君の願いをおしえて

@Nekomaguro__22

君の願いを教えて

遠くから人の声が聞こえる。

「だれか、はやく、早く救急車呼ばないとっ...!」

「どうしたんですか⁉」

頭に強く殴られたような衝撃がはしり、息がうまくできない。

「あっちの道路で、ひとが、倒れてて、」

口から漏れた生暖かい液体が体を伝っていく。

鼻をつんざくような鉄の匂いと次第に冷えていく体。


(あと少し、だった、のに)


「ねーえー、おきてよーおにーさんー!”除霊するよー!!”」

誰かに頭をぽかぽか叩かれている気がする。

うるさいな、人間の三大欲求に睡眠欲があることをしらんのか。俺は寝たいんだ。

「おきないならぁー、えいっ!」

そういってこいつはなにかを俺に叩きつけた。


「ぎゃあああああああああああああああああ」


目が覚めたら目の前に15歳くらいの少女。天使みたいな輪があることを除けばなにかのお面を付けている至って普通のお祭りに来たような少女だ。

「痛っってぇぇ‼誰だよお前、人がのんきに寝てるっつぅのに‼」

そういうと少女は目を大きく見開き、

「...っおきないお兄さんがわるい‼」

「んだとこらぁ⁉」

てかまじで痛てぇ。ん?手に白い粉がついている。

「...。よし」ぺろっ、‼こ、これは...

塩化ナトリウムただの塩⁉⁉」

なんで塩がこんなに痛いんだ?そういえばこいつ除霊とか言ってなかったか?

というか、俺の手透けてるし、あ。

「もしかして俺、今、幽霊..?」

そう言うと目の前の少女はフフッと笑う。

「’’初めまして!’’私は天使のエスクロ!今日は、お兄さんが幽霊になる前に悪いことをしちゃったからその”償いのチャンス”を与えに来たの!よろしくね!」


「はぁぁぁぁぁ!?!?」


俺はエスクロから自分の今の状況を教えられた。

簡単にまとめるとこうだ。

・俺は”生前”にすごい罪を犯した。

・ある条件を満たすと”罪を償った”と判断され、なんかしら”良いこと”がある。

良いことってなんだよ。

「これで合ってるか?」

「んー大体”合ってるよ”!それで、条件なんだけど...ほいっ!」

そうしてエスクロが指を振ると何もない空間から一枚の紙が落ちてきた。

うわっなんだこれ

「読んでみて~」

そう言われ、俺は落ちてきた紙を広げた。


『すべての記憶を取り戻すこと。』


…これだけかよ‼

確かに今の自分にはまったく記憶がなく、ただわかるのは今の俺が小学生くらいの身長だろうことだけ。

「おい、これだけなのかよ!」

は周りに用意したから‼がんばってね!」

じゃあと手を振りながらエスクロが去っていく。

「おいっ!エスクロ!ってもう居ねぇ..。」

はぁ、とため息をつきつつ俺は記憶の手掛かりになるものを探すことにした。

あたりを見回すと、どうやら今日は七夕まつりのようで、りんごあめ、やきそば、射的など屋台が多く出ている。


「全然ゲーム機とれないよー」

「俺もう十回もやったのに落ちないのおかしい‼」

「おじさんゲーム機取りやすくしてよ!!ハゲ!!」

「誰がハゲだ!出禁にすんぞ‼」

射的屋の方から子供たちの嘆きが聞こえる。

経験上、良い景品ってのは大体おもりが付いてるんだよなぁ。俺知ってる。

屋台に寄り、試しにゲーム機を少し持ち上げると...ガムテがついてやがる。


「うわあああ、景品が勝手に動いた‼」


やっべ、幽霊なの忘れてた。ささっとゲーム機を元の位置に戻しつつ、ついでに店主のズラを取り、何事もなかったかのようにその場を去る。

後ろからものすごい笑い声と怒声が聞こえる気がするが、俺は知らない。


他に手がかりがないかと、見回すと七夕だからか短冊がかけられた笹が多くある。

俺は短冊を何枚か手に取った。

どれどれ、何が書いてあるかな

(赤い短冊 家族が元気でいられますように 実美)

(黒い短冊 お祭りで花火がみたいな すえみ)

(青い短冊 スワヒリごとフランスごをはなせるようになりたいです! たろう)

1つ目と2つ目は良いとして3つ目はおかしいだろ!!!なんでスワヒリ語!?

最近の子供ってすごいんだな...()


そうしてしばらく俺は祭りを楽し、散策しながら手掛かりを探した。断じて楽しんでいる訳では無い。

お、あそこにお面屋がある。『七夕まつり限定!織姫と彦星お面販売中!』

限定物だが人気はないらしく、きつめのお面やキャラクターもののお面を付けた子供ばかりが歩いている。

なつかしいな、前に織姫のお面買ってあげたっけ。浴衣着てるとお面似合うんだよな。

七夕まつりなんて来るの久しぶりだから意外と楽しいな。


あれ、久しぶりって俺、


「織姫のお面」「ヒントは用意した」「射的の景品」「花火がみたい」


違和感


なんであいつは俺のほうが小さいのに俺をと呼ぶんだ?

なんであいつは「誰だお前!」といったときあんなに目を見開いていたんだ?

なんであいつはここで売ってるのと同じお面をつけているんだ?

