10 窮状・疑い・アマナ様
旅は順調に進み、何事もなく一日が終わろうとしていた。ダン一家は荷馬車の中に隠れている。チャザートが馬車を操縦し、チーリはその周りを馬に乗り警戒していた。村から昨日まではダンが馬に乗っていたので、今日は荷物の重さが増え少し速度が落ちたそうだが、その他に問題はなかった。子どもたちは、朝早くの騒動で疲れていたのだろう。特にカノは馬に乗るチーリとたくさん話をした。彼女は森で出逢った生き物たちについて興味津々な様子だった。上の二人の男の子たちも、話しかけてくることはなかったが、耳を傾けていることは分かった。彼らは日が沈む頃には馬車の中でぐっすり眠っていた。
街道沿いには、旅人や行商人たちが夜を越すために使うことができる小屋が点在している。小屋と小屋の間隔はおよそ荷馬車で一日分の距離なので、旅の目安になると、チャザートが教えてくれた。それを目安に王都まで掛かる日数も判断しているようだ。
小屋の中は二部屋あり、メリノは、その狭い方の部屋に子どもたちを寝かしつけた。チーリ、ダン、チャザートは馬小屋で馬たちに水や餌をあげて一日の頑張りを労い、その後荷物を小屋の中に運んだ。それを終えると木の机を囲み座る。今晩はどこか邪魔にならないところで休もうかと考えていたが、そこへメリノが戻ってきて、「せっかく知り合えたのだから、もっとお話ししましょう」と誘ってくれた。
「いやーそれにしてもチーリ君は働き者だね。ほれ、これは俺たちが村で作っていた野菜だ。これがまたとてもおいしいんだ。是非食べてみてくれ」と言い、お皿いっぱいの野菜を指差した。
お皿には芋や根菜、そして葉菜がたくさん並んでいた。どれも色鮮やかできれいだった。ダンは「これが特においしんだ」と言って赤い根菜を渡してくれた。円錐の長細く大人の足くらいの長さの野菜だ。たった今畑から採ってきたのかと思うほど濃い赤色だった。
「これは…もしかして、チャッツですか?」チーリは顔をしかめ尋ねた。
「ええ、そうよ…もしかしてチーリ君、チャッツは嫌いだったかしら」
「いや、あの、嫌いなわけではないんですが…。一度小さい頃に食べたことがあって、あまりにも苦くて一本食べるのに一ジン(約一時間)掛かったことがあって…」それ以来大嫌いだとは言わなかった。
「わっはは、そうかそうか。チャッツを嫌いな子どもは多いからなー。だけどな、うちのチャッツは苦いだけでなく、甘味もあるんだ。騙されたと思って食べてみな」
ダンにそう言われ、チーリは覚悟を決めた。
チャッツを掴むと大きく一口齧る。最初は苦味が口の中に広がり、長時間格闘していた記憶が蘇ってきた。しかし、噛んでいるうちに爽やかな甘みを感じ、それが次第に口の中いっぱいに広がってくる。飲みこんだ後には、口に苦さはほとんどなく、根菜独特の甘みが残っているだけだった。それは果実とも蜂蜜ともまた違った甘さで、初めて味わう甘さだった。
「おいしい!すごいですね!俺、こんなに甘いチャッツは初めて食べましたよ。これなら何本でも食べられますね」
「あら嬉しいわ。ならこれも食べてみてくれる?」
いつの間にか炊事場へ行っていたメリノが、チャッツを四本並べたお皿を持って戻ってきた。チャッツからは湯気が立っている。
「少しだけ茹でてみたの。お水がもったいないかなとは思ったけど、チーリ君においしく食べてほしくて」
「いただきます!」
チーリはお皿から一本取ると、大きく一口齧り衝撃を受けた。
一口目から、とても甘かった。特有の苦さは全くなく、ほくほくに茹でられていることで、食感が軽くなり、揚げ菓子を食べているようだ。
「うわーこれもおいしいですね!生で食べた時もびっくりしましたけど、これもすごいですよ」
「そうだろそうだろ。俺らはな、この野菜で生きていくことに決めたんだ。自慢の野菜たちだ。もっとたくさん食べろ」
