十八話 対策と反撃の手

孤児院を襲撃した"タランチュラ"の戦闘員はほとんどが死んだか、逃げた。


"フォルティア"の組員があと片付けをする中、クロードとフェイは"フォルティア"のボスであるカミラと対面していた。


「俺はクロード、さっきも言ったが依頼を受けた冒険者だ」

「フェイ・バルディア・ルー、冒険者」


「私はここを仕切る"フォルティア"のボス、カミラだ、クロード、フェイ、礼を言わせてくれ、二人が救援に来てくれなかったら私たちは死んでいた」


「そうだろうな、この惨状を見る限り敵に突然襲撃されたってところだろうな、この地域を支配するお前たちが何故それに気づけなかったかは置いておくとして、俺たちの依頼主は孤児院を脅かす問題があればそれを排除してくれと言った」


「お前たちの敵は"タランチュラ"?」


フェイの問いにカミラは頷く。


「"タランチュラ"、ここ最近急に勢力を拡大してる組織で私たちの所にも合併の話が来たけど私はそれを蹴った」

「なるほど、俺が殺した黒装束、彼奴は何者だ?、"タランチュラ"の戦闘員には見えない」


「クロードが殺した奴は"黒き剣ブラックソード"と言う暗殺組織の一員だ、もう一人いたはずだがお前が殺したのか?」

「全身黒づくめの奴なら斬った」


「すごいな、お前たちは、奴らはうちの組員を何人も殺した凄腕の暗室者だぞ?」


「正面からの戦闘には慣れていないからだろうな、暗殺者という生き物は相手が抵抗する前に殺す、だから戦闘経験に乏しい」

「随分と詳しいな」

「過去に要人の護衛経験があるもんでね」


「カミラ、"タランチュラ"が雇った暗殺者の数は?」

「分からない、ただ最低でも五人はいる」


「最低でもあと三人か、"タランチュラ"の拠点は何処だ?」

「奴らの拠点はいくつかあるがそれを聞いてどうする?」


「最初に言っただろ、依頼主から問題を排除しろと言われてる、"タランチュラ"を潰す」

「何!?」


カミラが驚きの声をあげると、周囲の目が集まる。


「今"タランチュラ"を潰すと言ったか?」

「言ったが?」

「お前正気か?」


「フェイ、俺はイカているように見えるか?」

「見えるかも」

「おい」

「冗談、でもどうやるの?」

「それをカミラに聞こうとしてたんだよ」


「私に?」

小鬼ゴブリンを知ってるか?」


「あ、ああ、存在は知ってる」


カミラの顔には何故急にと書かれていた。


「リベルタの冒険者は毎年の秋に森に入り、小鬼ゴブリンの間引きをする、秋は奴らの繁殖時期で森から溢れるのを防ぐためだ」


小鬼ゴブリンの巣穴を潰す時に必要なのは巣の規模を知ることとリーダーの排除だ」


「これは組織の潰すのにも通ずると俺は思う、巣穴を徹底的に調べあげ、リーダーを殺す、小鬼ゴブリンは掃討するけど今回はそれが必要ないから小鬼の時より楽だ」

「小鬼のことをよくは知らないが魔獣と人間は違う、"タランチュラ"を潰すなんて不可能だ」


「何故そう言い切れる」

「"タランチュラ"は今や南地区の三分の一を支配する巨大な組織だ、お前たちがいくら強くても数には勝てないし手練も多い」


「それなら手を出せないように力を削ぐというのはどうだ?」

「と言うと?」

「"タランチュラ"は大きな組織かもしれないが、それは全体の話で全ての組員が一箇所に集まっているわけじゃない、確かあんたは"タランチュラ"の拠点はいくつかあると言ったよな?」


