第37話 元暗黒騎士は帰省を決心する

 家の外で騒がれるのも嫌なので、四天王を家に入れる。

 こいつら放っておくと、一日中外から大声で呼んできそうだしな。


「ユグドラの陰謀を一緒に止めようじゃないか! 黒の剣!」


「そうだぜぇぇ! 最近のあの国は怪しすぎる! 黒い噂がバンバン聞こえてきやがるしよォォォォ!」


 黒い噂だと? 一体どんな噂が広まってるのだろうか。

 元々ブラックベンチャー企業みたいな体質だったが、それ以上に黒いのか。

 それとも他の国にも、あの国のヤバさが知られてしまったのだろうか。


「私達ガルドギア帝国とユグドラ王国は元々敵国同士でした。それでも最低限のやりとりはあったのです」


「それが最近、全く返事が無いのだ。使いの者も遣さず、内情が全く分からぬ」


 それは確かに怪しい。


「だがそれじゃあ、どこから黒い噂なんてもんが聞こえてきたんだ?」


「商人や冒険者からですわ。ユグドラに定住していないような人たちから、様々な話が広まってるのです」


「例えば? まさか国民が王政に怒りくるって、反乱を企ててるなんてもんじゃないだろうな」


「逆である。静か過ぎるのだ。人の気配が全く無いのだそうだ」


 人の気配が無いだと? それはまた、異常事態としか言いようが無い。


「おかしいと思うだろ? 馬鹿げた話だと思うところだが、聞き流すことも出来ないような数でな」


「つまり冒険者や商人はみんな、ユグドラじゃ商売にならないから他国に流れているって状況なわけか?」


「そういうことになるなァァ。そこそこ名の知れた冒険者達が言ってたぜェ。まるでもぬけの殻だってなァ」


 証言がひとつだけじゃない、おまけに知名度のある人間からもその証言が出たということは信憑性のある話だろう。


「だが待ってくれ。その噂話と戦争が起きるかもしれない話が、どう繋がるんだ?」


「戦争の話はユグドラ王から我らが主であるガルドギア帝王へ手紙が来たのですわ」


「手紙の中身は見てないが、単刀直入にガルドギアに侵攻するって感じだったらしいぜェ」


「馬鹿げた話だ! 国力も兵の質も、ガルドギア帝国の方が遥かに上だと言うのにな」


「それでも戦争を仕掛けようとしてるってことは、何かあるのかもな」


 いくら陛下が老いて狂気に駆られたとしても、考えなしに他国へ宣戦布告しないはずだ。


「住民の消失、国王自らの宣戦布告。これらがどう繋がってるのかは分からぬ。だが確実に言えるのは、ユグドラ王国で何かが起きているということである」


「調べてみる価値がありそうじゃねェかァ!? なァ黒の剣よォォォ!」


「そこで何故俺の名前が出るんだ」


「私達はユグドラの地理に詳しくありませんし、あの国では亜人だと目立つでしょう。調べに行きたいのは山々なのですが」


「部下にやらせたらいいんじゃないのか。四天王全員で行く必要もないだろ」


「密偵なら送り込んだ! だが帰ってこないのだ!」


「殺されたのか?」


「それも分からぬな。だからこそ戦力を絞り、我々四人で偵察に行こうと決めたのだ」


 なるほど、密偵が殺された以上、下手に部下を送り込むより自分たちで実際に見に行く方が危険は少ないか。

 上司が自ら動く理想的な職場だな。俺も帝国に再就職しようかな。


 いや、今の俺は気ままにスローライフするのが夢なのだ。

 よほど生活が苦しくなったら別だが、もう二度と就職なんてしない。


「それで? 帝国との戦いを前にどうして死の大地に来たんだ」


「お前がヤベェェェ魔法で天変地異を起こしたからだろうがよォォォ!!」


「帝国との戦争より、余程危険と判断したのだ。まぁ巨大な魔力の正体が黒の剣で安心したのだが」


「むしろ幸運でしたわね。心強い味方が出来て、更にユグドラの地理に明るいんですもの。きっと女神様は我々に祝福してくださってるんですわ。これもう神話の始まりですわ」


「俺は行くとは言ってないんだが……」


 クビになった職場とその地域って、なんか行きづらいよな。

 前の職場の人間に見られたらどうしようとか、余計なことを考えてしまう。

 あいつまだニートなのかよとか、白い目で見られそうだ。


 まぁ前の職場の人間は俺が全員殺しちゃったんだがな。

 そこら辺の問題は気にする必要も無さそうだ。


「でも俺がわざわざ行く必要あるのか? この村の獣人たちの仲間が王都に潜入してるはずだから、そいつに聞けばいいんじゃないか」


 ローレシアの処刑を知ることが出来たのも、レジスタンスの仲間がいたおかげだ。

 そいつに聞けばある程度は事情が分かるかもしれない。


「先程聞きに行きましたわ。亜人連合レジスタンス『亜人共戦デミ・トライブレース』……中々の戦力ですのね」


 そういえばそんなかっこいい組織名だったな。

 俺にもそんな感じの厨二ネームの組織が欲しい。

 組織のリーダーなんて向いてないから、組織を作る予定なんてないけど。


「ねぇダーリン。フェリスに聞いたんだけど、王都にいたレジスタンスの仲間はあなたが王都で大暴れした後、この村に移住してるんですって」


 村人達へ畑の拡張を知らせて回ってたアリアスが帰ってきて、四天王へお茶を差し入れる。

 うん、アリアスは気が利いているな。この子、俺の嫁なんすよ。


「そうか、レジスタンスとしては王都が壊滅したから仲間を送り込む必要が無くなったってことだな。つまり今、俺達は王都の情報を得る手段が無いわけか」


「旦那様、一度ユグドラへ足を運ぶ必要があると思います。私もあの後王都がどうなったか、陛下がどんなお考えをお持ちなのか気になります」


「私も故郷の森が無事か心配だわ。ユグドラが戦争をするっていうなら、エルフ達が巻き込まれないか心配だもの」


 確かに二人の言う通りだ。

 気が進まないが一度王都へ戻る必要があるようだ。

 本当に気が進まないけど。退職した職場に私物の忘れ物があったから、取りに行かなきゃいけない時くらい気が進まない。


「頼む、黒の剣!」


「…………分かった。嫁の実家へ挨拶しに行くついでだとでも思えば」


「それでこそ黒の剣ですわ! 最高ですわ! これはもう勝ちましたわ! 最高ですわ!」


「俺達、黒の剣と一緒に王都観光に行けるんだなァァ……んだよ、最高じゃねーか!」


「我、サイン貰いたいんだが。よければ現地で買った物にサイン書いてくれぬだろうか」


「あれ、お前ら着いてくるのか? さっきは亜人だから潜入出来ないとか言ってなかったか」


「黒の剣が行くなら我ら四天王が行かないわけにはいかぬだろう! みんな、準備はいいか!」


「「「おおおおぉぉぉぉー!!」」」


 こいつら実は旅行気分なんじゃないか?

 本当は楽しんでるんじゃないだろうな。


 まぁ、陛下の様子も心配だし一度ユグドラに帰ってみるか。

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