四天王だけど勇者パーティーで旅をする

夏矢野 玲音

勇者たちの旅

「よし、みんな行くぞ!!」


 勇者シゲマサの声に呼応するようにパーティーメンバーが一斉に動き出す。

 敵は魔王軍幹部、四天王の一人ゴーン。

 彼の屈強な肉体から大木ほどもある金棒が振り下ろされた。

 だが、


「ふんっっ!!」


 前にでた戦士アトムは金棒の軌道をそらすように横から盾で弾く。

 軌道をずらされた金棒空振りするが、すぐさま横に薙ぎ払われアトムは壁に吹き飛ばされた。


回復ヒール!!」


 聖女マーシャは瞬時にアトムにヒールの魔法をかける。

 砕かれた鎧から露わになった肌からは血が流れていたが、瞬時に傷口が塞がる。


 金棒をフルスイングしたことでゴーンに隙が生まれた。

 その一瞬を勇者は見逃さない。素早く懐に潜り込むとゴーンの右足を切り裂いた。


 体勢の崩れたゴーンの頭に向け、マーシャの支援魔法によって身体能力が強化されたアトムは、手に持った盾を前面に構えながら飛びかかる。


「おりゃぁっ!!」


「グオオォッッ!」


 頭部に大きな衝撃を与えられたゴーンは仰向けに倒れ込んだ。

 そこにすかさず、

 

「喰らえ必殺!白聖一閃ホワイトホーリースラッシュ!!」


 シゲマサによる必殺の一撃。白い光をまとった聖剣エクスカリバーはゴーンの体を真っ二つに切り裂く。

 凄まじい轟音とともに粉塵があたりに巻き起こった。


「さすが勇者です〜」


「シゲマサ!よくやった!」


 2人が歩み寄って声をかけると勇者は照れくさそうに頭をかきながら、


「2人が隙をつくってくれたおかげだよ。ありがとう」


 そんな3人の様子を後方から見つめる影が。

 このパーティの魔法使いフェンネルだ。

 だが、それは仮初の姿に過ぎない。


 彼女の真の姿は、


(ど、どうしよう。ゴーンが気を引いてる間に勇者を殺そうと思ってたのに……助けて魔王さまぁーー!!)


 魔王軍幹部の一人であり、四天王フェンネルであったのだ。




「それじゃあ、初の四天王の討伐に成功したということで……」


「「かんぱーい!!」」


 突き上げられたジョッキが快音を鳴らす。

 討伐が成功したことで上機嫌になっている3人を尻目に、フェンネルはチビチビとビールを飲んでいた。


「フェンネル、どうかした?ゴーン戦のときから元気ないよ?」


 シゲマサから心配の声が投げかけられた。

 

「……ごめん。私ゴーンを目の前にしたら何もできなかったわ」


 嘘だ。

 

 ゴーンが瞬殺された以上、また別の暗殺機会を伺っていくしかない。

 そのためには何としてでもパーティーに残らねばならず、怪しまれたらそこで終わりだ。


 最初に反応したのは戦士アトムだ。

   

「なんだよ、そんなことか。ゴーンにつくまではフェンネルのおかげで楽々これたんだぜ?」


 彼はその粗暴そうな見た目に反して、思慮深く仲間思い。ただ見た目通り馬鹿騒ぎが好きなことが玉にキズだ。

 

「そうです。そんな気にやむことはないですよ?」


 マーシャも可愛らしい仕草をしながら同意してくれた。

 彼女は聖職者らしく、神官のような服装を身に纏っており、幼い顔をしている彼女とのギャップが可愛らしい。

  

「フェンネルがすごいってことはみんなわかってるよ」


 シゲマサも同じ考えのようだった。

 彼はこの世界ではあまり見ない顔つきをしている。

 いわく、元の世界ではニホンという国で生まれたらしい。


 皆口々に励ますの言葉を投げかけてくれる。

 

「……みんなありがとう。私もっと頑張るわ」

(ちょろいもんね。人間って)


