第17話 王妃の部屋
後宮の車寄せにはメアリーや、陛下付きの召使たちが待っていた。
王女達と一緒にまだ眠い目をこすりながら、馬車を降り、部屋へと向かう。
俺の部屋は後宮の一番手前。そこで王女達と別れて、俺は自室に入った。
自室に入るなり、俺はまた入り口まで戻って、外から「ここ、俺の部屋だよな…」と確認した。そしてもう一度、部屋の中に駆け込む。
部屋の中は空っぽ、何もなくなっていた。家具だけではない。俺が置いてきたお気に入りのペンを入れておいた筆立て、インク瓶に至るまで全部…。おれはその光景にただ茫然と立ち尽くした。
やっぱり俺の居場所はもうないってこと?!じゃあ、帰ろうなんて言わなければ良かったのに!
俺が立ち尽くしていると、いつの間にか王女達が俺の周りに集まって来ていた。
口火を切ったのはリリアーノだ。
「アルノー…。シャーロットが熱を出したあの日、アルノーが私たちに言ったことを覚えていますか?シャーロットの病気がお母さまの呪いではないと証明すると…。そしてアルノーはその通り、私たちにそれを証明してくださいました。私は、それだけでもう十分だと思いました、しかし…もう一つ…。この部屋は、王妃が住まう部屋ではありません。王妃の部屋は後宮の最奥…。アルノーがもし、本気でお母さまが呪いをかけていない、というのなら、それを態度で示してほしいのです。ここを出て、王妃の部屋に住んで欲しいの…!」
リディアはリリアーノの言葉を聞いて泣き出した。そうだ。以前リディアは言っていたのだ。「なぜ、呪いではないというのならあの部屋に住んでいるのか」…と。俺はここにいるだけで、王妃様を疑っている、ということを無言のうちに語っていた、というわけか…。
「もちろんです。私は必ず、この後宮は呪われていないということを証明します。」
俺がきっぱりと言い切ると、王女達は俺に抱き着いた。
俺は再び固く決意した。王女達のために、王妃が呪いなど掛けていないということを証明する。…例えそれで、俺がここを出て行くことになったとしても…。
今まで知らず知らずのうちに、傷付けていたんだな。ごめん…。
王女達が落ち着くのを待ってから扉の方を見ると、陛下は静かに俺達を見守っていた。
「では行こうか、アルノー。」
陛下に声を掛けられて向かったのは後宮の最奥。部屋は気持ちのいい陽の光が差し込む明るい部屋だった。
やっぱり嘘だ、呪いなんて…。
王妃の部屋に入るとすぐに、広々とした応接室がある。リリアーノは在りし日を思い出したようでまた涙ぐんだ。
「この応接室で、よく全員が集まったのよ?側妃さま達も子供達も…。」
側妃さま達も?陛下の妃たちはみんな仲が良かったってこと?それならなおさら、呪いなんてあるはずがない…。
応接室を通り抜けると、寝室。寝室の奥にはクローゼットの隣にもう一つ扉が付いている。書斎だろうか? 取っ手を引いたが、開けられない。
「あ、そこはお父様の部屋に行けるのよ!」
「そう、ここを通ってよく行き来したの!私たち!」
王女達は扉を押したり引いたり「あれ、でも開かない!」と訝しそうにしている。あまりに王女達が扉を弄るので陛下は少し気まずそうな顔をした。
「そこは反対側から鍵が掛かっている。」
そうか、俺はピンと来た。陛下は俺が陛下の部屋に入ったら嫌だから鍵をかけているんだな?!別にこっちから行こうとして無いけど!ふ、ふーんだ!
いつでも行き来できるように部屋を工夫しておいたなんて…陛下と王妃が愛しあっていたというのは本当だったんだな…。けど、そんなに愛しあっていても、側妃や愛妾はいた。それは何故?政治的なこと?陛下が気が多い人なの?
今も俺というものがありながら、ナタに部屋を与えちゃってるし!
鍵がかかった扉はともかく、王妃の部屋は日当たりがよく気持ちがいい。俺は陛下と王女達にお礼を言った。
ありがとう。俺、頑張るから。
部屋に注がれる優しい光も、俺の考えを肯定しているように感じた。
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