第11話 美しい星詠みと呪われし花嫁②
陛下は俺の身体をさすって痣がないことを確認すると、涙を流しながら俺を抱きしめた。その感動的な場面に会場は拍手、喝采…。人々は口々に神の奇跡を讃えた。
しかし俺の胸の中は何故か、ドロドロとした靄のようなものが渦巻いた。
俺は呪いを信じていない。あんな良い子たちの母親が、呪いなどかけるはずがない。それに摩訶不思議な力は既にこの地上から消え去ったと、何代も前の王が宣言しているし、実際俺は教会の治癒院の手伝いをしていた時、どんなに祈っても儚く消える命を何度も目にしている。
先日花粉のせいで出来た湿疹はほんの小さなものでも、強烈な痒みを伴った。今できたシミが妃たちの命を奪ったものと同じものならそれなりの不快感を伴うはずだ。
俺は星詠みの青年に向かって、その疑問を問いかけようとした。
俺が口を開いた瞬間、陛下はさらに俺を強く抱きしめて口付けた。
俺の、
結婚式の時「お前を愛することはない」って言ったくせに…!俺は混乱して腕の中から抜け出そうともがいたが、陛下に強く抱きしめられ、一度唇を離した瞬間に真剣な瞳で「良かった…。」と囁かれると、身動きが取れなくなった。
この人の美貌は凶器だ。俺を簡単に射抜いて拘束してしまうのだから。
大歓声の中、キスが終わると陛下は自分の上着を脱いで俺に被せた。そして俺を抱き上げると会場を後にした。
陛下は道中、一言も話さない…。
少々鈍い俺でも、運ばれる途中で陛下の機嫌を察知した。
怒ってる…!!なんでぇ?!
陛下は部屋に入ると人払いをして、俺を寝室の寝台に乱暴に投げ捨てた。
「あの場で不用意に発言するな!馬鹿者!」
「ば…?!」
馬鹿って言った?!てゆーか、さっきのキス、口封じ?!まさか涙も演技だったりする?!
ひ、酷い…!俺のファーストキスだったのに!!
俺は思わず言い返した。
「し、しかし…やはり私には信じられないのです。呪われた後宮などと…!」
「それが不用意な発言だというんだ。二度と口にするな!いいな?!」
「何故です?!陛下は何故、呪いのことを否定されないのですか?それによって王女殿下たちがどれほど悲しんでいるか!!」
「お前に何がわかる!」
「ええ、私には分かりません!愛した女を疑う気持ちなど!」
俺に言い返された陛下は、ベッドの上に転がっていた俺にのしかかって来た。こ、怖い…!
陛下は逃げる俺を捕まえて仰向けにすると、顎を掴む。あまりの恐ろしさに俺が目をつぶると陛下はひとつ、ため息をついた。俺に被せた上着を取り上げると、起き上がりベッドの隅に腰掛ける。
俺に背を向け上着を着る陛下の、衣擦れの音だけが部屋に響いた。
俺はあまりの恐怖に涙を溢していた。
陛下は俺を振り返ると、眉を寄せてバツの悪そうな顔をする。そうだ、少しは反省してほしい。
ファーストキスは好きな人としようと思っていたんだ。出来れば夫になる人と、好き合えたらしたいと思っていたのに、初対面で「愛することはない」なんて言われて…。
考えたら涙が止まらなくなった。
陛下は流れる俺の涙を拭う。
「泣くな。男のくせに。」
男のくせに、と言われて頭に来た俺は陛下の手を振り払った。
「これは花粉のせいです」
「そうか…」
陛下は今度こそ立ち上がって出て行こうとしたので、俺は咄嗟に、陛下の背中に向かって叫んだ。
「私は必ず、この後宮は呪われていないということを証明します!」
そのまま行ってしまうのかと思ったが陛下は俺を振り返った。
「証明して、どうするつもりだ?」
あ…、確かに…。
その目的…俺は思いついたことを口にした。
「証明すれば、良いことだらけではありませんか?!王女殿下たちもまたみんなで仲良く暮らせるし、召使たちも戻ってきて退職金もいらなくなります。陛下も男の私と無理やり結婚している必要が無くなりますよ?!」
「それがお前の望みなのか?」
俺の望み…?それは…。
陛下は俺のところに戻って来て頬に触れた。また涙が溢れていた。
「花粉です。これは」
「そうか…」
陛下は俺にキスした。
「おやすみ」
おやすみのキス。でも…。
唇にするのも、おやすみのキスなのだろうか?考え始めたら眠れなくなって、星の数ほど羊を指折り数えてしまった。
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