十五話 回収と達成

「クロード、ソルは?」

「大丈夫、気を失ってるだけだ。じきに目覚める」


フェイはクロードの隣に座る。


「焼け野原」

「だな、ソルがいなかったら今頃俺達も炭の仲間入りをしていたな」

「幸運」

「フェイはどうやらみたいだ」


「確かに」

「大事なことだ、冒険者には時に運が必要な時もある、特に今回のような不測の事態にはな」

魔獅子レオーネが火を吹くとは知らなかった」


「俺もだ」

「え?」

「ただ魔獅子に火を吹く息吹器官は存在しない、つまりフェイが倒したあの魔獣は魔獅子じゃないってことだ」


「フェイは王獅子レグルスという魔獣を知ってるか?」

「初めて聞く」

王獅子レグルス魔獅子レオーネと姿形は似ている魔獣だが、その強さは魔獅子の比じゃない。フェイが倒したのはおそらくその赤子だろう」


「赤子?、あの大きさで?」

「王国北部に王獅子レグルス炎王イフリスと呼ばれる名付きネームドがいるんだが、話によるとソイツは城壁を軽々と飛び越えるほどデカいらしい」


「そんな魔獣がいる」

「いる、俺が聞いた炎王イフリスの話が半分でも真実だったら俺たちが戦った王獅子レグルスは赤子と考えるのが妥当だ」


「どんなの?」

「一夜で討伐隊と街を壊滅させたとか小国を七日で焼き尽くしたとか、あとは勇者を丸呑みしたって話も聞いたな」

「勇者?」

「たまたま国が保管する宝剣を抜いた馬鹿のことだ」

「辛辣」

「嫌いだからな、その食われた勇者と今の勇者は別人だが」


「ん、クロードの言いたいことは分かった」

「それは良かった」


王獅子レグルスがいたなら依頼内容が間違ってたことになる、この場合はギルドから追加報酬を貰える?」

「証言と証拠があれば貰える、似てる魔獣は多いし依頼主が魔獣を間違えるのはよくある話だ、それが故意なら話は別だが、今回の依頼はそうじゃないだろ、王獅子レグルスなんてそうそう見かける魔獣ではないし」


「報酬が貰えるならいい、魔石は…ダメかも」

「見事に真っ二つだもんな」


クロードはフェイが作り出した惨状を見て、笑う。


「村を破壊した、大丈夫?」

「元々廃村だし大丈夫だろ、戦闘の余波で何かが壊れるのは普通のことだしな、被害は明らかに普通以上だけど」

「ん、聞こえない」


耳を塞いで頭を振るフェイにクロードは微笑ましげな表情になる。


「あっ、クロードの最後の矢、凄かった。前足を消し飛ばすとは思ってなかった」

「あれは俺もちょっと驚いたな」


風穴を空けるくらいはできるだろうとは思っていたが、まさか消し飛ばすほどの威力が出るとは想像できなかった。


「名付きの素材は伊達じゃない、ソルが目覚めたら回収してきていいか?」

「ん、なんなら今行ってきても大丈夫、ソルは私が見てる」

「助かる、甘えさせてもらうよ」


◆◆◆◆


矢を回収してクロードが戻ってくると、目覚めたらソルがフェイと向かい合い話をしていた。


フェイはすぐにクロードに気付く。


「おかえり」

「ただいま」

「矢は?」

「回収した」


クロードは漆黒の矢を見せ、矢筒に戻す。


「ソル、起きたか」

「つい先程な、気絶した後のことはフェイから聞いた」


「ソルの盾には命を救われた、礼を言わせてくれ、ありがとう」

「私は…えっと、盾を持っているからな、誰かを守るのは当たり前だ」


「素直に礼は受け取れ、お前はそれだけのことをしてくれた」

「ソルがいなかったらクロードと揃って丸焦げ」


「わ、分かった。礼は受け取る」

「ああ、そうしてくれ」


「二人は私のことを褒めるが二人だってすごい、クロードの指示は的確だったし、フェイは赤子とはいえ王獅子レグルスを一太刀で屠ったのだから」


「ありがとよ」

「ふふ、照れる」


「フェイ、ソルも起きたし帰り支度を始めよう」

「ん、ソルも手伝って」

「ああ、何をすれば?」


「自分が倒した魔獅子の魔石と牙を取ってきてくれ」

「分かった」

「フェイ、俺は王獅子の魔石を探してくる」


「ないかも」

「探してみないと分からないだろ?」


そう言ってフェイを元気づけたクロードだったが、残念ながら王獅子の魔石は真っ二つに割れていた。


魔石は破損するとその価値が急激に落ち、そこらのクズ石以下の値段になってしまう。


あの状況でフェイに魔石のことを気にして倒せというのも無理があるし、冒険者にとって討伐の結果魔石を破壊してしまうことはごく普通のことなのだがフェイは落ち込むだろう。


