手紙の魔女の終わらぬ旅路

蛙田アメコ

プロローグa ~セカイとイカイ~

 ──ある日。


 虚空が破れた。

 世界と世界を隔てていた境界が、破れた。


 破れた虚空から、にょっきりと。

 突如として出現した、深紅の尖塔。


 夕日のように、血潮のように。

 真っ赤に染まった背高のっぽの、その塔は。

 緑の草原が広がる平野に、まったくもって不釣り合い。


 ──そして、塔の中から。

 『イカイ』の者たちが、やってきた。


 彼らは金属と火の扱いに長けていた。

 鉄剣と銃弾で人を殺す技術に長けていた。


 この世界の住人たちは、太刀打ちできなかった。

 わけもわからぬままに、その戦争は──『越境戦役』と呼ばれる厄災は始まった。


 彼らは、奪いにやってきた。

 彼らは、殺しにやってきた。


 はじめ、この世界の人間達はされるがままだった。

 土地を奪われ、村を奪われた。

 イカイ人たちは、ヒトによく似た「何か」を操り、奪った土地に入植していった──そうして。



 セカイの人間は思い出した。



 この世界には、縋るべき者がいると。

 魔法と呼ばれる強大な力を、まるで当たり前のような顔をして操る者たち。

 天候を変え、地形をも歪め、川を下流から上流に遡らせるほどの、超常の存在──魔女と呼ばれる存在を、思い出した。


 木と石でこしらえられた道具。

 

 気と意志で執行される魔術。


 それが、この世界の──『セカイ』の構成要素だった。

 魔術は大昔に廃れてしまい、それを操る者……すなわち『魔女』は数を減らし、表舞台から姿を消していた。


 人々は幾人かの魔女を探し出し、願いをかけた。


 ──このセカイを、奪い返してほしいと。


 一度奪われたものを奪い返すのに、遠慮はいらない。


 だから、魔女たちは殺した。

 殺して、殺して、殺した。


 彼女たちには──魔女には、それができたから。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る