#42

「何の御用ですか、お父様」


アンジュとノラが、リマの治療室から出て少しした頃、リマの父であるマーリンがやってきた。


「実の娘の所に来て何が悪い」

「……私の事を使えないとでも言いに来たのですか」

「そうだな。アンジュ様を御守りすることも出来ないとは、思いもしなかった」

「……」


私は、父が嫌いだ。

魔導書に選ばれなかった私を、父は絶望に満ちた顔で見ていたのを覚えている。

それまで他の兄弟と同じ扱いを受けていたはずなのに、それ以降、父は私を見なくなった。

そんな私が荒れなかったのは、母と兄弟の、そして学校で出会った師匠のお陰だ。


「お前が魔導を使えていたら」

「……」


出来もしない事を言うな。

大人になった私に、まだ才能がないと、馬鹿にするのか。

あれは不意打ちだった、仕方ない。

でも私は、アンジュ様を、守れなかった。

何も言い返せず拳を握る私に、父は追い討ちを掛けるように続ける。


「魔導を使える人間に役目を変わってもらった方がいいのではないか?」

「……っ」


それだけは、嫌だ。


「嫌です」

「…」

「アンジュ様の傍から離れるなんて、嫌、です」


父と話すのが怖い。

何を言われるだろうか。

無能が何をほざくかと、ただの召使いの癖にと、言われるのだろうか。


「そうか。ならもっと強くなれ」

「え……」

「私は仕事があるので失礼する」


困惑するリマを他所に、マーリンは部屋を出ていった。


「もう、あなたったら素直じゃないんだから」

「うるさい…」


部屋を出たマーリンを待っていたのは、マーリンの妻であるノイジーだった。


「本当は一番心配してた癖に」

「言うんじゃない…」

「『リマ!』って叫んで泣きそうになってたのはどこのどなたかしらね」

「……」

「あの子に魔導が使えないと分かって、すぐに学園への編入手続きを取ったのも、あの子が非難されないようにととても心配していたのも、何故隠すのかしらね。本当に不器用なんだから」

「…君には敵わないな」

「いつか素直になれる時が来るといいですね」

「……そうだな」


2人はリマの部屋を後にした。

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