偉そうな幼女はオムレツが好き!妾はラブコメに飢えておる!はっ?何を言っているんだお前は?(真顔

naturalsoft

全てはオムレツのために!

連載を検討している作品です。

短編で投降して読者様の反応を見て決めます。

タイトルは変更するかも知れません。

(近状ノートにイラストあり)


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【ドラクル王国】

かつて初代国王が強大な竜の力を借りて建国されたと言う国である。

大陸の一番の北部にあり、北側には強力な魔物が多く生息している【魔瘴の森】があり、その奥の山脈には竜が棲んでいると言われている。


そんなドラクル王国だが、今現在、問題を抱えている。現国王は無能の愚王で政治に興味がなく、側妃と散財するしか能が無かった。それでも国が保っているのは、『アリア王妃様』が国政を担っていたからだ。


そして、王妃には第一王子と妹の王女がいた。

側妃は第二王子を産んでいる。


【アリア王妃】

第一王子、アーク・ドラクル18歳

妹の王女、アリシア・ドラクル17歳


【側妃】

第二王子、クーズ・ドラクル17歳



第一王子のアークは、国内有数の貴族であるメイプル・ドリュー公爵令嬢と婚約している。

後ろ盾も十分で、アーク王子は頼りない所もあるが、真面目な性格で、次世代の国王としては問題なく安心できる人物だった。


そんな時だった、王宮内がきな臭くなってきたのは。早い段階で愚王を退位させ、アークを国王にしようとしている事に、側妃が焦り秘密裏に動き出したのだ。


それを知った王妃は、まず娘であるアリシア王女を隣国に留学と言う形で避難させた。


そして、アークを国王に推し進める段階で事件が起こった。


アリア王妃が倒れたのだ。


国の政策に自分の子供を国王にする手配など、過労だった。


それから全てが変わってしまった。


いつの間にか入れ替わっていた侍女達に、王妃の見舞いも叶わず、そのままアリア王妃が亡くなった。


あっという間だった。

葬儀もそこそこに、側妃の権力が増大し王宮内では誰も側妃に逆らえない状態になった。


不思議な事に、遊んでばかりのバカ王子だったクーズ王子が突然、様々な政策を献策し始めて、それが国益に繋がるものとして認められた。


誰か別の者が考えたのでは?と疑う者もいたが、第二王子の周りにはそんな知恵者が居ない事がわかり、急激に第二王子の評価が上がっていった。


そしてドリュー公爵家はアークを見限ったのだ。


「王妃様が亡くなり、腑抜けとなった貴方は国王の器ではありません。婚約を破棄させて頂きます!」


メイプル公爵令嬢は向上心が高く野心家だった。次世代の王妃としての能力も問題無かったが、アーク王子より、クーズ王子の方が扱い易いと判断したのと、実家のドリュー公爵家の総意でもあった。


側妃の実家はワイバーン侯爵であり、ドリュー公爵と手を結べは国内では誰も逆らえなくなる。

そういう思惑から王妃を失い、後ろ盾の無くなったアーク王子を裏切ったのだ。


「そうそう、アーク王子には次の縁談が用意してありますの♪」


何も言えないアーク王子に側妃が良い案があると手を叩いた。


「1年前に代替わりした北部のリューオウ辺境伯の女傑シオン・リューオウ辺境伯に婿養子に行って貰うわ。年齢も20歳と丁度良いわよ」


!?


魔瘴の森に隣接しており、日々魔物と戦っている危険な領地だ。


「知っての通り北部の領地は日々魔物の脅威から王国を守っている大事な所だ。王族が婿養子になる事で辺境伯との結びつきを強固にする目的がある。しっかりと自分の立場を理解して向かうように」


話は終わりとばかり部屋から追い出され、次の日には辺境へと、無理矢理馬車に乗せられて向かわされた。


「アリシアは大丈夫だろうか………」


隣国へ留学しているアリシアはその国の第二王子と婚約している。余程の事がない限りは身の安全は大丈夫だろうけど。


母上………王妃という後ろ盾が無くなった今、妹のアリシアとて危険な状態だ。後ろ盾が無くなった今、アリシアまで婚約破棄されないか心配だ。


しかし今のアークは、自分の身の安全の方が危険だった。


深いため息を吐いて、道中襲われないか警戒しながら数日間過ごしていると、遂にリューオウ辺境領へ到着した。


「シオン様、王宮で勝手に決めた婿殿が到着致しました」


「そうか。哀れなものだな。国王になる一歩手前で全てを失い、生と死が蔓延する我が領地に来る事になるとは………」


シオン・リューオウ辺境は歴戦の戦士である。

剣の腕もさることながら、魔法も使える【勇者】である。宝塚風の【男装礼人】である白銀の美しい髪に『紅い瞳』が特徴で、長身で細身ではあるが、女性特有の身体付きもあり、領地では男女問わず人気がある。


アークがシオンの執務室へやってきた。


「初めまして、この度は王宮の権力闘争に巻き込んでしまい申し訳ありません」


部屋に入るとアークは深く頭を下げた。


「気にするな。アリア王妃様には恩があるので、ここにいる間は最大限の配慮すると約束す───!?」


「ありがとうございま────!?」


二人は視線が交差すると、お互いに固まった。


【一目惚れ】


ラブコメおなじみの展開だった。

(あれ?この小説ってラブコメだっけ?ラブコメです)


『ああ、なんて美しい人なんだ。凛々しく美しいこんな女性が俺の嫁?えっ、嫁さんなの?夫婦の営みもヤっちゃっていいの?ポッ』


『なんだこの金髪碧眼のザッ王子様って!?いや、王子様なのだが!こんな私の好みのドストライクな人物が居ていいのか!?背も私より高く、伸ばした金髪を後ろで結んでいる所も素敵だわ♪』


