダニエル「わしに任せろ! 頼むぞ、マトリョーウマ!!」
ダニエルがウマ型の爆弾をいくつかヴィンオラフに放り投げた。
ヴィンオラフ 「うぬ! この吾輩を舐めやがったな!
こんなチンケなおもちゃなど壊してくれるわ!」
怒る鬼が爪で馬を粉々に切り刻んてしまった。
ダニエル「へへ・・。 バカめ、かかったな。」
突然粉から目に見えないほどの小さい馬が無数に現れ、ヴィンオラフを見えなくさせるほどに囲んだ。
ヴィンオラフ 「何だ!?」
馬の粉が彼にくっついて、瞬間、大爆発が起きた。
ヴィンオラフ 「グアアアアアアーーー!!!」
シャルル「やったぞ!」
ダニエル「これ以上小さくできない程切り刻んでもさらに小さいのが出てくる・・・。そして、敵に付いて、避けようがない大爆発を引き起こすんだ。 マトリョーシカならぬマトリョーウマじゃよ!
ワハハハァー、わしって天才だな!」
ダニエルが喜んでいたが、爆発の煙が晴れるとそこにはところどころ傷つきながらも激しい怒りを隠さない鬼が正面を睨んでいた。
ヴィンオラフ 「クソ野郎・・・。 ここまでやってくれるとはな。
ウガアアアアア! 我慢がならん!! この世から今すぐ消し去ってくれるわ!」
ダニエル「あー。 こりゃ、怒らせたな。」
ヴィンオラフ 「我ごと消え失せよ! 怒天爆炎!」
シャルル「コレは・・! セブレイトフィールド!」
ヴィンオラフが光に包まれた。 次の瞬間、加那江たちを巻き込むほどの大きな爆発が起こった。
間一髪、シャルルの魔法で全員無事だった。
加那江 「ありがと・・。 ところで、あれは自爆だったのかしら?」
シャルル「そうみたいだ。 しかし、怒りに駆られて自滅するようじゃ、俺らの敵じゃないな。
あとは岳斗がアニーを倒してくれることを願うか。」
加那江 「そうね・・。 !? みんな、見て!」
ダニエル「えっ?」
一行が加那江の指差した先を見ると薄くなった煙の向こうに人影が見えた。
しばらくして、それはヴィンオラフであることがわかった。
ダニエル「バカな! 自爆したんだろ!」
ヴィンオラフ 「舐めるな!
我は自爆しても死なん! ヴオオオッーーー!!」
シャルル「まずいなあ。 こりゃ、ヤバめな戦いになりそう・・。」
ヴィンオラフ 「天殺険眼!(目から天を貫くビームを出す。 十数秒は連続して出せるので、顔を激しく動かずだけで回避を不可能にさせる)
ウガアアアーー!!(首がちぎれるほどの勢いで回し始めた)」
ダニエル「うわっと! 危ない!」
加那江 「大人しくさせてやるわ! シャークトルネード!」
加那江が放った蛇弾はビームに絡みつくように周り、ヴィンオラフの目に命中し、血を散らした。
両手で目を覆うようにうめいた彼は血の涙を流した目で加那江を睨みつけた。
ヴィンオラフ 「ヴワアアア!! クソアマが!
ぶっ殺してくれる! 屍喰鴉爪!(指の長さまで鋭く伸びた爪を発射させて、敵の体を啄むように貫く)」
ヴィンオラフは次々と再生する怒りの爪を3人の元に放った。
シャルル「はっ、こんなもん避けてやるぜ!」
しかし、避けた爪はある程度通り過ぎた所で、Uターンして、狙った者を逃さない。
3人はそれぞれ、魔法や銃を放ったり、ハンマーを振り回して、爪を壊している。
シャルル「くそ、追尾機能でもついてるのかよ! 燃えたぎる豪炎よ、万物を無に返せ!」
加那江 「ブラスターグリフォン! どんどんいくわよ!」
ダニエル「ふん! ぬおお!!