 話題はシゲマサの最後の一撃へと移る。


「にしてもシゲマサ、おまえ最後のあれはやっぱエグいな。女神から授かった力ってのはやっぱ違うな!」


「うん、でも僕はまだこの力を完璧に扱えてないよ。もっと頑張らないと」


「まじかよ。女神さまおっかねぇな」

  

「女神さまかぁ…私もあってみたいですぅ」


 そう、勇者シゲマサは魔王の危機にさらされていたこの世界を救うべく1年前に異世界からやってきた。

 その際に、女神から特別な力を授かったのだとか。

 

 勇者の召喚を察知した魔王様はすぐさま排除すべく私を派遣したのだが……


(さすがにゴーン瞬殺は聞いてないって。これでまだ本領じゃないですって?こんなに無法な力なのに?)


 彼女はパーテイに加わったその日の夜、すぐさま寝込みを襲おうとした。

 だが、


(なに?これ)


 シゲマサを聖なる力が包んでおりフェンネルの攻撃では一撃では殺せないことを悟った。暗殺に失敗すればすぐさま殺されるだろう。つまり、寝込みを襲うことは不可能。


 後で聞いたところによると、女神による力は魔力に聖なる力を加えるものらしい。

 魔力に聖なる力を加えると魔族に対しての抵抗が強化される。夜間にもその力は自動で発動しており周囲の魔力に聖なる力を加えているとのことだ。


 そのため、その力を攻撃に転用して防御がおろそかになる戦闘中を狙おうと思っていたが、あまりにも瞬殺だったためその隙を狙うことができなかった。


(いや、次よ。奴は四天王の中でも最弱!恐らく次に行くであろう四天王、ドリームは精神系魔法の使い手。これなら勇者も隙をつくらざるを得ないはず!)


 フィンネルが次の計画を考えている間呑気に飲んでいる勇者に目をやる。


(せいぜい残りの余生を楽しむことね!)



 1年後、フィンネルの目の前には首を落とされたドリームの死体があった。


(どゆこと!?)


 そう、思惑通りにドリームの拠点、幻惑の森に勇者一行は足を踏み入れた。

 この森はドリームの能力、ナイトメアによって作り出された霧により、踏み入れたが最後この森を抜けることはできないと言われていた。

 が、勇者が森に足を踏み位入れるとまわりの霧が消えていく。


(えぇー…………まじ?)


 最大の長所の霧が効かなかったドリームはその後、すんなりと城に侵入され不得意な近接戦闘のすえ、あっさりと首をはねられてしまった。


 これじゃ最弱はゴーンじゃなくてドリームだったかもしれない。


(ドリームの搦手が通じないのは予想できなかったけど次よ!四天王最強のボナパルトならやってくれるわ……きっと)


 こうして勇者一行は四天王を2人討伐し、魔王城へと確実に近づいていた。

 しかし、魔王城に近づくにつれ北上していく形となる。そのため、自然環境が過酷になり、戦闘以外の危険度は上がる。


 また、魔物もその環境に順応するために危険度は上がっていた。そのため、旅はより熾烈なものとなっていくのだった。




 あれから4年の月日がたった。

 

「あれ、ここらへんにボナパルトがいるって情報なんだけどなぁ」


 勇者一行は道に迷っていた。辺りは雪に覆われ目印となるようなものもない。

 シゲマサは地図に穴が空くほど見ている。

 しかし、その行為で現状が変わることはない。


「もう3週間は野宿だぜ?一旦どっかベットで寝てぇよ」


 そんな現状に対しそう嘆くのはアトム。

 そう、これまではどんなに長くとも2週間に一回は宿に泊まり、風呂に入ってベットで眠っていた。

 それが3週間ともなると皆の疲労はピークに達していた。

  

「あ!あれ村じゃないですかぁ?」


 嬉しそうに叫ぶマーシャの視線を追うと、かなり離れたところではあるがかすかにだが灯りがいくつかあった。


「よし、決定だ。村にいくぞ!」


 先ほどウダウダ言ってたのは何だったのか。急に元気を取り出したアトムが我先にと灯りの方へと駆け出す。


「あぁ!ずるいです!見つけたの私なのに!」


 それを見たマーシャも追いかけるようにして駆け出した。

 