二人はしばらく見つめ合った。

どちらともなく近付き、顔と顔が近付いて───


「ごほんっ!」


ビクッ

「「あわわわっっっ!!!!?」」


従者や執事がいる事を忘れていた。


「コホンッ、苦労されましたね。我がリューオウ辺境領はアーク王子を歓迎致します!」

「はい!ありがとうございます!」


甘い空気が流れそうになったが、今、リューオウ辺境領も問題を抱えていた。


「アーク殿、来て早々で悪いが、実は我が領地は今問題を抱えている」

「問題ですか?」


「おい、私はアーク殿と重要な話をする。しばらく席を外せ」

「かしこまりました」


従者や執事は礼を取って部屋から退出した。

二人になってから、シオンはテーブルに地図を広げた。


「随分、精巧な地図ですね」


この世界では大まかなものが描かれた地図しか無かったが、この地図は細かい所まで描かれており、誰が見ても、地形などわかるようになっていた。


「最近、魔物の氾濫(スタンピード)の予兆があってな。魔物の出現が増えているんだ」

「なら、自分も手伝います。何でも言って下さい!」


アークの申し出にシオンは困った顔をした。


「いや、王子様を前線に出すわけには………」

「妻だけを戦わせて自分が後ろで隠れているなんて出来ません!俺は剣術もできるので自分の身くらいは守れます!それに、俺には秘密にしていましたが、【回復魔法】が使えるのです!必ず力になります!」


「妻っ!?」


ボンッとシオンは真っ赤になって頭から煙が吹き出した。

そして、すぐ我に返った。


「回復魔法だと!?」


回復魔法を使える者は少なく貴重な存在なのだ。


「はい、自分の切札の為に母上以外には秘密にしておりました。しかし、愛する妻の為なら全てを打ち明けます!」


「愛する妻!?」


アークの言葉にいちいち反応をみせるシオンにアークはメロメロになっていた。


『可愛い人だなぁ~』

『妻、私は人妻になったのか!?』


アークは顔が緩むのが止められ無かった。


「と、とにかく!今日は着いたばかりだ。ゆっくりと休んで、明日から街など案内する。アークの回復魔法の件はしばらくは私と二人だけの秘密だ!いいなっ!」


シオンは呼び鈴を鳴らすと執事を呼んでアークを部屋に案内させた。

それから1週間ほどはアークはリューオウ辺境領を見て廻った。

物腰優しく紳士的なアークはすぐに領民に受け入れられた。


「まさか、わずか1週間で溶け込むとはな。流石、わ、私の夫だ!」


まだ慣れていないのか名前を呼ぶだけで赤くなる。

すでに屋敷の使用人達は『ニマニマ』しながら、お子様はいつかしら?と話している始末だ。


そんな時だった、森で大規模な数の魔物が発見された。


「すぐに討伐に向かう!」


シオンは領軍を率いて向かった。

魔物の数は多かったが、ほとんどが小型の魔物であり、簡単に討伐できた。


「思ったよりたいした事が無かったな。それよりアークも中々の腕だった。これなら安心だ」

「役に立ててよかったよ。これでも騎士団に在籍して遠征にも出かけていたしね」


自己処理をしている時に、とある者を見つけた。


「子供?」

「バカな!こんな危険な所に子供だと!?」


シオンは慌てて保護しようと近づくと、まだ生き残っていた狼型の魔物が子供に襲い掛かろうと飛び掛かった瞬間、炎の魔法で倒してしまった。


「なにっ?」


シオンは警戒したが、アークはそのまま近付いた。


「大丈夫かい君!」

「うん?何じゃお主らは?」


シンプルな薄い青味掛かったワンピースを着た美しい【幼女】だった。綺麗な金髪に大きなリボンがチャームポイントだった。


「俺はアーク。この先のリューオウ辺境領に住んでいるんだ。向こうにいるのは、お、俺の妻でシオン・リューオウ辺境伯だ」


ぴくっと幼女はアークとシオンを見ると、にゅほほほほ~~と、嫌な笑いをして言った。


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「我はラブコメに飢えておる!」


「なにを言ってんだ?」(真顔



アークはつい真顔で返事をしてしまった。

幼女がよくわからない言葉を吐いたからだ。


「お主達は面白そうじゃ。ついて行くとしよう!」


アークは困った顔でシオンを見るが、幼女を森の中に置いていく訳にもいかず連れて帰る事にした。


「うむ!なかなかよい寝床ではないか!気に入ったぞ!」

「どうしてそんなに偉そうなんだ!?」


はぁ~とツッコミ疲れで、深いため息を付きながら呟くと、シオンが笑いながら言った。


「ハハハハッ、ここでは、こんな生意気なヤツは多いぞ?日々魔物と戦っているから気性が荒いんだ。しかも、その年齢で魔法もかなり使えるみたいだし、頼もしいではないか。それで君の名前は?」


「うむ、妾の名前は【アイトワラス】じゃ」


「我が国の【建国竜】と同じ名前か。ゲン担ぎに名付ける者は多いが、男っぽい名前だ。そうだ【アイ】と呼ぶか」


「何とでも呼ぶがよいぞ~」


そこでようやくアークはアイの家族について尋ねた。


「アイの両親はどうしたんだ?」

「もうずっとおらぬ。1人で生きてきたのじゃ」


!?


「こんな幼い子供が1人で………」


アークは自分アイを重ねて同情した。


「アイ、大変だったな。自分も最近、母親を亡くして辛かった。だからここにいる間はオレ達を親と思ってくれていい」


「アーク!?」


シオンはびっくりして声を上げた。


「いずれ生まれてくるシオンの子供の予行練習だと思ってくれ」

「お前は幼女の前で何を言っているんだ!バカッ!!!」


真っ赤になりながらアークをバシバシと叩くシオンにアイは───


『これじゃ!妾はこのラブコメを見たかったのじゃ!久々に眠りから覚めて、このようなバカップルに会えたのは僥倖じゃった。どれ、しばらくは力を貸してやるとするかのぅ』


アイは【ニヨニヨ】しながら二人に近づいた。


「二人共、手を出すのじゃ」


じゃれてる二人を手を取るとアイは力を込めた。


「アレ?今、アイの目が黄金に光ったような?」

「これで終わりじゃ」


ぐうぅぅぅ…………


アイのお腹がなった。


「お腹が空いたのじゃ………」

『魔物達を喰らおうとする前に人間達がきたからのぅ………』


うつむくアイにシオンが言った。


「そうだアーク。いつもの得意料理を振る舞ってくれ。私も食べたい」


意外な事に、騎士の演習で外泊するときに、同僚に誘われて料理を少し覚えていたのだ。


「よし!任せておけ!すぐに作ってくる!!!」


アークはダッシュで厨房に向かった。


「やれやれ、落ち着きのないヤツだ。でも、ふさぎ込んでいるよりはマシか?」


シオンと二人になった時、アイは二人の関係と最近の情勢について詳しく聞いた。


「なるほどのぉ~王宮もかなり腐っておるようじゃ」


「前に魔物の被害が酷かった時に、アリア王妃様には多大な援助をして頂いた恩がある。できればアークに国王になって欲しいのだが、私はここから離れる訳にはいかないのでな」


