第39話 元暗黒騎士は王を斬る

「着いたぞ。ここが王都だ」


「もう着いたのかよ! マジで早えなァァァァ!?」


「王都まで数時間もかからず到着ですの? なんだか、私達が地道に死の大地まで移動した時間が馬鹿みたいですわね……」


「こんな便利な移動手段を知ったら、我はもう馬車は嫌だ……」


「どうしてくれるんだ黒の剣! 四天王が全員堕落を覚えてしまったではないか!」


「俺のせいなのか……?」


 それは流石に俺の管轄外だと思うのだが。

 まぁそれほど好評だと思うことにしておこう。


「頼む! 帝国にも飛空艇を譲ってはくれないか! もちろん言い値で買おう!」


「悪いな、この飛空艇は一つしかないんだ。同じモノは作れないから、諦めてくれ」


「そんな……! 私達に楽さを教えてそれっきり……! 鬼畜ですわね、黒の剣……!」


「でも鬼畜な感じは解釈一致だぜェ。こいつ、俺の事を絞めやがったからな! 超鬼畜だぜェ!」


「案外根に持つんだな、岩帝」


「地属性だからなァ! 心に根っこが蔓延ってるんだよォ!」


 なんだか上手いことを言われたようで悔しい。

 いや、上手いこと言ってるか? 雰囲気で騙されてないか?


「それにしても……本当に静かだな」


「飛空挺で王都まで飛んで来ましたけど、人の気配がありませんわね」


「どうなってんだァ!? 王都から人が消えたのか?」


「いや、そもそもここに来るまで人の姿を見なかった。ユグドラ王国に人がいないんじゃないか」


「ううむ……ありえるのであろうか、そんなこと」


「あり得るかどうかは問題じゃないさ。人がいないのは事実なんだからな」


 不可能を可能にする俺のスキル、ダークマターがあるのだから、あり得ないなんて言葉の軽さはよく分かっている。

 ましてやここは異世界だ。不思議なことが起きても、それはなんらおかしなことではない。


「見張りがいないのは却ってありがたい。王城へ直行するぞ」


「いきなりボスと対面か! 鬼が出るか蛇が出るか……」


 陛下の様子がおかしいのは、今までの話を聞いていると十分理解出来る。

 問題は陛下に何が起きているのかだ。ここまでおかしい状況が続くと、ただならぬ事態になっていそうだ。


「陛下……一体どうしてしまったのでしょうか」


 ローレシアの心配そうな言葉に、俺も無言で頷く。

 陛下、本当にどうしたんだろうか。その謎をようやく、俺達は突き止める機会が訪れたのだ。


 ◆◆◆


「ここも久しぶりだな。暗黒騎士をクビにされた時以来だ」


「ここがダーリンの職場だったのね。お城で働くってどういう気分なの?」


「固っ苦しいし、上司はうるさいし、つまらない職場だったよ」


「ふぅん、そういうものなのね。あの黒き剣でも職場環境に文句があるんだ」


「職場環境はむしろ一番気にするところだよ。人間関係含めてな」


 仕事は誰だってやりたくない。モチベーションを維持するには職場の環境と人間関係、そして金が大事なのだ。

 そのどれかに不満を持てば、人はあっという間に仕事を辞める。


 この世界の俺は全部に不満を持っていたが、孤児ということもあり、中々仕事を辞められなかった。


「この扉の先に王の間がある。みんな警戒しておけよ」


「ああ! 任せておけ! この四天王筆頭、火帝のヴォルガトゥスが全てを焼き払ってくれよう!」


「あまり大声を出さないで欲しいですわね……」


「うるさくて仕方がねえェ! 敵にバレたらどうすんだゴラァ!」


「お主も十分うるさいぞ、グランデュクス……」


 敵の前で騒ぐのはダメだろうに……。

 でもここまで騒いでも特に反応がない。まさか王の間にも人がいないというのか?


