10.ロイとリアムと騎士三人と

 ロイは地上を疾走し、リアムは空を飛んでホブゴブリン達に接敵する。

 距離はかなり離れていたが、数十秒で通常視界内に状況を確認できるところまで来た。


【グオア!】

「うお!?」

「ダグ! チッ、動けん!?」


 一体のホブゴブリンが騎士へ体当たりを仕掛けてバランスを崩す。

 別の騎士が助けに行こうとするがモンスターの数が多いため押し切られる形となった。

 そのまま体当たりを仕掛けたホブゴブリンの斧が、尻もちをついた騎士の頭上に掲げられる。


「た、盾……」

「馬鹿、避けろ!」


 転がった盾を探す騎士に怒声を浴びせる。だがこのままでは間に合わないと顔を顰めた。


【グオォォォ!】

「くっ……!?」


 剣で庇おうとするも振り下ろした斧の威力はかなりのものとなる。死を予感した騎士が目を瞑った。しかしその斧が頭を割ることは無かった。


「っと、間に合ったか」

「え?」


 瞬間、少年の声がしたので騎士が目を開けると、そこにはロイが登場し、ホブゴブリンの首と腕を剣で斬り落としていた。


「い、一撃だと……? う!?」

【グオォォアアア!】

「アキサム、油断するな!」

「誰だか知らんが助かった! おう、ダグも立ち上がって加勢しろ!」


 ロイの登場であっけに取られていた騎士の一人へ、仲間を殺られたホブゴブリンが怒りを露わにして襲い掛かった。

 アキサムと呼ばれた騎士は、力負けしないように盾を構えてホブゴブリンの攻撃をガードして隙を伺う。


「後は私がやるわ」


 すると今度は上空で声がした。

 もちろん声の主はリアムで、彼女はショートソードで魔法陣を描いていた。

 それが完成すると魔法陣から光が放たれた。


「<アビス・レイ>」

【グギャ……!?】

【グガァァ……】

【グェイアァァァ!?】

「う、うわ!?」

「なんだ、こりゃ……!?」


 群青色の閃光が空から降り注ぎ、ホブゴブリンの身体を貫いていく。

 成す術もなく体中を穴だらけにされて三体のホブゴブリンがあっという間に絶命した。

 リアムが地上に降り立つと、ロイが近づいてきて口を尖らせる。


「お前、危ないだろ? 一気にやったのは流石だけど騎士さん達に当たったらどうするんだよ。」

「私はそんなヘマしないわよ。そう思うならさっさと片付ければ良かったじゃない。ロイなら出来るでしょ」

「なんだと!」

「なによ!」

「ちょ、君たち喧嘩は止めなよ!?」


 突然喧嘩を始めた二人を見て、呆然としていた三人の騎士の内一人であるダグがハッとし、慌てて止めた。


「っと、そうだった……あの、大丈夫でしたか?」

「あ、ああ。おかげで助かったよ。君たちは一体……? 私はグルダという。見ての通り騎士だ。あそこに見えるルガミン王国の四等級騎士をやっている」


 二体のホブゴブリンと戦っていた男が目をパチパチさせながら自己紹介をした。それを聞いてリアムが手を合わせてから目を輝かせる。


「四等級……凄いですね!」

「あ、ありがとう。君の魔法も十分凄かったけどな」


 騎士は等級でランク分けされており、見習い騎士から六等級へ昇格すると後は五、四と上がっていく。

 最大ランクは一等級のため、四等級と言われれば、知っている者からすればなかなかの実力者だと分かる。


「俺はロイと言います」

「私はリアムです。私達は王都の学院に通うために向かっている途中です」

「学院……そうか、今日はクレスト学院の新学期なんだな。ということは学生未満……」

「いや、強すぎっす!? あ、助けてくれてありがとう! 俺はダグ、五等級の騎士をやってるぜ!」

「四等級騎士のアキサムだ。こいつの訓練で野外に出たらホブゴブリンに遭遇戦とはついてなかった。二体くらいなら余裕なんだが」


 ダグとアキサムも剣を納めてから合流して来た。

 ダグを軽く小突きながらアキサムがそんなことを言う。強がっているなと、ロイとリアムが考えているとグルダが二人へ言う。


「では王都に戻ろう。我々もホブゴブリンの件を報告したい」

「はい。騎士もいいなあ、カッコいい」

「わかりました。ロイ、失礼よ」


 グルダの言葉に二人は頷き、共に歩き出す。並ぶ騎士三人をみてロイが感想を口にすると、リアムが窘める。

 しかし、ダグがロイに食いついてきた。


 「お、ロイは騎士希望か? お前みたいに強い奴だったらすぐに上がりそうだよなあ」

「強いのは、まあ嘘を吐いても仕方ないから言うけど、かなりだよ。だけど、この時代は俺より強い人もいそうだけど。……いてえ!?」

「ロイ! 申し訳ありません、失礼を」

「ははは、気にしなくていい。命の恩人だからな。君たちは同郷かい?」


 敬語を使わないロイの耳を引っ張って謝るリアムに、グルダは笑いながら構わないと返し、ついでに質問を投げかけた。それにアキサムも乗る。


「もしかして恋人同士とか?」

「「……!」」


 その瞬間、二人の顔が険しくなりお互いを睨む。そして雰囲気がガラリと変わり、周囲の温度が下がった。


「おお……!?」

「なんという殺気!?」


 すぐに三人の騎士が気づきたじろいでいた。勇者と魔王の気配が漏れているため威圧感が周囲を包み込んでいた。


「こいつはそういうのじゃない」

「そう。ただの幼馴染の腐れ縁ってやつです」

「わ、わかった。だから喧嘩は止めてくれ。アキサム、謝るんだ」

「す、すまない」

「「ふん!」」


 グルダが慌てて二人を止めてアキサムに謝るよう言っていた。

 ロイとリアムはお互いそっぽを向いて鼻を鳴らし、グルダとアキサムが肩を竦めていた。


「というか君ら一体なんなんっすか……下手をすると騎士団長クラスの殺気なんすけど……」


 そこでダグが目を丸くして発言をした。

 ロイとリアムはそれを聞いて平常に戻り、ロイが話をする。


「俺達はちょっと事情があって……」

「ロイの言う通りです。あ、両親が待っていてくれたみたいなので、ここで!」

「あ、待てよリアム。それじゃ!」

「待ってくれ! ……行ってしまったか」


 王都の入口が近づいてきたところでお互いの両親が待っているのが見えた。

 二人が駆けだし、グルダが引き留めようとしたがあっという間に小さくなってしまう。


「……本当になんなんだろうな……」

「お礼をしたかったっすね」

「ふむ、ロイとリアム……一応、報告をしておくか」

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