魔物対策の為に、兵士を連れて王都に向かうと言う訳にもいかないのだ。


『これは少し探っても良いかも知れぬな』


さっきと違い、真剣な顔をして考え込んでいたアイだったが、ちょうどアークが料理を持ってきた。


「食堂ではなく、アイがいるからここに持ってきたぞ~」


カートを引きながらアークが入ってきた。


「まぁ、ここにはテーブルもあるしいいか。アイ、アークの料理は絶品だぞ?」


「ほぅ?妾はグルメじゃぞ?生半可な物では美味いとはいわな─────」


なんじゃこれは!?


冷めないように被せてあった銀のフタを取ると、【黄金色のオムレツ】が現れた。無論、スープとパン、サラダもあるよ。


「さぁ!召し上がれ!【スフレオムレツ】だ♪」


初めてみるオムレツと言う料理に、アイは震えながらゆっくりとスプーンをオムレツに入れて口に運ぶと───


クワッ!!!!


う~~~ま~~~い~~~ぞ~~~~~~~!!!!!!


両目から光を出しながら服が爆散するエフェクトが発生した!?


これは何と素晴らしい味なのだ!

スプーンが簡単に入り、絶妙な火加減で表面はプルプル!中はフワッと!!!

口に入れると卵の凝縮した味で包まれる!

しかも噛むのではない、口の中で溶けるように喉を通るのだ!?

軽く塩コショウで味付けしてあり、上に掛かっているケチャップが味をより豊かにしている!?


止まらん!止まらんぞーーー!!!!!

卵の黄金の海に溺れちゃうーーーー♪♪♪

(ちょっと、えっちなシーンが入りまーす!)


「気に入って貰えて嬉しいよ。材料次第で色々な味付けができるから飽きさせないよ。今度は『オムレット』でも作ってみるかな?」


!?


「バカな!?このレベルの料理が色々あるじゃと!?信じられんのじゃ!?」


「アークのオムレツは絶品だ!絶妙な火加減で卵はフワフワのプルプルだぞ♪」


シオンも美味しそうに食べていた。

ガツガツッ!!!


あっと言う間に食べ切ったアイは至福に包まれていた。


「か、神の料理じゃ………」

ガクッと幸せそうな顔で真っ白に力尽きるアイだった。


その夜───


「少し変わった子だけど、子供なのは変わらないな」

「そうだな。寝顔は可愛いものだ」


アイをベットに寝かせてシオンとアークは酒を飲み交わすのだった。


それからリューオウ辺境領は【幸運】が舞い込んできた。


「まさか温泉が湧き出るとは……」

「いえ、それだけではありません。鉄鉱山から宝石が出てきました!」

「なんだか幸運過ぎて怖いくらいだな」


新しい施設の建築など、アークとシオンは忙しく仕事をしていた。


『にゅふふふ。妾の加護を二人も貰ったのじゃ。本来ならその【家】に幸運が舞い込むのじゃが、領主として領地が【家】とみなされたか』


うむ?


もしアークが国王となったら国が家とみなされて幸運になるのじゃろうか?


今までやった事がないのでわからんのぅ?

しかし、アークの【神の料理】のためじゃ!


少し手伝うのはやぶさかではない。

朝早く、アイは腕を組みながらリューオウ領地を散歩していた。


「少し王宮に行ってみるかのぅ?」


急にアイの背中に翼が生えた。

するとシュンッと消えるように高速で飛び去った。


王宮に舞い降りたアイは、何と【黒猫】に変身した。


『う~~む、人間の濁った欲望の黒い霧が王宮を包んでおる。こんな所にいたら、真っ当な人間も堕落してしまうのぅ?』


クンクンとまともな人間の匂いを探して移動すると、王宮でも、王族の移住スペースを通って、離れの離塔にたどり着いた。


『なんじゃここは?罪を犯した王族を閉じ込めておく所かのぅ?』


スタスタと黒猫が螺旋階段を歩いて行くと、屋上の方から声が聞こえてきた。


ガンッ!


「さっさと仕事をせぬか!」

「私はもうお前の言う事はきかない。お前が約束を破ったからじゃ」


なんじゃ?

コッソリと様子を見守ると、側妃が頑丈な扉を叩いていた。


「ふざけるな!お前は仕事さえしていればよいのじゃ!余り私を怒らせると息子の命はないぞ!」


「フフフフッ、できるものならやってみるがよい。すでにアークは辺境伯の下へ行ったのであろう?貴様らごときが手を出せる訳がない。返り討ちにあうのがオチじゃぞ?」


側妃は、ギリッと歯を噛みしめると、再度、扉を叩くとドシドシと去っていった。


ふむ?あの中にいるのはまさか───


アイは扉から中を覗くと、綺麗な女性が多くの書物に埋もれながら椅子に座っていた。


「にゃー!」


!?


「まさか、こんな所まで迷い込んでくる猫がおるとは、ほら、よしよし~」


女性は手招きしてアイを呼んだ。猫は万物共通の愛玩動物なのだ。


『汝に問う。この国の王妃であるか?』


!?