ほんの一瞬悩むが事実は変えられない、クロードは討伐証明部位である牙を抜き、二人の元へ戻る。


「フェイ、残念ながら魔石はご覧の有様だったよ」

「やっぱり壊れてた」


予想通りフェイは肩を落とし、落ち込んでしまう。


「最悪だよな、せっかく倒したのに魔石がないとか」

「最悪」

「ふふ、すっかり冒険者だな」


「?、どういうこと?」

「鎧熊の時は魔石になんて気にもとめてなかっただろ?、魔石の有無に一喜一憂するのは冒険者だけだからな」

「慰めにならない」


「確かにな、だがこれも経験として飲み込むしかない。冒険者なんだから次稼げばいい」

「その通りだけど冒険者の話になるとクロードは優しくない」


「はいはい」

「適当」

「依頼は成功したんだ、まずはそれを喜べ」

「ん、そうする」


「クロード、フェイ、そっちは終わったのか?」

「終わったぞ」

「こっちも終わったぞ、これが魔石と牙だ」

「助かるよ」


クロードはソルから魔石と牙を受け取り、皮袋に入れ背嚢へ戻す。


「ソル、先に分前の話をしてもいいか?」

「分前?、いや、私は…」


「いらないとか言うなよ?」

「言わないから睨むのは止めてくれ」

「達成報酬の三分の一と魔石の売値の半分でどうだ?」


「それは随分と多い気がするが…」

「働きを考えれば妥当だと思うぞ、なぁ、フェイ?」

「ん」


「二人がそう言うならそれで構わない」

「よし、決まりだな」


決めることは決めたので、三人は魔獣の死体に火をつけ完全に燃え尽きるのを待ってから廃村を後にした。


◆◆◆◆


三人は行きと同じ二日の時間を掛けて、リベルタへ戻る。


「ここがリベルタか、賑やかな街だな。東部一という話にも頷ける」

「リベルタを回るのは後にしてくれよ」

「分かってる、冒険者ギルドに行くのだろう?、私は何をすればいい?」


「街に入る時にやったみたいに身分を提示して、具体的に何をしたかを受付嬢に説明して欲しい」


クロードは旅人事情に詳しくはないのだが、ソルはオルレーン組合のドッグタグを持っていた。


オルレーン組合はクロードの記憶が正しければ王都に活動拠点を置く商人ギルドだ。


旅をする人間は冒険者でもちらほら見かけるが、ソルはとてもではないが商人には見えない。


明らかに偽物の身分なのが丸わかりだが、クロードは特に指摘はしなかった。


(ソルがなんの目的でリベルタに来たのかは気にはなるが、好奇心は程々しないとな)


引き際を見極めないととんでもない目に遭うことは過去の経験から学んでいる。


そんなことを考えているうちに、三人は冒険者ギルドに到着する。


夕刻ということもあり冒険者ギルドの中はかなり混んでいたが、アリシャの列はいつも通りほとんど並んでいる人がいない。


すぐにクロードたちの順番が来る。


「アリシャ、依頼を達成した」

「おめでとうございます、討伐証明部位をこちらへ、魔石はこちらへ、後ろの方は外部協力者でしょうか?」


アリシャのあまりの手際の良さにソルは目を見開く。


「廃村で偶然会って討伐に協力してくれた、ソル」

「初めまして、ソルだ」


「ソルさん、お話は後で伺います。ルー氏、魔獣は三体だったようですが何故王獅子レグルスの牙が混ざっているのか、説明をお願いします」


フェイは戦闘中に起きたことを起きたことを正確に報告し、アリシャに求められてクロードも説明し、最後にソルが説明した。


「なるほど、報告に齟齬はないようですね。ソルさん、貴女をギルドは外部協力者として認めますが特に報酬を出すことは致しませんのでご了承ください」

「事前に二人から聞いている、構わないよ」


「ありがとうございます、こちらは達成報酬と魔石の代金です」


トレーに乗せられた硬貨たちは綺麗に三等分されていた、アリシャは本当に仕事ができる。


硬貨を受け取り、三人は受付を離れる。


「ソル、改めて礼を言わせてくれ、今回は本当に助かった、ありがとう」

「ん、ありがとう、ソル」

「私も二人と知己を得られて嬉しいよ」


「宿の当てはあるのか?」

「いや、これから探そうと思っていたところだ」

「それなら"金麦亭"って宿屋がおすすめだぞ、通りを左に進んで四番目の角を右に進んだところにある、金色の麦の看板が目印だ」


「どの程度の宿屋なんだ?」

「宿泊費はやや張るがその分設備はそれなりだし、何より宿の主人が元冒険者だから防犯面は信用できる」

「それは大事だな、馬を預かる厩舎は?」

「ある」

「それならそこにしようかな」


「リベルタを楽しめよ」

「ああ、また会ったらその時はよろしく」


馬を引き去っていくソルを二人は見送る。


「何か食べて帰るか」

「ん、奢る」

「今回は俺だ、ブラックになって初めての依頼達成だろ?」

「甘える」

「何がいい?」

「肉」

「端的だな」


クロードとフェイは早めの夕飯を食べるべくその場を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る