「全く、あの2人は」


 シゲマサはそんな2人の様子を見て呆れているようだ。


「ほんと、子ども3人の世話するのは大変だわ」


「ちょっと?それ僕も入ってんの?」


 自身が子ども換算されていることが信じられないといった表情を浮かべている。


「当たり前でしょ?アンタこの前何したか忘れたんじゃないでしょうね」


 その言葉を聞いてもシゲマサはピンと来ていないような表情をしている。


「アンタねぇ、この前のダンジョンで手当たり次第に宝箱開けていくせいでトラップが起動したの覚えてないの?」


 そこまでいわれてようやく思い出したそうだ。

 あぁ、そういえばそんな事あったね。みたいな呑気な表情をしているシゲマサの顔をみると一発食らわせてやろうかとの考えもよぎる。


「……ま、いいや!俺たちも行こう」


 2人の影はもうかなり遠くに行ってしまった。


「はいはい」


 ホント、このパーティーはいつもドタバタして大変だ。

 


 灯りの元に着くとそこは小さな村だった。

 いくつかの一軒家があるがすべて木によって作られている。


「……宿あるかな」


 そう呟くシゲマサ。

 確かに、宿屋があるようには見えない。

 さすがの私も疲れてきたのだが。

 そう考えていたときだった。


「「おーい!こっち!」」


 2人の呼ぶ声が聞こえた。

 声のする方向に目をやると、他の家よりも比較的大きな家の玄関から手を振っていた。



 どうやら、この村の村長がご行為で空き家を貸してくれるそうだ。


「いいんですか?」


「えぇ。あの勇者御一行なのでしょう?無力な私たちに変わり魔王を討ち下すあなた達を支援するのは当然ですよ」


 そう答えるの村長は見るからに好々爺といった感じだ。


 私たちはご厚意に甘えることにした。

 シゲマサが代表して礼をのべる。

 

「ありがとうございます!ここら辺はとても寒いし、雪で道に迷ってしまって困っていたんです。本当にありがとうございます!」


 


「すいません。勇者様御一行にこんなことしていただいて」


 申し訳無さそうに言うのは村長だ。

 村には若い人たちがほとんどいないらしく力仕事に困っていたようだったので、シゲマサ自ら手伝いを希望したのだった。


「いえいえ、力仕事なら任せてください。僕達にはアトムがいますから」


 運ばれてくる木箱などを丁寧に積みながらシゲマサはそう答える。

 アトムの方に目をやると木箱やら樽やらの山を一人で持ち上げている。


「ハッハッハ!この程度なら余裕ですよ!じゃんじゃん任せて下さい」


 アトムは生き生きとしている。

 こーゆー筋肉をアピールできる仕事が彼は大好きなのだ。

 

「うわ、アトムきも」


 いつもの語尾を忘れるほどドン引きしているマーシャは木箱を一つ大事そうに抱えている。

 彼女は身体能力には特別秀でていないので支援魔法以外は普通の女の子。なのでこういった力仕事にはあまり向いていない。


 かくいう私も魔法以外は大したことないので重力魔法で木箱をフワフワ動かしながら運んでいる。


 (なんでこんなことするんだろ……こんなことしたってなんの意味もないじゃない)


 魔王討伐とはなんら関係ない仕事をしている勇者たちを眺めながらそんな疑問を覚えた。




「ふぅー、お疲れ様フェンネル」

  

 手伝いが終わったシゲマサが声をかけてきた。


「……うん」


「どうしたの、元気ない?体調でも悪い?」


 気のない返事をする私の心配をしてくる。


「……なんでこんなことするの?」


「……こんなこと?」


「いつも困った人を見かけては助けたり、今日だって自分から手伝ったり……普通勇者がすることじゃないよね?」


 率直な気持ちを伝える。

  