ダンはそう言うと、どんどん野菜を寄越してきた。チャッツ以外の野菜もどれもおいしく、食べる手が休まらなかった。野菜だけでお腹がいっぱいになったのは初めてのことだった。他の三人もたくさん食べていた。チャザートもダンの野菜を食べるのは今夜が初めてらしく、チーリと同様に驚いていた。彼は意外にも嫌いな野菜が多かったようだ。それでも、やはり美味しかったようで、食べ終えた彼はとても満足そうな顔をしていた。
食べ終えるとみんなで片付けをした。チーリはどんどんお皿を運んでいたが、メリノがあまりに手際よく皿洗いを済ませるので、それにも驚いた。今日は驚いてばかりだ。
一段落着くと、メリノがお茶を淹れてくれた。それを持ちまた四人で机を囲っている。
「それにしても、あまりにおいしいものばかりで、話をすることを忘れていましたな。おや、このお茶もおいしいですね」
「あら、嬉しいですわ、チャザートさん。だけど、これは行商人から買っていたものでうちで採れたものではないんですよ」
「おや、そうでしたか。私が購入するお茶はいつも渋味が強くて困っているんですよ。お客さんに出すのも躊躇ってしまいます」
「一口に王都の商人と言っても、良いのも悪いのもおるんでしょうな。俺のとこへ寄る商人は良いうちの一人だったんでしょう」
(王都か…そう言えばダンさんたちが王都へ行く理由はなんだろうか?)
それを聞こうと思ったが、おそらく訳ありであることは間違いない。簡単に聞いて良いのか分からず黙って三人の話を聞いていた。
「そういえば」メリノがお茶のおかわりを注ぎながら尋ねてきた。「チーリ君も王都を目指しているんでしたよね。確かおじいさんのために?」
(村人が全員殺されて、その復讐のために…なんて言えるわけないな。良い人たちだし嘘を吐くのは申し訳ないけど本当のことを言って一緒に行動できないとなったら困る。なるべく嘘にならない範囲で答えておこう)
「そうですね。じいさんのことを知っている人がいるかもしれないので、訪ねてみようかと思ってるんです」慎重に言葉を選ぶ。
「あら、そうだったのね。見つかるといいわね」
「ありがとうございます。メリノさんたちも王都を目指しているんですよね。理由を聞いてもいいですか?」
そう尋ねるとメリノはダンと目を見合わせた。
「あ、いや、言えないなら大丈夫ですよ。すいません。僕は同行させてもらえるだけでありがたいので」
ダンがメリノに頷く。それから理由を話してくれた。
「隠すことはないのでな。それにこれから王都に着けば同じような話を聞かれることもあるだろうしな、避けては通れんだろう。すごく簡単に言えばな、村での暮らしが辛くなってしまったんだ」
「辛く…?」
「チーリ君の村、ウスべ村といったか、ではどうだったか分からないが、俺たちのブライ村では困ったことがあってな。周囲の森から獣は姿を消し、木の実や果実も全く採れなくなってしまってな」そう言って茶を啜る。
「それ同じでした。俺、狩りに出るんですけど、最近森の兄弟たちがかなり減ってしまって…」それ以上は色々なことを思い出すので言えそうになかった。
その様子から何かを察したのか、チャザートが続けてくれた。
「お二人の村だけでなく、各地の村で似たようなことが起こっているようですよ。国王様をはじめ王家の方々も頭を悩ませているようです」
「そうらしいな。まあ偉いやつらは頭を悩ますだけで済むが、俺らたちみたいに地べたに這って生きているもんにとっては命に関わる問題だ。それが分かっておるのかどうか…おっと、話が逸れたな。とにかく、俺たちは村での生活に限界を感じていたんだよ。それに今朝も言った黒狼団のこともある。数年に何回か奴らの被害に遭うこともあったんだ。食べるものもない、いつ襲われるかもしれない…そんなところで子どもたちを育てる訳にはいかない、と思ってな。それで王都で新しい生活を始めることにしたんだ」
「それ、村の人たちから反対されなかったですか?」