きりがないわい。 あの野郎、次々と爪出してるぞ!」
シャルル「よし、みんな。
合図を出したら避けることだけに集中するんだ。 おっと、加那江にも協力してもらうぜ。」
加那江 「わかったわ!」
ヴィンオラフ 「何かを話してるようだが、無駄だ! どんなことをしようとも貴様らは勝てぬ!」
しばらくして、爪の雨の勢いがわずかに弱まった時、シャルルが合図を出した。
シャルル「今だ! 世界の源よ、今一度全ての始まり(ビックバン)に立ち戻らんとせよ!」
加那江 「いくわ! エンジェルレインボー!(クリティカルハーツとシャイニングレインボーの合体技 全てを消し去る7色の光を一つの弾に集め、その強大な神柱であらゆるものを寄せ付けない)」
爪がヴィンオラフの元に突き刺さるようにしたが、このままでは後ろの爪が加那江たちを貫いて、ヴィンオラフに行く!!
その時、1発の銃声と共に加那江が影すら取り込む光柱の軌跡を後ろに描いた。
あまりの神々しさに爪は素早く3人を避けるように広がり、容赦ない速度でヴィンオラフの逞しい筋肉を貫通して突き刺さった。 あまりの痛みに白目を剥いてしまった。
ヴィンオラフ 「・・・!! くおおお・・!
よくも・・! よくもこの体に傷をつけやがったな・・!! 許さん・・! 怒天爆炎!」
シャルル「無駄だ! セプレイドフィールド!」
ヴィンオラフ「シャルル! 貴様のそれはマドレーヌの魔法であろう。 知っておるぞ、熱は通すことを! ならば、貴様らを溶かすくらいの熱を出してやろう!!
ぬぬぬぬぬぬ・・!!」
シャルル「チッ・・。」
怒りと共に身体中の血管が次々と切れる音がし、血を大量に吹き出しながら筋肉を膨張させるヴィンオラフ。
しかも、同時に手足や胴体を無理やり顔の中にまとめているので、骨の砕ける音や肉の繊維が切れる音が響き渡った。
ダニエル「く・・。 嫌な音じゃの。」
ヴィンオラフ 「これで世界を溶かし尽くす爆弾の完成だ! 貴様らも道連れだあーーーーーッ!!」
加那江 「来る!」
ダニエル「みんな、パワーアップさせてやるぞ! エカトロ・アディーラス!」
加那江 「ありがとう。 サイクロンクロウ!」
シャルル「うおお、力が湧いてきたぜ! 援護してやる!
災いの渦をもたらす天竜よ、逆風を呪い返せ!(神をも滅ぼすほどの旋風を巻き起こし、万物を蹴散らす風魔法)」
加那江やシャルルが在らん限りの弾や魔法を放つが、ヴィンオラフの爆発の勢いは削ぎ切れるものではない。
じわりじわり煉獄の薔薇が3人を覆い尽くそうとする・・・。
加那江 「く・・! このままじゃやばいっ!
それに弾が尽きそう!」
シャルル「諦めるなあ!! とは言ってもいいアイデアが出てこねえ!! チキショウ!
なあ、ダニエル! なんかちょうどいい爆弾ってあったりしないか?」
ダニエル「流石にこれでは届く前に引火してしまう!」
加那江 「せめて、最後まで足掻いてやる! カオスファンタジア!」
加那江が神に祈りながら放った弾は虚しくも凄まじい熱でヴィンオラフに届く前に全て溶けてしまった。
加那江 「そんな! 弾が尽きてしまったわ。」
シャルル「嘘だろ! こりゃ、マジでやばいぜ! ん・・待てよ?」
ダニエル「何か思いついたのか?」
シャルル「そうだ! 思い出した。 星になりきれぬ火の鳥よ、我の魔力の糧となれ!(熱エネルギーを自分の魔力に変換するMP回復魔法)」
シャルルが唱えると炎の粒子がシャルルに吸い込まれ、シャルルの体から光が漏れ出る。
それはまるで神光のようだ。
加那江 「なんか、まるで神様みたいよ!」
シャルル「へへへ・・・。 さっ、反撃だ!
この俺様が最強魔法で滅ぼしてやるぜ!!」
爆発が止んで、勝利を確信しながら体を再生させたヴィンオラフだったが、予想外の風景に目を丸くした。
ヴィンオラフ 「ふふふ・・・、我に逆らうからこんなことになるのだ。 ふははははァァァ!!
