#46
あの事件から一週間、リマが屋敷に戻る許可が降りた。
屋敷には一人で戻ってきて欲しいと言われ、リマは太陽の光が眩しい真昼間に屋敷に向かっていた。
屋敷の扉を開けると―――。
「リマさん、おかえりなさい!」
クラッカーの音が、パン!と鳴った。
「アンジュ様、ノラ王子…」
そこにはクラッカーを持ったアンジュとノラがいた。
「アンジュが屋敷に戻ってくるリマになにかしたいと言い出してな。飾り付けはアンナ姉様達に手伝ってもらったが」
「ノラ王子…、それは言わないお約束では…!」
「はは、悪い」
リマが屋敷を見回すと、折り紙の輪っかを連ねた飾り付けや、沢山の花々が至る所に飾られていた。
ノラが言っている事は間違いではないのだろう。
「お、お花はヤヌカ王国のマルクス王子から頂いたんです…」
自分の為にここまでしてくれた事が嬉しくて、リマは涙を流しそうになるのを懸命に堪える。
「リマ、とにかく君が生きていてくれてよかった」
「ノラ王子…」
「本当に良かった…」
ひっく、とアンジュが泣き出す。
「申し訳ございません。私がアンジュ様を守れず、アンジュ様にお怪我を…」
「私は平気です!本当に、平気ですから…。それよりもこちらに来てください!」
アンジュがリマの腕を引っ張り、食卓に連れていく。
「お料理、ノラ王子と頑張って作ったんです。食べてくれますか?」
「いつもリマが作ってくれるのより美味しいかは分からないが、是非食べて欲しい」
机の上には、国の主食である米やチキン、ステーキや野菜がズラリと並んでいた。
「デ、デザートもあるんです!でも、デザートって、作るのが難しいんですね…。沢山失敗してしまって…」
「リマ、どうぞ座って」
ノラに椅子を引かれ、リマは少し躊躇いながらも席に着く。
「さぁ、リマの完治祝いだ」
そう言って、ノラが3人分のグラスに国産のスパークリングワインを注ぐ。
「乾杯」
***
「もう食べられません…」
「わ、私もです…」
「残りは明日食べようか」
食事中は、リマがいなかった間の話で盛り上がった。
アンナやチダリにお願いして、掃除の仕方や料理の作り方を教わった事、ベッドメイクを覚えた事、色んな絵を書いたことなど、話は尽きなかった。
「私が片付けます!リマさんは座ってて下さい!」
「ですが…」
「リマ、諦めろ。俺も最近知ったんだが、アンジュは意外と頑固な所がある」
「そうなのですね。ふふ、ではお願いします」
「アンジュ、食器は運ぶから洗ってくれ」
2人を見て、とてもお似合いの夫婦だな、とリマは思った。
アンジュを迎える前日まで、ノラはアンジュを警戒していたからだ。
『ノラ王子も遂に奥様を迎える日が来たのですね』
『と言っても相手は敵国の娘だ。油断は出来ない。そもそもおかしいと思わないか?停戦を申し出ただけでなく、自分の娘を敵国にやるなど。なにか裏があるに違いない』
そう言っていたノラは今やこの通り、アンジュにデレデレである。
アンジュはアンジュで、初めは何事にもビクビク怯え、表情も暗く、謝ってばかりいたのを覚えている。
『あ、あの、私…ごめんなさい…』
『私、あまり何も知らなくて…本当にごめんなさい』
今となっては怯えることもなく、いつも笑顔で、屋敷の太陽のような存在になっている。
この2人にはいつまでも仲良く、愛し合って生きていて欲しいと、リマは心の中で願った。
***
「アンジュ、リマ、すまない。父上に呼ばれているので少し席を外す」
「行ってらっしゃいませ」
片付けを終えたところで、ノラは城に向かうと言い、屋敷を出ていった。
アンジュとリマは絵画道具を持って、外に出ることにした。
久しぶりにリマと絵を描くのが楽しみだ、と口では言うものの、アンジュはどこか元気がない。
「ノラ王子、最近よくお城に行かれるんです…」
「そうなんですか?」
「はい。なんのお話をされているのかは、わかりませんが…」
「ノラ王子から何も聞かされていないのですか?」
リマがそう尋ねると、アンジュはこくりと頷いた。
「私からお聞きしましょうか?」
「いえ、いいんです。私には、お話出来ない内容なのかも知れませんし…」
言い終えると、アンジュの筆が止まる。
夫が何か内密にしていることがこんなにも虚しいものなのかと、アンジュはこの時初めて知った。
