#32

マーリン大臣は、再び深いため息をついた。


「アンジュ殿、私は貴方を認めはしません。もし国に損害を与えるのであれば、私は容赦なく貴方を殺します」

「……」

「リマ、お前は魔導書に認められるようにもっと努力をしなさい。でなければ私は、お前も認めはしない。私はこれで失礼する」


そう言ってマーリン大臣は謁見の間を後にした。


「アンジュ、リマ、うちの大臣がとんだ失礼を。本当に申し訳ない」

「イマル様は悪くありません!」

「アンジュ様、イマル様、ありがとうございます。私が魔導を使えていれば…」


イマル兄様が頭を下げると、アンジュはすぐさまイマル兄様をかばう。

アンジュの隣では、リマがぎゅっと拳を握り、下を向く。


「さて、ではアンジュの話に戻すぞ」


父上がリマに話を振ると、申し訳ございません、とリマが謝罪し、父上は話を進めた。


「では改めて。ダンはどうだ?」

「俺は…」

「こちらは特に問題ないですよー父上ー」

「オッズ様!ちょっと…!」

「もういいじゃん、めんどくさいなぁ。何、ダンもジェノヴァ兄様みたいにアンジュに服でも脱いで欲しい訳?」

「ち、違います!!そんな事…」


オッズ兄様は、ジェノヴァ兄様にしたような話をダン大臣にすると、ダン大臣は慌てふためいた。


「なら、いいね」

「うっ…」


普段温厚なオッズ兄様が、珍しくダン大臣を睨みつける。


「じゃあ僕らはこれで。ほら、明日の準備に入るよ」

「オッズ様!お待ちください!!で、ではアンジュ様、失礼いたします…」


ダン大臣は先に謁見の間を出たオッズ兄様を追いかけるようにして出ていった。


「ガメノス大臣は如何かな」

「私はどちらでも構いませんよ」


ガメノス大臣は、ミシェル兄様の所の女性大臣だ。

かなりの秀才だと聞いている。

聞いている、というのは、彼女もまた、ミシェル兄様の様にあまりこういった場に出てこないからだ。


「ミシェル様に簡単に話は聞いていますが…。言われなければ女性に見えますね」

「ええと…ありがとう、ございます」


ガメノス大臣がアンジュと距離をつめ、アンジュの顔をじーっと見つめる。


「それでは私もお暇させていただきます」


杖をついて、ゆっくりと謁見の間から退場した。


「……エバン大臣」

「は、はい」

「君はどうだ?」

「わ、私は…」


ジェノヴァ兄様がエバン大臣に詰め寄ると、エバン大臣は言葉を詰まらせる。

恐らくアンジュを受け入れたくないのだろう。

その様子は態度を見てわかる。


「君が反対するとは思いたくないのだが」

「う…」

「という事で、父上。大臣たちには問題ありません。子供たちを呼んで参ります。エバン、別室にいる子供たちを呼んできてくれ」

「ぐ……。畏まり、ました…」


エバン大臣はまだ何か言いたげだったが、ジェノヴァ兄様に圧をかけられ、押し黙り、子供たちを呼ぶために謁見の間を離れた。

少しして、子供たちが謁見の間にやってきた。

ジェノヴァ兄様の子で、男の子であるメント(12歳)と女の子のメウ(10歳)、イマル兄様の子、一人娘のピカタ(5歳)、オッズ兄様の子、双子の男女ミア(女の子)とミリマ(男の子、どちらも7歳)、そして下の子であるやんちゃ娘のタジー(3歳)がやってきた。

ピカタとタジーは歳が近いのもあり、謁見の間で大はしゃぎ。

それを他の子が見守る、というのがいつもの構図である。


「ほれわしの愛しい孫たちよ。おいでなさい」

「はーい!」


父上が声をかけると、子供たちは一斉に父上の元に集まった。


「さてお前たちに話がある」

「何でしょうか」


メントが問いかける。


「ノラ王子にアンジュという妻が居ることは、それぞれ聞いているな?」

「はい、ただお体が宜しくないとは…。彼女の事でしょうか?」


メアがアンジュを見て、父上に問いかける。


「あぁ。彼がそうだ」

「彼……?」

「彼って、どういう事ですか?」

「「あのひと、男の人なの?」」


メントとメアが驚き、ミアとミリマがアンジュを指さす。


「こら、2人とも。人を指ささないの」


オッズ兄様が2人を叱る。


「ごめんなさい、アンジュさま」

「ごめんなさい…」

「ええと、大丈夫、です」

「アンジュ、ごめんね、うちの子たちが」

「オッズ様、大丈夫です。本当の、事ですから。皆様に、嘘をついていて、申し訳ございませんでした」


アンジュが深く頭を下げる。


「俺も、皆に黙っていてすまなかった」

「ノラ王子…」


アンジュだけに頭を下げさせる訳にはいかない。

実際、アンジュが男だと分かっても尚、黙っていたのは事実だから。


「アンジュさま、おとこのひとなの?みえなーい!かわいい~!」

「かあいい~!」

「あ、ありがとうございます」

「アンジュさま~、あそぼ!」

「あそぼ~!」

「わっ!」


2人して頭を下げていたところに、部屋を駆け回っていたピカタとタジーがアンジュの元にやってきて、可愛いと言い、アンジュを遊びに誘った。


「ピカタ!何をして…」

「まあいいじゃないですか、イマル兄様。子供たちはアンジュと遊びたいみたいですし、ね?」

「俺は大丈夫です。アンジュも楽しそうに走り回ってますし」

「ほら、夫もそう言ってるんだから」

「全く…。ピカタ!アンジュに怪我させるなよ!」

「はーい!お父様!」

「はーい!」


それから子供たちでアンジュの取り合いが始まり、アンジュは日が暮れるまで、子供たちの遊び相手になっていた。

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