第59話 元暗黒騎士は水上戦の準備をする
「なんですの、黒の剣。私こう見えても忙しいんですのよ」
「悪いなウィーネイル。ユグドラの再建の方はどうだ?」
「どうもこうもありませんわ。ちっとも、亜人達が集まりませんわ」
水龍リヴァイアサンが出現した後、俺たちは一旦村に戻った。
村の住民達に情報を共有することが目的だ。
それともう一つ、水を司る龍を相手にするのだ。
それならこちらも、水のスペシャリストを用意した方がいいだろう。
ということで、四天王の一人、水帝ウィーネイルを呼び寄せた。
「ウィーネイルは確か、ウンディーネの血を引いてる亜人だったな」
「亜人じゃなくて、魔人って呼んでくださるかしら。魔獣との混血は、あまり響きがよくありませんの」
「そうだった。悪い悪い。それで、ウィーネイルは水の魔獣ウンディーネの血を引いてるって以前言ってたよな」
「ええ、そうですわ。この美しい姿! そして殿方を惑わす声! これこそ、ウンディーネの血を引く証拠ですわぁ!」
それはウンディーネと関係あるのだろうか。
たまたま、ウィーネイル本人が美人なだけでは……。
まぁ、美人でおっぱいでかいからどうでもいいか!
「それで? 黒の剣ともあろうお方が、四天王の中でも私だけ呼んだのはどういうことですの? も、もしかして私の美貌があなたまで虜にして……!? いけませんわ、ファンクラブ会員のみなさんを差し置いて、私だけ幸せになってしまうなんて……!」
「いや、別にそういうわけじゃない。あ、おい露骨に落ち込むなよ……」
冗談かと思ってたけど、肩を落として落胆してるあたり、本気で残念がっているらしい。
こいつ、俺が既婚者であることを知ってるのに、ワンチャン狙いを目論んでたのか……?
確かに、前世のアイドル界隈でも、ファンクラブ会員が本人とお近づきになってゴールインなんて話、聞いたことがあるような……。
まぁ、俺にその気はないのだが。
「期待させて悪いが、今回は真面目な話だ。実は村の近くにリヴァイアサンが出現してな。水を司るドラゴンだから、同じく水使いのウィーネイルのアドバイスを聞きたいんだよ」
「この肌が凍るような魔力は、そのリヴァイアサンの物でしたのね。なるほど、水のドラゴン……普通のドラゴンは凶暴な魔物ですが、言ってしまえばその程度ですわ。でも属性を操るドラゴンは、かなり危険ですわね」
「グランド・ヴァイス・ドラゴンみたいなやつか?」
「あれも確かに強力なドラゴンですが、あくまでこの地に適応した強力な魔物に過ぎませんわ」
それは確かにそうだ。
デカくて強い以外、普通のドラゴンと変わらなかったもんな。
「水を操るということは、知性があるドラゴンということですわ。太古の昔、知恵あるドラゴンは神の化身とも呼ばれていた時代があったと聞きますし……」
「つまり、リヴァイアサンはそれほど強力な魔物だと」
「ええ。話を聞く限り、SSSランクの災害級魔物ですわね。存在そのものが災厄ですわ」
「へぇ、つまり強いんだな?」
「あの、黒の剣……? もしかして、そのリヴァイアサンと戦おうとしてますの?」
「え? 当たり前だろ。だって、水を操るほどのドラゴンだぞ。倒せば潤沢な魔力リソースになるし、肉も増える。いいことづくめじゃないか」
「SSSランクの魔物と言ったはずですわよ」
「安心しろ。そのためにお前を呼んで、意見を聞こうとしてるんじゃないか」
「これはとんだ戦闘狂ですわね……」
失礼な。俺は村の資源を手に入れようと、頑張ってるだけだ。
祠の封印が解けたのは事故だが、結果的に川も海もない死の大地に、水が出たんだ。
この機を逃さずしてどうするんだ。
「はぁ……それで、聞きたいことってなんですの?」
「水上の敵と戦うコツを知りたい」
「それ、私のアドバイスいるんですの? あなた一人でどうにでも出来るんじゃなりません?」
「事前の対策は必須だ。特に得体の知れない相手にはな」
「どうやら本気みたいですわね。それじゃあ私からのアドバイスは一つ、絶対に水の中に入らないこと。入ったら最後、抜け出せなくなって、死にますわよ」
「そんなにか? その水は、毒でも入ってるのか?」
「山の頂上をくり抜いて、湖にしてしまうほどの魔力を持ってるんでしょう? だったらそれは、リヴァイアサンの結界魔法と考えるのが妥当ですわ」
「結界魔法か。死の大地に張り巡らされてる俺の結界みたいなもんか?」
「それより悪質ですわね。あなたの結界は、侵入者を知らせる物です。そして相手に弱体化を施すという効果ですわ。対してリヴァイアサンは、湖を完全に自分の領地にしていますわ」
「ええと、要するにリヴァイアサンがいる場所は、やつの意のままってことか」
「そういうことです。だから、一度水に沈めばきっと、抜け出せなくなりますわ。だから絶対に、水の中に落ちないようにしてください」
「簡単に言ってくれるなぁ」
要するに空を飛ぶか、水面に浮かびながら戦えということだ。
どちらも俺の得意とする戦い方じゃない。
「水の精霊の加護魔法をかけます。これで水の上を歩くことが可能になるはずですわ」
「おお、便利な魔法があるんだな!」
「いいですこと? 戦おうとしても、絶対無理はしてはいけませんわよ! 相手は山を自分の領域に書き換える、知能を持った神の如きドラゴンですわよ!」
「無茶はしない。ありがとう、助かったよ」
「私もあなたがリヴァイアサンを倒すところを見たかったですが、忙しいので帰りますわ。水面歩行の魔法を記した呪符を預けておきますので、必要な時に使ってください」
「何から何までありがとうな。ユグドラ王国での仕事、頑張ってくれ」
準備は整ったな。
これでリヴァイアサンと戦える。
水上ジェットスキーバトルか、楽しそうじゃないか。
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