第27話 公爵様とお話する

“バゴンッバゴンッバゴン”

振るわれる巨大な斧、その側面が対戦相手を面で捉え瞬時に場外へと吹き飛ばす。


「「「ウォーーーーーーーーー!!」」」

会場から上がる歓声、コロシアムは闘技者の圧倒的な強さに興奮し、席を立ちあがってその健闘を称える。


って言うか元村長ツエ~。全く面識が無いんで正直感情移入が出来なかったんだけど、イヤイヤどうして、あの戦いぶりは圧巻でしょう。

予選会でもそうだったけど斧をハタキの様に使うって、ぶった切ってスプラッターさせない為の配慮ってのは分かるけどもさ、対戦相手涙目よ?

実力の半分も引き出せなかったって事じゃないですか。


でも元村長のチーム、“金色の斧”の凄いところは元村長のワンマンチームじゃないって点。

後衛の魔法使いが元村長に補助魔法で支援したり、遊撃役が吹き飛ばされた対戦相手が反撃に転じても直ぐに対処出来る様に絶妙な位置取りで待機していたり。

やっぱり金級冒険者っていうくらいになるとそれなりに依頼内容も危険を伴うんでしょう、パーティーメンバー一人一人の実力も重要って事で。


ん?何で俺が試合内容についてこんなに詳しく解説出来るのか?

すぐ横でエリーゼさんが公爵閣下を相手に解説してくれているからですが何か?


いや~、流石はエルフの魔道具師、魔法に関しては一日の長があります。

俺なんか後ろのメンバーが何をやってるのかなんてさっぱりだったもん。

唯一分かったのは遊撃の位置取りくらい?

身体を動かす事に関しては前世の経験が生きますな、ウンウン。


「ふむ、この短い攻防の中でそれ程までの高度な駆け引きが行われていたとはな」

「はい、結果だけを見れば“金色の斧”のジークの一方的な戦闘の様に見えますが、対戦相手は相当にジークの事を研究していた様です。

初手で勝負を決めに行ったのも長引かせると不利であるとの判断からかと。

流石はリーデリア王国を上げての勇者選定会、選ばれし者たちの戦いと言ったところでしょうか」


エリーゼさんの解説に頷きで返すアレンジール公爵閣下。こんな状況でも冷静に対処出来るって凄い、王都の老舗マリアージュ魔道具店四代目店主の肩書は伊達じゃない。

周りの反応から見てもお偉いさんと顔を合わせる機会も多いんでしょう、つくづく凄い人と知り合いになったものです。


“ガチャッ”

俺がそうやって感心していると再びノック無しに開かれる扉、今度はどなた様と思い振り返ればお美しいご婦人とスーッと宙を飛んで入り込む小動物がですね。


「あなた、ローレシア、こちらにいらしたんですね。

それであなた方がローレシアの話に合ったお友達ね、この子と仲良くしてくれてありがとう。

ローレシアは昔から気難しいところがあるからあまり人と親しくしようとしないのよ。そんなこの子が昨日はとても楽し気にあなた方の事を語るからどういう人なのかと思ってお邪魔させていただいたの。


それであなたは・・・あら、エリーゼ様ではありませんか。以前パーティーでご挨拶させて頂きましたわね。

そう、お話に出ていた女性はエリーゼ様でしたの。

それでこちらは・・・」


お美しいご婦人はやはり公爵様の御身内だった様で、エリーゼさんとも面識があるご様子。俺は小市民らしくいかにもな挨拶を行います。


「お初にお目に掛ります。マリアージュ魔道具店四代目店主エリーゼ・マリアージュ様の下でお世話になっております、行商人のノッペリーノと申します。ローレシア様とは縁があり親しくさせていただきました。

どうぞよろしくお願いします」


うん、当たり障りのない完璧な挨拶。

本来ならもっと謙った方がいいんでしょうけどね、一介の平民がそこまでの挨拶を知っているという事自体がおかしいですし、逆に警戒させちゃいますからね。かと言って萎縮するのもな~、この自由奔放なお嬢様が気に入るくらいだから、失礼にならない範囲で堂々としていた方が逆に自然って言うね。

エリーゼさんが顔を引き攣らせてますが、“田舎者だからよく分かりませ~ん”ってのを基本スタンスにしておこう。


「フフッ、そう、あなたが“ノッペリーノさん”ですのね。ローレシアが気に入るなんてどんな方かと思ったけど、なかなか面白い子ね。それに何か不思議な雰囲気。

私もこれ迄いろいろな方とお会いして来たけど、あなたのような人物は初めて見るわ。

なんて言うのか、その場にいるのが自然って言うのかしら?本当に面白い方ね」


う~わ、このご婦人、とんでもねぇ。

一目で俺の体質を見抜きに来るってどんだけ?これが高位貴族、社交界で戦う女性はこれが普通なの?

お貴族様の世界はまさに魑魅魍魎だらけですな。


“カツカツカツカツカツカツ”

そして先程から皆さんスルーなさってますが、小動物がテーブルの料理に突っ込んでるのはいいんでしょうか?

俺はそっと小動物に近付いてお声掛けをします。


「すみません、もしかしたら精霊様でいらっしゃいますか?

