第7話 イケメン君の裏の顔


 ※須藤北斗視点



 ……ありえねぇ、ありえねぇ!


 なんでここに九条がいるんだ⁉

 そ、それに雫にキスされて……ありえねぇんだが⁉


「はっ!」


 床にゴロゴロと転がる男たち。

 こいつらは俺が雫に仕向けたカス共のはず……!

 なのにこいつらはぶっ倒れて、雫はすでに解放されてて、九条がここに……なっ! も、もしかしてこいつら全員、九条がやったのか⁉


 嘘だろ⁉ あんなヒョロヒョロで地味な奴が⁉

 信じられない……だが、目の前で起きてることを冷静に見ればそうなる。


 ということはやはり九条が俺より先に雫を助けたってことか!


「クソがッ!!!」


 二人にバレないように物陰に隠れ、地面を踏みつける。

 

 全部台無しだ!

 俺がせっかくカス共を集めて、雫を襲わせて俺が助けるっていう計画を立てたのに!


「九条良介ッ……!!!!!!」


 ここまでコケにされたのは人生で初めてだ。


「絶対に許さねぇからな……」


 俺様は須藤北斗。

 欲しいものは必ず手に入れてきた。そう、必ずだ!


「クックックッ……どんなことが起ころうが、結局全部俺の思い通りなんだよ」


 九条と雫を睨みつける。

 見てろよ。俺をコケにして勝ち逃げできると思ったら大間違いだ!!!





     ♦ ♦ ♦





 翌朝。


 俺は周囲からのおびただしい視線にさらされながら廊下を歩いていた。

 左腕に柔らかい感触と重みを感じながら。


「……なぁ、一ノ瀬」


「なぁに、九条くん」


「なんで俺の腕に抱き着いてるんだ?」


「それはどうして私が生きているのか聞いてるのと質問の本質は同じだけど……聞きたい?」


「なんで俺の腕に抱き着くことが生きがいになるんだよ」


 一ノ瀬にとってそこまで大きな存在になった覚えはない。

 

「というか、今日俺の家の前で待ち伏せしてただろ」


「そうね。九条くんが家から出てくるのを待ってる時間はすごくよかったわ。あれがご主人様を待つ忠犬の気持ちなのね。そりゃ喜んで待つわ。像になってでも」


「何言ってるんだよ……」


「とにかく……えいっ!」


「っ!!!」


 一ノ瀬が豊満な胸を腕に押し付けてくる。

 俺の腕で柔らかい胸が潰れる感触がなんとも生々しい。


「ちょ、ちょっと一ノ瀬⁉」


「これでわかってもらえたかしら?」


「これで何がわかるんだよ」


「そうね……私の胸が意外に大きいこと? それと形?」


「っ! そ、それは……」


「もしかして想像した? いいわよ別に。九条くんに見られるなら、私は……ふふっ♡」


 とろんとした瞳で一ノ瀬が俺を見つめる。

 まるで魔力を持ったかのような目に、俺はすぐさま視線を逸らした。


「とにかく少し離れてくれ! ちょっと暑苦しい」


「嫌よ? だって九条くんはもう私の色々を奪っちゃったんだもの。離れるなんて、そんな権利あるわけないじゃない」


「何も奪ったつもりなんてないんだけど!」


「無自覚なのね……まぁいいわ。じゃあこれからじっくり、奪ったものの重さを九条くんの体に叩き込んであげる♡」


「っ⁉」


 一ノ瀬が人差し指で俺の胸をなぞる。

 身の危険を感じ、咄嗟に一ノ瀬の拘束から逃れた。


「はぁ、はぁ……」


「ふふっ♡」


 俺はいつの間にか、とんでもない子に目をつけられたのかもしれない。

 

 それからも視線を感じながら教室に到着。

 やっとの思いで席に座ると、待っていたかのように声をかけられた。


「ねぇ九条。今ちょっといいかな?」


 今日も相変わらず爽やかな笑みを浮かべた須藤が俺を見下ろす。

 

「君と話したいことがあるんだ」


「俺と話したいこと?」


「うん。それにちょっとここじゃ話せない話でね……ほら、人目があるだろ?」


 須藤がちらりと背後を見る。

 教室中の奴が俺たちに視線を向けていた。


 特に花野井、瀬那、葉月が不思議そうに須藤を見ている。


「付き合ってもらえたら嬉しいんだけど、どうかな?」


 須藤は誰にでも優しいが、俺のような地味なクラスメイトにこのような提案をしたことはない。

 それに須藤との共通点は同じクラスというだけで、話があると言われてもピンと来なかった。


 ただ、須藤が俺に話があるとすれば――ただ一つ。



「あなた、九条くんに何の用?」



「雫!」


 須藤が驚いて振り返る。

 そこには不機嫌そうに須藤を睨みつける一ノ瀬が立っていた。


「九条くんは私と常に過ごす予定なの。勝手に“私の”九条くんに話しかけないでくれる?」


 いつから俺は一ノ瀬の九条になったんだろうか。

 一ノ瀬の中で俺を抜きに話が進みすぎている気がする。


「あははっ、九条と随分と仲良くなったみたいだね! 俺は嬉しいよ。ほんとはその相手が俺だったらよかったらなぁ、なんて思ってたんだけど、それは少し傲慢だよね」


「そうね。傲慢を通り越して気持ち悪いわ」


「雫の物言いには相変わらず容赦がないね。雫らしいよ」


 あれだけ言われても全く気にした様子は見せない。

 なんだか俺には、それが逆に不自然に見えた。


 果たしてこんなにできた人間がいるのだろうか。


「それで九条。お願いできないかな? 恥ずかしい話、どうしてもって感じなんだけど」


「ちょっと!」


「わかった」


「九条くん⁉」


 ありえないと言わんばかりに一ノ瀬が俺を見る。


「そんなに時間かからないんだろ? だったら聞くよ。断る理由もないし」


 それに断った後の方が大変そうだ。

 地味なクラスメイトが学園一人気者な須藤の頼みを断るなんて角が立つに決まってる。


「ありがとう! じゃあ行こうか。雫は教室で待っててよ。すぐに九条はお返しするからさ」


「…………」


 一ノ瀬は何も答えず、じっと須藤を睨む。

 俺は大人しく須藤の後についていった。










 須藤に連れてこられ、校舎裏にやってくる。

 

 人気は不気味なほどになく、薄暗い。


「いやぁごめんね! 急に呼び出したりしちゃって」


「別にいいけど」


「どうしても九条とは話がしたくってさ! それも……あまり他の人に聞かれたくない話だったし」


 須藤が爽やかな笑みをこぼす。


「で、話ってなんだ? そろそろ朝のホームルームが始まるから、手短に済ませてほしいんだけど」


「うん、そうだね! じゃあ――手短に」


 須藤がニコニコ微笑みながら俺に近づく。

 そして――




 ――ガンッ!!!




 俺を壁際に追い込み、壁を蹴りつける。

 そして胸倉をつかみ、ドスの聞いた声で言った。








「雫から手引けよ。クソ陰キャ野郎が」









――次回予告――


遂にぶつかる、須藤と九条。



――ざまぁスタンバイ。


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