妖精王の天空図書館

安居院晃

第0部 とある王様と妖精王

プロローグ

 妖精王の天空図書館。

 それは五百年間続いた人間と魔人の戦争──聖魔大戦が終戦した五年後に誕生した図書館である。


 青い大空にポツンと浮かぶ浮遊島の上に建つ巨大なこの図書館には、この世の全ての知識が揃っていると言われている。

 所蔵冊数は五千万冊。

 哲学、数学、天文、魔法、錬金術、料理。ありとあらゆる分野の書物が納められており、かつて存在した詩人や小説家はここを『知識の宝物庫』とすら表現した。


 創設者の名は、アリエス=ナイトルージュ。

 神秘の種族たる妖精族の王であり、数千年の時を生きる大魔法使いである。


 アリエスは時の流れと共に歴史の彼方へ消えていく書物や知識を不憫に思い、それらが失われることがないよう、二百年前に天空図書館を建設した。

 知識は世界で最も尊い宝である。

 誰もが知るこの言葉は、彼の言葉だ。


 知識を求める者であれば、如何なる者も歓迎する。

 そんな天空図書館へ来館する者は、大きく二種類に分けられる。


 一つは、純粋に知識を求める者。

 己の研鑽のため、また単純な興味関心や知識欲を満たすため、ここを訪れ自らが求める書物を求める。日に数千を超える来館者。その八割を占めるのが彼らだ。


 そしてもう一つは──妖精王に助力を求める者。

 賢者とすら呼ばれる妖精王の知識、知恵、力を求め、懇願に訪れるのだ。尤も、願いを聞き入れ助力するかは、内容と妖精王の気分次第ではあるが。


 前者は勿論のこと、後者もまた、途切れることなく毎日天空図書館に現れる。

 冬が去り、地中の種子が発芽する季節のあくる日。

 今日もまた、妖精王の助力を求める者が、足を踏み入れた。

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