「……うん、そうかもしれない。…………僕は異世界人だ。この世界のことまだ知らないことがたくさんある。

 だけど、この世界の人たちはみんな僕を受け入れてくれた。期待してくれたんだ。こんなこと前の世界だったらなかったと思う。

 だから、僕はみんなに優しくしたい。僕にしてくれた期待を裏切りたくないんだ」


「…………」


 シゲマサの本音をこの旅で初めて聞いたかもしれない。

 いつも笑顔で、苦しことがあってもみんなを鼓舞して。

 ……彼はいつもこんなことを考えていたのか。


「なんか、こんなに自分のこと話すの恥ずかしいや。さ、フェンネル。もうすぐ村長さんが夕飯をごちそうしてくださる時間だ。行こう」


 彼は私を信用しているのだろう。

 私は彼を殺そうとしているのに…………



 夜が明けた。

 村人の一人に道案内をしてもらい、ボナパルトの城が目視できるとこまで案内してもらった。


「ありがとう。ここから先は危険だから村に気を付けて帰って」


 シゲマサが礼をのべ村人をかえす。

 城の周りには魔物が大量におり、そう簡単には進めなさそうだ。


「さぁ、みんな行くよ!」



  

 ボナパルトが待ち構える城にたどり着くまでの魔物との戦闘はこれまでよりも一段と厳しさを増していた。


「はぁ、はぁ、なんとか城に到着ですぅ」


「気を抜くなよマーシャ、相手は四天王最強といわれてるボナパルトだ。今までの奴らと同等だと思って舐めてかかっちゃぁいけないぜ」


「あぁ、アトムの言う通りだ。フェンネル、君の魔法を頼りにしてるよ」


「えぇ、任せて」


(今日ここでシゲマサを殺す……)



 

「たぶん、ここにボナパルトはいる。準備をしよう」


 勇者一行の目の前には大きな扉があり、その奥からはただならぬオーラを感じ取ることができる。


「身体能力強化魔法と、自然治癒魔法、それに装甲魔法をかけたです」


「ありがとうマーシャ。それじゃ皆、いくよ!!」


「おう!」


 シゲマサが先頭となって勢いよく扉を開ける。



 扉の先には首のない騎士、デュラハンがいた。

(ボナパルト、頼んだわよ)


 先手必勝とでもいうべきか、シゲマサはすぐさまエクスカリバーを白く輝く光で包みボナパルトに飛んで斬りかかる。


 が、シゲマサが飛び上がるその数瞬前にボナパルトの足元から、これまた首のない馬が現れ聖剣があたる寸前のところで回避をする。


 その先に回り込んだアトムの戦斧が馬の足を狙って振り下ろされるが、ボナパルトもハルバードをあわせて攻撃を受け止める。

 すぐさまアトムは戦斧を引き、すぐさま斬りかかるがまたしてもハルバードによって阻まれた。

 

「勇者でもないのにやるではないか」


 脇に抱えられたボナパルトの首が喋る。


「ハッ、そりゃどうも!」


 シゲマサも追いつき二方向から一気に攻め立てるが、ボナパルトもさすがの槍術と魔法を織り交ぜて2人の猛攻を耐えている。


「このままいけばおしきれるですぅ!」

 

 マーシャは勝ちを確信しているようだが、ボナパルトの態度には未だ余裕がある。

 なぜなら、


「貴様ら2人は支援魔法によってこの戦闘力を維持しているのだろう?ならまずはやつを潰すことにしよう」


 それを聞いたアトムは相手の狙いであるマーシャを守るべくすぐさまボナパルトから離れた。

 が、それはフェイク。


 アトムの背後に生まれた影からもう一人、ボナパルトが現れ背後から切りつける。


(あれはボナパルトの影の分身ドッペルゲンガー)。本体とほぼ同等の力をもつ分身をだす技ね)


「ぐわぁっ!!」


 すかさず二撃目を入れようとするがアトムはなんとか背後を振り向き盾で受け止める。

 しかし、受け止めた衝撃で、ブシュッという音とともに背中から血が噴き出る。かなり傷は深そうだ。


「任せるです!」


 マーシャは遠距離からアトムの傷に回復魔法をかける。

 すぐさま傷の治ったアトムは槍を弾き飛ばして攻撃をしかけた。


(あの聖女が厄介だ。……フェンネルはなぜ動かない!)



