ドラゴンハーレム~~お姉さまたちはショタドラゴンに夢中ッ!?~~
@yuuki009
第1話 旅立ち
これは、とある世界を舞台とした物語。
その世界には『ドラゴン』がいた。
ドラゴン。或いは龍と言われるその生物は生態系の頂点に立つ生物であった。大きな体躯、強靭な鱗、全てを噛み砕く牙と全てを切り裂く手足の爪、空を駆けるための大きな翼。更には、人の身では安易に使う事が出来ない、魔法すら使いこなす力。それらによって裏打ちされた強さこそが、ドラゴンを最強の生物たらしめた。
そして、これはそんなドラゴンの子供、まだ若い幼龍を中心とした物語。
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人の手が付いていない、原始のままの姿を保つ深い森の中にそびえる巨大で険しい山。原生林の外からでも見える程に巨大なその山は、その圧倒的な巨大さを目にした人々から天まで届く山、という意味を込めて『天山』と呼ばれていた。
その天山の中腹には、いくつもの巨大な横穴があった。そしてその横穴こそが、ドラゴンの一種族、赤き龍、赤龍族の住処となっていた。
そんな洞窟、赤龍の巣穴の1つにて。今、2匹の赤龍が正面から向かい合っていた。1匹はこの家族の家長たる父龍。もう一方は、その息子である幼龍、『レッド』だ。大きな龍を、小さな龍が見上げる形となっていた。しかし、小さいと言ってもその体躯はゆうに10メートルを超えている。
『ねぇねぇお父さん、外の世界に行ってみたいんだっ!良いでしょっ?』
『ハァ、またかレッドよ』
まるで猫が主人に甘えるような、喉を鳴らすような声の幼龍レッド。対して、呆れるように小さく唸る父龍。それはドラゴン達にしか分からない、言うなればドラゴン語による会話だった。
『お前の好奇心には困った物だな。こう何度も外へ行きたいなどと。お前はまだ若い。いや、幼いのだ。そして外の世界には危険な存在がたくさんいる。魔物もそうだが、人間もだ。奴らが如何に危険なのかは、いつも言っているだろう?』
『それは分かってるけどぉっ!お外行ってみたい~~!冒険してみたいよ~~!』
父龍はレッドに対し、外が如何に危険であるかと説いて、外へと遊びに行くのを止めようとしていた。しかしレッドはその言葉を聞かず、外へ行きたい、旅をしてみたいと子供らしく駄々をこねている。なぜそこまで外の世界に拘るのか。それは、ある事をきっかけで外の世界へ強い興味を抱くようになってしまったからだ。
『僕もおじいちゃんみたいに外の世界を旅してみたい~~!』
レッドが外の世界を求める理由。それは彼から見て祖父に当たるドラゴンの影響だった。
その龍はかつて、世界各地を旅してきた龍だった。その時の人との出会いや対立、今まで自分が経験してきた出来事、思い出を孫であるレッドらに度々聞かせていた。それは、幼いレッドにとって新鮮で刺激的な物だった。
『まだ見たことも無い物が外の世界にはたくさんある』、『それらを見てみたい』、『知りたい』。そんな想いがレッドの中で芽生え、どんどん膨れ上がって行った。そして今、その思いが、未知への好奇心や探求心が彼を突き動かしていた。それ以降、レッドは度々両親へ『外の世界に行ってみたい』と熱烈にアピールし、困らせて来た。
レッドがこのような事を言う度にこうして父や母が止め、それでも止まらなければ最終的には父の怒声で黙らせる、というのがこれまでの定番だった。が、しかし今日だけは違っていた。
『あなた、どうせなら一度だけでもレッドに外の世界を旅させてみてはどうですか?』
今まで父と息子の会話を見守っていた、母龍が声を上げた。
『む?いや、しかし……』
父龍は彼女の提案に対し渋るような反応を見せた。彼から見ればレッドはまだ幼く弱い子供。おいそれと危険な外の世界へ送り出す事には抵抗があった。
『無論、私もこの子が心配です。ですが外の世界を知れば、それもまたこの子にとって良い経験になるでしょう』
『それは分かるが、やはりなぁ……』
『外の世界は危険がいっぱい』。『まだレッドは幼い』。そういった思いから父龍は首を縦に振る事は出来なかった。しかし、この時ばかりは、母龍はレッドの味方だった。
『それに、これ以上この子の好奇心を押さえつけていては、私たちに嫌気が指してこの子が家出する事にもなりかねません。ある意味、それは最悪の事態です』
『うっ。確かにそれもそうだな』
『ですので、いい機会ですから少しだけ外の世界に触れさせてみてはどうでしょう?』
『う~~む』
妻の言葉に彼はしばし考えこんだ。そして彼は、2人の会話を聞いて期待と不安に満ちた表情で自分を見上げる、レッドのその顔を見つめる。
レッドはただ、じっと父の返事を待っていた。その表情を前にした父龍は、難しい決断を迫られていた。が、妻たる母龍の家出、という単語が決め手となった。
≪確かに、そう何度も拒否するばかりでは、本当に家出しかねんな≫
外は危険だ。しかしだからと言って息子が家出をするような状況は避けたかった。故に、彼は折れる事にした。