・・? 何!? 馬鹿な!!」
シャルル「覚悟しやがれァーー! 我らを覗く深淵よ、罪深き罪人を終焉の世界に誘え!(時空奥義魔法 時空を莫大なエネルギーで圧縮して、ブラックホールの球体を作る。 それを敵に向かって、放ち、全てを永遠の終わりなる『無』に押し潰す。)」
シャルルの頭上に世界もを飲み込む迫力を感じさせる大きいブラックホールが現れた。
シャルルはヴィンオラフに向かって、それを発射した。
ヴィンオラフ 「こんなものぶち壊してくれるわ!」
ヴィンオラフは口から怒りのビームをありったけ出そうとしたが、出ない。
先ほどの特大自爆でエネルギーを使い果たしたらしいようだ。
ヴィンオラフ 「はあ、はあ・・。 畜生、バカなああああ!!!」
シャルル「ヴィンオラフさんよ。 わざわざ俺にブラックホールを作るエネルギーをくれてありがとさん。
あばよ! このシャルル様に挑んだことを無の世界でいつまでも後悔するんだな!!」
ダニエル「ぶちかませぇーーーー!!!」
シャルル「俺は無敵の魔導士様だあああーーー!!」
動けないヴィンオラフはシャルルに反撃できずに無念を感じながらブラックホールに飲み込まれ、消滅する。
ヴィンオラフ 「畜生にやられるとはなんと・・無念! 覚え・・てろ・・・。」
今回の戦いのMVP賞であるシャルルは加那江たちの前に浮遊接近した。
シャルル「結構危なかったな」
加那江 「ええ、本当にありがとう。
あの時は死を覚悟してたわ。」
シャルル「あの時、呪文を思い出さなきゃどうなってたことやら・・?」
ダニエル「まあ、とにかくも俺たちの勝利だ! あとは岳斗だ。」
噂をすれば、影なんとやら・・。 突然岳斗とアレキサンダーが泡と共に現れた。
アレキサンダー 「岳斗、帰ってきたぞ。 ん? あっ、パパ! 久しぶりだよ!」
ダニエル「お前は・・? アレキサンダーなのか?」
アレキサンダー 「そうだよ! 会えて嬉しい!!」
2人は100年くらいぶりの感動の再会を果たし、熱いハグをご披露目した。
シャルル「あんたがアレキサンダーか。 しかし、ダニエルから聞いた話と違うような・・?」
アレキサンダー 「今のあたいは亀のぬいぐるみと合体したようなものだからね。」
岳斗 「しかし・・。 シャルルとアレキサンダーが並ぶと一気にメルヘンな世界観になるな。 まとめてモフっていい?」
シャルル「断る!」
アレキサンダー 「蹴られたい? 獣中毒野郎!」
2人の厳然なる抗議にもふもふ探検家である岳斗も渋々引き返すしか無かった・・。
加那江 「ともかく、これで終わったわね。 帰りましょう。」
ダニエル「そうだな。」
アレキサンダー 「あたいが出口を作ってあげよう。 一気に表の世界に行けるよ。」
アレキサンダーはそう言うと何もないところからモヤモヤした白い円が現れ、それははっきりし始めた。
岳斗 「じゃあ、帰ろう!」
みんな、頷いて、1人ずつ白い円に消えていくのだった。 最後に岳斗がくぐる前に不思議な世界を見渡していた。
岳斗 「この世界、面白かったな。雲やら泡やらチョコ・・。 みんな、ちゃんと成仏してくれ・・。」(独り言)
岳斗は気が済むと自分の体を白い円に託すように入っていった。
表の世界
ジョーが倒れている3人を見下しながら、薔薇を嗅いでいる。
ジョー 「ふむ・・。 私としては少し残念な結果になってしまった。
酸素不足で死なせてしまうとは、私もまだまだだな・・。」
やがて、もがく3人の生命の火が消え、自然に還る。 突然、急速に灰になって、崩れ去った。
ジョー 「なっ!? これは?」
突然、どこからか飛んできた縄にジョーは縛られた!!
解こうとするが、かたくてどうしようもない。
ジョー 「これはなんだね!?
解けない・・?」
マック 「へへへ、俺っちの『クード・セプレン』っすよ。 まるで蛇みたいでしょ。」
声がした方を見るとそこには銃を撃ち終わって、なお構えているマックがいた。
マック 「縄の発射角度を計算して、できるだけ全身を縄解きしにくいように絡めるように狙ったっす。
さあ、諦めるっすよ!!」
驚くジョーの目の前の空間が揺らいで、それは徐々にジェシカとレオナルドの形を帯び始めたではないか!