「アンジュ様、不安になる様なことは、聞いてみましょう。でないとお2人の仲が悪くなってしまう可能性だってありますわ」
「ええと…、どういうこと、でしょうか?」
リマが話を続ける。
「気持ちのすれ違い、というやつです」
「すれ違い…」
「互いに思っていることを言えずにそれが積もり積もると、いつかはその気持ちが爆発してしまう日が来るかもしれません。そうなると仲違いすることだってありますわ。ですから、そうなる前に聞いた方が良いのではないかと…」
(思っている事を言う、なんて…)
アンジュにそんな経験はない。
だがリマの言うように、仲違いなどしたくない。
果たして自分がそんな事を言っていいのか、答えてくれるのか。
アンジュの中に不安が渦巻く。
そんなアンジュを見たリマは、話を逸らそうと別の話題を切り出した。
「それはそれとして、アンジュ様、来月、何があるかご存知ですか?」
「えっ、と…」
話の温度差についていけず、アンジュは戸惑っていた。
「
***
「そして4年に1度行われるのが、リーヴェリスタです!!」
「???」
リーヴェリスタというのは、舞踏や演劇などの芸事、模擬演習、ドレスや宝石などの装飾の各部門から、王族が一番を選ぶ一大イベントである。
普段の
「そ、それってすごいんですか…?」
「ええ!とっても素晴らしいお祭りですわ!!前回の映像をご覧になりますか?」
「見てみたいです!」
屋敷に戻り、4年前の映像を部屋で見ることにした。
「見てください。こちらが4年前のノラ王子です」
「か、かっこいい…」
4年前ということは、ノラが18歳の頃だ。
今より少し髪が長く、背も少し小さい気がする。
だが、いつもの凛々しさは失われておらず、寧ろアンジュがいないからか、女性からの嬌声がノラに向けられている。
「ノラ王子はあまり写真がお好きではないので、こういった映像くらいしか昔のものは残っていなくて」
「勿体ない、ですね…」
ノラが帰ってきたら、昔の写真を見せてもらおう、と決意したアンジュであった。
***
「国王、ノラでございます」
「入れ」
謁見の間に着くと、そこには兄達と姉が座っていた。
「して、話というのは」
「ジェノヴァ」
ジェノヴァは一冊の本を机に置いた。
「何ですかこれは」
「これはナラルガ王国でとある人物から買った一冊の日記だ」
「日記…?」
ジェイクとイマル以外は何を言っているのか、という表情をしていた。
「まあ、中身を見てみるといい」
ジェノヴァに言われて、皆で日記を見てみる事にした。
そこには、テレサ王国の事に眠る【魔術】というものの力の事が書かれていた。
魔術、という聞いたこともない言葉に、日記を読んでいた全員が戸惑っていた。
「イマル、この力について何か分かっている事は?」
「申し訳ございません。現在調査中なのですが…」
「いや、仕方ない。何せこの力は秘密裏にされていたみたいだしな」
(アンジュが使っていたあれも魔術、というものなのか?しかしアンジュは魔法は使えないと…。いや、魔法が使えないのではなく、魔術が使えるということか?そうだとしても、アンジュはあの力に戸惑いを感じていたように思えたが…。)
ノラはあの力が何故アンジュの中に存在しているのか、それが不思議でならなかった。
元々無意識に持っていたものなのか、誰かの手によって後発的につけられたのか。
一人考えても答えは思い浮かばず、ノラは意を決してジェノヴァに問うてみる事にした。
「ジェノヴァ兄様、アンジュの力の事ですが…」
「それについても今イマルに調べさせている。焦る気持ちも分かるが少し待て」
「畏まりました」
何も分からない事にモヤモヤするが、どうしようもないらしく、ノラは諦めた。
いずれ何か分かればジェノヴァやイマルが教えてくれるはずだと信じるしかなかった。
「ノラ、この話はアンジュには内密にするように」
事情は分からないが、きっと何か策があるのだろう。
ノラはジェノヴァの指示に従う事にした。
「それよりノラ」
「はい、何でしょう」
「もうすぐ
今日は3月15日。
もうすぐ
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