 その時、フェンネルは昔の事を思い返していた。

 魔王城にいた時のことである。


「人間は卑怯でずる賢い。対話を望んだ魔人の多くは捕虜にされたりみせものにされた。」


 眼前にいる魔王は語る。自分ではなにも見ていないのに。


「人間は悪だ。奴らは滅ぼさなければならない」


 本当に?悪ってなに?


「お前に勇者の暗殺を命ずる」


 私は勇者を……



 (くっ、フェンネルが動かない以上仕方ない。あれを使うことにしよう)


 「フッ、これを使わせたこと誇りに思うといい!」


 シゲマサと打ち合っているボナパルトはそう言うと、腕を振り上げ、


「蘇れ!死者たちよ。その怨念を持って敵を押し潰せ!」


 その言葉に呼応するようにつぎつぎと地面を突き破って骨の腕が現れる。

 そこからはスケルトンが何十、いや何百として飛び出てきた。


「フハハハ!!どうだ!この数の前には貴様らもどうしようもあるまい」


 勝ち誇ったかのように声を高らかにあげる。

 


「……決めたわ」


 正面に構えた杖の先には極大の魔法陣が描かれている。


(そうだ、フェンネルよ。我とともに撃ち抜いても構わん。撃て!)


「ホーリーブラスト!!」


 聖なる弾丸が魔法陣から打ち出される。

 それはシゲマサに向かって一直線で進み……


 シゲマサに当たる寸前、軌道が曲がり後ろにいるボナパルトに直撃した。


(な、何故だ、フェンネル……キサマ……裏切ったのか?

 まお…うさ、まを…………)


 ボナパルトの体は浄化され、鎧とともに塵となって消えてゆく。

 それとともにスケルトンやドッペルゲンガーも消え去った。


「フェンネル〜!ありがと〜!!」


 マーシャが喜びのあまり抱きつく。

 スケルトンに囲まれかなりピンチだったようだ。


「よくやったな、フェンネル!」


 アトムが親指をたて、ウィンクをしてきた。

 私もそれに答え親指をたてる。


「フェンネル……ありがとう」


 シゲマサがこちらに歩み寄り礼を述べた。


「……うん」


「よっしゃ!今日は酒だ!飲むぞ飲むぞ!!」


 アトムはシゲマサの肩に手を回し抱きつくようにして話しかける。


「じゃあ今日はアトムのおごりですぅ」


「ちょ、なんでだよ!」


 ワイワイし始めた2人に対し、私はうかない顔をしていたようだ。シゲマサが声をかけてきた。


「どうしたの?うかない顔して」


「……この旅もあとちょっとだなって思って。みんなとこうやって騒げるのももう終わりかと思うと……ね」


「そんなの関係ないよ」


「え?」


 思わぬ言葉に私は顔を上げた。


「この旅が終わってもみんなで集まってさ、酒のんで馬鹿やって……それでいいじゃん」


「……うん。そうだね」



 

 ボナパルト討伐からそれほど時は経たずして、魔王城付近へと進むことができた。

 

「みんな、ついに明日だ。明日、魔王城を攻める」


 みんなで焚き火をかこい、夕食の準備をしていたときだった。

 シゲマサはいつになく真剣な顔つきをしていた。

 当然だ。このパーティーの目標、魔王を倒し人類に平和をもたらす。ゴールはもう近い。


 だが、私の目的は……


「この旅の目標だった魔王討伐もついに……目の前だ」


 2人も真剣な眼差しを向け話を聞いている。

  

「この6年間、みんなと旅ができて本当によかった」


「おい、おい、そんなん魔王倒した後にやってくれ、水くせぇ」


 うつむき気味にそう話すシゲマサだったが、アトムのその言葉を聞いて表情が穏やかになった。


「……うん、そうだね。今日はこういう話じゃないな」


 そう言うとシゲマサは剣を鞘から抜き出す。

 皆も各々の武器を取り出し焚き火の中央で重ね合わせる。

  