ウスべ村では、何事も連帯して乗り越えていくことが大切にされていた。それをひどく窮屈だと感じることもあったが、大人たちが生きていくために一人一人ができることに全力で取り組み協力する姿は尊敬できるものだった。辛いことがあれば支え合い、楽しいことはみんなでお祝いする。じいさんは村のことを大きな家族だと呼んでいた。だからこそ、そこから勝手に抜け出そうとする人が、特に村が一番辛い時に抜け出す人がすんなり背中を押してもらえたとは思なかった。
「たぶん、想像通りだよ。えらく反対されたよ。俺たちを見捨てるのかってな。俺たちの野菜は王都の商人たちにも評価してもらっててな、大切な村の収入源だった」
「よくそれで出てこれましたね」
「みんなに隠れて準備を整え、夜にこっそり抜け出したんだ。チャザートさんには事前に連絡していてな。手伝ってもらわなかったら無理だったろうな」
チャザートは「いえいえ」と謙遜している。彼らが村を抜け出すこともかなり大変だったと思うが、これからも同じかそれ以上に大変だろう。
「王都に着いたらどうするんですか?」
「さっきも言ったが、野菜たちで勝負するんだ。一度王都へ行ったことがあってな、その時に店舗と畑を確保している。野菜を作り、それを使い料理を出す店を開くんだ。メリノの料理は誰にも負けんからな」
それを聞いてメリノは照れているようだ。彼女は病弱だそうだが、しっかりしているし肝が据わっている。ダンも言葉がきついことがあるが優しい人だ。心の底からうまくいってほしいと思った。
「とにかく俺たちにはアマナ様がついていてくださる。正しく生きていれば必ずお答えいただけるだろう。彼女に感謝を」そう言うとダンもメリノも口の前で手を組み少しの間目を瞑っていた。チャザートもそれに倣った。
(アマナ様…?初めて聞く名前だな)
真似した方が良いのか考えていると、その様子を見てメリノが驚いた顔をした。
「チーリ君、アマナ様を知らないの?」
「ええ、今初めて耳にした名前です」
三人は目を合わせ何やら思案しているようだ。
「その、知らなかったら何かまずいことがあるんでしょうか?」
まだ戸惑っている様子のメリノがおずおずと尋ねた。
「チーリ君て、弔権者なのよね?」
「そうですけど…」
ダンが顎に手をやり難しい顔をしている。
「えっと、弔権者はね、アマナ様への信仰に基づいた行いなのよ」
メリノの声は震えていた。
「アマナ様というのは昔から信じられてきた女神様なの。この地で死んでしまった人はみんなアマナ様の元へ行くと言われているわ。そこで、生前の苦しかったことや自分の悪い行いを告白するのよ。そしてどうしても許せないことがあった場合は、彼女に罰してもらうの。それはそれは辛い罰らしいわ。だからそれから逃れる為に、死者に対する生前の行いを償い、彼らに安寧が訪れるように旅に出る人のことを弔権者というの。他にも『音無し』になる人もいるけれど」
「『音無し』?」
「そうか、それも当然知らない訳だな」ダンが難しい顔のまま話を引き取る。
「『音無し』というのはな、大変な悪事を働き村を追い出されたもののことだ。彼らは生涯話すことを禁じられた上で村を追い出されるんだ。もしその禁を破れば死後、アマナ様の元で酷い罰が待っているとされている。『音無し』になったものは、どこかの集団に属することも、結婚することも、子を作ることも、一切が認められていない。それでも死後に訪れるアマナ様の罰に比べれば軽いものだと言われている。また『音無し』として生涯を全うできたものには、アマナ様が慈悲を与えてくださるとも信じられている」
初めて聞くことの多さにチーリはポカンとしていた。しかそれでも自分が大きな過ちを犯したかもしれないことに気づき始めていた。
「まあ弔権者の話に戻ろうか。弔権者が左肩に巻いている黒い布な、そこに三本線を描くだろう。それはそれぞれアマナ様が大事にされているとされる敬愛、誠実、安寧を表している。黒色の理由は彼女の眷属が罪人を見るためのものだと言われておるな。眷属たちは黒色以外は目にすることができないそうだ。俺たちは彼女に背かないように、彼女に認めてもらえるように、その三つを大切に生きている」