突然、頭に響いてきた声に驚いた。


『妾はアイトワラスじゃ』


「ま、まさか建国竜様でありますか!?」


初代国王が国を作る時に手を貸してくれた偉大な竜だ。


『妾は姿を隠しリューオウ辺境伯の下で暮らしておる。アーク王子には大きな借りがあってのぅ?話では王妃は病死した事になっておるが、今までここに監禁されておったのか?』


それから王妃は今までの事を話した。

アークを国王にする為に、政務と根回しを行っていた為に過労で倒れたのは事実だった。

そこから混乱の隙を狙われ、ここに監禁。自分の身代りを化粧をさせて死んだ事にされた。


息子のアークを殺されたくなければ、ここで仕事をしろと。王妃が立てた政策は側妃の息子クーズ王子が考えた事にして、評価を上げさせたという訳である。


「しかし、側妃は自慢気にアークを辺境伯の下へ婿養子に送ったと言ったのです。王宮の者達はリューオウ辺境伯を蛮族だと嘲り笑っていましたが、私は昔、魔物の被害を受けたリューオウ辺境領に視察に行ったことがあり、辺境伯の領軍の強さを目の当たりにしました。私が悔しがる顔を見たかったのでしょうが、逆に私は安心したのです。アークが辺境伯の下へいるのであれば、身の安全は大丈夫だと」


『なるほど。それでもう仕事をしないと言っておったのか』


「もう言いなりになる理由がありませんので」


流石は愚王の代わりに国を治めてきた王妃である。こんな所に居ても眼光は衰えておらぬな。


『アークは辺境伯に一目惚れして、上手くやっておる。幸せな息子の姿を見に行こうではないか』


「えっ?」


アイは魔法で扉を壊すとアリア王妃を連れ出した。

幼女の姿となって、まだ理解が追い付かない王妃を抱き抱えて飛んでいく。


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


後には王妃の悲鳴だけが響くのだった。

そして───


「着いたのじゃ」

「…………生きてるの?」


げっそりした王妃を連れて領主の屋敷に現れると、大騒ぎになった。


「は、母上!?死んだのでは!??」

「王妃様!?どうしてっ!??」


すでに死んだ事になっていた王妃が現れたのだ。驚くのは無理のない話である。

シオンは王妃様が生きていると確認すると執務室に移動して、事情を聞いた。

そしてアリア王妃はこれまでの経緯を話したのだった。


ドンッと強くテーブルを叩くアークがいた。


「クソがっ!」


母親が監禁されていた事に憤りを覚えていた。

しかし、逆に生きていてくれて嬉しい想いもあり複雑な感情が渦巻いていた。


「アーク、言葉が悪いですよ」


王妃に注意されるが怒りは収まらなかった。


「しかし、こんな事は許すことができません!」

「だが、母親である王妃様が生きていたのだ。ここは再会を喜ぶべきではないか?」


シオンの言葉にアークはうっと言葉に詰まるのだった。


「それより、アイトワラス様はどこにいらっしゃるのですか?」


「「アイトワラス???」」」


一瞬、誰だ?と首を傾げたがすぐにアイの事だと思い出した。


「なんじゃ?呼んだかいのぅ?もぐもぐ」


器用にオムレツの皿を持ちながら、口でオムレツを食べているアイが入ってきた。


「こらっ!行儀が悪い!」


アークはアイからオムレツを奪い取った。


「あっ!?何をするんじゃ!返すのじゃ!!!」


ポカポカとアークを殴る仕草は、父親と子供の姿であった。


「食事はテーブルで、ナイフとフォークを使うように言っただろ?マナーを守れないなら、もう作らないぞ?」

「そ、そんなぁ~~」


アイは絶望の顔をしたが、アークが続けて言った。


「ちゃんとマナーを守ればもっと美味しいオムレツを作ってあげるから。ちゃんとしような?」


パアァァァァァァァ!!!!!!


「うむ!わかったのじゃ!!!!」


アークはアイにオムレツを返すと椅子に座らせた。

もぐもぐ………アークのオムレツは冷めても美味しいのじゃ♪


その様子を見ていたアリア王妃は唖然としていた。


「アークにシオン辺境伯?このお方を誰だか知っているのですか?」


アークとシオンはお互いに顔を見合わせると首を傾げた。


「魔法の使える幼女」

「居候で態度のでかい幼女」


アリア王妃は頭を抱えた。


「私が王城の離塔から逃げてこられたのは、建国竜であられるアイトワラス様のおかげなのですよ!アークも、敬いなさい!」


!?


「「えっ?」」


2人は美味しそうにオムレツを食べるアイを見た。


「母上、疲れていますか?」

「流石にアイが建国竜などとは・・・」


信じない2人にアリア王妃はまたまた頭を抱えるのだった。

そして翌日、アイに頼んで翼を出してもらい、ようやく信じた2人なのでした。


アリア王妃様が生きていた事は屋敷内で箝口令が引かれた。

そして、アークはアイに頼んで隣国に留学している妹の所に連れて行ってもらった。


「すぐに会えるとは思っていなかったよ」

「何をおっしゃいます。お兄様なのですから当然の権利ですわ」


久々に会う妹のアリシアは少し成長しているように見えた。


「それで、我が国の情報はどれほど掴んでいる?」


「概ねの事は存じています。お母様の葬儀すら報せに来なかった王家には愛想が尽きておりますが」


どうやら独自で諜報員を使い、王国の情報を調べているようだ。


「なら二つ朗報があるのだが聞くか?驚くと思うけど大きな声を上げるなよ?」


アリシアは余裕のある兄の態度に違和感を覚えた。

国王になる手前で全てを失い、会ったこともない魔物と命のやり取りをしている辺境伯と無理矢理、結婚させられてこの余裕はなんだろうか?


「ええ、聞かせてください」

「まず、母上は死んでいない。生きている」


!?


「はっ?どういうことですか!?」


いきなり大きな声で反論してしまった。

アークは母親が監禁されていた事を話した。


バキッとアリシアは手に持っていた扇を折った。


「あーんのクソ側妃がっ!!!!!!」


母を死んだ事にして監禁し、母の立てた政策をクズ王子の手柄にしていたですって!!!!!