「何があっても明日が最後だ。絶対勝つぞ!」


「「オー!!」」


 皆が武器が天に突き出された。

 月明かりにこの長旅をともにしてきた武器たちが照らされる。


 この旅ももう終わりだ。


 明日、私はこの人を…




  翌日、魔王城にたどり着いた勇者一行は玉座に座る魔王と対峙していた。


「よく来たな、勇者シゲマサよ」


「悪いが魔王、おまえは今日僕達4人が倒す!」


 シゲマサはそう言いながら聖剣を魔王に突きつける。

 が、その言葉を聞いた魔王は、


「フッ、そうか、4人でな」


「何がおかしい!」


 ついに、


「教えてやろうか」


 私の正体が……


「そこの魔法使い、フェンネルは我が娘なのだよ」


 彼らに知られてしまった。


「なっ!」


 その言葉を聞いたみんなは絶句していた。


「うそ、だろ?」


「フェンネルは私たちの仲間だよね?」


 仲間たちの声を背に受けながら私は父に向け歩き出す。

 それを見たシゲマサは私に問いかけた。


「フェンネル!本当なのか?ずっと僕達を騙していたのか?」


 その言葉を聞いても私は振り返らない。


「えぇ、そう。私は魔王の娘、四天王の一人」


 でも、


「今日はお父さんに話したいことがあって来ました」


 その言葉を聞いた魔王は表情を一切変えず娘に問う。


「ふむ。それで何を話すんだ?」


「私はこの6年、勇者と、人間たちと触れ合いながら旅をしてきました。お父さん、あなたは人間は悪だと。滅ぼすべきだと私に言いました」


 私の考えていることは無謀かもしれない。


「私はそうは思わない!人間は確かに愚かだ。自分以外の生物をなんとも思わないやつだっている。でも、それは魔族だって同じだ!私はこの6年で数え切れないほど人間に優しくされた、助けてもらった!」


 馬鹿かもしれない。

 でも!


「人間のすべてが悪なんかじゃない!お父さん、私は人間と魔族が争わない世界をつくりたい。今はお互いに信じられないかもしれない。でもきっと、魔王と勇者が手を合わせれば!」


「それがおまえの言いたいことか?」


 私が言い切る前に遮られた。


「おまえは私に人間と手を結べというのか?」


 その言葉に私は強く頷く。


「……娘の願いを叶えるのも親の務め……か」


 魔王は立ち上がり右手を前に出す。


「それでは、」


 死ね


 次の瞬間、私の胴体は真っ二つに分かれた。




「フェンネル!フェンネル!」


 僕はフェンネルの分かれた上半身に呼びかけた。


「し、げま……さ」


 だが、彼女からはかすれた声しか返ってこない。


「マーシャ、はやく回復魔法を!」


「む、無理です。フェンネルは魔族何でしょう?回復魔法は魔族にとっては有害。ポーションなら有効でしょうけど、この傷じゃ……」


 直せない……か。



「おい、おまえの娘なんだろ!?なんでこんなこと……」


「だまれ」


 魔王の低く、それでいて威圧感のある声。

 その一声だけで、僕は身動きがとれなくなった。

 それほどまでに凄まじい圧。


「こいつには期待をしていた。仮にも我が娘だ。キサマを殺せないにしろ何らかの損害程度は与えると思っていた。だが、こいつは何もしないどころか、我に向かって口答えだと?本当に血の繋がりがあるのかも怪しいほどの無能だったとは」


 相当苛立っているようだ。その言動の端々に怒りの感情が見て取れる。

 いましか、ない。


「みんな、行くぞ。フェンネルの敵を取るんだ」


 言うが早いか、シゲマサはとてつもない速度で飛び出した。

 聖剣は既に聖なる力を纏っており、白く輝いている。


「うおぉぉっっ!!」


 聖剣は魔王に向かって振り下ろされた。

 が、どこからか取り出した剣によって攻撃は阻まれた。


「どぉりゃあぁっ!」


 がら空きとなった魔王の横をアトム狙い戦斧を振り下ろす。

 しかし、魔王が剣を振り回したことでシゲマサを弾き飛ばしながらアトムの攻撃も防がれる。


「ホーリーキャノン!」

 

