第16話 『王国の悩み』

「....戻ってきたか...」


眩い光に包まれて、僕は再度、彼の地へと舞い戻る。


あたりを見回し、現在地点の確認を取る。

見慣れた天井、見慣れたベッド、見慣れた部屋作り。


ここはどうやら、僕に割り当てられているあの部屋らしい。


「ふぅ...よかった....テラリア大草原のど真ん中とかに召喚されたらたまったものじゃなかったからな」


まずは一安心。

危険地帯に放り出されていないことに安堵の念をついた僕は、ふわふわのベッドに座り込んだ。


とりあえず、今後のことを考えよう。

ここに来た時にこれも現れたしな。


僕は空中を眺め、先ほどから姿を表していた青いパネルを眺める。


「新クエスト:『王国の悩み』か....当面の目標はこれだな」


パネルに姿を表す、新たなる壁が僕の前に映る。

最初のエルファス王国を目指すクエストから2番目となる新規クエストだ。


報酬も美味しいだろうが、時間もかかるだろう。

もしかしたら、テラリア大草原の時より時間がかかる可能性もある。

気を引き締めていこう。



僕の前に現れる成長の壁を見て、僕は密かに決意を漲らせる。

今度こそ、奏の待っている我が家へと帰るために。


しかし、一つだけ問題があった。

それはーー。


「このクエスト、まだ受注完了してないんだよな....どういうことだ?」


それは、目の前のこの画面が『受注受付未完了』と書いてあるところだった。

受注が完了していなということは、文字通りクエストを受けてすらいないということだ。

つまり、達成とか、報酬とか以前の問題に僕は置かれていた。


「どうすればいいんだ...?」


頭をクエストのことで悩ませていると、ドタドタとこちらへと近づいてくる一つの大きい音に気が付く。

途端、僕の部屋の扉は大きく開かれ、一人の少女が勢いよく舞い込んできた。


「渉様、起きましたか?」


腰まで伸びる金髪に、整った顔立ち。

大きく開く青色の瞳は、その彼女の存在感を引き出させる。

煌びやかな礼節があるその所作にも、少しばかりの子供心がうかがえる。


まさに、いつも通りの彼女ーーエリーだ。


「おはよう、エリー。今日はどうしたんだ?」


「ええ、申し訳ないのですが、至急、今から私の父上ーーこの国の王に謁見してもらいたいんです...」


「お、王様に...?」


「はい...」


先ほどの勢いは何処へやら、エリーは随分とよそよそしい態度で僕に話を持ちかけてきた。


王との謁見。

非常に高明で、栄誉ある申し出だが、僕にはあんまりいい記憶はない。


最近、あんな出来事があったばっかりだからな。

正直王様に会うのにも、気が引ける。


エリーもそれをわかっていて、こんなに申し訳なさそうにしているのだろう。



戻ってきて早々、頭を悩ませる種に多くぶつかる僕だが、渋々、それを受諾することにした。


「ーーわかった、行くよ。えっと、この格好でもいいかな?」


「...はい!、もちろん大丈夫です!」


嬉しそうにする彼女に対して、僕は思った。

まあ、この笑顔を見れただけ、受けた価値はあるな、と。


というより.....この国に居座らせてもらっている以上、僕に拒否権はないしな....。

貴族社会はなんとも生きづらいものだ...。



☆☆☆☆



「面を上げよ」


威厳ある老夫にそう言われ、僕は言われた通り跪きながら、その顔を上げた。


「よく来てくれたな、雨宮君」


「いえ。王様に呼ばれればこの身、いつでも馳せ参じる所存でございます」


「ははっ!、そんなに堅苦しくするな、私のことは、エヴリンとでも気軽に呼んでくれたまえ」


「あははっ....では、エヴリンさんと....」


「うむ....まあ、いいだろう」


豪華かつ品格のある謁見の間には、前回同様、多くの騎士たちがいた。

僕が通る真ん中の道を挟むようにして隊列を組む彼ら。


正直、全くもって安心できない。

色々あって罪は免除されたけど、正直、まだまだ不安なんだよなぁ...。


パッと横見ると、そこには少し前に話したユリウスの顔がうかがえた。

彼もまた、僕が彼を見ているのに気がついたのか、視線のみで挨拶を交わしてくれた。


苦笑いでその笑みに応えると、再度王様ーーもとい、エヴリンさんに視線を戻す。


「さて、では雨宮くん。本題なんだが...」


ゴクリと、僕は生唾を呑んだ。


なんせ、謁見の間まで用意したのだ。

何か重大なことを言われるに決まっている。

例えば....処刑は免れたけど、国外追放とか....。


そんな心配事が頭を過ぎり、冷や汗が垂れる。


そしてエヴリンさんは話を続ける。



「雨宮君。君にはぜひ、我が国に協力してもらいたい...!」


「す、すいませっ....え?」



僕の予想とは違い、エヴリンさんの口から出た言葉は僕の予想だにしなかったものだった。

頭を下げて、僕に頼み込んでくるその姿は、苦しく、重い、強い思いを感じさせた。


そしてそんな時、僕の前にそれが現れた。



『クエスト『王国の悩み』の受注発生を確認しました』

『クエスト『王国の悩み』を受注しますか?』


(!!.....来た...!)



目の前に現れた文字を見つめて、僕はチャンスの色をうかがえた。


正直、ものすごい面倒ごとなら断っていたかもしれない。


だが、クエストが出たからにはやることは一つ。

家に再び帰るために、僕は壁を乗り越えていくだけだ。


「もちろん答えは、『イエス』だ」


『クエストの受注を確認』

『新クエスト『王国の悩み』を開始いたします』

『深淵より幸運を』


「エヴリンさん。そのお願い、謹んでお受けします」


「そうか、よかった...!、ありがとう、雨宮君...!」


こうして僕のここでの第二のクエストが始まった。

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