アリシアの怒りが頂点に達していた。


「はっ!?その事実を知っていると言うことはお母様を救い出したのですよね?」

「ああ、その通りだ。今はリューオウ辺境領で療養中だよ」


ホッと胸を撫で下ろした。


「アリシア、俺は王位には正直興味がない。このままリューオウ辺境領で暮らしたいと思っている。お前はどうなんだ?母上の後ろ盾がなくなって辛い目に遭っていないのか?」


「確かにお母様が亡くなり側妃が実権を握った今、私の婚約を見直そうという声はありました。しかし──」


一呼吸置いてからアリシアは手を叩いた。


するとドアが開き、アリシアの婚約者であるジーク第二王子が入ってきた。


「お久しぶりと挨拶した方が良いのかな義兄上殿」

「ああ、お久しぶりだジーク殿」


2人はガシッと握手を交わした。


「お陰様でジーク様とは良い関係を築けていますの」

「そうだったか。妹を守ってくれてありがとう」


ジーク王子は照れくさそうに頭を掻いた。


「私の予想ではアーク殿は国を取り返すつもりで、助力を求めて我が国にきたと思っていたのだが、違うようですね?」

「そうだな。その予想は外れている」


アークは隣でお菓子を食べているアイに目を向けた。


「そういえば、隣の女の子はどなたなんですの?」

「まさか、アーク殿の娘さんかい!?」


!?


「えっ、そうなのですか!?」

「違う!勘違いするなっ!」


アークは早く誤解を解こうとアイの正体を明かした。


「えっ?建国竜アイトワラス様………ですか?」

「まさか!?この幼女が???」


流石に二人とも信じる事が出来なかったが、自分と同じでアイに翼を出してもらい信じて貰った。


「まさか、本当に存在していたとは………」


ジークは呟く様に言った。


「驚くのは無理ないよ。だが、ジーク殿の考えている事は手に取るようにわかるけどな?」


!?


「別にジーク殿の考えが悪い訳ではないよ。今の腐った王家より、民の為に政治を取り仕切ってくれる人物の方が好ましいと思っているしな」


ジークはアリシアの母国を救う為と言う口実を元に、ドラクル王国に攻め込むつもりだったのだろう。


アリシアを女王にして、その王配と言う地位を手に入れようと言う腹積もりだった。この国では王様になるのは難しそうだしな。


オレは元王太子として、権力闘争に敏感になんだ。


野心のある人物の顔は何となくわかる。だが、ジークがアリシアの事を好きな事も、また事実だろうが。


今のドラクル王国では攻め込まれても、トップ王族は的確な指示が出せない。

過去に、嫌がらせで騎士団の野外演習に参加した時、兵達から聞いた事がある。

命を掛けて戦えると思えるのは、王妃様がいるのと、オレがまともな王になりそうだからだと。誰も遊びふけっている国王には敬意を持っていない。


だが、建国竜のアイがいると、ジーク殿がドラクル王国を攻める時に、国を守護する竜に攻撃されかねないと言う訳だ。


「困りましたわ。せっかくジークにお願いしてドラクル王国を滅ぼそうとしていたのに」


「まさかの妹が首謀者だった!?」


アークの予想は少し外れてたらしい。


「でっ、お兄様はどうなさるおつもりなんですの?」


「流石に他国に王権を奪還されては、遠くない内に我が国は名前が変わるだろう。ならば、身内で決着を着けなければならないと考えている」


「愛国心のあるお兄様ならそうするでしょうね。具体的にはどうなさるの?」


アークは少し間を置いて話した。


「アイのおかげで北部のリューオウ辺境領は魔物の襲撃が少なくなったので、リューオウ辺境伯の戦力を使って王城を襲撃して側妃の勢力を捕らえる予定だ。先に母上………王妃が生きてる事、城に監禁されており、偽物が死んだ事と噂を流す予定だよ」


「なるほど。ほぼ事実ですので、軍部でも動揺が広がりますね。下手をすると民の暴動も起きるかも知れません」


「アリシア、オレは全てが終わったらリューオウ辺境領に戻る。お前が女王になるんだ」


!?


「はっ?何を言っていますの!?」

「オレはリューオウ辺境伯を愛してしまったんだ。お前が女王となり、オレは北部からお前の治世を手伝うつもりだ」


呆れた顔でアリシアが言った。


「もうどこからツッコんでいいのかわかりませんわ」

「出来ればアリシアが最初の計画通り、宣戦布告をして我が国の戦力を国境に向けて欲しい。それを見てリューオウ辺境伯の軍を王都へ向かわせる」


アリシアはふむ?と手を口もとに当てて考えを張り巡らせた。


「………悪くはない案ですわね。でも、アイちゃんが竜の姿となってリューオウ辺境軍と王都を攻めれば簡単なのでは?」


「それだとお前が女王になる時に不都合だろう?建前として、隣国の手を借りて腐った王家を打倒したと言う成果が必要だ。オレ達が協力して国を奪還したというな」


兄はどうあっても私に女王になって欲しいようだ。


「わかりましたわ。私もあのクソゴミ国王と側妃には目に物見せてやりたかったのでちょうど良いですわ」


すでに父親とは思っていないようだ。

名前すら呼ばないとは。

まぁ、オレもそうだけどな。


「さて、オレはリューオウ辺境領へ戻るよ。ああ、連絡はどうしようか?」


連携するにはマメな連絡が必要だ。特に北部と南部の隣国とどう連絡を取るのか………


「妾に任せるのじゃ。ちょちょいとなぁ~~」


アイは手で印を組むと【紅い宝玉】を2つ生み出した。


「これはなんだい?」

「ドラゴン・オーブと言うものじゃ。対となっており、手に触れて魔力を流すと、離れておってもお互いに話せるアイテムじゃ」


!?


