#40

リマは治療室に転移され、治療を受けていた。

暫くして治療は無事に終わったものの、リマはまだ目を覚まさないでいた。

アンジュは自分が怪我をしているにも関わらず、リマの横につくといって聞かなかった。

しかし何か出来る訳もなく、治療後に運ばれた別室に、二人はリマが目を覚ますのを待つしかなかった。

翌日。


「ん…」

「リマさん!」

「リマ…」

「アン、ジュ様……」


2人の祈りが届いたのか、リマが目を覚ました。

リマの事はアンジュに任せて、ノラはチダリを呼びに向かった。


「リマさん、目を覚まして良かったわ」

「チダリ様…」

「大怪我をしていたから、心配だったのよ」

「私、は…」


リマは何故自分が生きているのか不思議でなかった。

胸を貫通するような大怪我を負ったはずだったのに、と。


「今はあまり無理をしないで。アンジュ様、リマさんも目を覚ました事ですし、お眠りになってくださいませ」

「でも…」

「お眠いのは分かってます。ノラ王子、アンジュ様の事、お願いいたします」


ノラもアンジュも昨日から一睡もしていなかったのを、チダリは知っている。


「分かった。アンジュ、一度屋敷に戻ろう」

「アンジュ様、私は、大丈夫ですから…」

「うぅ…」


リマとチダリから言われ、アンジュは躊躇いつつも眠気には叶わなかったようで、ノラがアンジュをおぶると言うと、アンジュはノラの背中で寝息を立て始めた。



***



真っ赤な血が、足元を覆って、たくさんの人が倒れている、なんて悪夢。

これが夢なら良かったのに。

私は誰も守れない。

たった一人の妹すら。

こんな力があるから、私は人を不幸にするのね。

家族が、私の力を忌々しいと言っていた意味が分かった。

この血を誰かに引き継がせるなんて、あってはならないわ。

さようなら、私の愛しい国民達よ。

どうかこの国が、平和になりますように。


「だめ!そんな!!」


手を伸ばしたけれど、その手は届かなかった。



***



「あれ……ゆ、め…?」

(そうだ、私あの後、ノラ王子の背中で寝ちゃって、そのまま屋敷まで連れてきて貰ったんだ)


アンジュの横では、ノラがすやすやと寝息を立てていた。

眠りになっている顔も、格好良くて、思わず見とれてしまう。

ただそれだけだったのに。

アンジュは下半身に、熱を覚えた。


(な、なんで…?)


アンジュは自らの身体の変化に戸惑っていた。


こんなはしたない姿を見られたくない。

しかしアンジュは、寝室以外で熱を収める方法を知らない。

ベッドでもがいていると、ノラが目を覚ました。


「ん…、アンジュ、起きたのか…?」

「ノラ、王子…」

「どうした?」

「あ、え、と…」


下半身の事を隠すため、何とか言い訳を考えようとしたが、何も思い浮かばず、あたふたしているだけだった。


「怪我の箇所がまだ痛むか?」

「だ、大丈夫です!」

「そうか、よかった。アンジュ、顔を見せてくれ」

「あ、あの、俺…」


ノラの手が、アンジュの顔に触れる。


「なぜそんなに顔を赤くしているんだ?」

「あ、あっ、王子、ノラ王子…っ」

「俺の顔を見るのが、恥ずかしいか?」


髪と同じ赤い瞳が、アンジュを見つめる。


「あ、あの、お、俺…」

「ん?」

「ご、ごめんなさい…!た、助けていただいた、のに…、お礼も、言え、て、なくて…」

「………俺は」

「わっ」


ノラの大きな手が、アンジュの体を包み込む。


「アンジュが怪我しているのを見て、あいつを殺してやろうと思ったよ」

「……っ!」


殺してやろうと思った、という言葉を発した瞬間、ノラの雰囲気が変わった。

殺意の篭った声に、アンジュは恐怖を覚えた。

いつもアンジュに優しくしてくれる人ではないのではと思う程に。


「呑気に国を出た自分を恨んだ。アンジュを連れていけば良かったと思った。訳の分からない力の前で、何も出来ない自分に苛立った。でも、何より、アンジュが生きていてくれて、本当に良かった…」

「ノラ王子…」


先程までの恐怖は、ノラの安堵の声によってかき消された。


「だから、もっと君の顔を見せてくれ」

「ノラ王子…、んっ、ちゅ」


ノラと目が合い、そしてキスをする。

ノラとのキスは、いつもより、甘く、優しかった。

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