『ハァ。仕方ない。レッド、お前が外に行きたいというのなら、許可しよう』
ため息をつき、渋々と言った様子で許可を出す父龍。
『えっ!?ホントにッ!?』
『ただしっ!』
嬉しそうに笑みを浮かべるレッド。しかしそれを父龍が一喝し遮った。
『いついかなる状況でも、生きる事を考えろ』
父龍は、そう言うとレッドの方へと歩み寄り、片手を彼の方に優しく置いた。
『今までお前には、他の兄弟たちのように赤龍の一族として、恥じない行動を心がけよ、赤龍として誇りをもって生きろと、散々教えて来たが。外の世界に行くのならば、生き残る事を第1に考えよ。そして、必ず私たち家族の元へと戻ってこい』
そこまで言うと、彼はレッドから手を離し数歩後ろに下がると、めいっぱい翼を左右に広げた。今、彼の後ろには洞窟の出口がある。それはまるで、レッドを外へと行かせまいと壁になっているかのようだった。
『この約束を守れないのならば、お前を外の世界に行かせる事は出来ぬっ!さぁ、どうするのだレッドよっ!』
『ッ!』
父龍は言葉と共に鋭い眼光でレッドを睨みつけた。並の生物や人間ならば、睨みつけるだけで気絶させることも容易いドラゴンの一睨み。レッドも父の威圧感に思わず息を飲み、恐怖から思わず一歩後ずさりしてしまった。
が、直後に彼は恐怖を振り払うように首を左右に振った。
≪逃げないぞっ!僕は、おじいちゃんみたいに世界を冒険するんだっ!≫
一瞬、父の威圧感に飲まれかけたレッドだったが彼は自らの夢を糧として踏みとどまった。
『分かったッ!約束するよっ!僕は絶対、生きてここに帰ってくるってっ!』
『その言葉に、嘘や二言は無いな?レッドよ』
『うんっ!!』
自らの思いの強さを証明するように、レッドは父に負けじと彼を真っすぐ見つめながら静かに頷いた。しばし、父と息子の、2匹の龍が見つめ合う。
『……そうか。ならば良かろう』
父龍は、息子の思いの強さをその表情と、自分を真っすぐ見つめるその瞳から読み取った。
『えっ!?良いのっ!』
『あぁ。ただし、今の約束は必ず守るのだぞ。場合によっては、ちょくちょくお前の様子を見に行く。そこで少しでも危ない事をしていると判断したら、強引にでも連れ帰るからな?良いな?』
『うんっ!うんうんっ!大丈夫だよお父さんっ!危ない事はしないからっ!だから僕、外の世界に行くからねっ!』
外の世界へ行く事の許可を貰えた事で、レッドは大喜びし、それを表現するように尻尾をフリフリと左右へ振っていた。
『やれやれ。許可を出した途端にこのはしゃぎよう。本当に大丈夫なのだろうな?』
大はしゃぎのレッドを見つめつつ、父龍は不安そうな声を漏らした。
『大丈夫ですよ、あなた』
と、そこへ母龍が歩み寄ってきて彼と肩を並べた。
『だって私たちの子なのですもの。きっと、外の世界でだって上手くやっていけますよ』
『そう、だな。ならば信じよう。我らの子を』
『えぇ』
こうして、幼龍レッドは両親より許可を貰い、外の世界へと旅立つ事が決まった。
それから数日後。巣穴である洞窟の淵に立つレッドと、彼に向き合う両親、更にレッドの兄弟たちもその傍に居た。
『ではレッド。私達の教えと約束をしっかり守って、必ず生きて帰ってくるのだぞ?』
『気を付けていってらっしゃい、レッド。寂しくなったら、いつでも戻ってきて良いのですからね?』
『うんっ!』
父と母の言葉にレッドは元気よく頷く。
と、そこへ両親の後ろからレッドの兄弟らが出てきてレッドに群がる。
『気を付けていって来いよ、レッド』
『お土産に色んな話聞かせてねっ!』
彼の身を案じる兄たちやお土産を強請る弟たち。
『うんっ!分かってるっ!』
レッドは彼らにも笑顔で頷く。
やがて、旅立ちの時間がやってきた。
『ではなレッド。繰り返しになるが、気を付けていってくるのだぞ?』
『分かってるよお父さん』
レッドは頷くと、その場で踵を返した。彼の眼前に広がるのは、どこまでも続く青空と、どこまでも続く原生林。そしてその先には、レッドの見た事も無い世界が広がっている。
≪いよいよだっ!僕も、おじいちゃんみたいにっ!≫
いよいよ旅立ちの時がやってきた。その高揚感がレッドの中で溢れる。そしてそれが声、咆哮となった。
天を仰ぎながら甲高い咆哮を上げるレッド。そして咆哮を上げた彼は背中の翼を広げると、大空に向かって跳躍した。翼を羽ばたかせ、今一匹の幼龍が空に飛び立った。
『よ~~しっ!いっぱい、いっぱいっ!冒険するぞ~~~っ!』
未知への好奇心、探求心に動かされるまま、今レッドは小さな巣穴を飛び出て、広い世界へと旅立った。
『行ってこい、我が子よ。そして、世界を見て、楽しんでくるのだぞ』
巣立つ幼い我が子の背中を見つめながら、父たる龍はその言葉を投げかけた。
こうして、幼い一匹のドラゴンが、世界へと飛び立った。それが、物語の始まりである。
第1話 END
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