思考の渦にとらわれそうになったその時、

「ヒュゥ~~~ドーン‼」

夜空に大きな花火が咲く。

『きれいだね!お兄さん。』

俺の方を向き、笑顔を向けてくる少女の映像がフラッシュバックする。

そうだ、俺は


一年前

「うーーん、次の任務はこの子かぁ」

俺は一枚の紙を手にしながらそう口にする。


〈任務詳細〉

対象者

名前:黒井末実くろい すえみ

年齢:15歳

死因:持病による発作。

日時:20〇〇年7月7日志望予定。詳細な時刻は不明。

所在地:〇〇県○○市○○病院 隔離病棟105号室。

感染力が強く、隔離されており、

誰も近づきたがらないため常に一人で過ごしている。

願い:七夕祭りで花火を見ること。


制約

1.決して人の生死の瞬間に干渉してはならない。

2.怨霊化を防ぐためできるだけ、対象者の願いを叶え、未練をなくすこと。

etc...

死神の制約のもと任務を遂行せよ


「お、今回は楽そうだな。前回は爺さんがエベレストに登頂だ!とか言いだして大変だったんだよ..」※標高8849m

制約を破ると俺に罰則あるから大変なんだよ。

そんなことを考えながら俺は病院へと向かった。

103、105号室...あった。

病室へはいるとそこにはベットの上で青白い顔、やせ細った腕で、本を読んでいる少女がいた。

死期が近い人間以外に死神は見えない。

俺に気付いたのか、本を閉じ、こちらを向く少女。

どうやらこの子で合っていたようだ。

「誰?」

向けられた眼差しには光が灯っていない。まるで、生きる意味失った迷子のように。

「っ、俺は死神さん。死ぬ前に君の願いを叶えに来たんだ」

そういうと少女は目をぱちくりしながら俺に問う。

「お兄さんは私の願いなんでもかなえられるの?」

そうだという風にうなづいた。すると少女は顔をほころばせ、

「じゃあ七夕祭りに連れてって!」


夜に病棟を抜け出し、少女と七夕祭りに来た。

最初に射的。少女はどうやらゲーム機が欲しいらしい。しかし、ほかの人を見ると

どれだけ弾を当てても落ちる様子がない。

「これじゃあとれないかなぁ...」

しょぼんとする少女。銃を抱えながらうつむいている。

「...しょうがないなぁ」

俺は景品のところまで行き、後ろについている重りを外した。

俺は少女に向かって笑顔でサムズアップする。

「...!」

あ り が と うと満面の笑みを浮かべて口パクする少女。

そして少女は銃を構え、撃った。

トンッと弾が当たり、景品が倒れ落ちる。

「やったぁ!景品ゲット!」

少女がえへへっと幸せそうな顔でこちらにピースしてくる。

すると俺の心がほんのりあたたかみを帯びたように感じる。

「なんだこれ...?」

そう疑問に思っていると少女に手を引かれる。どうやら次はりんご飴が食べたいらしい。しかたがないので店の前までついていき、お金をわたしてりんご飴を買わせた。

俺はほかの人には見えないからな。

片手にりんご飴を持ち片手で俺の手を握りながら次はお面が欲しいという。

忙しい奴だな。

お面屋に寄り、織姫のお面を買ったあと、花火が見える橋に移動することにした。

「あと数分で花火だ」

少女は石段に座り、待ちきれない様子で、体全身からワクワク感が伝わってくる。

最後の願いが「花火が見たい」だなんて、どんなに閉鎖的な生活をしてきたのだろうか。

その時、死の気配が強まる。

「どうしたの?お兄さん?」

しかし、俺には少女の願いを叶える義務が存在する。どうやら俺は思っていたより少女に絆されていた様だ。

俺は、出てこようとする少女の魂を押し戻した。

これでもう大丈夫なはず。

ヒュ~ドーーン‼花火が上がった。

「きれいだね!お兄さん!」

願いは叶った。あとは魂を狩るだけだ。

だんだんと俺の中から力が失われるのを感じる。

魂を狩らないと、俺が、死神でなくなる前に。

俺は鎌を降りあげる。

「お兄さん、わたし、言いたいことが、あって」

振り下ろそうとした腕を止める。

「...なんだ?」

その時少女が地面に倒れた。口から血を流し、力なく倒れている。

少女の体はピクリともしない。体の中から魂が浮き出てくる。

俺は少女の魂を狩り取った。



「お兄さん。思い出した?」

目の前に先ほどの少女がいる。どうやら俺は死神から幽霊になっていたらしい。

「エスクロ、いや”黒井末実くろいすえみ”。さっきは嘘ばっかつきやがって」

「フフッ!私は天使の黒井末実エスクロだよ‼今日はお兄さんが成仏するのを手伝いに来たの!よろしくね!」

そうか、俺はコイツの魂を狩り取ったあと、死神ではなくなってしまったのか。

「お兄さん。伝えたいことがあるの。」

だんだんと俺の体が光に包まれる。

「ずっと一人で詰まんない日々を過ごして、生きる意味を失ってた。でもね、お兄さんとお祭りに行って、すごく楽しくて、」

感覚がなくなり、体がより透明感を帯びていく。

「死んだあと、頑張って天使になって、お兄さんをずっと探してたんだよ」

目の前の少女の瞳に涙があふれる。

「私はあの人生に、生きた意味をつけられた。ありがとう。お兄さん」

俺は残りの力を振り絞って精一杯の笑顔でこう言った。

『どういたしまして!』

最後に見えたのは少女の笑顔ときらきらとした笑顔と光が空をまい、天へと昇る様子だけだった。

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