第4話『幼い頃の記憶』
祐介も二十歳を迎え、就職で東京に出ることになった。
これは、その就職祝いを兼ねた飲み会で聞いた話だ。
「……俺が小さい頃、兄ちゃんの実家によく遊びに行ってたよな」
「ああ、来てたなぁ。ほんと、かなり小さい頃の話やけど」
「その時、不思議な体験したんよ。そろそろ時効やと思うから、話しとく」
半分ほどに減っていたビールを一口飲んだあと、祐介は語りはじめた。
「小学校あがる前やったから、たぶん4歳くらいの時やと思うんやけど。その日、俺は居間で遊んでた。夕方で家の中は暗くて、兄ちゃんは部屋でゲームしてた」
祐介の話を聞くうちに、私も当時の記憶が蘇ってくる。
うちの実家は昭和の中期に建てられた古い家で、裏に山がある関係で夕方になると日が陰り、家の中が薄暗くなる。
その間取りはというと、玄関から台所へ続く短い廊下があって、その廊下の右側に居間、左側に子ども部屋があった。
その日、私の親はどこかに出かけていて、私と祐介の二人で留守番をしていたことを覚えている。
当時小学校高学年だった私は祐介と一緒にゲームをしていたが、祐介のほうがゲームに飽きてしまい、一人で居間に行ったのだ。
「それで俺、居間で遊んでたんやけど……ふと気づいたら、廊下に真っ白い爺さんが立っててさ。あれ、今思えば間違いなく幽霊だった」
「え、祐介、それ本当?」
「本当だって。まぁ、当時は幽霊とかわかんなかったから、『兄ちゃん、お客さん来てるのに相手しないのかなー』くらいに思ってたけどさ」
その言葉を聞いて、私は背筋が寒くなった。
当時の記憶を思い起こすと、祐介の様子を確認するために部屋の扉は開けていたが、私は居間と廊下に背を向けて、テレビゲームの画面に夢中だった。
つまり、その白い爺さんは、背後の廊下にずっといたということだ。
かつて就寝中の母が、枕元に立つ老人を見た……なんて話も聞いたことがあるし、色々といわくつきの家だったのかもしれない。
「あの家、ラップ音もすごかったしなぁ……母さんはネズミがイタズラしてるって言ってたけど」
「いくら古い家だからって、それはないっしょ。猫も飼ってたんだしさ」
再びビールに手を伸ばしながら、祐介は呆れたように言う。
「そういえば兄ちゃんの飼い猫さ、死んだあともしばらくあの実家に出入りしてたよ」
そして最後に、そう教えてくれた。
散々怖い話を聞いたあとだけに、私はどこか温かい気持ちになったのだった。
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