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「仲良くしてるな、待たせて悪い」
「いえ…」
「悪いがセシルは粥だ。三日も寝てたからな」
「三日…!?」
「もう目をさまさないのかと思っちゃったよ」
驚きのあまり、掬った粥がぼとりと皿に落ちる。三日も寝ていたなら、それはお腹も空くはずだ。
「お前はちょっとした
アネリはいつになく、慎重に言葉を選んでいた。アリアに関する懸念は晴れたが、今は本人の心のケアも合わせて気にしなければいけない。
ハヴィが別れ際に伝えてきたことを思い出す。
『アネリ、私はあの子の両親が死んだ時の記憶を封印したわ。目の前で肉親が死ぬことって人にはとても耐えられることなんでしょ?』
アネリも普通の人間とは違う人生を送ってきた。それ故にハヴィが不安げに放った言葉には同意することも否定することも出来ず、ただ分かったと返事をするのみに留めた。
しかし、一部の記憶を封じるのは簡単でも、人生を通してずっと関わった肉親の記憶が消えるわけじゃないことは想像出来る。納得する答えを与えなければ彼は一生疑問を持ち続けることになるだろう。
「あの、母と父がどこにいるか分かりますか?」
「…」
「師匠?」
真っ直ぐな橙の瞳に見つめられてきまりが悪くなったのかアネリは目を逸らす。きっと布越しでも少年と同じ目をしている弟子は、傍らの友人に何か言われたのか、匙を取る。
「とりあえず飯を全部食え、話は後でしてやる」
ぶっきらぼうな言い方は少年を不安にさせただけだと知りながら、アネリは器に残っていた最後の一口を無理やり口に運んだ。
最初は少し躊躇いながら匙を持っていた少年も、隣で勢い良く同じ粥を頬張っているアリアを見て少し警戒心を弱めたようで、気づけば完食していた。
ハヴィの言っていたことが事実であれば、セシルは少し前まで、食事の度に毒味をされ、口に入れるもの全てに気を使われて育ってきたに違いない。
こんな怪しい格好の者に、さあ食べろと言われて喜んで口に運ぶようであれば、彼の両親や使用人達は卒倒するだろう。
「食べ終わりました」
礼儀正しく、食器を片付けた少年は真剣な眼差しでアネリの顔を見つめている。
「良い子だ。じゃあ、話してやる」
「…!」
「…ただ、この話はお前にとって少し酷な話になる」
「…構いません」
少し眉を下げて、それからぎこちなく口角を上げた少年を見てアネリは気づいた。この子は聡い。これから自分が聞く情報はどう転んでも良い知らせでは無いことを悟ってしまったのだ。
「子供の割に大人びてるんだな。」
「普通ですよ」
アリアにそうするように、セシルの髪をくしゃりと撫でたアネリは悲劇が起こらなければ、この子は将来立派な領主になったのだろうなと少し残念に思った。
ふと、アリアの方を見るとどこでもない方向を向いてにこにこと笑っている。その柔らかい金髪がふわりと不自然の風に撫でられたのを見て、見えない住人に感謝した。
セシルに向き直って姿勢を正す。そして、なるべく感情を乗せずに、ずっと留めていた音を発した。
「セシル、お前の両親は死んだんだ」
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