「ああ、言った」

「そのいくつかを潰せばここに手を出す力を削ぐことが出来る。教えてくれ、どこを潰せば奴らの力を一番削げる?」


「歓楽街に麻薬ドラッグを供給してる製造所がある、麻薬売買は奴らの資金源だ」

「一番の痛手になると」

「そうだがそれは奴らも分かってる、防備は硬い、二人だけ潰すなんてとても無理だ」


「分かってる、だから情報が必要だ。歓楽街に詳しい部下はいないか?」

「今はいない」


「どういう意味?」

「奴、ベンは"フォルティア"を裏切り、"タランチュラ"に寝返った」


「ボス!、あのクズは俺たちを売った裏切り者だ!、名前を呼ぶ価値すらない!」

「そうです!、俺たちが彼奴の裏切りに気づいていたらこんなことには…!」


「落ち着け、私らの事情と彼らの事情は関係ない、彼らはケネスさんに依頼されて助けてくれたが、うちの組員じゃない、それを忘れるな」


カミラに諭され、部下たちは黙った。


「済まない」

「謝る必要はない」

「話に出たベンが歓楽街に一番詳しい組員で、今はいない」

「他に歓楽街のことに詳しい奴はいないのか?」

「うちの組織の人間はほとんどが貧民街出身で、歓楽街のことに精通している人間は少ない、ベンとその部下たち以外は」


「ボスのあんたもか?」

「歓楽街のことはベンに一任していた、そして彼奴はついでとばかりに自分に従わなかった部下たちを殺して出ていった」


「お前たちに協力したいのは山々だが私たちに情報を提供することはできない」


「それは残念だ、"タランチュラ"の組員をとっ捕まえて聞くしかないか」

「ん、奴らは蜘蛛の刺青を入れてるから見つけるのは簡単」


「待て、私たちも行く」

「別に構わないがお守りはしないぞ」


「必要ない、私たちはベンとその部下たちに裏切りの代価を支払わせる。トッド、グレイン、マット、ニール、私についてこい、ほかの皆はここで防備を固めろ、ゴミ蜘蛛の連中が性懲りもなく攻めてきたら皆殺しにしろ」


「「「はい!、ボス!」」」


カミラは闇組織のボスらしく、荒々しく指示を出し体格が良い四人の部下を引き連れる。


「行きましょう、歓楽街には詳しくないけどここを襲ったゴミ蜘蛛の奴らが逃げた先なら分かる」

「助かる」


ここは"フォルティア"の縄張りだ、クロードとフェイはカミラの後を着いていく。


孤児院を離れ、カミラとその部下たちは複雑な道を歩き、とあるボロ屋に辿り着く。


「トッド、グレイン、連れてこい、マットとニールは裏口から行け」


カミラの指示で四人の大男がボロ屋に押し入った。


すぐに荒々しく音と怒声が聞こえてくる。


「ここは闇医者の家だ、怪我をしたゴミ蜘蛛の奴が最低でも一人はいるはずだ、こういう雑時は私たちがやる」


「あー、こういう時に聞くのもなんだがケネスはあんたら"フォルティア"とどういう関係なんだ?」

「ケネスさんから聞いてないのか?」


「知り合いがいるとしか聞いてないし、俺もフェイもそこまで深堀はしなかったが、あんたや部下たちはケネスの名前を出したら急に警戒を緩めただろ?、ちょっと気になってな」


「ケネスさんの名誉のために言うがあの人は"フォルティア"とは関係ないし、元組員でもない。私たちのようなここでしか生きられないクズとは違う人間だ」


「ケネスさんは貧民街出身で、先代のボスだった私の親父の親友だ」

「ケネスが貧民街出身!?」


「どうしてそんなに驚くの?」

「知らないのか?、貧民が街で成功するのは不可能だ、手に職もなければ伝手もない、ましてやケネスのように店を構えるなんて絶対に無理だ」


「それがそうでもない、先々代が早くに死んで若くしてボスになった親父が支援したから」

「闇組織のボスが支援を?」


「そう、ケネスさんは喧嘩は強くなかったけど昔から手先が器用で頭も良かった、ちょっと頑固なところもあるけど良い奴だって親父は言ってた、それに鍛冶の才能がずば抜けてるって」


