第15話

行人ゆきとさんは、自分の両脇に橋本はしもとと私を座らせて、頭をなでてご満悦だったよ」

「ずるい!」

 昔話を聞いて、白妙しろたえの君は地団駄踏んだ。

「橋本の坊主頭をじょりじょりして、私の髪の毛を指先でもて遊んでいたな。中一は可愛いなあと」

「おかしいです!」若菜わかな姫が立ち上がった。「確かに橋本さんは、行人さんの稚児だったかもしれません。そんな、国見くにみさんは他の人の稚児だったのに! どういうことですか?」

「そうだよ、おかしいよ。僕、頭なでてもらったことないもん」

 白妙の君は、机に突っ伏して泣いていた。

「いや、頭くらいなでてやれよ!」

 橋本をにらみつける。放課後、談話室でわちゃわちゃしていた。

 白妙の君曰く、自分は橋本さんとの仲が深まっていない。だから、参考までに、橋本さんが稚児になったばかりの頃の話を知りたいと。

「あのな、白妙…」

 顔を上げる。

「行人さんはな、お兄さんというより、お姉さんみたいな人だったよ」

 白妙の君は、隣の友人を見た。

「それは、この人が美少年ではなく美少女だと言われているみたいな」

「はい。吉田よしだ先生も何かを諦めて、そのように扱ってくれています」

 ピースサイン。

「そうだろう。で、国見くにみも何だか女学生のようだろう」

「はい。皆にホットケーキ焼いたり、梅仕事したり、小さい子に浴衣縫ってあげたり…」

 それがどうかしたのかと首を傾げる。

 そこで、橋本が立ち上がる。私とハグ。続いて、若菜姫とも。白妙の君の顔色が曇る。

「お前は男の子だから、照れくさいんだ…」

 橋本は、そっぽを向いた。

「いや、全員男だろ」

「うん。そうなんだがな…」

 橋本がとんちんかんなことを言っている。

 多分、前世の感覚を引きずっているのだろう。いくら既婚者とは言え、赤ん坊は無事に生まれてこなかった。のみならず、女子校のち尼生活…。成人男性ならばともかく、旧橋本の人生では男の子にふれる機会がなかったのだ。

「いや、でも、今は男だよね?」

 橋本の肩に手を置き、囁く。

「うん…」橋本は顔を赤らめた。「自分であの人の子供を産めてもいないのにと。え、もしかして、これって疑似子育てではと思うと、肌にも触れられなくて…」

「ああ…」

 すみれちゃん、どうやって妊娠したのかな。もしかして、妄想だったのかな。ピュアが過ぎる。

 腕組みして、考える。

「よし、白妙の君。徹頭徹尾、橋本に恋をしなさい。さすれば、道は開けるでしょう」

 半ばやけくそだった。

「本当ですか」

「やったね。毎日、ラブレター書きなよ」

 きゃっきゃっうふふな二人。

「で、橋本は愛を受け止めなさい」

「できるかなあ…」

 ものすごく不安そうだった。



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美陰学苑ものがたり 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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