ジェシカ 「ジョー、貴様の負けだぁーーッ!!」
レオナルド 「諦めろ!」
ジョー 「諸君!?」
ジョーが驚く暇もなく、ジェシカの薙刀とレオナルドの火矢に体を貫かれた。
ジョーの宝石心臓とちぎれた茎ポンプが星光で輝きながら飛び散り、ジョーは地面に激突した。
ジョー 「グフォォ!! ・・バカな? どうして・・?
いつから偽物と入れ替わったんだ?」
レオナルド 「あの時の宝石シャワーからだ。 俺が炎の分身を作って、そいつらに後を頼んでいた。」
ジェシカ 「そして、私達は見えない炎を周りに纏い、貴様から見えなくさせたのだ。 そして、隙を待っていた・・。
なにしろ、貴様は傲慢の名をもらっているのだからな。」
マック 「実際、俺っちの射撃に囚われたっすからね。」
ジョー 「そうか・・。」
ジョーは神妙な顔でみなみじゅうじ座を見ていたが、すぐに紳士の笑顔に戻り、盛大な拍手を送りながら消滅していった。
ジョー 「素晴らしいねえ・・。 諸君。
もしかしたら、私はもうすでに・・最高傑作に出会っていたのか・・もしれな・・。」
消えていったジョーを見送る3人 ジェシカは薙刀を下ろして、レオに語りかけた。
ジェシカ 「はあ・・。 よかった。勝てましたね。」
マック 「そうっすね。危なかった・・。
岳斗たちも無事でいるといいんですがね。」
ジェシカ 「きっと、大丈夫でしょう。 レオを倒したのですから。」
レオナルド 「ああ、そうだった。」
白いゲートに戻った3人は岳斗たちの生還を待っていた。
3人が岳斗のことを話していると噂あれば影がなんとやら・・。 瞬間、白いゲートが現れ、そこから岳斗たちが出てきた。
ジェシカ 「岳斗! 無事だったのですか!」
岳斗 「あたりめーよ! 俺の敵じゃねえ!」
ダニエル「逞しいことを言ってくれるのう。」
加那江 「そっちはどうだった?」
レオナルド 「ああ、蜘蛛の足が生えたミイラとかが出てきた。 それだけではなく、ジョーも現れた。」
シャルル「ジョーだと! あいつも生き返ったのか。」
レオナルド 「心配するな。 我らが倒したぞ。」
アレキサンダー 「仲間、まだいたのね。」
マック 「おや、なんすか? この生物は?」
岳斗 「玄武だ。」
ジェシカ 「そうか。 倒したのですか。
しかし・・、クリス辺りがキュン死しそうな体型だ。 抱いていい?」
アレキサンダー 「いいよ。」
岳斗 「嘘だろ!? 俺の時は断固拒否したのに!」
シャルル「てめえはいやらしいんだよっ!! 自覚しろ、このオタンコナスが!!」
岳斗 「ガーン、ガーン、ガーン・・・!!
