第15話 男子生徒会と女子風紀委員会
カタカタカタカタ……。
ただ,部屋の中ではキーボードを叩く音と紙が擦れる様な音,そしてペン走らせる音だけが聞こえていた。
そんな部屋の中には,絶賛生徒会の仕事に追われていた4人の男子生徒が黙々と自分の仕事に精を出していた。
「銀,これって間違ってないか?」
「……間違っているね。あとで野球部の方にお願いしてもいい?」
「任せろ。拓人,そっちの方はどうだ?」
「俺の方はもうすぐで全て片付く。それよりも会長,そろそろ体育祭の準備の話をするべきかと。実行委員会の方もそうですが,警備の方も風紀委員会と会議をしないと駄目でしょうし。」
「この仕事が片付いたらそっちをする予定だよ。皆はそろそろ終わりそうかい?」
天野会長が聞くと拓人がほぼ終わり,銀もあと少しで終わるらしい。
となると,後の俺の仕事は野球部に行くだけかな?
にしても,よくこの4人で生徒会を回すことができるなぁ……。
まあ,俺を含めて4人とも優秀なのは理解できるが……。
「そういえば,風間君。妹さんが婚約者の一人になったそうだね。」
「ぶっ!?もう話が広がっているんですか!?」
「そうだね。まあ,僕からしたら妹さんは入るかなと思ってたからそこまで驚くことじゃなかったかな。学園の皆も婚約者の一人になったことは何も言ってないよ。」
正直に言えば,そのことは若干心配していた。
俺と保衣美は義理とはいえ兄妹の関係なのだ。
人によってはその関係を良く思わない者がいると考えていたのだが,どうやら心配するほどでもなかったらしい。
まあ,義妹は人懐っこいし上級生に取っても妹のような存在だから逆に自分の手元に置いておきたい女子も多いのだろう。
「まさか,お前も義妹に手を出すとはな。人のことは言えなくなったぞ。」
「黙れ,シスコン1号!俺はまだお前みたい手は出してないぞ!!」
「何度も言わせるな,シスコン2号!手は出していないと朝も言っただろう!」
嘘つけ!!お前が真白ちゃんと一緒にお風呂に入ったり,添い寝していることは義妹を通して知っているんだぞ!!
しかし,こいつ顔に似合わず,やることはやっているんだと思うとその点に関しては尊敬できると思った。
「ところで,銀。昼休みに言っていた用事で何だったんだ?」
「……少し,貸してほしい。多分,一気に稼げる。」
その話を聞くと俺は眉をピクリと吊り上げた。
どうやら,新しい投資先が見つかったみたいだ。
それを聞くと俺は銀の隣に座り,PCを開いた。
「いくらぐらい突っ込むんだ?」
「5000万で大丈夫。僕の予想が正しければ,相応のリターンが望める。」
「それなら,大台にしなくていいのか?何なら親父にも頼んで……。」
俺がそう言うと銀は首を横に振った。
「伯父さんにはあまり知られたくない。父さんや兄さんに伝わると実家のお金を使えと言われるから。僕は実家のお金は絶対に使いたくないから。」
「相変わらず,徹底しているな。了解,5000万だな。」
俺は自分の口座から出勤準備を整えた。ここからは,銀の仕事だ。
彼は一旦,俺と離れると生徒会室の隅で誰かと電話を仕始めた。
「……お前達も相変わらずだな。そんなことをしているからお前のお金目当てで近付いてくる女子がいると俺は思うぞ?」
「生徒会室以外で絶対にそんなやり取りはしない。ここに監視カメラが置かれているなら別だけどな。」
「う~ん,それはないかな。そんなことしたら,僕が怒る前に渚沙が怒るからね。」
確かに,生徒会室に監視カメラを設置するとしたら男子じゃなくて女子だろう。
そして,男子が監視カメラを仕掛けるとしたら風紀委員会の部屋になるだろう。
だが,あそこに仕掛けようと考える猛者は果たしているだろうか……?
