第15話二重の慶事
ファブラ王国のラミロ国王に第一子が誕生した。
待望の王子の誕生を機に、生母の身分を公表した。
カルーニャ王国のペトロニラ王女。
彼女はカルーニャ王国の失われた「王族の色」である「虹色の瞳」を持つものの、母親の出自が低いことから、ずっと虐げられていた「悲劇の王女」としてファブラ王国で語り継がれていくことになる。
なにはともあれ、ラミロ国王の世継ぎ誕生にファブラ王国の民は大いに喜んだ。
ペトロニラは王妃になった。
二重の慶事に国中が浮かれた。
「へ、へいか……。わ、私に王妃は無理でございます」
「無理?どうしてだ?ペトロニラは王子を産んだ。世継ぎの母が王妃にならずに誰がなるというのだ?」
「私は……その、あの……」
世継ぎ誕生に浮かれるファブラ王国で、ペトロニラは王妃として迎えられたが、本人は酷く狼狽えた様子で、私に「王妃の辞退」を何度も申し出ている。私がそんなことを許すと思っているのだろうか。
「既に公式発表も終わっている。違いました、間違いでした、は通用しない」
「で、ですが他に相応しい方は大勢おります」
「いや、いない」
「え……?」
まさか私が却下するとは思わなかったのだろう。
ペトロニラは驚いた様子で私を見た。
私はそんな妻を優しく見つめ返した。
「そなた以外を王妃に迎える気はない」
「……へ、陛下」
「相応しいかどうかは私が決めることだ」
「……」
泣きそうな顔で「滅相もございません」とか、言い出した妻。
そんな顔をしなくてもいいことなのに。
母国での扱いの酷さのせいだろう。まだまだ自己肯定感が低そうだ。
「私はそなた以外を王妃に迎えない。これは決定事項だ。よいな?」
「は、い……」
まだ何か言いたそうな妻に「話は終わりだ」と告げれば、彼女は諦めたように頷いた。
これでいい。
今はまだ……な。
口うるさい連中を黙らせるには十分だ。
“虹色の瞳”を持つ王妃。
この瞳の色は何も彼女の母国だけが特別視している訳ではない。
大陸の国中が憧れ崇拝しているもの。
それを蔑ろにした彼の国は相当のアホだ。
罪深いを通りこしたアホ。
価値を理解しない。理解したくない愚か者達に、ペトロニラは勿体ない。
ペトロニラが世継ぎを産み王妃になったことを聞きつけたのか、カルーニャ王国は非公式に接触してきた。
呆れるしかない要求に私は拒否の旨を伝えた。
非常識なことをしようとする哀れな国の為に答える義理などこちらにはないのでな。
『虹色の瞳を持つペトロニラ王女様を我が国の王女として正式にファブラ王国に嫁がしたい』
『ペトロニラ王女様はお優しい方。母国の窮状をしれば心を痛めますでしょう』
『どうでしょう。過去のことは水に流し、これから新たな関係を築けばいいのでは?』
呆れて物が言えないとはこのことか。
自分達がペトロニラに謝罪していないことを棚上げし、懲りずに連絡を取ってくる。
“馬鹿につける薬なし”とはよく言ったものだ。
「陛下、如何いたしましょう」
「放っておけ。また言ってくるようなら、賠償金の額を上乗せするぞ、とでも脅しておけ」
「かしこまりました」
あの国の連中は、本当に自分達が何をしたのか分かっていないらしい。
自分達の行いを棚に上げて、よくもまぁ懲りずに勝手なことばかり言ってくれるものだ。
ペトロニラが許しても私は奴らを許さない。
絶対に許してやるものか。
もう二度と近づけさせない。
それでもまぁ、最愛の妻の母国だ。
国としての形だけは残しておいてやろう。
慶事なのだ。
寛容に対応しよう。
血生臭い話しは、当分お預けだ。
私は妻の涙に弱いのでな。
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