「確かにケネスの打った武器と鎧はすごい」

「それはケネスさんの作品か、道理で業物だと思った」


「私もガキの頃世話になった、組織の誰もがケネスさんに恩がある、そして堅気の世界へ行ったケネスさんのことは私たちは誰にも話さない、逆にケネスさんが話すとしたら相当に信用した人間だと私たちは考えた」


「だからか、合点が言ったよ、俺たちの存在をあっさり受け入れたのは文字通りケネスのお陰だってことがな」

「気分を害したなら謝罪しよう」


「闇組織のボスのくせに腰が低いな」

「私はクズだがクズなりに信念がある、ケネスさんが信じた人を蔑ろにはしない、それにここでは強いやつが偉い、そしてあんたたちは強い」


「カミラ、自分をクズという人間はクズじゃないと思う」


フェイの言葉にカミラは目を丸くする。


「私は南地区のことも"フォルティア"のこともよく知らないけど、そう思う」

「はは、フェイ、お前は良い奴だ、是非そのままでいてくれ」


部下の一人がボロ屋から出てくる。


「ボス、三人いました」

「連れてこい」

「おい」


ボロ屋から後ろ手に拘束された三人の男が出てくる、皆一様にどこかしらを怪我していて、怯えていた。


「さて、私が誰か説明する必要はないよな?」


「ひっ!、お前はカミラ」

「てめぇ、ボスを呼び捨てとは何様のつもりだ!」

「ぐぇ!」


「マット」


カミラが拳をあげると、地面に押し付けられた男を強制的に立ち上がらせる。


「お前たちにチャンスをやる、"タランチュラ"の麻薬製造所について知っていることを教えろ、有益な情報を吐いた奴から闇医者のところへ戻してやる、誰か何か知ってるか?」


「俺はそこの場所を知ってる!」

「俺もだ!」

「俺も!」


「ほう、何処だ?」

「歓楽街の大通りに面してる"ラポール"って娼館を隠れ蓑にしてる!」

「えっと、そこを仕切ってるのはミラって女だ!」

「いつも強面の組員が詰めてる」


「組員は何人いる?」

「百人はいたはず」

「今は訳分かんねぇ黒装束の奴らも来てる、確か二人いた!」


「それが嘘だったら分かってるよな?」

「う、嘘じゃない!」

「自分の立場は分かってる」

「殺さないでくれ」


「ふん、"フォルティア"の襲撃を指示したのは誰だ?、リドーじゃないのは分かってる」

「それは…」


男たちは言い淀むが、カミラは無言で剣を抜き地面に突き刺す。


「私は大勢の仲間をお前たちに殺されている、今お前らは生きてるだけで望外の幸運だと思った方がいい、話さないならここでその幸運は尽きる」


「分かった!、話すよ!、指示したのはリドー様の兄のパレス様だ!」

「パレス、"タランチュラ"の最高幹部のパレスか」


「そうだ、パレス様が"フォルティア"を潰せって」

「パレス様が指示して弟のリドー様が指揮を取った」


「なるほど、パレスね。容姿は?」

「茶髪黒目の強面で背が高い」

「首に"タランチュラ"の刺青を入れてる」

「それといつもでっかい斧を持ってる」


カミラは一瞬目を細め、剣を地面から引き抜き、三人全員の喉を切り裂いた。


「ベンたちもそのパレスの所にいるはずだ、行くぞ」


カミラは地面に倒れた三人を放置して、部下を率いる。


ただ見ていたクロードとフェイもすぐに追いかける。


「怒れる闇組織は容赦がない」

「確かに」

「この依頼は長引くと良くない気がする、早めに決着をつけよう」

「ん、ケネスにもっとふっかければ良かったかも」

「後悔先に立たずだな」


「何それ?」

「極東のことわざだ、後悔しても無意味ってこと」

「酷い」

「それだけじゃない、後悔しないようによく考えろという意味もある」

「励ましてる?」

「まだ分からない、でもすぐに分かる」


カミラが目指す先は男たちが話していた"ラポール"という娼館だ。


「フェイ、備えよう、黒装束の奴らは強くはないが殺しの熟練者プロだ、正面から来てくれるとは限らない」

「敵は全部倒す」

「良い心構えだ」

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