 間髪を入れずにマーシャが展開した複数の魔法陣から白く輝く砲丸が魔王に打ち出された。

 だが、それらも魔王の一振りによって消し飛ばされた。


「うえぇぇっ!私の魔法が一振りです!?」


「ふん、そんな陳腐な魔法じゃ我には届かんぞ?」


 いつもなら攻撃魔法はフェンネルの役割だった。

 そのためマーシャは慣れない攻撃魔法で2人のサポートをする必要がある。

 マーシャの攻撃魔法は人類で見ればかなりの上澄みだ。

 だが、敵はこの世界の頂点に君臨する魔王。上澄み程度では通用しないというのか。


(みんな、奴の剣だ。あの剣は聖剣と打ち合えるほどに高性能、あれをどうにかできれば一撃を通す事ができるかもしれない)


 一度マーシャの下まで後退したシゲマサは魔王には聞こえない声で狙いを伝える。


 (よしわかった。あの剣については俺とマーシャでなんとかしてみせる。シゲマサ、頼んだぞ)


 素早く作戦会議を済ませ、各々が動く。


 マーシャは先程より多くの魔法陣を展開し、発射タイミングをずらしながら魔法を打ち出すことで魔王にアトムが近づく隙を作り出す。


 その隙にアトムは盾を構えながら魔王に近づき接近戦を仕掛ける。


 (恐らくあの剣だと俺の盾は一発で切られるだろう。なら!)


 魔王の剣の間合いに入った。

 盾を前方に突き出しながら魔王に迫る。


「その程度の盾で我の攻撃を受け止められると思っているのか!」


 剣を振り下ろし、盾とともにアトムを真っ二つに、

 したと思っていた。


 が、アトムは剣が振り下ろされる寸前、盾のみをその場に置き去るようにしてすぐさま後ろに飛び退いた。


 アトムの目の前には剣を振り下ろした無謀な姿の魔王。

 横からはマーシャの魔法も迫っていた。


(もらった!)

 

 アトムは魔王の首めがけて斧を振りに抜く。


 寸前、魔王は目にも止まらぬスピードで幾千もの剣閃が繰り出された。


 切断されたアトムの右腕が戦斧を握りしめたまま宙を舞う。


 無防備となったアトムに魔王はトドメを刺そうとする。

 が、シゲマサはその一瞬の隙を見逃さなかった。


「喰らえ!白雷の一閃ホワイトライトニングスラッシュ!」


 魔王の胸に聖剣は突き刺された。


「うおぉぉっ!」


 突き刺さった剣から稲妻の如き光が放たれ魔王の体を貫いた。


「ぐぅっ、おっ、おぉ……」


 苦しそうな声を上げながら魔王は倒れ込んだ。


「や、やったのか?」


「魔王、死んだんです?」


 2人はシゲマサの下に駆け寄り口々に言う。


「……うん。多分」


 その言葉を聞いた2人は喜びを爆発させた。

 

「いよっしゃあ!俺達やったんだな!?魔王を倒したんだな!?」


「やったですぅ〜。ついに、ついにぃぃ〜」


 マーシャは喜びのあまり泣き出してしまった。


「おい、シゲマサ!なんでそんな浮かない顔してんだよ!」


「……フェンネルの願い。魔王と勇者が手を取り合って世界に平和をもたらす……僕達が魔王を倒したことで叶わなくなってしまった」


 アトムはその言葉を聞き、戦闘に巻き込まれないよう端に寄せられたフェンネルに目をやる。


「あいつ、魔族だったんだな。お前を殺すために送り込まれた……」


「……でも、僕達は誰も殺されなかった」

  

「……そうだな」


「フェンネルは私たちの仲間ですぅ。この勝利は私たち4人のものですぅ!」


「うん、そうだね」


 僕達は3人で抱き合っていた。

 その時、


「貴様ら、この程度で我を殺せると思うなよ」


 振り返ると背後には胸を押さえつけ魔王が立っていた。

 ポッカリと空いた胸はジワジワと塞がっていた。


「なん……で生きてるんだ。僕の全力だったはず……」


「おいマーシャ、早く俺の腕を……」


 アトムが腕を修復しようとマーシャに目をやったときだった。

 マーシャは吹き飛ばされ、後方の壁に激突した。

 彼女は身じろぎの一つも取らない。

 