「…………お兄様、これが世に出回れば革命がおきますよね?」

「ああ、お互いに城や屋敷にいながら、お互いの政策の話や軍事のリアルタイムでの話ができるのは大きい。国宝級………いや、神話級の聖遺物の価値があるぞ………」


そんな会話よそに──


「お菓子が無くなったのじゃ」

「す、すぐに用意致します!」


ジークはアイの価値を理解して、急に丁寧な言葉で対応した。

うまうまとお菓子を食べるアイの価値観に、頭が痛くなる兄妹だった。


そして帰る時、玄関の入口ではなく中庭にでた事でアリシアは首を傾げた。


「お兄様、帰るのでは?」

「ああ、アイに運んで貰うんだ。報酬はオムレツでな」


「まったく意味がわかりませんわ?」


頼むよ、とアークはアイにお願いした。


「任せるのじゃ。アークの妹君よ、また会おうなのじゃ~~~」


アークを後ろから抱きしめると、翼を生やしてシュッンと一瞬で上空へ消えて行くのだった。


「………この目で見たからには信じるしかありませんね」

「そうだな。敵になった側妃殿が可哀想に思えてくるな」


とはいえ、隣国の出兵には国王の裁決が必要だ。

こちらは威嚇だけで、実際の戦闘はリューオウ辺境伯の領軍が行ってくれるのだ。

我が国王もそれだけで隣国が手に入ると知れば頷くだろう。


まぁ、実際は建国竜様がいるので、無茶な統治を知れば怒りを買い、自国も滅びる可能性があるが、今よりまともな統治さえすれば大丈夫だろう。


ジークはすぐに国王の面会の約束を取りに、指示を出すのだった。


リューオウ領に戻る最中にアイはどうでも良い事を考えていた。


『う~む?アークの妹は腹黒であったな。そして、その旦那になるジークも腹黒だった。腹黒×腹黒ではラブコメが成立せんではないか!アークの妹と思って期待しておったが残念じゃのぅ~せめてピュアな者×腹黒の純愛であれば面白いのじゃが』


このラブコメ脳であるマセガキのアイは、どこまで行ってもラブコメに飢えているのであった。


「ただいまー」

「お帰りー!」


リューオウ辺境領に戻るとシオンが温かく迎えてくれた。それから妹との話をシオンに話とすぐに領軍の出撃準備を号令した。


「ちょっと待て!隣国にいる妹が国境にドラクル王国の兵を引き付けてくれるから、ってか、どうしてそんなに急いでいるんだよ?」


「だって、アークが本当の意味でここで暮らしてくれるんだろう?妹君の気が変わらない内に決着を着けたいじゃないか!」


ドキッとアークは赤くなった。


「お、オレはシオンの夫なんだから当たり前だろ?」

「えっ、うん。そうだね」


モジモジと二人で赤くなりながら照れている様子を周囲の人々は生暖かーく見守るのでした。


ニマニマ♪ニヨニヨ♪

『これじゃ!このウブな感じが良いのじゃ♪』

『まったく、我が息子ながら情けない!もっとグイグイと行かぬか!』



すっかりとデバガメ軍団と化したアイとアリア王妃は対象的だった。


二人の様子を見てニマニマするアイと、なかなか二人の仲が深まらない様子にイライラするアリア王妃。


「のぅ、アリア王妃よ。このウブな二人の様子が良いのではないか?」

「何をおっしゃいますか。男なのですから、もう少し強引に行って、しっかりと、ものにしなくてどうするのですか。逃げられたらどうするのです!」


バチバチッ!!!

バチバチッ!!!


デバガメ軍団にも譲れないものがあるのだ!(真顔

(いや、心底どうでもいい事だけど!?)


こうして少しの間、いじらしい二人をニマニマ・ニヨニヨ見守る勢力と、影からそこだ!いけっ!と、けしかけて応援する勢力で、リューオウ辺境軍や屋敷の使用人達が分裂して対立したのは割愛しておこう。


目の前のキミはどっち派だ?


ちなみに作者は書いていて、こいつらもっと行けよっ!そこだ!キスしろっ!と、書いていてイライラしたので王妃派です。

(なぜこの小説を書いた!?)



コホンッ、そんなこんなで少し過ぎて妹のアリシアからドラゴン・オーブから連絡が入った。


突然の隣国の『宣戦布告』で王宮内は蜂の巣を突いた様な騒ぎだった。


「どうして隣国が攻めてきたのですか!?」


一番の気になる理由はこれだった。


「それより、アリア王妃様が生きているのは本当なのですか!?」


隣国の使者からの口上はこうだった。


「親愛なるアリア王妃様を死んだ事にして監禁し、無理矢理、仕事をさせてその実績をクーズ王子の手柄にしていた。許しがたい諸行である!アリア王妃様の娘であるアリシア様が【聖戦】を訴え掛けた。我々はアリシア王女様の意志に賛同し、悪逆非道な現王家を打倒する為に立ち上がった!覚悟せよ!!!」


!?


使者は弁解する王族を無視してすぐに退出していった。


「これはアリシア王女の叛乱じゃ!隣国の王子を唆してこの国の王権を奪うつもりじゃ!今すぐ全部隊を国境に向かわせる!皆も嘘の噂に惑わされぬようにせよっ!」


王宮は側妃の指示で、王都からできる限りの戦力を大急ぎで国境に向かわせた。

側妃は内心ではかなり焦っていた。監禁していた牢の扉が壊されており、誰かがアリア王妃を助け出したのはわかっていた。

しかし、隣国にいる娘のアリシアが挙兵するとは予想外であった。


行動を起こすなら国内での叛乱を予想していたからだ。


こうしてアークの思惑通り王都の戦力が最低限になった所をリューオウ辺境領の領軍が南下して王都をあっさりと占拠したのだった。


城下の占拠はすぐに完了した。軍を率いる時に屋根のない馬車(キャリオット)に、アリア王妃とアーク、シオン辺境伯が民衆に見えるように進軍していたからだ。

先に、アリア王妃が生きているという噂を城下に流していたのが功を奏した。

戦力差は歴然で、数日王城を包囲してから城下の城門を破壊するとすぐに守備兵は降伏した。


そして、堂々と王城の城門をくぐるのだった。


謁見の間にはすでに王城を制圧したリューオウ辺境軍が控えており、側妃と国王を含めて側妃の勢力である貴族達が縛について床に座らされていた。


「あらあら、良い格好ですわね側妃殿?」


ギリッと歯を噛みしてアリア王妃を睨んだ。

そこに国王が情けない声で助けを求めた。


「た、助けてくれっ!ワシは関係ないであろう!?」


そう言う国王に、アリア王妃はゴミを見る様な冷酷な目で国王を睨み付けた。


「何をいっていますの?一番の原因はアナタでしょうに。傀儡の王となった『アナタ』が一番の諸悪の根源です。まさかそんな事もわからないのですか?」


「わ、ワシは何をもしていない!王妃が死んだと聞かされて悲しかったのだぞ!」


「だから何です?国王が【なにもしていない】のが、国に取って一番の害悪です。もう喋らないで下さい。これ以上騒ぐなら拷問をして、早く殺して欲しいと言うまで痛みを味合わせますわ」