「扉を開けるぞ」


 俺は重い王の間の扉を開けて、中へ侵入する。

 そこはかつて俺が働いていた場所だった。嫌な思い出が色々と思い出されるが、そんなことはもうどうでもいい。


 玉座に人影があった。薄暗い闇の奥に、二つの怪しい眼光が輝いている。


「陛下……お久しぶりです」


「おお、レクスではないか。これはこれは、一体どうしたというのだ。なぜお主がここにおるのだ? お主は確か、ロックス騎士団長にクビを宣告されたはずだが」


「陛下、これはどういうことですか。なぜ国に誰もいないのでしょう。国民はどこへ消えたのですか!」


「おや、聖女ではないか。お主も来ておったのか。ふむ、よく見れば知らない顔もいくつかあるようだ。どういったご用がおありかな?」


「我らはガルドギア帝国四天王! ユグドラ国王よ、貴殿が我が国へ宣戦布告してきたため、こうして直に話を聞きに参った!」


 おお、なんか急に幹部っぽい口調に変わった。

 こいつら面白集団じゃなかったのか。

 ちゃんと仕事が出来るやつらだったんだな。尊敬する。


「帝国の四天王がわざわざ来てくださるとは、歓迎するぞお客人」


「舐めたことホザいてんじゃあねぇぞタコッ! うちの国の使者を殺しておいて、何が歓迎するだアアン!?」


「グランデュクスの口の悪さはともかく、私も同意見ですわ。一体どういうつもりなのか、ユグドラ国王の意見を伺いたいですわね」


「返答次第では帝国の全勢力を以ってユグドラを攻め落とすことも可能だということを、お忘れなきよう申し上げる」


「ほう、帝国は我が国を陥落させると、そう言っておるのだな?」


「貴方の返答次第ですわ」


 なんか政治的な会話だ。

 くそ……俺が前世も今世も政治に興味ないばっかりに、全然話について行けない。

 雰囲気が真面目っぽいということしか分からない。


「では答えよう。宣戦布告は取り消さぬ。ユグドラ王国は貴国へ攻撃をする。止められるものなら止めてみよ」


「そうですか。残念ですわ」


「残念だろうとも。ガルドギア帝国と我がユグドラ王国は敵国同士、戦争が起きるのは仕方の無いこと」


「いいえ、残念というのはそのことについてではありませんわ」


「何? どういうことだ?」


「こういうことですよ、陛下」


 俺は言うと同時に、陛下の首を切った。

 四天王と陛下が会話しているうちに、ひっそりと気配を消して陛下の背後に回っていたのだ。


「ぐ……ぅぅ……」


「実は王の間に来るまでに打ち合わせをしていてな。もし陛下の様子がおかしかったら俺が斬るって決めてたんだ」


「なん……だ……と……ゴホッ!」


「見え透いた演技はやめろ。お前は陛下じゃない。陛下はそんなことを言わない。あのお方は聡明で慈悲深い方だ。お前の演技で陛下を汚すんじゃない」


「ふ……ふ……ざ……け……る……な……ぁ……」


 陛下の姿を騙る謎の人物の動きは止まった。死んだか、それとも演技か。

 分からないがどうでもいい。はっきりと分かったのは、最近の陛下がおかしいという噂の真相が分かったということだ。


「間違いない。陛下は別の誰かと入れ替わっていた。洗脳か、影武者か、それとも別の何かか分からないが、俺の知る陛下とは別人だってことは確定した」


 この不快な肉の塊をどうするか。魔法で蘇生させて、洗いざらい吐かせるか、それとも俺のスキルでどうにかこうにかしてやろうか。


 だが一番気になるのは、本物の陛下がどうなったかだ。

 この不快な肉塊がもし、本物の陛下が誰かに洗脳されたものだった場合、俺は陛下を斬ったことになる。


 だが俺は後悔しない。陛下もこんな醜い愚王になるくらいなら、俺に斬られることを望んだだろう。

 俺にとってユグドラ国王とは、それほどに優しく、賢い、俺の恩人だったのだ。


 誰かが陛下を操ったのか、それとも別の誰かがなりすましているのかは知らない。

 俺の恩人にこんなことをしたやつは、絶対に許さない。それだけだ。


「さて、このクズ野郎はどうしてやろうかな」

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