第33話 幽閉・プレイバックPart2
死んだ、と思ったけど死んではいなかった。
前にもこういことあったよね?王族になると、良くあること?感覚が麻痺しそうだ。
そして俺は意識を取り戻した後……そうまた、軟禁というか、後宮の自室に幽閉されているのである。
デュポン公爵家に向かったあの日…俺は何者かに襲われた。俺を助けてくれたのはなんと本当に陛下だったのだ。あの時、聞こえた陛下の声は空耳じゃなかったんだ。でも後に、空耳だったほうが良かった、と思うことになるとは…。
陛下はあの日、ナタの星詠みによって「俺が何者かに襲われる」と知り、駆け付けたらしい。そうしたら俺が本当に襲われて死にかけてたってわけ!びっくりだよね!ナタの星詠みがピタリ的中…!王城はナタ様への賛美、一色…。
そうなっちゃうんだったらさ…、あっさり死んだ方が俺、幸せだった説ない?!そんな、恋敵に助けられて、恋の手助けしちゃうなんて…!
賞賛の的のナタに対して俺はというと……。目が覚めた俺を待っていたのは、目が覚めるような美貌のイリエス・ファイエット国王陛下……の尋問、であった。
「どうして後宮を出た?」
「デュポン公爵夫人のお見舞いに行こうと思いまして…。」
「なぜ、私に黙って?」
「お話をしようとしたのですが、お帰りにならないとのことでしたので…。」
陛下は俺をじろり、と睨んだ。
「私以外にも、母上にも碌に理由を言わなかったとか…。それになぜ家紋入りの馬車を使わなかった?護衛もろくに付けずに、わざわざ迂回して…。なぜだ?」
ですから、それは陛下が帰ってこないってことにすべて起因しているわけで…。俺が答えに詰まると、陛下は立ち上がった。
「あ、あの…!」
助けてもらったお礼とヒューゴに薬を頼みたいと言おうとしたが、陛下に思い切り睨まれた。こ…怖い!美形の睨みは恐ろしい…!俺はそれ以上何も言えず、陛下の後姿を見送るしかなかった。
それから俺は部屋から出ることを許されていない。食事も自室で取らされて王女達にも会えないのだ!俺は処分を待つ、罪人のように数日過ごしたのだが。…ねえ?!いつまで?!
っていうか花粉の薬がないと、無理!痒みが引かない…!
メアリーには呆れられた。
「アルノー様、馬鹿だ馬鹿だとは思っていましたが、こんなにだなんて思いませんでした。大人しくしていれば後宮を追い出されるなどの処分を受けることなく、衣食住くらいは保証されたでしょうに…。」
そうだな、そうかもしれないけど…。
陛下がナタと結ばれるのなら、俺はここにはいられない。だって俺…陛下のこと、本気で好きになってしまったから。誰かと結ばれる姿を見て、耐えていることなんて出来ない。だから教会に戻されるというのならば、それはそれで別に構わない。
あとは、王女達と、陛下との約束を果たす…。それだけ。
あの日、俺の命を救ってくれたのは陛下であり、王女殿下達だ。俺の胸ポケットにあった、金属製の小さな手鏡が、剣先から俺を守ってくれた…。
俺は割れてしまった鏡を、何とか直せないか、まとまらない思考の中、考えていた…。
…が、いかんせん痒くて思考がまとまらないのだー!無理!俺は痒みが引かないことをメアリー経由で陛下に訴えて、何とかヒューゴの薬だけは貰えることになった。診察はなしで薬を送ってもらえる、そう聞いていたのだが…。
「頭から被った割に、顔は髪に守られたのか無事ですね。しかし首から、胸にかけて赤みがある。かきむしって広がったようだ。もう、掻いてはいけませんよ!」
ヒューゴはどうやって後宮に入って来たのか知らないが、俺を診察して丁寧に薬を塗ってくれた。掻かない、というのは非常に難しい。困り果てた俺を、ヒューゴはじっと見つめた。
「アルノー殿下…。あなたが襲われたと聞いた時、肝が冷えました。…しかし何故、貴方は呪いではなく、普通に殺されかけたのですか?」
「え……あれが普通?!」
全然普通じゃなかったよ?!めちゃくちゃ強いやつに剣で胸をどん、と突かれて…思い出しただけで泣きそう!
「…妃の中であなただけが、実力行使で殺されかけ、連れ攫われそうになった。何故です?」
「俺だけ…?」
「そう、あなただけだ…。やはりあなたは何かを見たのではないですか…?」
ヒューゴに問い詰められて俺の胸は、ドキン、と大きな音を立てた。ヒューゴは知っていて俺を問い詰めているのだろうか、それとも…?
「よく思い出してください。特にデュポン公爵夫人が倒れたあの日、あなたは何か見ませんでしたか?例えば、夫人が嘔吐したものなど…。」
ヒューゴは切羽詰まった顔で俺に質問した。それは、何故…?
「私はあの日、苦しむデュポン公爵夫人を必死で看護しました。必死だったので、ほぼ記憶がありません。吐いたものを、と言うなら、私の他にも見たものがいるはずです。」
俺は当たり障りなく質問に答えた。それに俺自身、他に見たものがいるのかも気になっていた。
「私が駆けつけた時、貴方の服は既に洗われていた。何も痕跡がなかったのです。私も慌てていて…迂闊でした…。」
ヒューゴは俺の両腕を掴み、顔を近づけて問いかける。その顔は真剣そのもの…。
「私が信じられませんか?」
ヒューゴの問いに俺は思わず、こくんと頷いた。
「ふはっ!」
ヒューゴも思わず、と言ったように吹き出した。なに、そんなにダメだった?だってヒューゴが怪しいんだから仕方ない!今日だって警備をかい潜って俺のところまでちゃっかりやって来ている。
「アルノー殿下…私は、あなたを信じました。なぜなら、デュポン公爵夫人の応急処置、大変見事でした。あれがなかったら、彼女の命はなかったでしょう。」
「はあ…しかし先日、私に“ここに居座ることが目的だ”!と…おっしゃっていましたが…。」
「なかなか記憶力もよろしい。さすが、陛下が見初めた方だ。」
見初めたーー?!褒められ慣れていない俺は思わず赤面した。
「そ、そんなことありません。その…。陛下は別に、私のことは…。」
「“別に…”と思っているものを、一国の王、自らが馬を飛ばして助けには行きませんよ…。」
「え…っ?!」
ヒューゴは真剣な目で俺を見つめた。
「こんなに煽てても、話していただけない?」
「?!」
“煽てて”話を聞き出そうとしていたのかよ…!最悪…!俺は今度こそ、口をつぐんだ。
「私は諦めません。決して。三人の妃と…もう一人…その死因を解明します。必ず……。」
「ヒューゴ…?」
三人ともう一人…?陛下の恋人のこと、ご学友のヒューゴも知っているんだろうか?どことなく、哀切を含んだ声だった。ヒューゴは帰り支度をすると俺に微笑みかける。
「イリエスが、なんとも思っていないものを助けに行かない…というのは煽てたのではなく客観的事実ですよ、殿下。」
ヒューゴは手を振って帰って行った。後姿はやはりどことなく切なかった。
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