第47話 真の一番を決めよう
放課後のチャイムが鳴り響く。
「一週間後は全国統一模試があるからなー。しっかり勉強しとけよー」
担任教師の言葉の後、日直による号令で放課後へと突入する。
「模試だってよー」
「マジめんどくせぇ」
「なんで受けなきゃいけないんだろうな」
「時間長すぎだろ」
「早く帰れるのはいいけどさー」
わらわらと生徒たちが動きながら、あちこちから模試に対するネガティブな声が聞こえてくる。
確かに模試は普通に授業を受けるより疲れるし、めんどくさい。
高校生とは大小関わらず、すべてのテストを嫌う生き物だ。
なんてことをぼんやりと思いながら鞄に教科書を閉まっていく。
すると俺の席の前に、一人の生徒がやってきた。
「今ちょっといいかな、九条」
「…………須藤」
須藤が鞄を肩にかけて俺を見下ろす。
今は学校一人気者な須藤の雰囲気そのもので、顔に違和感はなかった。
「俺に何の用だ?」
「そう警戒しないでよ。別にすごいこと頼もうってわけじゃないからさ」
爽やかな笑みを浮かべる須藤。
須藤がやってきてから、教室を出ようとしていた生徒も何事かと足を止め、俺の席に視線を向けている。
須藤はある程度注目が集まるのを待ったのか、少し時間を置いてから本題に入った。
「ねぇ九条、俺と模試対決しない?」
「模試対決?」
「そう。今度全国統一模試があるだろ? 学校の定期テストと違ってちゃんとした“学力”が試される。そこで俺と校内順位で勝負しようよ」
「勝負、か」
須藤が俺に勝負を挑んでくる理由はわからないでもない。
それに須藤は確か成績もかなり優秀だったはずだ。
つまり、俺に確実に“勝ち”にきている。
「なんで勝負なんか、って思ってるよね。これに関しては俺のわがままなんだけど……やっぱり体育祭で負けたのが悔しくてさ。九条にリベンジしたいんだ」
きっとそれは表向きの理由だろう。
しかし、その理由を言ったことにより、クラスの関心が一気に高まった。
「須藤のリベンジマッチ⁉」
「何? 九条くんと須藤くんが勝負するの⁉」
「模試対決だってよ!」
「あの二人、体育祭の時も対決してたよな」
「組対抗リレーね」
「現最注目イケメンの九条と、学校一人気者な須藤か」
「どっちか勝つんだろう!」
模試という憂鬱な話題に舞い降りた一つの娯楽。
教室の空気が、須藤の提案を後押ししていく。
「俺は別に……」
「頼むよ九条、な?」
言ってしまえば、俺が須藤と対決するメリットが一つもない。
だから戦う気なんてさらさらないのだが、須藤がここまで食い下がると断りづらくなってくる。
しかも今は周りもそういう空気を醸し出していて、俺が断れば非難の目を向けられるのは間違いない。
躊躇っている間にも、周囲の熱は高まっていく。
「お前どっち勝つと思う?」
「さすがに須藤くんじゃない?」
「九条もかなりハイスペックだろ」
「でも須藤の奴、順位一桁とかだしな」
「厳しいだろ」
「でもやってみないとわかんなくね?」
「確かに」
「ってことはこれ、実質うちの学校のトップがどっちなのか決める勝負じゃん!」
「アッツ! マジアッツ!」
そしていつの間にか、断ることが許されない空気が完成していた。
須藤はこれを見越して、時間配分してたのか……なかなか策士だな。
……仕方ない。
「わかった」
「ほんとか? ありがとう! 助かるよ」
一体何が助かったんだろうか。
“まだ”勝負は始まってないというのに。
「お互い模試に向けて頑張ろう! じゃ」
須藤が相変わらず爽やかな笑みを浮かべながら教室を出ていく。
その道中、須藤はクラスメイトたちからのエールを笑顔で返していた。
いつも通りの須藤なんだが、俺にはすごく上機嫌に見える。
どうやら勝負が成立した時点で、自分の勝ちだと思ってるみたいだ。
……正直に言えば、受けなくてもいいのなら受けたくないのだが、別に受けたってよかった。
きっと俺にあまり影響はないだろうから。
さて、早く家に帰って店の開店準備をしよう。
今日は色々とやることがあるからな。
♦ ♦ ♦
※須藤北斗視点
……グフフフ、グフフフフフ。
「アハハハハハハハハッ!!!!」
自室に入り、ずっと我慢してきた笑いを存分に開放する。
「最高だぜ! これでアイツを負かせられる……!!!」
俺の作戦通り、九条と模試対決できることになった。
これはもちろん、調子に乗っている九条に赤っ恥をかかせるためだ。
きっとあの調子乗りクソ野郎のことだからぁ?
絶対に成績とかパッとしないしぃ?
それに比べて俺は勉強もできちゃうしぃ?
……ぷぷぷっ!
なにこれ、どんだけ勝ち試合なわけ?
チョロすぎ! 人生チョロすぎ!!!
……と、余裕をぶっこいていたのがこれまでの俺様。
しかし、学習するからこそ俺という人間は天才なのだ!!!
九条が恥をかかないために必死こいて勉強することを想定して、俺もめちゃくちゃ勉強する!!!
参考書もさっきめちゃくちゃ買ったし、これからすべての時間を模試の勉強に注ぐ!
そうすればアイツに負ける心配はないし、間違いなく俺様が一位!
圧倒的! ぶっちぎりの!! 一位!!!
「フハハハハハハハハハハッ!!!!」
やっぱり俺って男は罪な男だ。
こんなのほぼ死体蹴りも同然だしwwwww
でもごめんな?
俺様は須藤北斗。
常に成長し、確実に勝つ男!!!
これからの俺に、“敗北”の二文字は――ないッ!!!!
「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!!!」
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