第10話 顔合わせ

(ここは……アスールお兄ちゃんの家……だけど、どうして?)


 自分の実家で身支度を済ませたレティシアは、祖母と一緒に今なぜかアスールの実家の応接室にいた。目の前にはアスールの両親もいる。


 祖母には何の説明もされず、あれよあれよという間にこの場に連れてこられたレティシアは不思議そうな顔でアスールの両親を見つめるが、アスールの両親はむしろそんなレティシアを見て不思議そうな顔をしている。


「すまないね、この子には詳しい説明をしていないんだ。説明しなくても結果問題ないだろうと思って。それに本人にとってもこの方が喜びも倍増だろうし」


 ふふふ、と笑うレティシアの祖母に、アスールの両親はなるほど、と頷いて微笑んだ。


「それにしてもごめんなさいね、返事が来ないのはいつものことだからあまり気にしていなかったのだけれど、まさか手紙の中身を確認してもいなかっただなんて。レティシアちゃんとなら不満はないだろうと高をくくってたのだけど、とんだご迷惑をおかけしてしまったわ」


 片頬に手を当ててやれやれとため息をつくアスールの母。


「いいんだよ。そんなことだろうと思って直々に本人の元へ足を運んで正解だったさ」


 ニンマリと笑う祖母に、アスールの両親は苦笑する。そして、そんな三人を見ながらレティシアは相変わらず不思議そうな顔をしていた。


(何のことだろう?全く話が見えないのだけれど……。そもそも縁談相手との顔合わせのはずなのに、どうしてアスールお兄ちゃんの家に来たのかしら)


 そう思っていたとき、コンコンと扉がノックされ、アスールが応接室に入ってきた。


「遅くなって申し訳ありません」


 そう言って入ってきたアスールの姿は、いつもの騎士服とは違う礼服に近い装いでいつも以上にかっこいい。思わずレティシアがアスールに見惚れていると、その視線に気付いたのかアスールもレティシアを見つめる。そしてアスールは両目を一瞬見開いて頬を赤らめ、すぐに咳払いをし、席に着いた。


「さて、主役がようやく揃ったことだ。レティシア、もうわかったとは思うけど、お前の縁談相手はアスールだよ」


  にっこりと微笑んで言う祖母の言葉に、レティシアはキョトンとする。そして、アスールの顔を見て首をゆっくり傾げた。


「はい?」


 レティシアの様子に、アスールの両親は苦笑し、アスールも何とも言えないような表情をする。


「うちのばか息子が不甲斐ないばかりに、レティシアを混乱させてしまったようだ。本当に申し訳ない。詳しいことは、本人にちゃんと説明させよう。二人で庭園でも散歩してくるといい」


 アスールの父親がそう言うと、アスールの母親もレティシアの祖母もうんうんと頷いてアスールを見る。


「……わかりました。レティシア、行こうか」


 眉を下げながら微笑み、立ち上がってレティシアの前にひざまずき、手を差し伸べるアスール。まだ状況を飲み込めていないレティシアは戸惑いながらもアスールの手を取った。





 アスールの実家の庭園は広い。色とりどりの花が咲き誇り、アスールとレティシアの目を楽しませてくれる。花たちの良い香りも漂い、レティシアは思わずうっとりとした。


「小さい頃もレティシアはよくここで花を見ながらうっとりしていたね」


 レティシアの様子を見て懐かしそうに微笑むアスール。レティシアはなんとなく恥ずかしくて目をそらすが、そういえば、とすぐにアスールへ視線を戻した。


「あの、私は今日縁談相手と顔合わせのはずだったのですが、私はなぜここに?おばぁさまが相手は団長だと言っていましたが、あれは一体……」


 応接室で言われたことが全くわからない。もしもそれが本当だとしたら、レティシアにとっては一大事であり、とても嬉しいことだ。だが、未だに信じられずもしも勘違いだとしたらあまりにもショックすぎる。


 ドキドキと高鳴る胸をおさえながら、レティシアはじっとアスールを見つめる。


 レティシアの視線をしっかりと受け止め、アスールは口を開いた。


「驚かせてしまって本当にすまない。俺もこんなことになるなんて思ってもみなかったんだ。……その前に、今日は寮母と団長としてではなく、昔のように話をしたいんだけど、いいかな?」


 レティシアの髪の毛にそっと触れ、耳に髪をかける。アスールに触れられた箇所がなんだかとても熱くて、レティシアは思わず顔を赤らめながら小さく頷いた。


「ありがとう。………どうして今回、こんなことになったのかは、全部俺が悪いんだ」




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