第31話 Dランクダンジョン『死せる騎士達の箱庭』
即断即決。
僕はその日のうちに、目的のダンジョンへと赴くことにした。
「ここが、Dランクダンジョン『死せる騎士達の箱庭』か...本当にここで合ってるのか?」
しかし、僕が最初に感じたのは、意気込みではなく、疑念と不安だった。
壮大な名前とは正反対の印象を抱かざるを得ないその姿。
騎士が守るべき城塞はなく、そこにあったのは、古く錆びたついた鉄の柵に塞がれた薄暗い洞窟だけであった。
「まあ、とりあえず入ってみるか...」
的中している自信はなくとも、協会で配られた地図がここを指していたことから、僕はそのままそこへ入ることにした。
冒険者ライセンスを取り出し、それをダンジョン近くにあった精密機器に翳す。
「冒険者ライセンスを確認。Eランク冒険者雨宮 源氏。ランク規定値に達しているため、ゲートを開きます」
すると、読み取りを完了した協会の機械は、すぐさまボロボロの鉄格子の封を解き、ダンジョンへの道を開けた。
そして僕はその中へと入り、眩い光が投射された後、僕は眼前の光景に先ほどの言葉を訂正せざるを得なかった。
「なるほど...これは、前言撤回だな。名前の通りの立派な城だ」
最初の印象からは信じられない、双眸に焼き付くような光景が僕の前には広がっていた。
不気味の悪い広場に、その中央に聳え立つ立派な城。
少し、崩壊しかかっているも、それがまた独特な味を出しており、あたりの雰囲気にマッチしていた。
上を見上げれば天井はなく、美しい夜空に怪しい月明かりが僕を照らしていた。
「これは、期待できそうだな」
落ち切っていた気分は今や最高潮に達し、僕は深淵より長剣を取り出し、それを構え、出陣した。
「さあ、攻略開始だ!」
☆☆☆☆
庭園を歩き始め少し、僕は楽々城の前にまでやってこれた。
途中、庭園に潜むアンデッド系のモンスターが複数体いたが、束になってもさほどの脅威にはならず、僕は全員を一撃で薙ぎ払い、先へと進んで行った。
まあ、あまりもの立派な見た目に少し期待値を高めすぎた自分がいたのだろう。
ここは言ってもDランクダンジョン。
今のCランクの僕には、少し物足りないレベルだっただろう。
少し拍子抜けに感じつつも、やはり少しの期待を残して、僕は意気揚々と城の門を叩いた。
中へと入り、最初に僕が目にしたものは、僕がここまでずっと欲していた骨のある敵だった。
骨の体に全身鎧を着込み、頑丈そうに守られた体の前には盾と剣を構える。
騎士のような姿勢で迎え撃つその姿は、まさにこのダンジョンの由来とも言っていいだろう。
「来た...!、【絶鑑定】」
目の前の強敵を前にやることは一つ。
僕は、接敵時の最初の鉄の掟、【絶鑑定】を発動させた。
『敵の情報を開示します』
僕の呼びかけに応え、発動したスキルは、目の前の三体の死せる騎士たちのステータスを開示した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
個体名:スケルトンナイト
種族名:スケルトン
特徴:かつて、この名も亡き王国に尽くした、騎士たちの執念により形作られた異形の姿。
今もまだ、空席の玉座に王が再び君臨するのを切望している。
討伐対象レベル:5000
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
記載される情報にしょうがなく肩を落としながらも、僕は概要の説明文を読み、何かを感じ取る。
少し、ほんの少しだけの躊躇を持って、僕はされど激しく奴らの元へと飛び込み、そして優しく彼らの生涯を終わらせた。
水が美しく、何にも逆らわずに綺麗に流れるようにして振られた剣。
あのサイレント・オークとの激闘以降、上達した僕の剣技はもはや見事なものだった。
芥へと変わり果てる敵の姿を見て、あの夢とあっちで出来た大事な友人の顔を思い浮かべる。
彼らと過ごした日々、戦った記憶、喜びと悲しみを分かち合った経験。
そんな彼ら騎士団との交流を深く果たした僕には、少しだけ奴らと彼らの姿が重なった。
「どんな経緯があったのかは知らないけど...これは戒めとしておくよ」
鮮烈な記憶が蘇るにつれ、僕は何度でも決意する。
このモンスターたちのような成れ果てを生み出さないことを。
「行くか...」
『レベルがアップしました!』
先へと進むに連れ、僕はここの城の大体の構造を把握するに至った。
「【絶風】」
速度を上げつつ、僕は目の前の敵を淡々と倒す。
奴らの鈍い剣戟では僕には当たらず、もはやここの攻略も作業と化していた。
「ふう...」
さて、この城の構造の話だが、数階ほど上がったところで、全ての階層が同じ構造になっていることに気がついた。
長い廊下と、外の景色を覗ける窓のみで形作られた中身のない回廊。
モンスターのバリエーションも少なく、もう10階ほどこの城を上がったが、新しいモンスターには出会っていない。
これでは、城というよりかは、塔を登っている気分だ。
まあ、Dランクというだけあって、その可能性を考慮はしていた。
弱い魔物ばかりでレベルは上がらず、飽きが来ることを予想していないわけではなかったのだ。
だが、しかし、僕はこのダンジョンを選んだ。
それはなぜか?