「なっ!」


「あの聖女は厄介だ。やつがいる限り貴様らを即死でもさせねば戦闘に戻って来る」


 もう胸の穴はほとんど塞がっていた。

 魔族には皆大なり小なり自然治癒能力がある。

 が、流石は魔王。

 一度は確かに絶命したが、その驚異的な回復力により死の淵から蘇ったのだった。 


「こうなったら、僕の全魔力をコイツに!」


「どうやって?聖女はもう動かない。戦士も利き腕がなくなり、武器も手元にない。キサマ1人でどうやって我にその攻撃を当てるんだ?」


 ……もうだめなのか?


 そんな考えが脳によぎった。


 いや、だめだ。諦めちゃだめだ。みんなのために、僕に期待してくれた人たちのために、ここまで一緒に旅をしてきたみんなのために、


 ……フェンネルのために




 走馬灯とでもいうのだろうか。今、シゲマサの脳裏にはこれまでの人生の出来事が流れていた。


 僕の家は貧しかった。父は物心ついたときにはいなかったし、母も働きづめて家にはほぼいなかった。

 母との思い出といえば昔、パンケーキを焼いてもらって2人で食べて……


 周りからの期待はなかった。鈍臭いし、頭もそんなに良くなかった。

 クラスメイトからは、


「くせぇんだよ貧乏人!」

「こっちこないで!」


 心無い言葉の数々を投げかけられた。


 なにもない。僕の人生には何もなかったんだ。


 高校になった時、いきなり異世界に連れてこられた時は母親には申し訳ないけど安堵した。


 もう嫌だったから。全てが。


 そんな時、みんなにあった。アトムとマーシャは国王によって任命された。

 アトムは最初から馴れ馴れしくて困惑した。そんなこと今までになかったから。

 マーシャは最初はよそよそしかったことを覚えている。

 同類だ!なんか思って。

 結局はこのパーティーで一番うるさかったと思う。


 そしてフェンネル。

 彼女との出会いは2人と魔物との戦闘ではぐれたときだった。

 今思えば機会を伺っていたんだろう。


 絶望していた矢先、見ず知らずの地に呼び出されて。期待されて。崇められて。

 だけど僕は相変わらず駄目で……

 そんな時、彼女と出会ったんだ。


 彼女は同等に接してくれた。寄り添ってくれた。

 演技だったかもしれない。でも、それが僕には嬉しかったんだ。


 まるで彼女は天使のようで……


 笑顔が眩しかったんだ。



 僕にとって大切な人。

 それを殺したコイツは許せない!


「う、うおぉぉぉっっ!!!」


 全身全霊のありったけの力を剣に乗せて、


「さらばだ。勇者」


 魔王は既に剣を振り上げている。

 僕が剣を振り下ろす前に魔王によって殺されるだろう。

 それでも……それでも!


「おぉぉぉぉぉっっ!!」

 

 

 意識の外だった。

 魔王の剣を持つ手を一つの魔法が吹き飛ばした。


 それは、マーシャではない。アトムでもない。


 それは、それは、



「シゲマサ、頼んだわよ」


 天使からの絶好のアシスト。

 白く輝く聖剣は未だ事態を飲み込めていない魔王を切り裂いた。






「それではこれより、勇者と魔王による平和条約の締結を行います」

 

 それは私が待ち望んだ日。


「人類代表、勇者シゲマサ」


 凄まじい声援が飛び交う。

 それは人間からだけではない。あちらにはヤギのような角を持った魔人が。そちらには全身が魚のような魔人が。2つの別種が混じり合って声援を送っている。


「魔族代表……」


 目の前にいる戦友と目配せをする。

 その後ろには2人の姿があった。


「魔王フェンネル」


 きっと何が起きても大丈夫だ。みんなとならどんな困難だっての越えられる。


 だって、私たちは……


 勇者パーティーなんだから

 

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四天王だけど勇者パーティーで旅をする 夏矢野 玲音 @777imo

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