「初めて…聞きました」
「そうだろうな。だからこそ、俺たち三人は疑っているんだよ。チーリ、お前は本当に弔権者なのかってな。アマナ様を信じていない弔権者はいない。もしいるとすれば、それは身分を偽り良からぬことをたくらんでおる輩だ」
チャザートが続ける。
「あなたが現れたのは、私たちが黒狼団を追い払った直後でした。その間の良さあるいは悪さから、あなたは彼らの仲間か奴隷ではないかと疑ったのです。しかし、そのどちらでもなさそうでした。さらに、こちらに対する敵意を、私は感じることができなかった。だから同行を提案するメリノさんに同意したのです」
そう言うと、チャザートはいつの間にか剣を構えていた。
「しかし、もし私の判断が誤っていたとしたら。あなたが、身分を偽りダンさん達に危害を加えるつもりであるならば、私はここであなたを切り捨てるしかありません。私としましてはあなたに好感を抱いておりますので、望むところではないのですが。何か申し開きがあれば、なさってください。その上で判断はダンさんに一任いたします」
チャザートには隙が全くない。まず逃げるという選択肢はなかった。同じように王都を目指しているのだ。遅かれ早かれどこかで出くわすことになるだろう。それならば正直に訳を話して納得してもらうしかないだろう。うまくいかなければ、それはその時に考えるだけだ。
「まず、信じてほしいことは、俺はじいさんを亡くして、その為に旅をしているということです。そしてあなたたちに声を掛けたのは今朝言った通りです。水や食料の不安、そしてなにより、一人で夜を過ごす寂しさからです」
チーリはこの状況に焦っていたがゆっくり話すことを心がけた。どこかで間違えれば剣が振るわれるだろう。彼らには疑わしいことがあれば、容赦する必要はないのだ。
五年前に弔権者に出会ったこと、そして彼女やじいさんから弔権者がどういう存在か聞いたこと、唯一の家族であるじいさんを亡くしてしまい、居ても立っても居られず村を発ったことなどを、必要なことだけ丁寧に伝えた。その間、一切口を挟まず聞いてくれたことはありがたかった。
三人は話を聞き終えても、疑っているようだった。しかし、チーリにはもう話せることはない。改めてチャザートが剣を振れば逃げるしかないなと、覚悟を決めた。こんなところで死んでしまうわけにはいかない。
しばらくの沈黙のあとダンが口を開いた。
「チャザートさん、どう思いましたか?」
「私は一度判断を違えました。私の考えは気になさらず、お決めください」
ダンとメリノは相談する為に外へ出て行った。チャザートと二人になり、気まずい沈黙が流れる。
「私は」とチャザートが剣を構えたまま話してきた。「私は、あなたを切れる気がしません。あなたは話をしながらも、私の小さな動きに反応していました。まさに野生の動物のように鋭いものでした。もしお二人があなたを切るように決定なされば、私は剣を振るうしかありません。今回は全て私の不徳の致すところであるからです。しかし私を切ったあと、彼らに危害を加えないでいただきたい」
チーリは呆気にとられていた。よくもこんなに正直な性格で三十年以上も生き残れているもんだ。
「その心配はしないでください。俺はあなたを攻撃するつもりもありません。ただ、ここで大人しく切られる訳にはいかないんです。だから、もしそうなれば一目散に逃げます。まあ、もし俺に勝てないと思うなら今後王都で会っても襲ってこないでほしいですけど」
そう言うとチャザートは声を出さず笑顔になった。今朝も思ったが、彼は笑顔がよく似合う。
「私も自分のことを馬鹿正直だと思っていますが、あなたも大概ですね。先ほど、ダンさんに私の考えを伝えなかったのは、また間違いを犯しているかもしれないと考えたからです」
「それは?」
「私は、あなたが嘘を吐いているとは思えませんでした。何やら隠し事はしているようですが、それでもあなたが語ったことは、話せる範囲で全て真実だったろうと思っています。だからこそ、彼らに判断していただきたいと考えたのです」
その時扉が開く音がして、ダンとメリノが戻ってきた。二人は依然固い表情のままだが、それでも幾分か和らいだような気がする。
「少し話が聞こえたよ。俺たちもチャザートさんと同じ考えだ。チーリ、お前は嘘を吐いていないだろう。まあ俺は少し疑っているところもあるが、それでもメリノはお前を信じるそうだ。俺はメリノを信じているからな、お前のことも信じることにした」
メリノが大きくため息をついた。ダンとメリノに頭を下げる。
「ありがとうござ…」
「まだ、礼を言うのは早い。信じることにしたが、俺にはお前の旅の目的が分からん。亡くなったじいさんのために旅をしていると言ったな。それがお前のじいさんを弔うことになるのか?」
「それは…」
「いいか。勘違いするなよ」
チーリの胸に手を翳し、ゆっくりと話し続けた。
「メリノが信じると言い、俺もそれを信じると言った。それにチャザートさんもお前が嘘を吐いていないと考えているのだろう?今からお前を追い出すつもりは無い」
そこまで手を離すと、チラッと子どもたちが寝ている部屋を見た。
「それに子どもたちは三人ともお前のことが好きなようだ。カノはまあ、いつも通りだが、シャンとグリンが、知り合ったばかりのやつの話をあんなに聞いているとこを見たことがない。だから王都までは一緒だ」
「ただね」メリノがダンに代わって話し始めた。「私たちは心配してるのよ。この人は心配とは言わないけどね。あなたは十五歳で、村では大人の仲間として狩りをしたり力仕事をしていたとはいえ、私たちから見れば十分に子どもなの。そんな子がたった一人でおじいさんの為にとは言え、危ない旅をしているなんて。それは本当に正しいことなのかしら?」
「俺たちは、自分のことで精一杯なんだ。お前が単に力を貸してくれるだけなら、ありがたくお願いしたいところだ。ただ、お前が何であれ年齢に相応しくない、危険な旅をしているなら、村に帰るべきだと考えている。お前は俺たちのように、村での生活に限界を感じ、逃げてきたわけではないだろう。まだ、村でできることがあるんじゃないのか」
村を発ってからまだ三日しか経っていない。それでも誰かに優しくされたことがとても久しぶりに感じ泣きそうだった。しかし、泣かないと決めて旅に出たのだ。チーリは涙を必死に我慢した。
ある程度事情を伝えないと同行を許してもらえそうにない。今の二人なら、村へ一緒に戻ると言い出しそうな雰囲気すらある。
「分かりました。旅の目的を伝えます」
そうして森での出来事は伏せ、村で起きたことを簡単に伝えた。村の人がみんな殺されてしまったことを伝えた時は、メリノは涙を流し、ダンも青ざめた顔をしていた。
「だから俺は旅をしているんです。やつらを見つけ出して必ず報いを受けさせてやります」
ダンとメリノは掛ける言葉が見つからないようだった。
「よろしいですか?」
チャザートは話を聞いている間、表情に一切の変化を見せなかった。そして同様に普段と変化のない声で話し始めた。
「チーリさん、私は長い間このような仕事をしていますので、たくさんの人を見てきました。その中にはあなたのように復讐に心を燃やしている人もいました。しかし、それに成功した人も失敗した人も、誰一人として晴れやかな心持ちで人生を歩めた者はいませんでした。それに意味はないと言ってもいいかもしれません。私はあなたに、彼らのような無意味な人生を送ってほしくありません」
「ありがとう、チャザートさん。ただ意味があるかないか、チャザートさんが見てきた人たちと同じかどうかは、やってみなきゃ分からない。だから、俺は止まる気はありません」
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