ビクッとして、国王は何も言えなくなった。


メイプル・ドリュー公爵令嬢とその家族も捕縛されていた。


「た、助けてアーク!?私は脅されていたの。本当は貴方との婚約を破棄なんてしたくなかったの!」


助けを乞うメイプルを冷めた目でアークは見つめていた。


「だから?もう関係ないことだ。オレは真実の愛を見つけたのだから」


照れた顔でシオンを見るアークにメイプルは絶望した。


「さて、わざと城下を占拠してから時間を掛けて王城を攻略しました。そろそろ、隣国の兵を率いてアリシアが到着するでしょう。話はそれからね」


王都が包囲されたと火急の知らせが届いた時点で、すでに戻っても手遅れだと察して、国境の警備を担当した総大将はすぐに降伏を申し入れた。


「迅速な判断感謝する」


「いったいどうやって、北部のリューオウ辺境伯と連絡を取り、密な連携をされたのですかな?それとアリア王妃様は本当に生きておられるのか!?」


軍部でも無能な国王に代わりアリア王妃の人気は高かった。


「連絡の手段は言えません。ただドラクル王国の守護竜様が力を貸して頂いたと言っておきましょう。それとお母様は生きておられます」


側妃が監禁し、仕事だけさせていた事を話すと、総大将を含めて軍部の官僚達はブチギレた。


「すぐに王都に戻るぞ!クソゴミの国王と側妃一派を根絶やしにしてくれる!!!」


「「「異議なし!!!」」」


オオオオォォォォォ!!!!!!


メラメラと雄叫びが響き渡った。


「いや、異議なしじゃねーよ!お前ら降伏したばかりだろうが!?武装解除してここで待機だよ!」


ジークのツッコミは無視され、アリシア王女は頭を抱える事になった。こうして、隣国の兵は最小限に同行する事に留めて、ドラクル王国の主力の軍が大挙して王都へ向かう事になった。



そして───


バッーーーーーン!!!!!

大勢の兵を連れてアリシア王女が謁見の間にやってきた。


ダダダダダッッ!!!!

なだれ込む様に、アリシア王女の後ろから規則正しく兵が隊列を組んで入ってきた。


「お、おおっ!そなたらは我が国の兵ではないか!ここにいる逆賊達を殺して我々を助けるのじゃ!」


アリシアの後ろに規則正しく整列している兵士に何を言っているんだ?

アークは呆れながらため息を付いた。


一向に動かぬ兵士に側妃は苛立って叫ぶが兵士は動かなかった。


「ハァハァ、何故動かぬ!」


ようやくアリシア王女後ろから一歩前にでた総大将が片膝を着いて最上位の礼を取った。

すると全ての兵が膝を着いて礼をした。


「我が真に忠誠を誓う主が目の前にいるのに、どうして貴様の様な、国の病原菌の言う事を聞かねばならぬ?」


「なっ?」


側妃は目を開いた驚く顔をした。


「アリシア、驚いたよ。よくこの短時間で我が国の兵士達をまとめ上げたね」

「私は何も。全てはお母様、アリア王妃様の人徳の賜物ですわ」


そう、いわゆるトップアイドル的存在といえばわかるだろうか?


軍部ではアリア王妃を崇拝している者が多いのである。それは、むさ苦しい騎士団の視察によくアリア王妃が訪問していたからだ。


まぁ、アリア王妃の隠れた性癖として、筋肉ムキムキの騎士が好きだったので、よく視察と称して見に行っていた事は、作者の胸に閉まっておく。


ちょんちょん

『うん?なによ?』

『少し黙りましょうか?』


!?


ギャッーーーーー!!!!!


その後、作者を見た者はいないと言う………



ワタシハナニモシラナイヨ?


ハッ!?

記憶が飛んでるけど続けよう。


「これで、無能な国王と国を喰い潰すだけの側妃一派を根絶やしにできますわね」

「ハッ、私に何かしてみなさい。国中の私の子飼いの貴族が叛乱を起こすわよ!」


側妃が強気なのは勢力が大きく、王都にいない貴族が地方にもいるからだった。


「それは大丈夫よ。我々には建国竜様が付いていますので♪」


「「はっ?」」


捕われている側妃達はバカにした様に笑った。


「そんな居もしない竜を信仰したからと言って誰が従うとでも?」


「はぁ~我が国の生まれなのに建国竜様を信じていないなんて哀れね。私が監禁から救ってくれたのは建国竜様だと言うのに」


「我が国の民として、臣下として愚かとしか言えないな」


「本当に、建国竜様を信仰していないなんて、異端審問に掛けて拷問のうえ浄化の炎で焼かなければなりませんね」


王妃、アーク、アリシアが逆に憐れみの目で側妃達を見つめた。

アリシアだけは過激な発言ではあったが。


コソッ

「アイ、竜の姿になる事は可能かい?嫌なら良いけど」


「真の姿になるとお腹が空くのじゃが………」

チラッとアークを見る。


「オムレツ、100人分でどうだ?」

「よし!我に任せるのじゃ♪」


速攻で交渉成立である。


アイはバルコニーから外にでると、下がちょうど庭になっている事を確認するとバルコニーから飛び降りた。


グオォォォォォォオオオオ!!!!!!!