理由は二つある。
一つは冒険者ライセンスに記載される、今の僕のランクのせいだ。
冒険者は、自らのクエストのランクの一つ上のランクまでしか受けることができない。
わかると思うが、これは冒険者自身の安全を保つためだ。
まあ、一部例外はあるが。
まあ、ともかく、今の僕ではここを潜る以外の選択肢はない。
ソロなら尚更だ。
「【金剛力】。退屈だな...けど、こいつは美味しいな」
そして二つ目がこれ。
たった今僕が倒したスケルトンナイトが落とした、この小さな青い石。
魔石だ。
この魔石は大きければ大きいほど、高値がつく。
今の現代社会、魔石のエネルギー効率には目を見張るものがあり、とてつもなく社会に有用性があると判断されている。
故に、小さいものは数百円から数万円まで。
大きいものは、それだけで数億円に上る可能性だってある。
そして、ここの魔石は魔物が弱い割にまあまあの大きさの魔石を落としてくれる有料物件なのだ。
まあ、お察しの通り、ここへはお金を稼ぎに来たんだ。
今月ピンチだったし...まあ、ちょうどいいだろうと思ってね。
「...ん?、なんだこれ」
色々と考えながらも、城の上層へと進んでいくと、僕はとある違和感を覚えた。
敵を倒し、階段をのぼり、また永遠と続く長い廊下の景色が見えるかと思いきや、僕の前にあったのは、一つのでかい扉だった。
「もしかして、ボス部屋か...?」
あまりにも異様な雰囲気。
今までとは違う光景。
その時点でダンジョンに潜っている冒険者なら気づく。
そこがダンジョンの最奥なのだと。
「よし、やるか」
あまり期待は込めず、されど目的のため、僕はその頑丈な扉を両の腕で押し開ける。
重い音を奏た扉は、僕の入室と同時に勢いよく閉まり、脱出を妨げた。
振り返ればそこには1匹のモンスターが巣食っており、僕の姿を視認すると同時に雄叫びを上げた。
「グォオオオオ...!!」
「......!」
先ほどのスケルトンナイトの一回りは大きい、大サイズの骨騎士が目の前にはいた。
咆哮の衝撃波をその身に受け、軽い威圧を感じながらも、それほどの緊張感はない。
あいつの咆哮に比べれば、この程度は初心者の脅しに過ぎない。
あの全身が震えるような雄叫びには、こいつの覇気は到底たり得るものじゃない。
冷静に研ぎ澄まされた脳みそで、僕は最初の行動に出る。
もちろんそれは、雨宮 渉流・冒険者鉄の掟その一。
「【絶鑑定】」
敵を鑑定せよ、だ。
相手のステータスを見ずには、攻略の目処がたちはしない。
体力と魔力をセーブできるならそれに越したことはない。
ならば、相手の力量を見極めるのが、先決だ。
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個体名:スケルトンキング
種族名:スケルトン
特徴:かつて、名のある王国の玉座に座っていた者の成れの果て。
戦争に敗れ、世界に見捨てられた王は、それでも未だ何かを愛している。
討伐対象レベル:10000
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王冠を被り、埃まみれのローブを羽織り、重そうな大剣を腰に据える名も亡き王。
その成れの果てが今、僕に襲い掛からんとしていた。
だが、悲しいことに。
サイレント・オーク(緑)の倍もステータスもない魔物に敗れる僕ではなく。
「【絶風】【金剛力】【
一瞬にしてその首を跳ね除け、僕は静かに納刀した。
「......」
少し、僕はこの場所が嫌いになった。
この彼らの姿と重なるこの場所が。非常に。
『レベルがアップしました!』
☆☆☆☆
レベルもほんの少しだけ上がり、魔石も十分に回収し、僕はこの場所を早急に去ろうとした。
ここにいるとなんだか、無性に悲しくなる。
玉座にて光る、転移魔法陣へと乗ろうと足を踏み出した僕だったが、突如、耳へと聞き成れた声が響いた。
『冒険者雨宮 渉の『死せる騎士たちの箱庭』最速踏破を感知しました。よって、EXステージ『騎士王の花園』を解放します』
突如、耳に響く謎の声。
ただし、システムとは違い、いつもの画面は浮かび上がらず、ただ報告が流れるだけだった。
一体これはなんなのか。
それは、冒険者たちも知らない。
だが、正体は知らないだけで、全ての冒険者が認知している存在でもある。
名前は『マキア』。
ダンジョン内での特殊条件達成の報告を冒険者に献上する正体不明の音声だ。
これの記録は数多く存在し、ほぼ全てのダンジョンで存在が確認されている。
そして、一貫してあげられる報告には、達成した条件の次に与えられる特殊ギミックは絶対に避けられないということだ。
それはつまりーー。
「え、ちょ」
『転移します』
瞬間僕の体は瞬時に別の空間へと移動し、眼前に広がる光景に眩む。
城の最奥のさらに奥。
そこに広がるは、夜景の美しさに劣らない綺麗な花園だった。
「すごい、綺麗だ...」
一つ一つが美しく輝き、花弁が暗闇の中、舞う。
大きく円形の地に植えられた綺麗な花たちは、その輝きを失うことはないだろう。
そんな美の光景に恍惚としていると、その花園の中心、そこに一人の騎士がいるのが見えた。
剣を地面に突き刺し、ただただ暗い空を見上げ、物思いに耽る騎士。
そんな奴の異様な雰囲気に僕は思わず、スキルを使った。
「【絶鑑定】」
そして、スキルを行使し、結果が返ってきた僕の目には動揺と高揚感で溢れ、僕は奴の元まで近づき、剣を抜き放ち、そして強く柄を握り込んで言った。
「さあ、来い」
そんな僕の覚悟を聞いてか、はたまた花園への侵入者を撃退するためか、不動の騎士はその場を動き、剣を抜いて僕へと剣先を向けた。
「勝負だ...!」
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個体名:リビングナイト・ロード
種族名:リビングアーマー
特徴:この王国に仕えた、名も亡き最強の騎士。
亡き後、心残る王城の庭園をただただ守り続けている。
だが、彼もまた、何故ここを守るのか思い出せない。
討伐対象レベル:35000
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