出発

 天候もバッチリでついに出発だ。美玖が興味をもった山崎経由の因幡街道だけど佐用経由の因幡街道とはほぼ別ルートなんだよ。播磨側の出発点こそ同じで西国街道の飾西宿だけど、次の宿場である觜崎宿の手前の追分で分岐するとなってるようなんだけど、


「おそらくですが・・・」


 起点の西国街道の飾西宿は姫新線の余部駅の北側ぐらいなんだけど、次の觜崎宿へはおおよそ西北西に進むぐらいで良いみたいだ。觜崎宿は揖保川の東岸、龍野の対岸ぐらいになるけど、そこに行くためには林田川を渡る必要がある。


「川越えを避けたのではないでしょうか」


 そんな感じがする。どうもそのあたりから林田川に沿って北上して安富に向かい、安富から山崎に行くぐらいだろうか。今の国道二十九号が近いのかも。


「この辺はパスにしときましょう」


 それで良いと思う。これは起点まで回ると走行距離が延びるし、市街地走行が立ち塞がるものな。ということで、ボクらは山麓バイパスから西神中央に出て、国道一七五号バイパスを北上し加西を通り県道二十三号で山崎を目指すルートを取った。山崎から北側は因幡街道で間違いないはずだからね。


 福崎で市川を越え、夢前で夢前川を越え、安富で林田川を越えて国道二十九号に入り、安志峠を越えて山崎に。山崎はあんまり有名じゃないけど城下町で、山崎藩が明治維新まで存在はしてる。たった一万石だけどね。


「山崎の殿様の参勤交代は、やっぱり因幡街道を南下して西国街道を目指したはずです」


 他にルートはなさそうだものな。大名行列と言えば本陣なり脇本陣に泊まるイメージがあるけど、一万石だからお寺とかで済ませたのかな。


「飾西宿まで二十キロあまりぐらいですから、西国街道まで一気に歩いていたはずです」


 それなら飾西宿まで宿場はいらないか。山崎市街を抜けたあたりで、


「鮎友釣り発祥の地の碑がありますが・・・」


 鮎の友釣りは伊豆の狩野川が発祥の地とするのが定説らしいけど、こっちもなんか発祥の謂れとか伝承みたいなものがあるのかな。てなことを話している間に一宮に。ここは播磨国一之宮伊和神社があるから一宮なんだけど、


「祭神は大己貴神になっていますが・・・」


 播磨風土記に出て来る伊和大神とか、国堅大神とも同じで大国主命で良いはずだ。


「つまりは出雲系ですね」


 そうなる。伊和神社を越えてしばらくすると、


「揖保川と別れるようです」


 ホントだ。揖保川に引原川が合流していて国道二十九号は引原川沿いを北上するのか。


「一宮には宿場があったはずです」


 往時の伊和神社は知らないけど、こんなところにあるのだから姫路あたりから参詣に来たって日帰りだけじゃないだろう。そうなると参詣客相手の宿屋があっても不思議ないものな。もっとも、


「江戸時代には山崎が栄えていたからそっちかもしれません」


 と言うか、この辺に宿場みたいなものがあったとはボクも思う。宿場と言うか宿屋ね。一宮からも引原川沿いを快走して波賀を越え道の駅はがで休憩。


「この道の駅って近畿で最初に出来た道の駅だそうです」


 ホントだ。道の駅にも歴史ありだな。でもこんなところが近畿の一号だなんて意外だな。道の駅制度が出来た頃はどんな受け取り方をされてたのだろう。


「補助金行政みたいなものだから、最初は許認可の審査がうるさかったとか」


 あるあるだな。あの手の補助金をもらおうとすれば、膨大な書類仕事がセットみたいなものだ。それとそういう官製事業は警戒されたのかも。でも結果としてバイク乗りにもありがたい施設だよな。


「生理現象の解消に必要不可欠です」


 その代わりじゃないけど、民間のドライブインはかなり潰れたはずなんだ。一つ出来たら一つ潰れるようなものだとはいえ、廃墟となったところは目についたものな。これもまた街道の栄枯盛衰みたいなものだろうけど、


「ところで波賀城って」


 秀吉の鳥取城攻めの時に整備されたとなってるけど、


「当時の秀吉の根拠地は姫路のはずですが」


 どこを通って鳥取城に攻め寄せたかだろ。どこって言っても姫路からならどっちかの因幡街道しかないはずだけど、姫路からならこっちの因幡街道のはずだけど、


「その頃の佐用経由の因幡街道は?」


 わかんないよ。ルートとしてあったとは思うし、秀吉軍も両方使ったかもしれないけど、どうだったんだろう。道の駅での休憩を終えてしばらく走ると、


「引原ダムって言うみたいです」


 これも古いダムだけど、


「ダム湖になにか沈んだのですか」


 らしい。それなりの引原の集落があったらしいよ。ダム湖畔も快走したのだけど、もうすっかり山道だ。


「スキー場もあるじゃないですか・・・」


 あるだろうな。こっちから来ると実感ないかもしれないけど、これから挑む戸倉峠は氷ノ山と三室山の間にある峠なんだ。氷ノ山は兵庫最高峰でもあり、中国地方でも大山に次ぐ高さがある。三室山はあまり知られていないけど、兵庫で二位、中国地方でも五位の高さになる。


 その氷ノ山だけど周辺の鉢伏高原とか、神鍋高原とかの関西のスキーのメッカみたいなものじゃないか。戸倉もその一角ぐらいにして良いはずだ。戸倉峠にさしかかってるはずだけど、さすがに登るな。


「でも空いてます」


 御意だ。クルマがホントに少なくてバイクの方が多いと思うぐらい。


「クルマは鳥取道に行ったのでしょうか」


 そうなるよな。トラックなんて影も形もないものな。それでも道は対抗二車線で走りやすいよ。だからこれだけバイク乗りが集まって来るのだろうな。隠された名ツーリングコースってところかな。


「だいぶ抜かされました」


 しょうがないだろ。こういう峠道は純馬力勝負しかないじゃないか。逆立ちしたって勝負にならないよ。それでもモンキーでも登れる峠とは言えそうだ。


「トンネルです」


 峠を越えたな。このトンネルもよく整備されてる。トンネルを抜けたらそこは、


「雪国だった」


 それは川端康成だろうが。この辺は関西のスキー場のメッカになるぐらいだから雪国だろうけど、今は昼だし、季節も冬じゃないから雪なんかないだろうが。それはともかく、ついに鳥取県にボクのモンキーが轍を刻んだぞ。


「美玖のモンキーもそうです」


 そこからは下りになるけど、鳥取側の方がワインディングもきついかな。それにしても山の中だな。


「こんなところにドライブインがあります」


 ホントだ。でも潰れてぞ。これだけ交通量が少ないと商売も上がったりになったのだろうな。


「それでも出来た頃は、商売が成り立つと思って作られたはずです」


 そうなるよな。だけど、もう二度と復活しないのだけは悲しいけど言えそうだ。

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