「それにしても,今の生徒会と風紀委委員会って不思議ですよね。本来,立場が逆だと思うんですけど……。」
「それは俺も思いますね。天野会長はどう思っているんですか?」
俺と拓人は前々から疑問に思っていることを天野会長に尋ねて見た。
「確かに今回は異質だね。何せ,男子生徒会と女子風紀委員会の構図だから。まあ,その原因は言うまでもなく風間君が原因だけどね」
「う……。」
俺は何も言えなくなってしまった。
男子生徒会と女子風紀委員会,そう言った通り今期の生徒会メンバーは俺を含めて拓人と銀,そして天野会長の男子生徒4人しかいないのだ。
逆に風紀委員会は渚砂さんを筆頭に奈都姫とまさかの真白ちゃんが所属しており,メンバーの大半が3人の友人達ばかりなのだ。
では,何故このような異質な状況になっているかと言うと原因は俺に合ったのだ。
「男子はこの4人で十分なんだけど,女子を入れると君にお近付きになりたい子達で殺到するでしょう?それに,仮に君に興味がない子だったとしても東条さんみたいに君を狙う子達に嫌味を言われたりするかもしれないから。」
「風紀委員会でも同じだな。生徒会と接点があるし,お前のことで大々的に取締をした所に態々危険を犯してまで入る女子はいないだろう。まあ,あそこは緋凰先輩を中心に武闘派女子が集結しているからどちらにせよおかしいと思うが……。」
二人の意見はもっともだ。
そして,拓人の言った通り,今回の風紀委委員会は女子だけしか所属していないのに渚沙さん同様に全員が武闘派女子で何かしらの特技を持っていたりするのだ。
恐ろしいことにか弱そうに見える真白ちゃんですらとんでもない特技を持っており,今でも男子達の一部は俺を含めてその特技に背筋が凍りそうになっていた。
「指2本でジュースの瓶を真っ二つにするってどうやるんだよ……。」
「今は3本で出来るようになったぞ?」
「真顔で言う台詞かよ!?あんな大人しい子があんな特技を持っているっておかしいだろう!?この間,義妹から聞いたら1年生の男子が折檻されたとも聞いたぞ。」
「流石は俺の義妹だな。父から色々と教わっていることが役立って何よりだ。」
そこは褒めるところじゃないと思うぞ,親友……。
しかし,俺の知り合いで真面な人って奈都姫と天野会長ぐらいじゃないか?
自他共に認めるド変態,投資マニアのショタ御曹司,可愛い物が好きな巨漢,義妹に手を出してる鬼畜眼鏡,恐ろしい特技を持つ殺戮天使,犯罪予備軍女子,常に背後にいる謎の黒髪美人,我等が姉御……。
保衣美と静ねぇは……うん,二人とも裏モードがあるから真面じゃないわ。
やっぱり,真面なのは奈都姫と天野会長だけだと改めて理解した。
「ユウ~!!たっだいま~!!」
「緋凰先輩,ここは風紀委委員会の部室じゃないですよ!?」
生徒会室の扉を開けると渚沙さんと真白ちゃんが部屋に入ってきて,渚沙さんはそのまま天野会長に抱き着くと膝の上に座り甘え出した。
皆は知らないと思うが,学生達が恐れている渚沙の姉御は生徒会室だといつもこんな状態なんだぞ?信じられるか?
「真白,何も問題はなかったか?」
「問題はないよ?兄さんは心配し過ぎだと思います。」
「そう言うな。」
笑みを浮かべて真白ちゃんの頭を撫でると彼女は嬉しそうに微笑んでいた。
おい,そこのバカップル達。するなら別の場所でしてくれ!
正直,居心地が悪い……。
「あ,風間君に1つ連絡があったんだわ。」
「何ですか?」
「ほいみんのこと。静歌が聞きに行ってくれたんだけど,松本さんには既に伝わっているって言ってたわ。あと,二日以内に一人見つけてくれれば大丈夫だって。」
「保衣美の方はどうでした?」
大丈夫だと思うが,一応念には念を入れてフレディや寝屋川だけでなくリュウと天音も一緒に居てくれと頼んでいたのだ。
そういえば,今日静ねぇを見てなかったが,松本さんの所に行ってたんだな……。
「ほいみんの方は特に何もないわよ。普通に皆でゲームしていたから。」
「それ,風紀委員として没収しなくていいんですか?……奈都姫はどうしてます?」
「校内の見回りよ。ただ,あっちは女子達の視線がやたら厳しいわね。風間君の婚約者の一人が奈都姫じゃないかって皆疑い始めているから。」
「俺はまだ奈都姫にすると言ってないんですけどね……。」
「でも,実際はどうなの?静歌にほいみんと来れば,奈都姫で確定だと思うけど?」
渚沙さんにそう言われて俺は押し黙ってしまった。
確かにこの状況なら奈都姫が一番最後の枠になることはあり得るだろう。
だが,俺がお願いしたところで彼女はおそらく首を縦に振ることはない。
余程のことがあれば,話は別になるが……。
「お姉様,大変です!!あ,風間君も居てくれた!!」
「こらぁ!!ここは生徒会室よ!!無断に入ってきたら駄目でしょう!!」
あなたはいいんですか,姉御!!さっき真白ちゃんを連れて普通に入って来ましたよね!?そういうことは上に立つ者が率先してやらないと!!
しかし,彼女の慌てようはどうしたんだろう?
確か,奈都姫の友達のはずだよな?
「一体,どうしたんだ?」
「実は,奈都姫が……。」
俺達は彼女から聞いた言葉に悪い予感が浮かび,彼女がいる保健室へと急いだ。
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次回:「じゃあ,私が婚約者になろっか?」 お楽しみに!
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