ズゥゥゥーーン・・・」
岳斗が体育座りでシクシクしている横で、ジェシカはアレキサンダーの顔毛同士のもふり合いや腹の柔らかさを堪能している。
ダニエル「しかし、観光客たちにケガがなくてよかった。」
ジェシカ 「ほんと、よかったです。 しかも、ここから遠いから気づかれなくて幸いでした。」
加那江 「・・・ほんと、綺麗ねえ。 炎柱と星空の組み合わせがなんとなく幻想っぽいわ。」
シャルル「そうだな・・。」
レオナルド 「なんとなく、ジョーの言ってることもわかるような気がする・・。
人は美しさを追い求めるために自分自身を体の中に宿る炎に差し出すのかもしれないな。」
観光客が盛り上がる声を聞きながら、一行は天に昇る炎と死者を宝石が散らばったような夜空のワルツをしばらく堪能していた。
翌日 5つの街を覆った青い膜が消えた
人々はこのニュースに驚き、一斉にかつての眠りの街に駆け寄った。
ある人は家族との再会のために、ある人は同僚と再会するために、とある人はただの野次馬として・・・。 ここではミベールを見ていこう。
ハレンの姉 「ハレン! おーい、どこなの?」
マッシュの同僚 「マッシュ! 返事してくれ!」
テラの友人 「テラ、テラ! おーい。」
100年前の街を探す人々の大半は自分の命が終わろうとするご老人たちだ。 しかし、自分の体に無理をさせてでも懸命に探す。
やがて、あちこちから懐かしい人と再会した嬉しさの声が出始めた。 しかし、いずれも一方的だ。
ウラルの婚約者 「ウラル、帰ってきたよ・・。 ねえ、そろそろ起きて・・。」
ライジルの父親 「ライジル、お前はほんとにねぼすけだな・・。
起きろ・・、朝なんだから。」
次第に大きくなっていく泣き声を横目に聞きながら、岳斗たちはニコルのいた病院に歩いている。
岳斗 「・・・」
加那江 「・・・
ダニエル、あの・・・」
ダニエル「ニコルとマリアのことか。
・・・大丈夫。天に昇っているのはわかってるさ。」
ジェシカ 「そうですか・・。」
それ以来、一行は重い口を開かずにニコルが入院していた病院に到着した。 中に入ると受付のソファや床に横たわる兵士や倒れている看護師たちが目に入ってきた。
ところどころ誰かを探している人がいた。
レオナルド 「そうか、本当に戦争が起こってたのだな。
出血がひどい痕がある。 しかし、静かだな・・。」
加那江 「魂はもうここにはいないのね。 動く気配もないわ。」
アレキサンダー 「いこう。 ニコル、ずっと待ってたんだよ。」
ダニエル「ああ、いくか。 103年ぶりの再会だ!」
病室に行く道中にカルテを持ったまま倒れている医者、荷車にもたれかかっている看護師、壁にもたれかかって寝ている患者などもいた。
いずれももはや動かぬ器だ。 現実を受け入れつつ、病室についた岳斗たち。
ダニエル「ついたか・・。 なあ、すまんが、わしとアレキサンダー以外は外で待ってくれないだろうか?
家族の再会だからな。」
加那江 「もちろんよ。」
マック 「俺たちのことは気にしないでいいっすよ。」
アレキサンダー 「そんじゃ、いこうか!」
ダニエルはしばらく目を閉じて、震えた手で戸を引いて、入った。
2人はニコルのいるベットに歩いていった。 そこには眠りの街になった時のままであるニコルが幸せな笑顔で横たわっていた。 しかも、そばにいたマリアがベットに頭を預けながら身動きもしない。 太陽の光が窓から入ってきて、彼女たちの髪や体毛を輝かせている。
ダニエル「あ・・。
・・・ニコル、マリア。」
ダニエルは震えながらも地面を踏み締めるように一歩一歩近づいていった。 ベットに手が届くところまで近づいた時、愛する娘と妻の頭に手を置きながらぼそっと言った。
ダニエル「ただいま・・・!」
アレキサンダー 「パパが帰ったよ! やっと会えたね・・・。」
しばらくして、2人の嗚咽が響いてきた。 外にいる人たちの中にはもらい泣きする人、この街の過去を思い浮かべる人、旅立った魂に想いを馳せる人、廊下にいる兵士たちに手を合わせる人、ダニエルの再会に安堵する人、胸に手を置きながら目を閉じる人など反応が分かれた。
太陽が南中する頃
しばらくして、シラーノ市が派遣した火葬会社のトラックが総出勤でそれぞれの街について、遺族との手続きをすませた後、市内の火葬場に運ばれていった。
ニコルとマリアを乗せたトラックが街を出発するのを見送った一行。
シャルル「行ったな・・。」
加那江 「ええ・・。 そうね。」
ダニエル「また会おう、どこかでな・・。」
岳斗 「・・。今聞いていいか?」
アレキサンダー 「いいよ。 何?」
岳斗 「アレキサンダー、玄武に会ったのか?」
アレキサンダー 「うん。 なんかね、ぼんやりとしたような、黒いオーラをそのまま纏っていたような感じだった。」
ジェシカ 「その獣とはどこで戦ってたりしたのですか?」
アレキサンダー 「病院の中よ。 なんか、ニコルに危険が迫っているような勘が働いて、気づいた時は病院に走り込んで行ったのよね。」
シャルル「中? よく入れたな。」
アレキサンダー 「あの時、たくさんの人が倒れていて、起きてた人たちは慌てていたからね。
あたいのことまで気が回らなかったんじゃない? それでね、ニコルがいるところ病室に行ったら、ちょうど、ニコルとママの胸から魂を吸い込んだ獣が見えたんだ。」
レオナルド 「それで戦ったのか。」
アレキサンダー 「もちろんよ。 結果はあたいの勝利! ふふん、舐めるんじゃないよと思っていたら、倒れ伏した獣が黒いモヤモヤになって、あっという間にあたいを覆ってしまった。 どう言うことだと思う間もなかったな。」
岳斗 「そうか・・。 でも、亀と合体したのはどう言うことなんだ?
