第2話 支配の ドルフィンキック

 秋風というのはいやに寂しい。僕は道を歩きながらそう思った。

 それなので、僕はセックスをしたいと思った。そう思う時に僕の思い出すのは、大抵は君のこと、付き合ってるといっても過言ではない君のこと、


 家に着いた。門というには小さい門を開けて玄関までの階段を登る。本当にいつもと何も変わらなかった。


 ドアを開けて、喘ぎ声を聞いた。母の声。生まれて初めて聞いた。僕は不思議な心地がした。僕はある程度の音をもってドアを開けたけれども、母(と恐らくもう一人)はそれに気付いていないようだったので、右手でドアの取っ手を持ってゆっくり閉めた。

 僕は靴を脱いで、揃えて、そっと歩いた。音はリビングからした。縦長の二本のガラスを配した、リビングのドア。磨りガラスの長方形を囲うように、透明な、透き通ったガラス。それが二本配された、リビングのドア。それを覗いた。透明なところを、覗いた。母がセックスをしていた。脚でわかった。上には男が覆い被さっていた。父ではなかった。金玉でわかった。僕は(親)二人の脚も金玉もよく見たことはなかったので、その瞬間の理解を不思議に思った。これは血だと思った。血縁という意味で。


 男は必死にぎしぎし動いて、まるで何かの動物のように見えた。それはそこまで若いようには見えなかった。不倫をしていた。それはあまりよくなかった。(そう思った。)


 その二人は僕の対象年齢を超えていたので、あまりエロくは感じなかった。まぁ少々醜くも思えた。

でもまぁそれはしょうがなかった。しょうがなかったのだ。とにかくしょうがなかった。


 僕はそれをずっと見ていた。男は三分ぐらい例のに覆い被さっていた。そのあと二人はキスをして、セックスをやめた。僕は男がいつ射精したのか不思議に思った。二人はごろんと並んで寝転がった。またキスをした。僕はそれを面倒だと思った。僕はそれをずっと見ていた。ふーん、と思った。


 僕はリビングを通り過ぎて廊下をまっすぐ進んで、トイレに入った。座って小便をして、少しスマホをいじった。僕は一つため息をついた。


 男が帰る音がした。母は玄関までそれを見送った。二人は何か喋っていたけれども、途中で少しそれが途切れる時間があった。僕はそれを抱擁の間だと思った。そうして、男は帰った。


 僕はトイレから出た。母がこちらを見た。呆然としていた。かわいそうだった。「言わないで、」と言った。母は、「言わないで、」と言った。僕はかわいそうだと思った。そりゃあ言わないさ、と思った。「うん、言わないよ」と言った。僕は寂しくなった。でもそれを理解していた。そういう意味でも、僕は寂しかった。

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