もしよろしかったら何でこの場にいるのかお伺いしても?」


俺の質問にピタリと動きを止められる精霊様。

そしてギギギギッと擬音が聞こえそうなくらいぎこちなくこちらを振り向かれます。

俺と視線が合い冷汗を流される精霊様。それでも一縷の望みを掛けご自分の顔を指差されます。

俺はそれにコクコクと頷きを返しました。


「ジャジャ~ン、我惨状、参上?まぁよいか。

ノッペリーノ、今日のご飯はって、誰だ~!!私の楽しみを奪う奴は~!!」


行き成り音もなく開く胸の扉、そして空気を全く読まない傍若無人の御方が開口一番喧嘩を売られるっていうね。

精霊様、ちょっと待とう、今状況が良く分かってないから。

あっ、妖精様、精霊様を止めて~!!

俺はテーブルの上の精霊様に掴み掛ろうとする精霊様を、後から登場した妖精のマルベール様にお願いして止めてもらうのでした。


「それでそこの精霊、何故我が配下の貢ぎ物を勝手に食しておったのだ?」


精霊様、何故か上から目線でお食事をなさっていた精霊様にお説教を始められました。

そんな精霊様に目茶苦茶ビビり散らかしているお食事精霊様、と言うか妖精様が何やら恐縮しているんですが、マルベール様、もしかしたらこちらの御方をご存じなんですか?


「お久し振りでございます、ポーネリア様。精霊様、ご紹介いたします。

こちらは王都の守護精霊と呼ばれておりますポーネリア様、王都妖精の取りまとめをなさっておられる御方です」


そう言い紹介を受けたポーネリア様、でもなんかあまり長って雰囲気はないんだけど、種族が精霊ってだけで無条件で従うって感じなんかな?

妖精は精霊により生み出されるって話だし、その格差は絶対的って事なんでしょう。


「え、えっと、何でこんな所に私以外の精霊がいるの?と言うかそこの人間は私の事が見えてるの?隠蔽を掛けてるのに?どうして?」

あまりに予想外の展開に混乱に陥るポーネリア様。

そして何故そこで精霊様がドヤ顔をするし。


「フフフッ、見たか。これが我が配下、移動用生物ノッペリーノの実力。

ノッペリーノに貴様如きの隠蔽が効くと思わぬ事なのだ、ワッハッハッハッハッ」

精霊様超ノリノリ、どこの悪の幹部なんだあなた様は。

まぁキャンピングカーなのは事実なんですけどね!


そんな精霊様の言葉に、驚き目を見開くポーネリア様。まぁそうですよね、普通エルフでもない者が精霊様の存在に気が付くとは思いませんよね。

と言うかエリーゼさんは気が付いてるんだろうか?これ程あからさまに精霊様方が集ってるんだから・・・。

俺がそっとエリーゼさん方の方に目を向ければ何やらおしゃべりに興じる御三方。うん、お気付きになっておられませんな。

精霊様をお連れになったアレンジール公爵夫人ですら無反応って一体。


「えっと、ポーネリア様。少々お聞きしたいんですが、もしかして公爵家の方々ってポーネリア様の存在をご存じないんでしょうか?」


精霊様と暫しお話をなさっていたポーネリア様、何故か今は皆さん揃って大食い選手権をですね。

ローレシア様、これ俺じゃないですから、「お腹の具合が戻ったみたいで良かった」とか言わないで、俺じゃこの量の食事は無理だから。


「ん?私の存在自体は広く知られているわよ?王家の守護精霊、王都の守護精霊なんて呼ばれてたりするから。

私、基本的に代々の公爵家の血筋に付いてるしね。

公爵家では私分の食事も用意されてるのよ、凄く快適に過ごさせてもらってるわ。

でも姿を見せちゃったら何されるか分からないじゃない?いくら公爵家の家人が人の良い者たちでも周りまでそうとは限らない。

だから基本的に姿を消してフラフラしてたのよ。

エルフなんかは私の存在に気が付いたりするけど、公爵家の者に私が付いてるって事は有名だし、干渉しないでいてくれてるわ。

でもこれ程確り存在がバレたのは初めて、あなた一体何者?」


ポーネリア様は驚きの表情でこちらを見詰められます。でも食事の手は止めないんですね、本当にそのご飯は何処に消えるんですか、意味不明です。


「フフフッ、先程から言ってるだろう、ノッペリーノは私の移動用生物、ノッペリーノが側にいれば誰にも気が付かれる事なく美味しい食べ物が堪能できるのだ。

世界は不思議に溢れているのだ!!」


精霊様はそう言うやソーセージを差したフォークを天高く掲げられます。

あなたは何処の海賊王ですか、冒険心が溢れまくっておられますよ?


「あら、たくさん食べてくれるのね、やっぱり男性は確り食べないと、健啖家は魅力の一つよ」

そう言いお褒めの言葉を下さるアレンジール公爵夫人。ローレシアお嬢様がドヤ顔をなさっておられますが、違うんです、俺さっきから見てるだけなんです、お食事会は三匹の小動物が行ってるんです。


“スーーー”

音もなく開かれた扉、何故か場違いな程ボロボロのローブを羽織った人物か部屋の中に入って来られました。

その人は懐からいかにもなナイフを取り出すとアレンジール公爵に向かいおもむろにって駄目じゃん。


「桃ちゃん、出番だよ!」

俺は腰に差した桃ちゃんを取り出し怪しい人物に向けると、全力で伸びるようにお願いするのでした。

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桃ちゃんと一緒 召喚され世界の壁となった俺は、搾り滓として転生す @aozora @aozora0433765378

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