第43話 九条良介の真の姿


 翌朝。


「おはよう、良介」

「いい朝だね、良介くん!」

「おはよ~九条くん~!」


「……おはよう、三人とも」


 いつも通り一ノ瀬と花野井、そして今日は葉月の三人に出迎えられ、通学路を歩き始める。

 ちなみにもちろん、葉月が登校メンバーに加わることも、俺の家の前で待っていることも聞かされていない。


 それを言い始めてしまえば、一ノ瀬も花野井も聞いていないのだが。

 もはやとやかく言うことを諦めて、並んで歩く。


 そしてようやく学校に到着したのだが。

 生徒たちから向けられる視線の数が今日は異常に多かった。

 やはり美少女四天王の内三人を俺みたいなよくわからない陰キャが引き連れているからだろうか。


 実際は引き連れているというより、ついてこられているの方が正しいのだが。

 とにかく、さすがは美少女四天王といったところか。


「ま、そりゃこれくらい注目されるわよね」


「みんなびっくりしちゃってるね! 予想以上かも!」


「なんか有名人みたい~」


 三人が周囲を見渡しながらまるで他人事のように言う。


「何言ってんだ、有名人だろ?」


「「「……え?」」」


「…………え?」


 首を傾げられる。

 俺、何か変なこと言ったかな。

 いや、言ってないはずだ。


 すると一ノ瀬が腑に落ちたように俺を見てくる。


「あぁーなるほどね。そういえば自分に対して無頓着だものね、良介は」


「確かに、良介くんこういうの無自覚そう!」


「無自覚? 何がだよ」


「そういうところだと思うな~」


 三人が何を言っているのか全く分からない。

 俺が無頓着? 無自覚?

 さっぱりだ。


 でも俺以外全員がわかっているなら、俺だってわかるはずだ。

 もう一度周囲の声に耳を傾ける。

 いつの間にか俺たちは多くの生徒に囲まれていた。

 ざわざわと喧騒が校内を満たす。


「ねぇねぇ、あの人誰⁉」

「めっちゃイケメンじゃない⁉」

「芸能人⁉ 俳優みたい……」

「顔整いすぎじゃない⁉」

「やっば、男の俺から見てもカッコいいわ」

「超タイプなんだけど……」


 ん? イケメン?

 一ノ瀬たちは確かに顔が整ってるけど、イケメンよりは可愛いだしな。

 でもこの場に男はいないし……え?


「……これ、もしかして俺のこと?」


「気づくの遅いっ!!!」


「九条くんしかいないよ~」


「ま、鈍いところも良介らしいわよね」


「……ま、マジか」


 自分がイケメンなんて、一度も思ってこなかった。

 確かに店とかで言われたことはあったけど、社交辞令だと思ってたし。

 でもまさか。信じられない。


「これから大変ね……良介も、私たちも」


 一ノ瀬がため息交じりに呟く。


「そうだね……うぅ、負けないようにしないと」


「ばっちこいだよ~」


「ば、ばっちこい?」


「ばっちこ~い!」


「お、おう」


 また葉月の言ってることが分からなくなった。

 とにかくここに留まっては大変なことになると思い、教室に向かって歩き始める。

 その間も、通りかかるすべての人に二度見された。

 何なら教室から身を乗り出して俺たちを見てくる人もいて……。


「ヤバ! かっこよ!!」

「なんか眩しいんだけど」

「美男美女すぎでしょ……」

「好きかも……」

「誰⁉ あの人誰⁉」

「転校生?」

「あんな人いなかったよね⁉」

「きゃーーーーっ!!!」


 まさか俺が黄色い歓声を浴びるときが来るとは。

 やはり現実味が湧かない。

 そして、俺が誰なのかみんなわかっていないようだった。

 そこまで変わったのか……。


「やっぱり、葉月のスキルが高かったんだな」


「ううん、元がよかったからだと思うよ~」


「元がいい?」


「そう~! 九条くんは元からカッコよかったってことだね~!」


 葉月のような可愛い女の子にカッコいいと言われるなんて。

 なんだか気恥ずかしくなって、頭をかく。

 

「「「「きゃーーーーーっ!!!」」」」


 するとまたしても歓声が上がった。

 ……ほんと、なんだこれは。










 やっとの思いで教室にやってくる。

 

 教室に入ると、そこにいた生徒たちが全員俺たちの方を見た。

 そしてこれまでと同様にざわつき始める。


「嘘⁉ 誰あのイケメン!」

「転校生⁉」

「にしてはどこか……」

「一ノ瀬たちと一緒にいるってことは九条なんじゃね⁉」

「え⁉ 嘘でしょ⁉ あの九条が⁉」

「こんなイケメンだったの⁉」

「カッコよすぎる……」

「見惚れそう……」


 誰かに見られるって、こんなにも落ち着かないのか。

 これまでむしろ誰にも見られない陰キャだったから、全く慣れない。


「ってか、須藤よりカッコよくない?」

「確かに……」

「これは“物”が違うでしょ」

「一般人と比べたらダメだろ」

「レベルが違いすぎる……」

「ヤバい、カッコいい……」


 あまりの注目度に困惑していると、後ろから生徒がやってくる。



「みんなおはよう!」



 爽やかな笑みを浮かべながらやってくる須藤。


「なんか今日、すごい騒がしくない? 有名人でも来て――え」


 やがて俺と目が合うと、信じられないものでも見たかのように固まる。


「えぇええええええええええッ⁉⁉⁉」





     ♦ ♦ ♦





 ※須藤北斗視点



 ありえない人物が、俺の目の前にいた。

 しかもそいつは俺と同じ高校の制服を着て、俺のクラスにいて。

 そして雫たちと一緒にいた。


 ……嘘だ、嘘だろ?

 信じられないけど、あまりにも証拠が揃いすぎている。


 アイツの家から出てきたあの男。

 俺をコケにして、あの美女に好かれていたあの男……!!!


 そ、それがまさか……九条本人だったのかァッ⁉⁉⁉




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