第18話 白き流星
純白のドラゴン――レヴィは、山から飛び出して宙を舞う。
山のふもとで祭りの真っ最中だった村人たちは、夕焼けの中、輝くようなその美しいドラゴンの姿を見て、思わず感嘆の息をついた。
しかし、レヴィはそれどころではない。
彼の向かう先には、黒煙が立ち上っている。
村人は全員祭りにいそしんでいるはずなのに……それはつまり、カッツと真犯人が遭遇して「なにか」があったということ。
「カッツ……無事でいてくれ……!」
白いドラゴンは流れ星のようにまっすぐに、とてつもないスピードで煙の上がっている場所まで飛んでいった。
カッツが目を覚ますと、彼は炎の上がった空き家の中にいることに気付く。
ぎょっとしても身動きが取れない。どうやら後ろ手にロープで縛り上げられ、柱にくくりつけられているらしい。
真犯人がカッツの口を永遠に塞ぐために始末しようとしていることは明確だった。
「クソッ……!」
なんとか縄をゆるめようとガムシャラに暴れるが、結び目は固い。
煙を吸い込んでしまい、ゲホゲホとむせる。目が痛い。
このままでは自分に火が燃え移り、亡きものにされるのは時間の問題である。
「――カッツ――!」
遠くから、レヴィの声が聞こえた。
幻聴でなければ、応えてくれ。
そんな気持ちを込めて、カッツもあらん限りの声で叫ぶ。
「レヴィ! 僕はここだ!」
その途端、燃える家の中に、流星が飛び込んできた。
いや、流星ではない。レヴィだ。
彼が激突したために、もともと火の手が回って脆くなった空き家は焼け崩れていく。
それを防ぐように、レヴィの身体と白い翼がカッツを守るために覆いかぶさった。
ガラガラと何かが崩れ落ちていく音を聞きながら、カッツはレヴィの身体に必死にしがみつく。
やがて、音が止むと、レヴィはそっと首を持ち上げた。
「どうやら、竜神とやらの力は伊達ではないらしい」
カッツも翼の隙間から天井を見上げると、既に家の屋根は崩れ落ち、穴から見える空は灰色だが、家の周辺以外は青空を保っている。
「この家の周辺だけ、雨が降ってる?」
「ああ。局所的な集中豪雨。竜神は天候を操る力があるのか。『竜の国』の外に、これほど強大な能力を持ったドラゴンがいるとは思わなかった。田舎だからと侮っていたな」
レヴィはなぜか嬉しそうな声色だった。『竜の国』に関係ないドラゴンが、竜王と同等か、それ以上に優れた力を持っているのが愉快でたまらないらしい。
カッツは、炎で焼き切れた縄を引っ張って柱から引きちぎり、身体の自由を得て立ち上がる。
「血が固まっている。殴られたのか」
「うん、後ろと額を……あれ? なんで傷が塞がってるの?」
殴られてそう時間はたっていないはずだが、頭には痛みもない。
人間形態に戻ったレヴィは「胸ポケットを見てみろ」とカッツの胸を指し示した。
言われた通りの場所を探ると、なにか白いかけらがボロボロと出てくる。
「え、なにこれ」
「俺の鱗だ。お守りだと言ったろう。こんなこともあろうかと持たせておいてよかった」
どうやら、レヴィの鱗には回復力を高める効能があるらしい。
カッツはせっかくドラゴンの鱗をもらったのに、もったいないな、と思いながら、粉々になった鱗を見ていた。
そこへ、村人たちが「何事だ!」と駆けつける。
「見ろ、あの白いドラゴンだ!」
「やっぱりアイツが家に放火して回っていたんだ!」
彼らは恐慌状態に陥っており、なにかきっかけさえあれば、いつでもレヴィに襲いかかるだろう。
しかし、レヴィは、ともすれば冷徹なまでに、冷静に村人たちを眺めていた。
「カッツ、お前、犯人を見たんだろう。だからそいつはお前を口封じしようとした」
「うん……」
「犯人は誰だ。お前を殴って焼き殺そうとした犯人だ。かばう必要もあるまい」
カッツは恐る恐る、右手を上げて、人差し指を村人たちの中に向ける。
「この『雪の村』ドラゴン事件の犯人は、あなただ」
高所恐怖症のドラゴンライダー僕、ワガママ俺様ドラゴンに執着されたんだが。 永久保セツナ @0922
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