亀なんて近くにいたのか?」
ダニエル「あ! 思い出した。そういえば、ニコルの手紙に『友達が亀のぬいぐるみを送ってくれた』と書いていたな。
なんか、甲羅もぬいぐるみみたいに丸いのう。」
アレキサンダー 「そうかもね。 ママからも聞いたよ。
ニコルが毎日亀さんと寝ているから寂しくないって。」
加那江 「へえ、それはよかったわ。」
レオナルド 「ところで、ダニエル。 これからどうするつもりなんだ?」
ダニエル「まだ決まっておらんよ。 考えてもなかったし・・。
とりあえず、懐かしい我が家に帰って、ゆっくり考えるか。」
ジェシカ 「そうですか・・。 アレキサンダー。ダニエルと一緒に幸せにね。」
アレキサンダー 「もちろんだよ! あたいがしっかり支えるよ。パパももうすっかりヨボヨボだからね・・・。
ヨボヨボ・・、そうか、あたいが・・。 あたいがこうさせちゃったのか・・。」
尻尾を垂らして落ち込むアレキサンダーの横に座って、頭を撫でたレオナルド。
レオナルド 「アレキサンダー、お前は悪くないぞ。」
アレキサンダー 「でも、あたいのせいで・・、あたいがもっと強ければ、防げたかもしれないでしょ?」
レオナルド 「そうかもな。 俺だって、獣に呑み込まれないくらい強ければ、あんなことにはなってなかったさ。
お互い悔しいよな。」
ジェシカ 「レオ・・! あなたたちは悪くないでしょう。
獣に魂を乗っ取られただけで・・。」
レオナルド 「そうさ、誰のせいでもないんだろうな。
人はいずれ死ぬ運命にあるんだ。 寿命、病、災害、事故・・・。 いつだって誰にとっても理不尽に命が終わる可能性を秘めている。 多くの人はそれを受けいられない。受け入れられないのが人としての感情だろう。 死者蘇生や輪廻転生、不老不死の類が無くならないわけだ。」
岳斗 (親父・・・。)
加那江 「・・・(目を閉じながら胸に手を当てている)」
シャルル「・・・(岳斗をじっと見据えている)」
レオナルド 「どっちみち過ぎてしまった過ちは直せない。
なら、今を生きろ! これからどんなことをしていくにしろ、自分の心に従って、今を歩むんだ。」
アレキサンダー 「・・! わかった・・。
そうするよ。」
マック 「アレキサンダー・・・」
アレキサンダーの気持ちの整理がついたところで、別れの挨拶が始まった。
ジェシカ 「では、お二人ともお世話になりました。」
ダニエル「こっちこそありがとう。 おかげで前に進めそうだ。
旅、頑張れよ!」
岳斗 「おーよ! じゃあな。 マック、あんたとはいつでもどこでも友だぜ!!」
マック 「岳斗!! 俺っちも同感っすよ。」
岳斗 「・・・ん? つーか、今更だが、敬語とか別にいいんじゃないか?」
マック 「あー、すっかり癖になってるんすよね。
なにしろ長い間先輩方たちにしごかれてばっかでしたから。」
岳斗 「ふーん。 まあいいや、元気でな!!」
マック 「そっちも!!」
岳斗とマックは激しいハグをした。
そうして、ダニエルたちに別れを告げ、ミベール駅に戻ろうと歩き始めた。
突然彼女特有のほんわかさせる足音を響かせながら、アレキサンダーが叫んだ。
アレキサンダー 「ねえ! あたいたちも連れていってよ!」
シャルル「んだって!?」
アレキサンダー 「あたい・・。心が叫んでいるんだよ! あたいのような人を少しでも救いたいと!」
ダニエル「アレキサンダー・・。」
アレキサンダー 「あたい、病気の人を励ましたり、支えて、笑顔にさせるママのようになりたい! 誰かの助けになりたいっていう夢を持っているんだ!