光り輝いたと思うと、外に白銀の白き巨大な【竜】が現れた。


「「「うわぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!」」」


あっちこっちから大きな悲鳴が上がったが、多くの者は膝を付いて両手を合わせて祈りを捧げた。


アークは風魔法を使い声を王都中に響かせた。

アイの姿は城下からでも見えるほどだった。


『我が名はアーク!母上であるアリア王妃と妹のアリシアと共に逆賊から王城を取り戻した。そして、我が国の建国竜アイトワラス様と数百年ぶりに【盟約】を交わした。建国竜様は腐った王家を打倒する為に、監禁されていたアリア王妃を救いだし、国を守る為に力を貸して下さった!正義は我々にあり!!!』


オオオオォォォォォォ!!!!!!


城下の民衆からも歓声が上がった。


「さて、建国竜様の竜のブレスで死ぬのとギロチンで死ぬの、どちらが良いかな?建国竜様が付いている我々に叛乱を起こす貴族がいると思うかな?」


ガタガタッ

ガタガタッ


流石の側妃も真っ青になり、全身冷や汗を掻いて震えるしか出来なかった。


「貴方はやり過ぎました。派閥争いはどこでもある事ですが、自分が贅沢したいだけで国政をめちゃくちゃにした罪は重い。どんな死罪になるのか楽しみにしていなさい。アナタもね」


国王は何か言いたそうだったが建国竜に睨まれては何も言えなかった。


アイは退屈で、庭で猫の様に丸くなると丸一日その姿のまま眠った。

その間に、建国竜様を見ようと大勢の人々が集まり、王都中の民が祈りを捧げるのだった。


それから三ヶ月ほど王城に留まり、アリシアが女王になる準備に追われた。

アリア王妃はしばらくはアリシアに国政を指導する為に城に残ったが、アリシアがジークと結婚すると同時に引退して、リューオウ辺境領に移住することが決まった。


アリシアがジークと結婚するのは、まだ1年ほど先の事である。アリア王妃はその1年の内にシオンとアークに強く言った。


「アナタ達は王命で婚姻はすでに結ばれています。せめて戻ったら式を挙げなさい」


アリア王妃は側妃から回収した資金をアークに渡した。


「母上、少しいえ、かなり多くないですか?」

「何を言っているのです。これから子供が生まれれば何かと入り用になるでしょう?」


「「子供!?」」


驚く二人に王妃は頭が痛くなった。


「もう子供ではないのですよ?シオン辺境伯も跡継ぎは必要でしょう?愛し合っているなら尚更です。まさか、今だに手も繋げないとは言いませんよね?」


なぜ自分がこんな恥ずかしいこと言わねばならないのか。アークに伽の勉強はあったはずだけれど………深いため息を付きながらアリア王妃は真っ赤になってギクシャクする二人を見送るのだった。


1年後、無事にアリシアは女王となり、王配にジークが着いた。隣国の指示があったが建国竜がいる事を理由にドラクル王国の不利益になる命令は無視して、ジークは生涯アリシアを愛し、政策を手伝う事になる。建国竜アイのおかげで、悪さをする貴族や盗賊は激少し国政がやりやすくなっており、平和な時代が続く事になる。


リューオウ辺境領はアイの加護により魔物の襲撃が減少し、温泉の観光地として人気が出て、多くの観光客が訪れる事になる。


それから、その観光地の名物料理が多種多様な【オムレツ】だった。


「美味しい!」

「美味い!?」

「なんで同じ卵でこんなに味が違うの!?」


リューオウ辺境領のオムレツは建国竜様も美味しいと認めた触れ込みで、国外からも食べにくるお客が大勢訪れたと言う。


ニヨニヨ、ニマニマ

「にゅふふふ、あの初々しいのが良いではないか?」

「その、にゅふふふはやめろ!」


アイはご機嫌だった。

温泉の観光地となった事で、恋人同士でやってくるカップルが多く訪れるようになったために、アイのラブコメセンサーが毎日、ビンビンに反応してニヨニヨと楽しんでいるのであった。


「我のラブコメの飢えは満たされておるのじゃ!」


あのカップルは付き合い始めたばかりかのぅ?


おや、あの二人は幼馴染かのぅ?いいのぅ♪あの、いじらしい所がいい!


おおっ、あの二人は喧嘩中かのぅ?お互いに好き合っておるのに、素直になれないと言った所か!とてもいい感じじゃ♪



後に、リューオウ辺境領でカップルで行くと永く幸せになれるというジンクスが生まれるのだった。


そこに、ニヨニヨする幼女を見かけるのが幸せになる条件だとか。


それから──


「あ、あの!アイちゃん!僕は近くに住んでいるカイっていいます!」


「なんじゃお主は?」


見かけはアイと同じく8才~10才ぐらいの男の子だった。


「前から、何度も見かけて可愛いなと思っていました。僕と結婚を前提に付き合って下さい!」


ボンッ!


「な、何を言っておるのじゃ!お主はまだ子供であろうがっ!」

「愛があれば歳なんて関係ないよ!」


真っ赤になるアイをニヨニヨ、ニマニマと見つめる者がいた。


「にゅふふふ、アイにも春がきたか」

「にゅほほほ、アイちゃんにもラブコメが来たのね♪」


どうやらアークやシオンといったリューオウ領に住む者達は毒されているようだ。


プルプルと震えるアイは怒った!


「にゅふふふは止めるのじゃーーーーー!!!!!」


「「お前が言うなっ!!!!」」


リューオウ辺境領は今日もラブコメが発生して平和である。


【Fin】






☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

【あとがき】

最後までお読み頂きありがとうございます。


思ったより大量執筆となり長くなりました。

個人的にこういうギャグなお話は執筆が進むのですよね~


補足事項として、昔のニワトリは卵を余り産まなかったので、グルメのアイは卵料理を食べた事が無かった設定でした。短編なのでその辺の詳しい事が書けませんでした。


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偉そうな幼女はオムレツが好き!妾はラブコメに飢えておる!はっ?何を言っているんだお前は?(真顔 naturalsoft @naturalsoft

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