目が見えない写真家 R

neinu

プロローグ

「一年生のクラスで、自殺した人いるんだって」

「え、なにそれ、怖」

「先生たち、大変そーだね」

「受験に影響ないといいけど」


中学3年生の冬、一人の男子生徒が自殺した。


『自殺したやつ、障害者だったらしいよ』

『いじめられてたんだってさ』

『それだけで死ぬ?笑』

『しばらく学校休めるんじゃね?』


男子生徒の自殺は、瞬く間に校内中に広まった。


「保護者説明会、親御さんに来て欲しいの」

「いじめがあったことは、把握しておりませんでした」

「今後このようなことが起きぬよう、生徒に寄り添う教育をしてまいります」

「大変申し訳ございませんでした」


マスコミの取材に対し、学校は知らなかったの一点張り。


「ふざけるな!!」

「なんであの子が死ななきゃならないの!?」

「返せ!!照史を返せよ!!」


父と母は市を提訴し、私は隣町の学校に転校することになった。




* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *




「お姉ちゃん、これあげる」

照史はそう言うと、一昨年の誕生日プレゼントでもらったデジタルカメラを私に差し出す。

「これ、照史のでしょ?」

「もう必要ないんだ」

照史はそう言うと、私に無理やり押し付ける。ざらざらとした側面の革の一部が剥がれている。

「何かあった?」

今まで大切に使っていたデジタルカメラを急にいらないと言った照史が、私は心配になった。

学校で何かあったんじゃないだろうか。友達に、撮った写真を馬鹿にされたのかもしれない。照史は顔には出さないけど、そういうのは気にする性格だから。

私の心配をよそに、照史は口角をあげて笑う。

「大切に使ってよ、お姉ちゃん」

笑っているはずなのに、照史の声に温もりはなかった。


次の日、照史はベランダから飛び降りた。




* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *




照史の火葬が終わり、私は建物の外に出る。

焼けた照史の骨の匂いが、鼻の奥に残っている。

外では雪が降り始めていた。

悴む手に白い息を吐き、私は照史のデジタルカメラの電源を押す。

アルバムには、照史の撮った街の風景があった。

一枚一枚、私は目でなぞるように見る。

綺麗だ。

私は心の底からそう思う。

まだ、照史が生きているのではないかと錯覚する。

私が写真を褒めてあげれば、

「ありがとう」て、照史が言うんだ。

私は次も、その次の写真も褒める。

照史は照れて、「やめてよ」って言うんだ。



しかし、一枚の写真が、私を現実に引き戻す。



道路に横たわる、一匹の猫。

かなり離れたところから撮られている。

それでも、猫がどうなっているのかは分かった。

体の一部が欠損しており、そこから赤黒い血が流れている。

そばにはタイヤ痕がある。

死体だ。

私は次の写真を見る。


次も、その次も。

照史は、動物の死体を撮っていた。




* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *




お姉ちゃんへ。

今まで、僕に優しくしてくれてありがとう。

写真を褒めてくれてありがとう。

お姉ちゃんと一緒にいれて、僕は楽しかったよ。

お姉ちゃんは、長生きしてね。

僕は、色々あって、もう疲れました。

あっちに行きたいと思います。

さようなら。






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