それにニコルだって、コックになって、たくさんの人に美味しい料理を食べさせられるようになりたいって言ってくれた!」
ダニエル「な・・!? ニコルがそんな夢を持っていたなんて・・・。
そうか、聞けてよかった・・・。」
アレキサンダー 「あたいたちも獣を倒す、いや、救う旅に連れていって欲しいの。」
アレキサンダーが岳斗たちの目を見据えている。 真剣な目だ。
加那江 「あたしたちについてくるということはこれからも結社の人たち、獣と戦うことになるのよ。
とんでもなく危険だということはわかっている?」
アレキサンダー 「・・・当たり前よ!(ここでもう一度目を見据える)」
シャルル「はあ・・。 わかった、俺の負けだ。
ダニエルはどうする?」
ダニエル「んん・・・ しかしな、この瞬間も何かが使えなくなったり壊れたりして使えなくなっている人がいるかもしれんからのう・・・ そう簡単には行けないなあ・・・」
レオナルド 「そうか、残念だな・・・」
マック 「あ、あのっ!! ・・・ダニエルさん!」
マックが勇気を振り絞って、緊張しながら言い放った。
ダニエル「なんじゃ? そんなに緊張してどうした?」
マック 「そ、その・・・
ダニエルさんに一人前として認めてもらったとは言え、まだまだダニエルさんと比べれば、ひよっこですらないこともわかっているんすけど・・・
ここは俺っちに任せて、ダニエルさんは旅に出てください!!」
ダニエル「マック、お前・・・(びっくりしたように見つめた)」
マック 「・・・俺っち、いや、俺は鍛造術で世界の人に幸せになってほしい・・・
そんな夢を持っているっすけど、ダニエルさんも幸せになるべきなんすよ。
よくよく考えてみると相手を幸せにするためにはまず、自分自身が幸せになるべきだと思うっす!!
ダニエルさん。 だから心配しないでください。 こっちはこっちでなんとかするっすよ!」
ダニエル「マック・・・
立派なことを言うようになったな・・・。 そうか、もはや剣を初めて作って喜んでいたお前ではないんだな。 鍛造術の未来を託せる立派な青年になりおったか。
・・・っはははははは!!!! ワハハハハハッ!!! にっ!」
感動極まって、泣きそうになったが、あえて笑い上げたダニエル。
ダニエル「よし! アレキサンダーが行くならわしもいかんとな。
それにどっちみちニコルとマリアはもうここにはいない。 わしたちの中で生きているんじゃ。 なら、たとえ、天国だろうと地獄だろうと一緒じゃよ!」
レオナルド 「そうか、頼りにしているぞ! 友よ。」
ダニエル「こっちこそじゃ! 安心しろ、わしはまだまだ老いておらんよ! ワハハハハ!!!
おい、マック。 頼んだぞ!!」
マック 「はい! 任してくださいよ!!」
岳斗 「おいおい。 こりゃ、大所帯だぜ! また賑やかになるなあ。」
ジェシカ 「楽しそうでいいじゃないですか。 旅は道連れと言いますし。」
岳斗 「仕方ねえなあ。 じゃあ、みんな行くぜ!!」
「おー!!」
どこまでも白く広がる世界 それ以外にいう事はない。
ただ、チェス盤と駒が置かれているテーブルと椅子があるのみ
その世界にポツンと取り残されたように佇んでいる1人の女性がいた。 彼女は白い髪を揺らせながら木の椅子に座っていた。
彼女の手が伸びて、アレキサンダーの形をしている駒を摘み、それを岳斗たち6人の駒の近くに置いた。
エリス 「これで2体目・・・」
エリスがチェス盤を見ると、岳斗たちの他に白虎と青龍、結社メンバー(消滅しているのは倒している)、王国のメンバーであるツォン、ベーがいた。
ふと、横に置かれている木箱を開けて、微笑む彼女。
エリス 「なるほど・・・。
岳斗、ゼロ、そしてツォンですか。 これは予想がつきませんね。」
箱を閉じて、椅子にもたれかかる。
そして、目を閉じながら上を向く。
エリス 「運命に翻弄される者たちよ。 抗いなさい、大いなる流れに・・・。」
第4章につづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます