チート無しで鬱すぎる現代和風同人ギャルゲーの世界にモブ転生しちまったと思うんだけど、どうすればいい?

茶鹿 秀太

【餓者髑髏の花嫁】事件

「与一……あなたは対魔の力や、特異な能力、……そして、普通の陰陽師としての才能は一切有りません……。平穏に生きて……、その生を終えるのです……」


5歳くらいに母親から言われた時の言葉だ。


確か、力を調べる薬品を飲み込んだらそのまま高熱が出て……それからずっと寝込んでいた時だった。


父も母も泣きながら布団の周りで座っていたのを、今でも覚えている。


その時の俺は……。


(おぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああばばばばばばばばばばばばばばばばばっばばぁあああっっっ!?!?!?!!!!!!!)


死刑宣告を受けたような最悪の気分だった。









~~~~~~~~~~~~~~~



俺の名前は須藤与一。


この世界の立派なモブの一人だ。


かつては普通の社会人だったのだが、どうやら何かしらが原因で死んでしまったらしい。つらい。


物心がついて、陰陽師の服装を着た父を見て気付いた。


(あれ? これ転生してね)


そう、衣装を見て気付いてしまったのだ。ここが俺の前世でプレイしていた……。


伝説の同人和風ギャルゲー【厄モノガタリ~花咲き月夜に滅ぶ世界~】の世界であると!!!!




何故伝説になったかというと、ゲームの発売後にゲーム内容を模倣した殺人事件が起きたため、発売中止になったのだ。


実際このゲームのせいではないと擁護の声もあったものの、ゲーム内の惨劇をモチーフに、「私の親は妖怪だった」とか「呪いを解かなきゃいけない」と実際に人を殺す事件が3件立て続けに起きてしまったら……、世論には勝てなかったのだろう。


さてそんな厄ネタとも言えるゲーム、通称【ハナサキ】はただのギャルゲーではない。


和風世界で陰陽師たちが妖怪や、怪異、果ては都市伝説まで解決していくという、鬱ゲーなのだ!


大筋の内容もかなり酷い。(誉め言葉)


エリート陰陽師として育てられてきた主人公は陰陽師養成学校の生徒になり、学校でヒロインたちと交流を深めていく。


事件は主人公にボコボコにされたチンピラが学校の地下に迷い込んでしまい、とある妖怪の封印を解いてしまうところから発生する。そんなところに封印するな。


妖怪の名前は「ぬらりひょん」。ぬらりひょんは封印から飛び出し、その他の名のある強大な怪異の封印を解きまわり、世界が破滅に向かうというシナリオだ。


しかしシナリオそれだけには収まらない。


ギャルゲあるあるではあるが、全ヒロインを攻略した後2週目のルートに突入する。それから攻略しなかったヒロインが怪異化したり、そのヒロインの周りにいる人間が虐殺されたりとやりたい放題になっていく。


特にSCPとクトゥルフ絡みがもうひどい。


SCPは攻略不可な怪異から全力で逃げるハメになるし、クトゥルフ絡むとまぁグロいグロい。


ヒロインの1人がにんしきのとり案件にぐちゃぐちゃにされたりさぁ。地球にハスター降臨したりさぁ。事前に防がないと即死やめちくりぃ。


そしてそんな地獄を乗り越え、3周目と呼ばれるグランドエンドでは、すべての謎が解き明かされる、となっていた。なっていたのだ。


はい。実はこのゲーム、3周目がバグでクリアできなくなってるんですね!!!


だからこのゲームを手に入れた人は2週目の残虐描写をたっぷりと浴びて、ヒロインたちの怨念を飲み干して、終わってしまうんですよ!!!!


はいクソゲー!!!!!


しゃーないのです。このゲームはもうパッチとか当てられないし、てか無いし、未完成商法かまされるし、下手したらPC壊れますからね3周目入ったら。このゲームこそ祓うべき呪物だろ(真顔)


しかも同人ギャルゲですからね。責任これ以上どう取れって話ですからね。続けてくれれば何かあったかもしれないけれど、もうサークルも無いんだからどうしようもねぇ。


さてなんで俺がそんなマイナークソ鬱ゲーの存在を知っていたかというと、前世の親父が持っていたのだ! 知った瞬間奪って遊んだよね。


んで壊れてもいいPCを使って遊んだことがあるのだが……。いやぁ、ひどいですねぇ!(爆笑)


攻略したヒロインが怪異化して家族八つ裂きにしてみたり、クラスメイトを踊り食いしたり、大腸で大縄跳びしたり、生理的嫌悪感と純粋にグロテスクな描写を混ぜて、挙句の果てではまさか赤ちゃんや老人を……おえぇっ(思い出しゲロ)


というわけで発禁されて当然すぎる2週目を超えて、3周目で無事バグって終了まで遊んだのだ。


といっても、実は3周目、冒頭だけ遊べたのだ。


その時初めて出たキーワード。


【ハナサキを探せ。この世界を終わらせろ】。


主人公が2週目の最後に、ぬらりひょんを倒すために与えられた、発言者不明のワード。それを持って主人公は3周目にして全てのルートを思い出し、遂に最後に世界を救うーーー! みたいな、熱い展開で終わらされた時の俺の気持ちわかる?


わかれ。


続きは気になる。


でも、なんか途中で打ち切られて望みもないなら、もういっかなーみたいな。


打ち切り決定したマンガってどういう話にしたかったんだろうみたいなあの感覚。


でも出ないししゃーないみたいな。


とりあえず作者のSNS探して確認するみたいなあの程度の感覚だった。






そんな世界に転生した俺の気持ちよ!?


そこで才能ナシっておま、最悪やんけ!


転生よ? チート能力とか期待するじゃん!!


せめて俺が3周目の主人公だ!! みたいなテンションで人生過ごしたいじゃん!!!!


才能無いはもう死刑宣告なんよ!!!!


もう死確定なのよこの世界!!!


5歳で「あ、君死ぬよ~結構残酷に。ワンチャン大腸大縄飛び」とか言われたら嫌だろ!!!?


最悪なのは、普通に遊んでたせいでゲーム内時系列とか、今が何の時期とか全くわからないし、結局俺がどうしたら何とかなるとかさっぱり分からないっていう点よ。


詰んだ(涙)


でもなんかそれで終わるのスゲーダサいじゃん?


こっちはもう転生してんのよ。なら転生前よりもっと頑張りたいわけよ。


陰陽師としての修行とかはさせてもらえなかったので、体動かす分には良いだろと思って陰陽師の直轄で稽古できる剣術道場とかに通った。


最初は楽しかったよ?でもさぁ、徐々に陰陽師の才能ってやつが邪魔するわけよ。


7歳くらいになるとみんなあれよ。


使い魔……っていうか、式神とか使えるわけ。


う、うらやましぃいぃ~~~~~。


んで実践的な試合とかする時よぉ、式神と一緒にバトってくんの!


頭おかしい()


誉を捨てるな。


めっちゃ才能のある幼馴染ちゃんは白虎とかいうめっちゃ強いトラに乗って薙刀ぶんぶんしてくる。


それで永遠に鬼ごっこしてくるんだぜ? 薙刀当たったらお前負けな!(死)みたいな。


んで無邪気に「なんで与一くんは式神もってないのー? 出せばいいのにー(笑)」とか聞いてくるんだぞ?


年相応にサイコパスみたいな発言。


必死にトラの足元ちくちくして逃げてを繰り返して逃げ回ったもんよ。


んで12歳の時だ。


陰陽師だからさぁ。要は魔とか妖怪とかその辺とも戦うわけじゃん?


皆覚えるんだよなぁ。術式。


攻撃術式で炎とか出してさぁ……。するとどうなるか。


攻撃術式、防御術式、支援術式、式神と一緒に攻撃してくるわけ。


幼馴染ちゃん天才みたいでさ。


時期当主候補筆頭らしくて、術式もぽんぽん覚えやがってよぉ~……。


俺のポジションであれよ、そこはさ。


白虎と一緒にすんごい突進しながらフルオート攻撃術式からの金属を纏う防御術式と支援術式でフル装備してくるの。死ぬて。本編前に死ぬて。


気持ちとしてはあれだよ。


初見のエル〇ンリング攻略みたいな。


あれの方がひどいか……。


あ、そうそう。


俺の生まれた世代って有名な五代屋敷ってのがあってさぁ。


安倍家

賀茂家

蘆屋家

小笠原家

土御門家


この5つの屋敷、というか流派がある。まぁあれよ。有名どころみたいなもん。地方にもいっぱい独立する陰陽師いるらしいし。ただこの5つの流派が今のところ強すぎるってだけ。


んで白いトラに乗って薙刀ぶんぶん幼馴染ちゃんがなんと蘆屋家なんだよね。


するとほら……。


「えー! 蘆屋さん、与一くん倒せないの~? ざぁこざぁこ♡」


と同級生から煽られるので、顔真っ赤にしながら薙刀ぶんぶんされるわけ。


やれやれ、妖怪より人間の方が怖いわ。誰だよ煽ったカス。メスガキって存在はいずれ刑法に問われる日が来ると信じてる。


ただ剣術道場に通ってたおかげでめっちゃ自信もてるようになったよ。分相応にね。


幼馴染ちゃんとの追いかけっこを頑張りすぎたのかさ、めっちゃ肉体強度上がったんだよね。


下手したら死ぬっていう環境に身を置き続けたからかな……。


母親からは「陰陽師の才能無いと思って泣いたあの日の涙返してほしい。ぼっこ振り回してヨソに迷惑かけないの。蘆屋さんからまたクレーム入ったわよ。無視したけど」


と怒られ、父親からは


「逆になんで陰陽師の才能ないの? ノリだけで生きてる?」


とあきれられた。


そこまで言う?




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





15歳になったら一人暮らしが始まった。


普通の場合は陰陽師の養成学校に通うのだが、才能無いので普通の高校への入学が決まった。


おのずと陰陽師を辞め下界で過ごすことになる。グッバイ才無き者よ!2度と戻ってくんな!というのが偉い人の言い分さ。いやだねぇ。


良いのか悪いのかは分からない。


ぬらりひょんの封印解く奴を見張ることもできないし、死刑台に送られるのが後回しになったのかもわからない。


まぁ、偉い人がそんなこと言っちゃったもんだからさ。しょうがないじゃん。


って思ってたら幼馴染ちゃんがぶち切れがん泣きして死ぬほど暴れまくって偉い人たちが宙を舞った。


怖すぎる。


必死に説得することになった俺に対して、偉い人も泣きながら「ありがとう与一君」と和解できからまぁいっか。良いのか?まぁいいか。


しゃーないのでまた帰ってくることと、適当に「まぁ俺を余裕で捕まえられるくらい強くなったらすぐにでも戻ってやるよw」と約束した。


俺鬼ごっこ得意だったし負けたことないからな。叶うことはないだろう。


すんごいドヤ顔で言ったら納得しながらのがん泣きモードになった。もうこれ以上はどうしようもないのでメスガキ同級生が連れてってくれた。ありがとうメスガキ。ママみたいな慈愛を感じたぜ。次から心の中でメスガキママと呼んでやろう。


まぁ元々陰陽師向いてないって言われてんだから大丈夫やろ。普通に生きた方が最後まで人生全うできる可能性すらあるし。


このギャルゲのシナリオも結局いつスタートかもさっぱり分からねぇ。


陰陽師としての才能は全くないことはよーく分かってるのだ。


多分妖怪と戦うことになったらぼっこ振り回す以外道がない俺はすぐ死んでしまう。まぁ、結局分相応な生き方が大事ってことだろう。


悪いな原作主人公。手伝えなそうだからそっちはそっちで頑張ってくれ。応援するぜ。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


学校生活から、4ヶ月が経過。




そんなこんなで夏休みに入った。


入学してからすっげぇ楽しかった。めっちゃいい学校だった助かる~~~~。


そう思ってたので夏休みがなんなら寂しいまである。もうあんな殺伐としたバトルや権力闘争の場にいなくていいの楽しい~~~~~~。


そう思っていた時期が俺にもありました。


アパートの一室。


真昼間に起きて気分よく漫画を読んでいた時の事だった。


コンコン、とノックの音が聞こえたので扉を開けると、親父がいた。


「よ」


「よ、じゃねぇよ……。どうしたんだよ急に。珍しい」


「いやー与一。良かったわお前がいてくれて。本当に助かる」


「? なんだよ改まって。助かる……?」


「ちょっと中入っていいか?」


「あぁいいけど」


「「お邪魔します」」


「はーい、ん? え? は?」


親父の背中に隠れるように、もう一人の声が聞こえた。


振り返ると、最初に見たのは足元の草履だった。


赤が基調の振袖、茶色の袴……、振袖は金刺繍の入った上等な意匠。


レトロモダンを感じさせるような服装で、墨を垂らしたようなきれいで長い黒髪。


物憂げな顔をした、すごい、美少女がいた。


なんだこの娘。ゲームにこんな娘いたっけ……? いや、いないはずだ……和服少女なんて一人も……巫女服はいたけれども。普通にみんな現代ファッションだったよね? あるぇ?


「え、っと。どなた?」


親父が俺の両肩をぽんと叩き、掴んだ。


「すまん! 当分の間この娘を守っておいてくれ!」


「……は? はぁああああああああああああ????」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




部屋の真ん中に置いたちゃぶ台、座布団を3枚囲むように置いて、そこに俺たちは座った。


親父が彼女を紹介する。


「さて、この子の名前は【小笠原 ひとみ】。苗字は小笠原だけれど、傍流の傍流の更に奥の奥の方にある分家筋の、血だけ繋がっているお家の人だよ」


「……小笠原ひとみと申します。何卒、宜しくお願い致します」


指を重ね、深々と頭を下げる彼女を見て、何とも言えない気持ちになる。


「いや、そんなことしなくても……っていうか、何があってどうしてそんなことに?」


彼女が頭を上げたのと同時に、親父が説明する。


「実はね、彼女の体……怪異が入っててね」


「ピェッ」


思わず変な声が出た。


やばい。やばいやばいやばい!?!?


トラウマが、ヒロイン、怪異化、家族大虐殺、大腸大縄跳び、え”ぇ”う”っ”(エアゲロ)


「はい。……私、人間で、怪異なんです」


「と、とんでもねぇ厄ネタじゃねぇか……。うそぉ。誰がやった? どの妖怪だ? 都市伝説? どんぐらいのやばさ?」


「……しんじて、貰えるのですか?」


「? あ……」


そうだ。そういえば人体に怪異を封印するって結構眉唾な話だったっけ。


前世のゲームでそういう実例を知っているから普通に受け入れたけど、基本そんなことはあり得ないが答えだ。


「ほら言っただろうひとみさん。ウチの息子、順応性すごいからって。才能以外はすごいんだ」


「余計なこと言いやがってえ」


親父が笑って俺の肩をたたく。


「じゃあ、与一、頼んだ。お父さん当分失踪するからさ。ひとみさん無断で連れてきたから追手がすごくてさぁ。後は頼むよ~」


「おー。……お? ん? お、おいっ!!!!」


親父はどろんと音を立てて、突如消えた。


親父が座っていた場所には、式神用の紙人形が残されている。


あの人、式神使ってここまで彼女を誘導したのか。


「……」


「……」


「……」


「あの、……えーと」


「はい」


「……。お茶お代わりいる?」





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




小笠原ひとみという子を一言で表すと「文鎮」と言えた。


そう、文鎮だ。


目が覚めたら所定の位置に座っていて、多少の家事手伝いをしてくれたらずっと座布団の上に座っている。別に何かするわけでもない。テレビがついていたらぼーっと見ている程度だし、ただ正座をしている。すごい。そんな俺正座できないよ。


「なぁ……えーと、小笠原さん」


「ひとみで構いません。苗字はあまり好んでおりません」


「お、おう。えーと、ひとみさんはさ、なんか趣味とか好きなことないの? ずっとそこ座ってるだけだとほら、しんどくない? 飽きるでしょ」


「……」


何かを考えるように、彼女は天井を見つめた。


「あの、すいません」


「なにが?」


「過ごし方が、分かりません」


「ん?」


「平時、落ち着いて過ごせたことがなくて……。このような心穏やかな時間……初めてなのです」


「ぅえぇ?」


「それで、その、時間を気にせず座るだけでも。楽しいと申しますか……、ふふ」


「……、えぇ? ……えぇ?」


困った。箱入り娘的なあれなんだろうか。


流石にこれどうすればいいんだ? 親父、いつまで面倒見るとか言って無いよな?


なんだかなー。前世社会人経験者としてはさ、俺みたいにマンガ読んでぐーたらする生活より、外出て見分でも広めた方がいいんじゃないかって思ってしまう。


というか。


文鎮みたいにずっと座布団の上にぽんと置かれたような少女、居心地が悪いとしか言いようがない。


彼女も自立して動けた方がいいよな。


まぁ、多少外に連れてくくらい問題ないだろ。


どうせ親父が追っ手をなんとかしてくれんだろ。


「はぁー。……あのさー。ちょっと昼飯なんか買おうと思うんだけど、選ぶの手伝ってくんね?」


「え? あ、あの。すいません私そういうの選んだことが無くて……」


「いいじゃん。好きなもの探そうぜ」


「……好きな、もの?」


「好きなもんくらい自分で選んだ方が、気分いいだろ?」


「……好きな、もの」


彼女は、その言葉を初めて聞いたように反芻していた。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




それからというもの、夏休みは彼女に時間を費やしたといっても過言ではない。


「ひとみさーん。買い物手伝ってー」


「ひとみさーん。料理手伝ってー」


「ひとみさーん。掃除手伝ってー」


から始まり、


「ひとみー。ちょっと公園まで行こうぜー」


「ひとみー。夏休みの自由研究付き合えよー」


「ひとみー。図書館行こうぜー」


とかなり振り回した。


一瞬「お? デートみてぇだ!」と思ったが、個人的に恋愛感情は湧かなかった。


多分相手が何もわからない子どもにしか見えなかったからだと思う。


もうただの小さい子どもよ。


そんな感じでずっと接していたが、一番難しかったのは彼女の服装だ。

和服しか持っていなかったため、どうしたもんかなーっと思っていた。


インターネットで検索しながら手入れを行った。


彼女は、腕と足を見せないように過ごしていたから、「家でいじめられてたんかなぁ」となんとなく察して触れないようにしていた。


そんなある日のこと。


「はー、ただいまー」


「きゃっ!?」


無遠慮に玄関の扉を開けてしまったから、彼女が着替えていることに気付かなかった。


「うわっごめ、………………」

思わず、まじまじと見てしまった。


彼女の腕と足は、肉一つ付いていない。


いや、肉がぼんやりと透明なのだ。


骨が剥き出しに見えるような、そんな構造。


透明な肉に囲まれた骨が、自身の大事な部分を隠していた。


「……着替えるので、扉を閉めてください」


「あ、あぁ。すまん。外で待ってる」


「いいえっ!!!!!!」


「!?」


「……中で、逃げないで待っててください」


「逃げるっておま……、ちっ、分かったよ」


扉を閉めて、扉に向かって彼女が着替えるのを待っていた。


ごそごそと音が聞こえるが、何も扇情的ではない。


親父の言葉が今になって刺さってくる。


彼女の腕の骨。彼女の肉体には怪異が封じ込まれている。


彼女が着替え終わった後、お互い対面で座っていた。


座布団の上に座っている彼女は、感情の無い文鎮のような印象があったが、今は違う。


なにか、必死な形相で、震えていた。


「私の家は、小笠原ではありますが……別になにか特別なことをしていたわけではありません。苗字だけを継承し、陰陽師とも関わりもなく、普通の家庭だったと聞いております」


「聞いているって……」


「……周囲の方々から聞きました。名が良くなかったと。ひとみ。この名前のせいで、私は怪異に目を付けられてしまった」


「な、名前? なんでひとみって名前が良くないのさ」


「……。通常の日本の風習ではあり得ないことが起きたと考えてください。本来であれば、本来であれば……。それは神として祀られ、正しく祈りの対象になっていたはずだった。しかし、祀られぬ荒魂が束となり、私に入った。--人身御供(ひとみごくう)として」


「ひとみ、ごくう……」


聞いたことがある。


要は人間を神様の生贄にするというものだ。


日本では川の工事とか、建城する際に人を捧げたなんて話もある。

アニミズムが色濃く残っている場所では、良くある話だ。


だが現代において人身御供が発生することは決してない。


生贄が発生するような術式は、このゲームにおいて存在……、いや、あるのか? 

この世界は、ゲームじゃないのならば。


陰陽師以外の術式があったとか?


くそ、分からない。


「私はひとみと名付けられたことにより、この血と呼応するように、怨霊が形を成し私に憑きました。その後、陰陽師たちによって、私は陰陽師総本山、陰陽庁管轄術式封印指定場である、五星局の管理物として牢に入りました」


「……管理物」


「はい。生まれてすぐ、私は怨霊憑きとして扱われ、実験等をされながら生きた、モノです」


……聞いたことがある。


陰陽師の象徴たる五芒星の名を与えられ、討伐できない怪異を封印し、如何にして封印するか実験を続ける最悪な場所、五星局。


確か、ゲームでは名前だけ出て、本筋には関わらなかったな……。


SCP系の情報集めとかする時に偉い人が相談する場所、とかその程度の扱い。


おそらく転生前の世界で言うところの、SCP財団に近かったと認識している。


妖怪以外の現代怪異の研究もしているはずだ。


ちょっと待てよ。


俺は今まで彼女に封じられているのは、せいぜい周囲を皆殺しにする程度の妖怪と考えていたが……。


なにか、違うのか?


もっと、ヤバいんじゃ……。


「……恐ろしいですよね。このような骨の腕も、人として生きてこなかった身の上も」


「え? あ、いや。そこはどうでもいいかな……」


「ふぇ!?」


「ヤバいのはなんで親父が五星局からひとみを連れ出したか、だよな。今の五星局やばいのかな……ってかなんで親父そんなことを……、あーわぁかんね!」


「……」


「うーん、でも全然外出しても問題なさそうだし、よくわかんないぞこれ。もう考えても仕方ないのでは……。……あ、やべ。ごめん、謝罪が先だったよな。裸見てごめんな」


「……。ふふ、おかしな人」


何故か謝る俺を、彼女は慎ましく笑った。


俺は気付いていなかったが、この時初めて、彼女の笑顔を見たのであった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「わりぃなー。買ったもの持ってもらって」


「いえ、お気遣いなく!」


彼女は笑顔で、俺の後ろの三歩後ろを歩く。


モノとして扱われたというが、陰陽師流の教育を受けてきたのではないかと思う。


かなり古風なムーブをよく彼女はする。カビの生えた大きい家の陰陽師が教育されるとこうなる。

安倍家とか全員こんな感じだし。


ちなみに安倍家は男性陣も女性陣も怖い。


サムライみたいな生き方してるし、女性陣は巴御前に憧れてるし、なんなら1位取れないなら全員切腹するくらいの勢いでやってくる。


でも勢いだけである。


蘆屋の幼馴染ちゃんが天才過ぎて口癖が「蘆屋ぁああ!!」になってるのが面白かった。いやまぁ、蘆屋には勝ちたいよね。安倍家。


「あ、そこのカップルさんよぉ! 買い物終わりかい! レシート提示800円で一回抽選ガラガラ出来るよ!」


「誰がカッポォじゃい!」


俺が大きな声で突っ込んだら、首を傾げたひとみ。


「かっぷる……」


「あぁ、付き合ってるとか、お慕いしあってる仲だろって揶揄ってんのさ。ひどいぜおっちゃん。俺の顔でこんな子と付き合える分けねぇだろ」


「はっはー!違いねぇ!」


「おい!」


商店街でよく見かけるおっちゃんのところによって、俺はレシートを提示する。


「ほい2回。彼女さんとやんな」


「まだ言うか。おーいひとみー。ガラガラしようぜ……。あれ?」


顔を両手で隠しているひとみ。なんかあったんだろうか。


「ほらガラガラやろうぜ。行くぞ」


「え、えぇっ!?」


背中を押して、彼女をガラガラの前に立たせる。


袖を持って、丁寧に一回彼女が回すと、金の玉が出てきた。


「おっ! お嬢ちゃん金の玉だ! 金の玉が出てきたぞ!」


「え、えっと」


「お嬢ちゃん運がいいね。お嬢ちゃんの金の玉、水族館デート券だよ! 彼氏と一緒にデートしてきな! おう与一、お前も金の玉出せんのか? 金の玉持ってるのかい! 持ってないのかい!」


「金の玉金の玉うるせぇなクソじじぃ!!!!! しおれたバナナは黙ってな!」


「あんだと!」


「あん!?!??」



「……でえと」


商店街のおっさんから貰った水族館のペアチケットを、大事に抱える。


彼女はその言葉の意味をいまいちピンと来てなかったけれど、どこか、優しく微笑んでいた。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ここが、水族館……」


「イルカとか見られるぞ」


「イルカ……見たことありません」


水族館の前に、俺と彼女はいる。


まさか、本当に行くことになるとは思わなかったぜ。




始めて電車に乗った彼女はおどろおどろしく震えていたけれど、流れる街の景色を喜んでみていた。


水族館の前にいる彼女は、目を輝かせながら未知の物に対するあこがれを抑えきれずにいた。


水族館の中に入ると、彼女は目を輝かせながら水槽の中にいる魚を見つめていた。


「うわぁ……きれい」


「魚を見てキレイって表現出てくるの素敵だな。俺には口パクパクしてるーくらいの感想しかでねぇぜ」


「もう、少しは気持ちを共有してください」


「はいはい、おっと、あれすごいな」


「なんでしょうこの魚……、さかな?」


「チンアナゴじゃないか? アナゴってやつだ。海にいる蛇みたいなもんよ」


「そうなのですか!? これは、蛇なのですか!?」


「あぁ多分そう」


すると、突然ぽんぽんと背中をたたかれる。


小学生だ。


「違うよお兄ちゃん。アナゴは海蛇じゃなくてウナギの一種なんだ。海蛇は毒を持ってるけれど、アナゴは毒が無くて食用として人気なんだ。チンアナゴも無害で、主に小さい魚やプランクトンを食べて生きているんだよ。そんなことも知らないで水族館に来たの? 適当な知識でここに来ると、水族館の猛者たちにやられちゃうよ」


「お、おうごめんな」


「いいよ、出会ったのがこのチンアナゴマスターのたかしと呼ばれた僕でよかったね。これがダークネスカクレクマノミ軍団だったら……。ウウン何でもない。じゃあね、無事生き残るんだよ」


「どういう世界観?」


おそらくこの水族館、俺の知らないシナリオ進んでるな。


同人ゲーあるあるの良く分からない設定がここでも活きているというのか。


「なんだったのでしょうか」


「ま、楽しもうぜ。あ、そうそう。チンアナゴって海蛇じゃなくてウナギなんだぜ?知ってた?」


「小学生の言葉をそのまま引用するのですか……。ウナギ、生で見たことありませんね。見たいです」


「おっ、じゃあウナギ探すかー」


そんなこんなで、色んな水槽の魚を見ていた。


特に面白かったのはトランスルーセントグラスキャットの美しさに目を奪われていた彼女の後ろで展開されていたダークネスカクレクマノミ軍団vsたかしによる激闘だったのだが、この話は割愛しておく。


イルカのショーも、俺は前世含め初めて見たし、とても楽しかった。


とても素直に笑う彼女を見て、なんとなく、来てよかったと思った。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


家に帰った後、思い出を語りあって、飯食って、片付けてる時だった。


「あ、そうそう。俺次の日曜が終わったら学校行くからさ。お留守番よろしくな」


「えっ」


がしゃーん! と皿を豪快に落とす小笠原ひとみ。


「おーマジか大丈夫かよ。今皿拾うから掃除機持ってきてくれ」


「え、あの、その。学校って……」


「え? いやほら。普通に夏休み終わるしな。もう9月になっちゃうしなぁ。時間の流れって速いもんだわ」


「あの、その」


「ん?」


「……わ、私……」


「まぁ鍵預けるし! 自分の時間を持つってのも大事だぜ! これを機に好きなものでも探せばいいさ!」


「…………好きな、もの。あ、あの」


「どした? ケガした?」


「…………学校というのは、その、女の方もいらっしゃるのでしょうか?」


「え。そりゃいるでしょ」


「…………そう、ですか。そう、ですよね」


俺が皿を片付けている間に、どこかしっとりとした瞳で俺を見つめている彼女の姿に、俺は気が付くことができなかった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


夏休みまで、あと5日。


「あの、本日はどこかに行きますか? それとも、家にいますか?」


おもむろに彼女は尋ねてきた。


「え、まあ……宿題やってるくらいだけど。どっか行きたいのか。行ってもいいぞ」


「……いえ、そうではなく、はい、そうではないのです」


「……? そっか」


俺が立ち上がると、彼女も立ち上がった。


「どこかに行きますか?」


「いや、水飲もうと……。やっぱどこか出かけるか?」


「いえっ、そうでは、なくて…………、はい、そうではないのです。ごめんなさい」


「? 変なの」






夏休み終わりまで、あと4日



「……」


ひたひた。


「……」


ぴたっ。


「あの、トイレ行くから」


「はい」


「はいじゃないが……」








ひたひた。


「……、あのさ」


ぴたっ。


「なんでしょう」


「お風呂…………服脱ぐから」


「はい」


「はいじゃないが」







じぃー。


「……」


「……」


じぃー。


「……」


「……」


「あ、あの」


「はい」


「寝るんだわ」


「はい」


「なんで正座して寝相見てるん?」


「はい」


「はいじゃねぇよ寝ろっっっ!!!!!?」








夏休み終わりまで、残り3日




『っつー訳なんだが。なんとかならんかね』


『えー与一くんそっちでも女の子捕まえてイチャイチャしてるんだー♡しかも同棲中〜?手も出せないヘタレのくせに♡ざぁこざぁこ♡』


『お前ってやつぁあああよぉおおお!!!』



さて、哀れなことに陰陽師というやつは通信機器を持たない奴が多い。


大体の確率で式札を使った筆談が主だ。


特定のチャンネルを繋いだ式札を使うことで双方の連絡を行うことができる。


このチャンネルではメスガキママと繋がっているわけだが。


『え〜でも私にはどうしようもできませ〜ん♡ちゃんと会話すればぁ?』


『なぁもっと具体的なアドバイスくれよぉ。流石に人生の中でトイレ風呂睡眠時まで着いてくるやつ初めてなんだよぉ。わけわかんないんだよぉ。メスガキママなんだから何か分かるだろ?』


『まだそのあだ名使うんだキレた♡愛しの幼馴染ちゃんに今の話全部チクるから。そろそろくたばれ朴念仁♡』


『お前マジでやめろおいマジでやめっっ』


通信が切れた。


相手方の文字から呪力が消えたのが分かる。


こういう時はいくら文字を書いても伝わらないだろう。


さて、こうして筆談をしている時も。


「……」


座って俺の様子を見る。


何を書いてるかは見ていないようだが、ひたすら視線が背中に感じる。


メスガキママからは会話しろとは言われたが……。



「なぁ、その。最近どうしたんだよ。すごい引っ付いてくるし。はっきり言ってその、変だぜ? マジで」


「……そう、でしょうか」


「理由があるなら言ってくれって感じだぜ。流石にスルーし切れないっていうか」



彼女の方を向いても、彼女は下を見て、顔がよく見えなかった。


「そう、変。変なのです、私。いつからでしょう。分からなくて……」


「……」


「元々、嫌われることが当たり前だったから……」








〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



五星局

現代怪異科

管理飼育区画

3号棟 梅の階 某一室


「おぞましい、骨の怪物だ」


「あんな気色の悪いもの、よく置いておけるな」


「し、聞こえるって」


「放っておけ。あんなモノに情など与えるな」


思い出せる限りの記憶には、そんな言葉から始まるものが多かった。


固形物を食事として与えられても食べた気がしなかった。


何故か力が入らなくて、大切な尊厳を常に失った気がしていた。


ずっと実験台。ずっと飼い殺しの、私。


自由はない。生きているだけでありがたいと思えと、100は聞いた気がする。



教育の時間というものがあった。


物の考え方はそこで教わった。


「お前はここで生きていくしかない。常識を学び生まれながらの罪を償え」


訳がわからなかった。


ただ名前が“ひとみ”だったせいというだけで。


私は名前に殺されるのか。


親の顔も意図も知らず。


ただ生きているだけで。


そんな時に、転機が訪れた。


「ヤァお嬢さん。名前は小笠原ひとみさんで間違いないね。君を誘拐するから、そこで自由に過ごしてほしい」


与一さんのお父さんが来た。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「そこでやっと、与一さんと出会って、初めて……私、生きてても良いんだぁってなって。何気ない日々が楽しくて、嬉しくて。それが、どうしようもなく不安になってしまったんです。もうこんな日々も終わっちゃうかもしれないって思うと、辛くて」


「ひとみ……」


「ごめんなさい……っ、ご迷惑を、おかけして……っ、でも、わたしっ」


「……」


「やっと、やっと好きなものが、見つかったんです……っ! 与一さん、私っっ」


「……そっか。良かったじゃねぇか! まぁ不安なこともあるかもだけどよぉ、あとは慣れだからさ! 一緒にがんばってこうぜ!」


「えっ!? あの、あのっ」


「良いから良いから! ほらもう寝る準備するぞって! 歯磨きしてこいって!」


「……、わかり、ました……」


こうして、この日はそのまま会話を終えて眠った。








おかしい。


何かが変だ。


今の話自体は悲劇だったし、【ハナサケ】の世界観ならありふれたものだ。


だが何か、俺の思考に過ぎるものがあって。


“これ以上は危険だ”と思ったから、会話を打ち切ったのだ。


分からない。


何故俺はこんなにも怖い?


何故俺は、今もこちらを見続けてる彼女に警戒心を抱いてる?


……頭の中を整理しよう。


まず違和感を覚えたのは……そう、“生活”だ。


あまりにも日常生活を過ごせすぎている。


実験体のモルモットがそんなことできるのか?


普通に和服の着替えもできて、歯も磨けて、食事もこっちで普通に食べてる。常識の範囲内で外だって歩けた。


どういうことだ?


五星局で彼女は不当な扱いを、本当に受けていたのか?


なんで彼女は、


というかなんだ。


(はい。……私、人間で、怪異なんです)


(……しんじて、貰えるのですか?)


そう言ってた彼女だが、なんだろう。


五星局では、怪異として扱われていた?


人間として扱われなかった?


ん……?


もしや……。


ひたりと、急に背中に感触があった。


背中に、手を当てられて、心臓の位置に……。


「っ」


俺はすぐに寝返りを打つようにその手を振り解く。


ふふ、と声が聞こえて、隣から寝息が聞こえた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



明後日には学校が始まる。


さて、何事もなければいいが……、ん?


チャイムの音が、鳴っ


(ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぴんぽんぴんぽんぴんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぴんぽんぴんぽんぴんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぴんぽんぴんぽんぴんぴんぽん)


「近所迷惑だろうがッッッッ!!!!誰だぁ!!!!!!!!」


俺が扉を開けると、完全武装で霊力の鎧を纏い、薙刀を持ち、白虎にまたがる少女がいた。


俺はゆっくり扉を閉めようとするが、既に白虎の足が扉に挟められていた。


「なんでいるんだよぉおおおおおおお」


「えへへ、来ちゃった」


最悪だ。まさかの幼馴染ちゃん襲来。


メスガキママめ、完全にチクりやがった。


「あ、の。どちら様で……」


ひとみは伺うように玄関前に寄る。


すると大きな声で幼馴染ちゃんが叫んだ。


「初めましてぇええ!!! 私ぃ!! 須藤与一くんのお嫁さんのぉ!!!! 幼馴染でぇ!!! 次期蘆屋家当主候補を与一くんに婿入りという形でお渡しする予定なんですがぁ!!!!! 与一くんとイチャイチャラブデートがここで出来るって聞いてぇ!!!!」


「やめろやめろやめろやめろ!!! おい!!! 近所迷わ、うるせぇマジでやめっ、やめろおぉおおおおお!!!!」


説明しよう。


幼馴染ちゃんは俺のことが好きと公言している。


しかし俺は全く付き合う気がないのである。


ことごとく蘆屋家ごと俺に渡そうとするし、普通にじゃれあいと言う名の殺戮をしようとするのでNGなのである。


メスガキママがいればまた違うのだが、彼女単体で襲来した場合、俺の近くにいる女性に威嚇し、アピールを開始する化け物である。


天才だからって甘やかしすぎなんだよ蘆屋ぁ!!!!!


お前のせいでたまに蘆屋家の人からガチで暗殺されかけてるからな俺!!!!!!!


あと安倍家にも殺されかけてるからな!!!!!!


安倍は安倍で「天才の血がウチに入れば幼馴染ちゃんも安倍だよね(キラッ」みたいな理論だからカスやぞ!!!!!














「………………ぇ」











「ん?」


なんだ、急になにか、寒気が。


「あの、与一、さん。その、方は、おつ、きあい、を、され、て」


「え、いやそうじゃなく」


「結婚するんだもんねぇ!!!」


「おい話エグいことになるからマジで黙ーーーーーーーー」






「っ、ごめんなさいっ……っ」


ドンと、背中を押されて。


ノブから手を離したことで扉が開いた。


そしてそのまま彼女は、草履を履いて



何処かへ、走った。





「え、ちょっと、ひとみ!!?」


俺は追いかけようと玄関を出ると、幼馴染ちゃんが俺に抱きついてきた。霊力の鎧がゴツゴツしてる。


「うーん、与一くぅん」


「ば、バカお前!!? 今それどころじゃないだろ!!! あいつが!!」


「今は行っちゃダメ。だーめ」


「ぐぉおおおおおおおご、ゴリラぁああああああああああ!!」


「だっ、誰がゴリラじゃいっ!」


「ぐわああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!?!?」


彼女は死ぬほど抱きついてきた。ミシミシと音を立てる肋骨。


力一杯彼女は抱きしめて、抱きしめて。



ーーーー俺はひとみと目があった。


こちらを振り向き、抱き合う2人を見て、改めて動揺した表情を浮かべて、胸を押さえて、走り去った。


「うーん。あの女の匂いがする。上書きしなきゃ(使命感)」


「いだいいだいいだいだいっっっっ!!?!? おま、バカ!!!? おい離せ、離せこんにゃろー!!! 今そんなことしてる場合じゃないって、あの子追いかけないと」


「ーーーー可哀想な与一くん。死穢れの気配をこんなに漂わせて。今浄化するから待ってて。あの女、まだ呪力でコッチを覗いてる。酷い酷い」


「えっ」


俺は当たりを見渡すが、ひとみなんて何処にもいない。


しかしこの幼馴染、陰陽に関しては天才。そんな彼女が俺に死穢れが憑いていると言えばそうだし、ーー覗いていると言えばそうなのだ。


「あの女の子、凄いね。与一くんに助けてもらおうとアピールして、私弱いんですってチラチラこっちを見て、……私の好きな人のことを勝手に好きになって。今か今かとアッチに来るのを待ってる。ダメ、まだ動かないで。白虎、合図10秒前。はい与一くん死穢れ取れたよ。あと2日で命ごと持ってかれてたね。感謝してね。まぁ与一くんのお父さんもこの為に私を呼んだんだろうけど……役得だからまぁいっか」


「は、ぁ!? お、親父!!? メスガキママじゃなくて!!?」


「はい、そういうこと言う人は、お仕置き」

そう言って彼女は、俺の頭をがっつり手でロックし、頬に口付けした。


口付けをしたのだ。








『 

    見

       逶ョ

  ぁ   

           ひ

      殺   

              』







“ナニカ”が、それを見た。


鳥が突如泡を吹いて空から堕ちた。


朝の青空は、燃え盛るように赤ずんでいく。


木魚の音が聞こえた。


カエルが一鳴きし


カランコロンと音を立てて、行列が車道を横断する。


骸の行列。


それは雑多な骸だった。


第二次の禍根、帝国の象徴、或いは鎧武者の喧騒、残骸の寄せ集め。


童の大群、餓死の空虚な腑。


怨と恨の百鬼夜行。


それらは、目的を持って進む。


目的を持って献上する。


ーー参進の儀。


神前や貴人の前に進み出でることを意味する儀式だが、これもこれに当てはまる。


骸骨共は、皆神前に並ぶのだ。


“彼女”にその身を捧げる為に。






「な、なんだこれ……どうなってるんだ」


俺が幼馴染ちゃんに尋ねても、彼女は冷や汗をかくばかりだ。


「ーー本当に凄いね。これは私でも祓えない。あの子、別ベクトルで私と違うタイプの天才なのかも。白虎、合図」


ガウッ! と叫んで、白虎は上空に光の球を打ち上げた。


それと同時に、光の柱が5箇所、骸共を囲むように立ち上がった。


「アレは……浄天地呪!? しかも最大規模の!!?」


「与一くん詳しいねぇ。そう、アレは陰陽師が技を出しやすくする、場を整える結界。五代屋敷の当主全員の本気のやつ」


「……おい。待て。準備が、良すぎるな」


訝しげに彼女に尋ねると、別の方向から答えが返ってきた。


「それでも足りない。そうだろ?与一」


「お、親父?!」


「やっぱりお前がいてよかった。今からザッと事情を説明する。あの子を救う為に必要なんだ。小笠原ひとみを救えるのは与一、君だけなんだよ」


親父が何を言っているのかさっぱりわからない。いや、理解が追いつかない。


「ま、待ってくれ。なんだよ。ひとみを救うって。ま、まさか。あの子がこれを!!?」


「怪異は封じられていたんだ。言ったろ?」


「で、でもこの規模は…………、おかしいだろ」


「あぁ、おかしい。だから最初から説明する。なんでこんなことになったのかーー」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



五星局

現代怪異科

A-662 実験室



「これを小笠原ひとみが?」


その実験室は無惨に破壊されていた。鋭利な爪か何かで切り裂いたようだった。そして、空間ごと保管されたように、死体がポツンと置かれている。死体の周りには、彼岸花が咲いていた。


須藤の父は現代怪異科教授、鼻高の博士、土御門グレゴールと会話していた。鼻が大きく特徴的で、知識を披露するときに高らかに鼻を上に掲げるから鼻高という呼び名がついた。



「んぅん! そうじゃな! 部屋ごと研究対象になっとる!! これを見よ。遺骸の首じゃ」


「死体は首だけが無くなってる……。断面はかなり……ザックザクだ」


「喰われた、いや違うのう。“噛まれた”んじゃ。一口でぱっくりとのぅ」


「か、噛まれたって。どうやって」


「ふむ。……今何時じゃ」


「? 12時ですが……」


「ちょうどええ。カリキュラム通りであれば飯の時間じゃ。ちょっと様子を見ようかえ」





ガラス壁の食堂。いや、食事をしている人間からは見えず、こちらから様子を伺えるマジックミラー張りの食堂で、須藤父とグレゴールは被験者「小笠原ひとみ」を見つめていた。


「あの娘は生活サイクルが全て時間で区切られているでな。分もズレたら会えないこともある。ほれアレじゃ。あの菓子を見よ」


「? 砂糖菓子、ですか?」


「あぁ。石ころよりも固い。常人であれば口の中はズタボロじゃて」


「なっ」


小笠原ひとみは、そんな事も分からないような様子で、菓子を口に入れた。


しゃくっ。


何事もなく、ただ噛んで、噛んで、飲み込んだ。


「……石の固さのモノを、あんな呆気なく」


「取り憑いた化け物が人体に影響する、よくある話じゃ。ただ、アレは別格じゃがな」


「……あの子は一体」


「異なことを。須藤。貴様がマークしたのだから調べにきたのだろう?」


「えぇ。彼女が唯一の手がかりなんです。ーーーー彼女なんですね? 怪異化した際に花を出現させる存在は」


「あぁ。間違いなく。我らは貴様が呼称した【ハナサキ】と呼んでいるがね」







「さて、人間【小笠原ひとみ】についての経歴を説明しよう。あの娘は小笠原家の傍流も傍流程度の存在で、異能力などは存在しなかった。しかし、ひとみの両親は其れを良しとしなかったのが始まりじゃ」


再び、実験室A-662に戻りグレゴールは説明を続けた。


「ひとみの両親は、実子に異能力を授けようと様々な検討を行った。実のところ公表されていないが。彼女の実家の床を掘ると赤子の遺体が2つあった。そういうことよ」


「むごい……。それが親のすることですか!」


「今となっては心中すら分からん。さて、小笠原の最新の娘に両親は「ひとみ」と名づけ、名の力を借りようとした。名づけられたモノにはその役割が付き纏う。皿と名付けられたものが皿以外の用途に使われなくなるように、トイレと名付けられたものがトイレ以外の用途に使えなくなるように。名付けとは言霊で縛る最初の呪いなのだが。そこに「人身御供」を意味するモノをつけ、彼女を生贄にすることにした。より強大な力を手に入れるための器としてな」


「……それが、あの」


「ーー残酷なことに、儀式は成功した。これを見よ」


グレゴールが出したのは、ファイリングされた写真だ。


その写真には血文字で書かれた呪いで生まれた契約書が映っていた。


須藤父が目を通すと、狂わんばかりに怒声を上げる。


「死霊魂縛による婚姻の儀、だと!!!!?」


「あぁ。それもかなりの呪術的な縛りを設けてある。彼女はね、生贄に捧げられたモノと結婚させられた。実のところ不思議ではない。7歳までは神の子として扱われる時代に、モノと結婚することはあったそうだ。しかし、……この怪異は、当時0歳だった彼女の中に全員で入った」


「全員? 妖怪一体ではなく?」


「全員じゃ。……体内に入り、束となって、一つの形になった。そして形が成され、彼女の両親は頭から喰われ死んだ。因果応報じゃな」


「……」


「そして、五星局に彼女はきた。最初はうまく育ててきたが、最悪の事件が起きた。彼女の教育係を、彼女の血統、本家筋の『小笠原』に頼んでしまったことよ。エリートコースを進む女じゃった。しかし五星省に来て小笠原ひとみという差別の出来る娘子を育てる為にここに来たんじゃないと、彼女に対し嫌がらせを行った。ーーそして、彼女は言った。当時4歳の子に「両親を食い殺した小笠原の恥知らず」と」


「なんということを……」


「幼い彼女はそのことを受け入れられず、暴走して、頭蓋から喰ってしまった。殺した後、気が鎮まり、次に目覚めたときには都合のいい記憶改竄で全て忘れておったわい」


須藤父は改めて実験室を見る。なるほど、あの遺骸にはそういう意味があったのかと少しだけ感心した。


「わずかな研究員達も口汚く殺したことを責めた。しかし大多数は「教育を施し、罪を理解させる」という方向に落ち着いた。あの子はかなり自由にさせている。そう思うだろ?」


「えぇ。彼女は比較的動けますね。他の子たちは、全員行動一つに申請が必要です。彼女だけが無罪のような扱われ方をしている。でも何故か彼女は、心奪われたように虚ろだ」


「ーー彼女を教育し続けたが。罪も事象も暗記するばかりで、心を理解してくれない。それが悔しいのう。職員も優しい言葉をかけるようにさせたが、話が聞こえてない様子。まるで被害者面をしておるのじゃよ。私は悪くない、と」


「……心を、理解させる。ーーなるほど。すいません。そういえば、取り憑いた化け物の名前は?」


「あぁ。化け物は現代怪異の一角ーーーーーーーーー」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




骸が歩く。


この街にいる少女の下へ集う為に。


少女は過呼吸のように胸を押さえて、地面に崩れ落ちた。


「っ、はぁ、っぁ、あ、はぁ、ぁああ」


少女の心臓が強く脈打つ。


抑えた手が視界に入る。


ーー骨だ。


少女の目には骨が映っている。


手のひらが骨になり、その骨が、ぐい、ぐいと、指先を超えてくる。


「っ、いたい、痛いです、与一さん、痛い、いたい……」


胸の痛みが止まらず、汗がたらたらと流れていく。きっと全身が痛いはずなのだ。


しかし、胸だけが痛い。


まるで何かの病を患ったように。


「痛い、痛い、与一さん、よいち、さ」


がり、がり。


指先の骨が、地面のコンクリートをえぐっていく。


骸が、彼女を囲んでいく。


「ぁ、ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア、ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア、餓唖唖唖唖唖唖

唖唖唖 唖唖唖

   唖唖唖    唖唖唖

唖唖唖  唖唖唖 唖唖唖

 唖唖唖 唖唖唖 唖唖唖

   唖唖唖 唖唖唖 唖唖唖

唖唖唖

唖唖唖  唖唖唖





唖唖唖」




バキリと、音を立てて背骨が爆ぜた。


肋骨が弾け、地面に突き刺さる。


叫んだ顔は、遂に頭蓋のみとなる。


心ごと、つぶれるように、周囲の骸がぐちゃりと音を立てた。


そして、一瞬にして……”喰われた”。


この行列の屍は、食糧だ。


怨を埋め、恨を啜り、呪を交えて、害となす。


骨が、肥大化し、屍たちのは、集合から一の個体へと変質する。




ーーー地面から、血を吹かすように、彼岸花が咲いていく。


彼岸花に囲まれた、超巨大な骸骨。


黒い髪が抜け去ると、頭にベールのようなものが透明に流れていく。


白い花冠に純白のベールは、すべて骨でできていて。


四つん這いになり、肋骨で体を支え、彼岸花を揺らす。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


陰陽省 データベース 

怪異認定 階位 甲(場合により乙)

        国土崩壊規模

他団体危険度 keter

討伐方法 現行討伐例無シ。

属性   不明

弱点   不明

任務対象範囲  救国ノ英雄、又ハ其レニ準ズル者

時間帯  夜(例外アリ、局所時間操作、存在固定空間発生アリ)        


個体名称【餓者髑髏の花嫁】


特別収容プロトコル

長期的な収容は可能です。

野外で目撃された場合は機動部隊【対土蜘蛛事例武装隊】による戦闘を行い無力化します。接触した民間人は記憶処理後解放とします。



説明文

人間【小笠原ひとみ】に餓者髑髏が憑りついたことにより餓者髑髏が変質した姿。


人間【小笠原ひとみ】は霊魂と婚姻関係を結ぶ儀を行ったことで肉体に霊魂を詰め込んだ。しかし対象を定めないことで怨念が一つに収束し餓者髑髏となった。


これにより、餓者髑髏になれる人間として五星局により管理されていた。


容貌は通常の餓者髑髏に加え花冠とベールがつけられている。また、異常な呪力の影響で地面に彼岸花が大量発生する。


餓者髑髏は人間をとらえ捕食する。


【小笠原ひとみ】が4歳の頃、管理にあたっていた職員1名が首から餓者髑髏に食われている。


現行で分かっている対処法として

【小笠原ひとみ】の感情が落ち着くこと、外時間で朝を迎えること 以外判明していない。


餓者髑髏そのものは神道の儀式を用いて追放することはできたが、永久に滅ぼす方法はないとされている。


陰陽庁、及び五星局が彼女に期待していることは、「世界初の意思疎通が可能な餓者髑髏としての部隊転用」である。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「分かったか?」


親父からの言葉を聞いて、俺は思わず空を仰いだ。


朝だったのに、もう夜みたいだった。


間違いなく、【小笠原ひとみ】による時間操作だ。


……なんでだよ。


「なんであの子を、俺の下に連れてきたんだよ……。なんで先に教えてくれなかったんだよ!!! た、確かに俺さ、陰陽師の才能ないけど……。事情くらい説明してくれても!」


「違うんだよ、与一。君だから、彼女を普通の女の子と同じように接することができた。それが、僕らの一手だったんだ。普通に接する、それが出来たから成り立つ作戦なんだ」


「お、親父は一体何を」


「……これは、言いたくなかったんだが……」


「……」


「与一。4歳の頃のお前が……間違ってお酒を飲んでしまった時の話だ」

「おい大丈夫かよこの話!! マジで!!!」


「……酔っぱらったお前が言ったんだ。『うっひょー!この世界は実は同人ギャルゲーの世界で鬱世界観なんだぜー!』って」


「コヒュッ」


え、なになに?


え、は?


おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!??!?!?


おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!??!?!?


おっ、おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!??!?!?


「馬鹿なこと言ってるなーとは思っていた。でも話自体は結構覚えててしまって……養成学校の地下にぬらりひょんいて、ガチじゃんってなったんだよ……」


「あば、ばあばばばばばば」


「それからぬらりひょんの封印確認がてらついでにその霊力浴びながら修行してお父さん、めっちゃ強くなっちゃったし……」


「ピィ」


「4歳のお前が言ったんだ。【ハナサキを探せ。この世界を終わらせろ】って。俺はずっと探し続けてきた。ハナサキと呼ばれる存在を。そして……。彼女がハナサキである可能性が高い。地面を見てくれ。霊力の影響でこの世界の法則が乱れ、彼岸花が咲いている。これがぬらりひょん攻略のカギとみている」


「お、親父ぃ!!!! くっそ有能じゃねぇかぁ!!!!!」


「へへよせよせ。さて、じゃあ何故ひとみさんを餓者髑髏化させたかというと、彼女の体内の死穢れがかなりパンク状態だったんだ。おそらく2年持たずに自滅する可能性があった。彼女を餓者髑髏にして、犠牲無くすべて解決させる。そういう計画だった」


「なるほど! ん!? で、結局なんで俺だったんだ? つかなんで俺の家? 五星局でよくね?」


「……」


「……」


ーーーーーーー以下息子に伝えていなかった情報ーーーーーーー


五星局

現代怪異科

A-662 実験室


グレゴールとの会話にて


「……なるほど。さて本題に行きましょうか彼女の死穢れはこのままだと2年でピーク、そうですね?」


「あぁ、間違いない。2年後には勝手に死ぬ。……しかし、貴様は望まないのだな。かの怪異の死を」


「はい。生きててもらわないと困る。よって小笠原ひとみさんをコントロールする方向に持っていく為【息子と恋のイチャラブ怪異コントロール大作戦】を、実行します!!!!!! 蘆屋家というバリバリのエリートを恋でぐちゃぐちゃに壊滅させた息子ならばできます!! 正直あいつ面倒くさい女の子に好かれるのでガチで出会ってすぐに打ち解けてしまいます!奇跡的に地雷とか回避するので!!! 恋で落とした後にメンタルを意図的に崩させて怪異を顕現! 死穢れを一旦体外に放出し延命! 息子が怪異を口説いてゲームセットぉ!!! 完璧な作戦です。陰陽庁及び元老院からもお墨付きを得ています!! 軍部もあれです!「えー兵器にできるー?ワクワク。でも幸せならオッケーです」と許可をもらいました! 小笠原ひとみという面倒くさい女なら勝てます!! 協力してください!! 多分罪の意識とか反省とか息子に任せれば普通に植え付けられます!! メリットいっぱい!!」


「……色々言いたいけどネーミングぅ!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「行くぞぉ!!!!」


「待てぇゴルァあああ!!!!」



須藤の父と与一が光の柱で囲んだ世界に突撃していき、幼馴染ちゃんだけが取り残される。


「……ねぇトラぁ。絶対さー。与一くんのお父さん、悪い考えだったよねー」


彼女がまたがっていた白虎を撫でる。


「ぐるる」


「与一くんってさー。変な女の子に好かれちゃうんだもんねー。ひどいよねー。絶対さー。与一くんのお父さん、餓者髑髏状態になっても与一くんなら会話ができるんじゃないかって踏んでるよねー。まぁしょうがないか。陰陽師の才能がない代わりに、私や彼女みたいな特大の呪力も無視できるから、怖がられずに話しかけてくれるもんねぇ。一人だけでもいつも通り、話しかけてくれるって、嬉しいもんねぇ」


「ぐる?」


「あの五代屋敷当主格の結界すら最高水準って、親馬鹿だよねぇ。……それでも足りないっておかしい。でも、彼を取られるの許せないから私が先に倒しちゃおっかな。白虎、全力でダッシュ」


「ぐらう!」


白虎が跳ねて、白い線になるほどの速度で駆け抜け、5秒もすれば、須藤与一の隣にすっと入っていた。


「私先行くけどいい?」


「乗せて!」


「うふふー。いいーーーーーーやば」


そう言った瞬間、白虎が彼岸花を踏みつけーーーーーー。


彼岸花から血のような液体が噴き出て、地面から骸骨どもが溢れてきた。


「なっ!?」


「彼岸花から出る呪いが込められた液体……。それでこの地域に根差す死体どもを召喚しているんだ。恐ろしい。合戦場とかで召喚されてたら骸の殺人集団がやってくるわけだ。与一くん、ごめんね。私なんとかするから先行って!」


「わ、わかっ、たぁ!!!」


可能な限り彼岸花をかわそうとしながら走る与一。


「ぐっ」


突如、須藤父が膝をつく。


「だ、大丈夫ですか!?」


「やられた。花の香りにも呪力がある。潰せば潰すほどこの一帯が呪いで満ち溢れてるのか。餓者髑髏ですらやばいのに……異界化を進める能力持ちときた」


「そんな。餓者髑髏自体が日本トップクラスの妖怪なのに!?」


「――【ハナサキ】を甘く見ていた。でも大丈夫。与一なら。与一ならっ」


須藤の父の信じる気持ちが、幼馴染の彼女にはとても理解できた。


「……陰陽師の才能がない代わりに、陰陽術や妖怪の呪をあまり受け付けない……無能力者。別にチートではないし、強くはない……。強大な力の前に、あまりにも鈍感で、誰でも彼を殺せてしまう。けれど、それでも、彼なら……或いは!」


願う気持ちと裏腹に、遂に均衡が崩れる。


一か所の光の柱が、途絶えた。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




しくしく、しくしく。


声が聞こえる。


既に真っ赤に燃え盛る様に咲く彼岸花


ここはもう、今まで住んでいた街ではない。


彼女が、いや。餓者髑髏を織りなす数多の怨念が生み出す異界。


名を【浄土穢れ地獄渡り彼岸花咲きし丘】である。


餓者髑髏を中心に、彼岸が咲き誇る丘が形成され、その周囲を、呪力で構成された液体が赤々と流れている。


液体は怨念がこめられ、触れるもの皆殺す毒となり、死骸どもの餌となる。


あらゆる善性すらも、全て穢しきって餌とする、地獄を生み出していた。


彼女の耳元から声が聞こえる。


「おぞましい、骨の怪物だ。…… 餓者髑髏せいで、職員が死んだんだぞ! なんで許さなきゃいけないんですか!!!」


「あんな気色の悪いもの、よく置いておけるな……。餓者髑髏だけを倒すこととかってできないんですか? 彼女が可哀そうですよ」


「し、聞こえるって。あの子、私たちの声が聞こえてないフリをしてるだけかもよ。ちゃんとゆっくり丁寧に伝えれば、分かってくれるよ」


「放っておけ。あんなモノに情など与えるな。餓者髑髏は誰かを殺すかもしれない。情を持ちすぎると、彼女ごと殺そうと画策する職員だって現れる。距離感を持って接するように。」


ひどい、ひどい。


私、悪いことなんてしてないのに。


「安倍家の教育係になってからかなり高度な教育も受けて、何が満足じゃないんでしょうね。確かに並の職員は彼女に近づきすぎると死穢れが溜まって死亡するリスクがありますけど、普通に接してますよね。あなたが悪いんじゃなくて、餓者髑髏が悪いんだよって言って」


「ふむ。ファッションも食事も充実させてるし、会話もできる。だがどうしても、かつての罪の反省だけが出来ない。覚えているはずなんだ。覚えていなくても、悪いことだと認識できるはずなんだ。でもどうしてか、彼女の認識がずれて……倫理観の取得を、彼女は諦めている。餓者髑髏が原因だろうな」


わたしね、わるくないの。だって、そうしないと、しんじゃうとおもったんだもん。

なんでひていするの? どうしてごめんなさいっていわないといけないの?

わたしわるくない! わるいのはっ、わるいのは。


「両親を食い殺した小笠原の恥知らずめ!!!小笠原の名を拝命した挙句、妖怪憑きになり、私の足を引っ張るというのか! 何故私がこのガキを教育しなければならない、私は陰陽庁の人間だったのだぞ! く、っくっく。そうだ、餓者髑髏……こいつを支配すれば、きっと返り咲ける……実験を繰り返し制御していけば。餓者髑髏、これだけが必要だ!!! この女は、いずれ……」


いたいよー。うわーん。いたいよー。

おなかすいたよー、おとーさーん、おかーさーん。

あーん、あーん。

おぎゃー、おぎゃー。


「貴方っ! この子……宿ってるわ怨霊を! 儀式は成功よ!」


「よくやった! この子を使い、私たちも……陰陽師に返り咲けるのだ! 


「えぇ、もうこれでお父様から怒られなくて済むのね!」


「あぁ、この子は式神にしてしまおう。式神にしてしまえば、一生私たちから離れられず、心まで縛ることができる。もう人間として扱うな。こいつは……呪霊なのだからっ」


しくしく、しくしく。


声が聞こえる。


『雋エ譁ケ縺ッ謔ェ縺上↑縺?o縲よョコ縺励※縺励∪縺医?繧医°縺」縺溘?ゆココ繧呈ョコ縺吶?縺ッ濶ッ縺上↑縺?h縲る?縺?ココ髢薙?よが諢上□縲よt縺励>縺ュ縲り協縺励>縺ュ縲』

(貴方は悪くないわ。殺してしまえばよかった。人を殺すのは良くないよ。酷い人間。悪意だ。悔しいね。苦しいね。)


「見られてしまった、ダメ、もう、いや、与一さん私の事嫌いになる。もう終わりよ」


『豁サ繧薙□繧我ク?邱偵↓縺?i繧後k繧医?ら函縺阪※繧九°繧芽憶縺九▲縺溘?縲ょォ後o繧後◆繧峨d縺」縺、縺代h縺??よ?縺励※縺上l繧九↓驕輔>縺ェ縺?h縲りカウ繧偵◎縺斐≧繧医?ら岼縺ョ荳ュ繧定?繧√※縺励∪縺翫≧縲よ?縺ェ繧薙※縺ェ縺?h縲ょ・ス縺阪▲縺ヲ莨昴∴繧後??』

(死んだら一緒にいられるよ。生きてるから良かったね。嫌われたらやっつけよう。愛してくれるに違いないよ。足をそごうよ。目の中を舐めてしまおう。愛なんてないよ。好きって伝えれば?)


「ううん、五星局の人たちと一緒、一緒よきっと。貴方の事も悪く言うし、私の気持ちなんて分かってくれない……。――なんで気付いてくれないの。私、餓者髑髏なのに!」


彼岸花が、風に揺れた。


「私が物心ついた時から、私は餓者髑髏で、餓者髑髏は私なのに!みんな私の事嫌いなんだ。近づいたら殺されるって思い込んで焦るんだ。ずっと私たち一緒だったのに、片方を必ず否定するんだ。私化け物なんだ。私に親なんていないんだ。餓者髑髏だけが家族で、自分で、頼りなのにっ、みんな、みんな嫌い、みんな大嫌いっ、どうせ死ぬなら、みんな死んじゃえ! 五星局なんて嫌い! みんなで人間の私だけ守って餓者髑髏を蔑ろにする!!! 餓者髑髏(わたし)悪くないのに!!! 私に積もった呪いと一緒に爆発して死んじゃえ! なのにぃ、なのにぃぃ……」


胸が痛い。どうしようもなく、胸が痛い。


心が、どうしたって落ち着かない。


「……よいちさん……」


キスをしていた。女の子とキスをしていたのだ。


初めての異性の友達で、初めて外で遊んだ友達で、初めて自分の気持ちを素直に伝えられた友達で、私が初めて……でえとをした人。


「……あぁ。私、そっか、そう、彼の事……す」


声に出した瞬間、じゃぼんと呪いの液体が水柱を上げて大きな音を鳴らした。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「おぎゃー!!!?ばっちぃーー!!!!」


適当に中心に向かって走ったら急に世界が変わって、宙に投げ出されて液体の中にじゃぼんと落とされた!!!!


最悪だよマジで。


ていうか異界化かぁ。これボス級の敵キャラしか使ってこなかったのにすごいなひとみ。


ゲームの【ハナサキ】だったら、マジ理不尽ゲーム発生するからな。特定のアイテムとヒロインを組み合わせないと脱出不可能とか、放置で世界崩壊とか、強制昇天とか。


セーブ&ロードってマジで偉大だよなぁ。


んでだ。ゲーム知識によると中央部に配置された妖怪が本体だから倒すかなんかしろって話。でもなぁ。怪異が憑いてる場合は本体の妖怪に人間本体の意識が残ってる場合がある。声を掛けたら動きを止めてくれたり、逃がしたりしてくれることもあるのだ。


こういうのは面倒くさがらずに交渉フェーズ、行った方がタイム速くなりますね。


さて、液体を泳ぎ切って彼岸花の咲く丘に立つと、花冠と花嫁のベールをまとった超でっかい餓者髑髏がいるわけですわ。


一旦声かけて見て、反応を見よう。


「おーいひとみー。大丈夫かー」


餓者髑髏は、ゆっくりと首をこちらに向けた。



『縺医?∽ク惹ク?縺輔s窶ヲ窶ヲ縺ゥ縺?@縺ヲ??シ溘??縺薙?√%縺ョ蟋ソ縺檎ァ√→蛻?°繧九?縺ァ縺吶°??シ√??遘√′縲≫?ヲ窶ヲ遘√b鬢楢??ォ鷹ォ上□縺」縺ヲ縲∫炊隗」縺励※縺上l繧九s縺ァ縺吶°??シ?シ√??縺?◎縲√↑繧薙〒??シ溘??縺ゥ縺?@縺ヲ??シ』

(え、与一さん……どうして!? こ、この姿が私と分かるのですか!! 私が、……私も餓者髑髏だって、理解してくれるんですか!!! うそ、なんで!? どうして!!)


うわ、呪詞だ!


最悪だ―。あれ聞くだけでデバフかかるんだよな。


一応今のところ体は大丈夫そうだけど……ゲーム上では死穢れとかいうのが溜まるとあれなんだよな。ダイスでファンブル出やすくなるみたいな状態になるから嫌なんだよな。


多分結構溜まってるよなーここ来て。知らんけど。


俺幼馴染ちゃんに祓われるまで気付かないのマジでアホなんちゃうか。


まぁ……しゃぁないか。才能無いし。


リアクションがあったってことは、意識がある可能性あるな。


うーん。他のヒロインの時ってどうだったっけ。


確か、「こんな姿私じゃない!」みたいなこと言ってたよな。そんな感じの事を言ってると思うぜ。


「まぁ落ち着けって! こういう時は深呼吸をして、俺の話を聞いてくれればいいから。……餓者髑髏ってあれだな。でかいな。花冠とかあるけど気付いてる? おしゃれじゃんねー」


『縺昴s縺ェ縲√%縺ョ蟋ソ縺ョ遘√b蜿励¢蜈・繧後※縺上l繧九↑繧薙※窶ヲ窶ヲ』

(そんな、この姿の私も受け入れてくれるなんて……)


お、よし、うまくコミュニケーションできたな!


ちょっと近づいてみ、あやべ滑った。


ぐちゃ。


彼岸花踏んじゃった……。


怨、と音を立てて骸骨が地面から手を突き出してくる。


「ぎゃああああああああああああああああ」


『騾?£縺ヲ縺?シ』

(逃げてぇ!)


餓者髑髏もそれに反応して手を伸ばしこちらを捕まえようとする。やばい、敵性対象に入ったかもしれない。


餓者髑髏の意識的に、戦闘フェーズ突入は間違いないだろう。


てかハナサキって、マジで直で花が咲くんだなぁ不思議だぁ。


こちらを潰すように餓者髑髏の手が降り落ちる。地面からは骸の群れ。


ここからは、彼岸花を潰してでも逃げ切らないといけない。


「よーい、ドンッッッ!!!!!!」


スライディングして手を避ける。それと同時に彼岸花が宙を舞った。


餓者髑髏が骸どもを潰すと、骸の骨が飛び散り新たに彼岸花が潰す。


そして潰れた彼岸花は、呪力の液体を丘から啜り、再び蘇る。


「ちっ、普通に高難易度すぎる」


敵対してしまったらマジで仕方がないが、餓者髑髏を倒すしかない。


会話がまだ出来るのなら、餓者髑髏の目の前に行って交渉してみるのも手だが、あまり望めないだろう。


てか幼馴染ちゃんと親父どこ行ったぁあああああああ!!?!?


お前ら、いてくれないときついんだが!?


薙ぎ払うような仕草でこちらに迫りくる餓者髑髏の左手。


再び走り出して、花を潰していく。


骨が散らばりながら、液体の中に落ちていく。


武器、武器が必要だ。


流石に何かしら装備がないと、鍔迫り合いの一つもできない。


こっちは脳筋プレイ以外で攻略できないんだぞ舐めやがって!!! 幼馴染ちゃんと鍛えたオワタ式鬼ごっこ経験者を馬鹿にするなよ!


試しに落ちていた骸の骨を拾ってみる。そこそこ固いが、餓者髑髏の骨を傷つけるような素材ではないだろう。


「……よし」


ならコーティングするのはどうだ?


残念なことに俺は陰陽術の一つも使えないので、支援術式も付与も使えない。


ならば、あるものでコーティングすればよかろうなのだー!!!!!


彼岸花汁に、オラァ!!! ドップリつけるんだよぉ!!!!!!!


出来た!!!


なんかきっしょい赤ずんだ呪われた骨、完成だぜ!!!


二度と持ちたくない色してる!!!!


試しに通りがかりの骸骨くんを攻撃してみると……、オー行けるやんけ!


良い感じ良い感じ。実感としてはただの骨が鉄パイプくらいにはなった。


これを使って……叩くはナンセンスだな。


ちょうど俺を掴もうとした餓者髑髏の手に乗っかって、薬指を、上手く絡ませて……。


関節技で、へし折るッッッ!!


バキリ、と嫌な音を立てて薬指が取れる。


しかしノータイムでにょきにょきと鋭利に新しい指が生える。餓者髑髏って再生能力持ちかよヤバスギィ!!!!!!


さて色々すり抜けたら、薬指を彼岸花汁に漬けて……。


「ひゃっはあああああああああ! 手に入れたぜー!!! 俺の最強の武器だー!!! もうこれで俺はだれにも負けねぇ!!!!!!!」


真っ赤に染まった餓者髑髏の左の薬指を振り回し、湧き出る骸をゴリゴリ潰して餓者髑髏に迫る!!!


もう少しだ、もう少しで届くぞ!!!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


与一が頑張ってこちらに来る瞬間、小笠原ひとみの脳内によぎる記憶!!


それは五星局の教育係である、安倍菫子によるクソみたいな授業の時だった!!!!!!


「あんねー、指切りげんまんってあるじゃんかー。あれねー。男女のLoveで使われることも昔あってねー。心中ってあるじゃん。男女の心中。近世の遊郭の遊女がお客さんに心中箱ってやつに爪とか送って心を込めるっていう心情束縛の儀があったんだよー。んでねんでね。20代後半に引退する遊女なんかはさ、お客さんに指渡すんだよ指。相思相愛でも、結ばれない相手とかにね、来世は一緒になろうねって約束してー心中することもあるんだよ。指送ったらもう、Big Love。さらに命渡したら……、Wow Big Love。ちぇけ」


『縺ゅ?√=縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゑシ?シ滂シ?シ滂シ?シ滂シ?シ滂シ?シ滂シ?シ滂シ?シ滂シ?シ滂シ?シ滂シ滂シ?シ滂シ』

(あ、ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!?!?!?!??!?!)



この瞬間、小笠原ひとみは奪われた薬指を振り回し凶悪な笑みでこちらを迫る与一が、なんと……とんでもないBig Love補正により白馬の王子様に見えてしまったのだ!!!!!!!!!! 


まるで血で繋がった真っ赤な赤い糸が、二人をつなぐ……Universe。


『縺?d縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠』

(いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ)


ここに例外が生じる。


小笠原ひとみは死霊魂縛による婚姻の儀により、数多の怨霊と婚姻関係という縁が繋がり、全ての怨霊を受け入れてしまったが為に体に餓者髑髏を宿らせてしまった。


そう、彼女は見てしまった。魂で縛られた婚姻を無視して、薬指を奪い、心中して来世で結ばれるための情死を持ってこちらに迫る男を、見てしまったのだ。


――来世で結ばれる。来世?いや、来世など彼女は望まない。


彼女は、あらゆる契約をぶち抜いて、彼に感情をぶつけてしまった。


『縺吶?∝・ス縺阪<縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?・ス縺榊・ス縺榊・ス縺榊・ス縺阪▲縲∝、ァ螂ス縺阪<縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?>縺?シ?シ?シ?シ?シ?シ?シ?シ?シ√??豁サ繧薙〒繧ゅ>縺??』

(※プライバシー保護の為翻訳不可)


乙女回路による気合と根性が、奇跡を起こした。


与一は、餓者髑髏の花嫁を、気付かぬ間に寝取った。


よって、餓者髑髏の花嫁の調伏完了。


この世界始まって以来の、餓者髑髏単独討伐成功であった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「着いた! 餓者髑髏の目の前!! おいひとみ!! いるなら返事」


餓者髑髏の骨が粉となり消えていく。


「え」


な、なんだ。すげー気合い入れてきたら……、あれ? 餓者髑髏戦……、あれ?


お、終わり?


待って、指へし折ってしかないけど……、え倒したん?


うそ?


は?


俺は周囲を見渡すと、どう見ても異界も崩れてきている。


液体が消えていき、骸も取り除かれていく。


――そうして異界が完全に消え、街の風景が戻ってきた。


「与一ぃ!」


父親の声がする。


安心して振り返って、やっと気づいた。


【彼岸花が消えていない】ことに。


「逃げろ与一ぃいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!」


父の叫びと共に、俺は背中から誰かに抱き着かれた。


ぞっと、背筋が凍った。


「『ひどい人。私を追いかけてきてくれたのではないのですか?』」


「――――――――――――――」


呪言、だった。


いや、意味が、理解できる。


あり得ない。


あり得ない。


それは……。


【それは本編でぬらりひょんしか使ってなかった技のはずだ】。


「……、ひと、み?」


「『ふふ、ふふふふ。はい、ひとみで、餓者髑髏で、貴方の……今世の、妻です』」


「……は?」


彼女を振りほどき、相対する。


血が付着した白無垢を着て、左手が白骨化した花嫁。


顔の半分が、骸骨の仮面をつけていて、全身から呪いを吹き出す彼女。


「『私、嬉しかった……あなただけが、私の事を受け入れてくれて……手が白骨でも、気にしないって言ってくれて、私そのものが餓者髑髏で、餓者髑髏も私であることを、理解してくれて……。ずっと違和感があったんです。私たちは1つなのに片方だけが否定され、私ってなんなんだろうって。でも貴方は肯定してくれた。そのままでいいと』」


「……、ぅえぇ?」


えなにそれ知らない。


「『命を賭して、私に、あんな、愛を表現してくれて』」


「ぅえぇ?」


「『もう、お嫁さんになるしかありませんよね……。死がふたりを分かつまで、貴方に添い遂げます。クーリングオフ禁止です。嫌われても居続けます。答えてくれなくても結ばれます。愛人は認めないのでそこはご容赦を』」


「う、うわあああああああああああああああああああ!?!?!? ひ、ひとみがヤンデレになってるぅううううううううううううう!!!!!!」


なん、これ、なんだよこれ!!!!


やめろ!!! ゲーム外のイベントは対応できないんだ俺は!!!!!


な、なんぞこれぇえええええええ!?!?


「ま、待ってくれ!! 俺は、マジで当分恋愛しないつもりなんだよ!!!! 本当に、マジで離れてくれ!!!!!!」


これはガチだ。


このゲーム、ギャルゲーなのでルートに入ってしまうと攻略が開始される。


攻略が始まると選ばれたヒロイン以外が悲惨な目にあう可能性があるのだ。


主人公が誰かわからない状況だし、ワンチャンもし3周目の主人公が俺だった場合誰かと付き合ってしまうと選ばなかったヒロインが地獄みたいなことになりかねないので、恋愛だけは勘弁なのだ!!!


なので幼馴染ちゃんは20回振ってるぞ!


天才はあきらめが悪い。


「『――、まぁ、まぁまぁ。おいおい、おいおいですね』」


「こ、こいつもしぶとい」


「『照れ屋なのは承知しました。では、これだけ押し付けますね』」


「ん?」


彼女が白骨化した左手を俺の心臓にあてた。


「ヒュッ」


普通に怖かった。


「『ふふ、縁を結びました。これより小笠原ひとみ及び餓者髑髏は……旦那様の式神として生きていきます。親っぽい人より貴方に全てを捧げますわ』」


「え? ん? ……え? いや、え? 何をした? 式神? 式神用の紙人形な……」


「『呼んだら急いでいきます』」


「物理……」


「『ふふ、ふふふふふふふ。あははははははは。胸が高鳴っておりますわ! そう、貴方の心臓も、そう、これが、両想いっ……』」


彼女がすっと俺を抱きしめた。


「いや怖いだけ痛いいだいいだいいだいあぢぢあいいだいああだ!!!!! たすっ、たすけ、いぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


ゴリラとどっこいくらいの抱擁をされ、地上に残された彼岸花が消え去り、立っていた光の柱2本も消え、鳥のさえずりが聞こえるようになった。


夜から戻り、朝の11時。


こうして、【餓者髑髏の花嫁】事件は終わりを迎えたのであった。


しかし、まだすべては終わっていない。


このゲームのエンディングを知る者は、誰もいないのだから……。





「避けなさいこの泥棒猫! 与一くんは私のなの!!!」

「『泥棒猫はどちらでしょうか? お? お?』」


「たひゅ、け、ひゅ」



参戦した幼馴染ちゃんによって、俺の命は終わりそうだが。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


後日談ではあるが。


夏休みが明けて、俺は暢気に学校に向かったのだ。


久々に会うクラスメイトの顔を見ると、なんだか平和って感じで嬉しくなった。



「えー、突然だが突然決まった転校生紹介するぞー。はい」


「小笠原ひとみです。須藤与一くんの妻です。よろしくお願いします」


「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


学校に衝撃走る。謎の制服を着ない和服美女。その正体は須藤与一の幼妻。



俺は、もう二度と平和を取り戻せないと知って、一人で泣いた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

引用


タイトル: SCP-2863 - がしゃどくろ

原語版タイトル: SCP-2863 - がしゃどくろ

訳者: gnmaee

原語版作者: Dr Solo

ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2863

原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-2863

作成年: 2016

原語版作成年: 2016

ライセンス: CC BY-SA 3.0



タイトル: SCP-444-JP - █████[アクセス不許可]

作者: locker

ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-444-jp

作成年: 2014

ライセンス: CC BY-SA 3.0

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る