11.新入生トラブル?
「おおー、町に来るのは初めてだけどやっぱでけえな!」
「ね! ここなら村と違って依頼も多そう!」
騎士達と別れて王都に入った二人はまず人と建物の多さと大きさに目を奪われていた。
御者はお互い父親に代わってもらっているので馬車から身を乗り出して物見遊山をする。
「なんだ、仲直りしたのか?」
「……! ふん、はしゃいでんじゃねえよ。田舎者だって思われるだろ」
「はあ? あんたの方がはしゃいでいるじゃない!」
二人のやり取りを見て、ロイの父ディアクが苦笑しながら迂闊なことを口にした。
その瞬間ロイとリアムはハッとした顔になり、いがみ合いが始まった。
「もう、余計なことを言うから……」
「折角いい感じだったのに」
「う、す、すまん……」
「はは、まあディアクのせいだけってわけでもないけどね」
妻たちに責められているところで、リアムの父カルドがまあまあと諫めていた。
どちらにせよ、どこかでまた気づくから同じことだろうと。
「はあ……仲良くしてほしいんだけどねえ。あ、こっちみたいよ」
「よし」
入学案内の紙を見て学院の場所を確認する。馬車がその方向へ移動すると、段々馬車や人が増えて来た。
「これだけ馬車があっても往来ができるのは凄いな。何十年か前に勇者に依頼をした王都よりもでかい」
「そうなのね。あ、そういえば制服を着て来なかったけどいいの?」
「うん。向こうで着替えられるみたい」
ちらほらと制服の子供が増えてきてリアムの母フレスコが口を開く。しかしリアムはすでに調査済みだった。
ゆっくりと馬車が進み、しばらく移動すると大きな建物が見えてきた。吸い込まれるように制服の子供が移動しているのでここが学院で間違いないと分かる。
学院の門をくぐると案内役の大人が声をかけてきた。
「あ、新入生かな? 入学証書は持っているかい?」
「ああ、これを」
「私はこれです」
ロイとリアムはそれぞれ同封されていた入学証書を差し出す。チェックを終えた案内役の大人、恐らく教員は笑顔でハンコを押して二人に返した・
「はい、ロイ君にリアムさんだね。オッケーだよ。着替えは左の建物の一階に簡易だけど更衣室がある。そこで着替えたら右の建物に集合だ」
「わかりました」
「はい! 馬車やお父さん達はどうすればいいですか?」
教員の説明を聞いた後、リアムが両親や馬車をどうするか尋ねると専用の厩舎があるのでそこへ持って行った後に右の建物へ行くとの返答があった。
「それじゃあ大俺達は馬車を持って行くから後で合流しよう」
「オッケー。ならさっさと着替えてくるぜ」
「またね」
ロイとリアムは自分達のカバンを手にすると指示された左の校舎へと駆け出した。
「男はこっちだな」
「私はこっちみたいね。……待ってなんてあげないから」
「ふん、さっさと着替えて先に行くからな」
先ほどのディアクの言葉以降、また険悪な雰囲気になった二人がいがみ合い、お互いの更衣室へと向かう。
「リアムのヤツ……まあ、学院に入ったら忙しくなるし、これでいいんだ」
(決着……つけ……)
「うるさいよ! お前達のせいでこんなことになってんだ! 絶対に決着なんてつけてやらねえ」
(……)
着替えながらロイがそう捲し立てると、脳内に響いていた声は黙り込んだ。
そのまま着替えを済ませるため服を脱ぐ。
するとそこで近くに居た子供が声をかけてきた。
「あ、あの、大丈夫? 大きな声を出していたけど……」
「え? あ、ああ、ごめんごめん! なんでもないんだ。って、ここにいるってことは新入生か?」
「うん。僕はミトラって言うんだ」
「俺はロイ、よろしく頼むよ」
人の好さそうな顔をした眼鏡の少年が自己紹介をしてきたのでロイもそれに倣って挨拶をする。
「新入生同士、仲良くしようぜ!」
「う、うん! ロイ君はどこから?」
「俺はドワウ村からだよ。ミトラは?」
「ドワウ村って結構遠かったような……僕は王都出身だよ」
「いいなあ。俺は村から通いだよ」
「え!?」
ロイの言葉にミトラは驚愕の表情を見せていた。そのまま二人は着替えると、更衣室から外に出る。
「村から毎朝って馬車?」
「いや、まほ……ん?」
「お前、可愛いな。オレと付き合おうぜ」
「はあ? 私より弱い人と付き合うとかあり得ないのでお引き取りください」
外に出ると身長の高い金髪の男がリアムに話しかけていることにロイが気づく。金髪男には二人の男が取り巻きとしてついていた。
どうやらナンパのようだが、リアムは男をあっさりとあしらっていた。
「なんだと……!? このオレが付き合ってやると言っているのにそんな態度をとるのか!」
「だって私はあなたの名前も知らないもの。性格もね? 私も名乗っていないし。そんな相手と付き合えるの?」
「む、ぐ……!」
リアムに正論を吐かれて言葉を失う金髪男。そこで取り巻きの二人が声を荒げてきた。
「ゴルド様に向かってなんて口を利きやがる!」
「ちょっと痛めつけて言うことを聞かせましょうや」
「ふうん、ゴルドって言うのね。……痛い目ねえ、あなた達にできるかしら?」
リアムがそう言ってニヤリと笑った瞬間、周囲の温度が下がった。瞳の色が魔王を思わせる紅に代わる。
「おい、なにやってんだ?」
「ハッ!? な、なんだ貴様は!」
「人に名前を聞くときは最初に名乗るもんだって教わらなかったか? そいつはウチの隣に住んでいる奴なんだ。同郷ってやつだな。そいつがなにかしたのか?」
ロイもニヤリと笑いながら圧をかけた。
「ゴ、ゴルド様、こいつはやばい雰囲気がありますぜ……」
「チッ……覚えてろよ」
「なにを覚えとけばいいのかね? あんたも新入生か? 仲良くしようぜ」
「……行くぞ」
ゴルドと取り巻きはロイとリアムを睨みつけながら、その場を立ち去った。
「ふん、情けねえ奴だ」
「ロイ君、ま、まずいよ……彼は宰相の息子で権力者なんだ……目をつけられたら大変なことに……」
「ああ、大丈夫だって。あの手の連中の御し方は、な?」
「ええ」
ロイとリアムは顔を見合わせて、再びニヤリと笑みを浮かべるのだった。
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