クビになった暗黒騎士は田舎でスローライフを送りたい ~死の大地と呼ばれる場所は酷暑の日本と同じような場所でした。チートスキルで快適生活していきます~

taqno(タクノ)

第1話 暗黒騎士、クビになる

「レクス・ルンハルト、貴様を騎士団から除籍する!」


 マジか。

 仕事クビになってしまった。


「貴様は騎士団長である私の命令を度々無視してきた。その罰として騎士団から出ていってもらおう!」


 団長っていつも怒ってるな。

 いや違うな、俺が怒らせてるんだ。

 だからいつも、怒ってる顔しか見てないんだ。


「団長、お言葉ですが私は暗黒騎士です。騎士団に所属こそしているものの、特殊部隊のようなものです」


「それがどうした」


「団長は私の直属の上司ではない。ですから命令を聞く必要もないかと」


 所属違いの上司から命令されても従うわけないだろう。

 俺の本来の仕事とは違うわけだし。


「俺の上司は国王陛下です。もし私を騎士団から追放したいのならば、陛下に話を通してください」


「そう言うと思って、陛下には許可をいただいておる」


 マジかよ。

 陛下は俺を雇ってくれた恩人だと思ってたのに。

 ということはアレだ。マジでクビになるパターンだ。


「わかりました……。陛下が仰るのでしたら仕方ありません。私は潔く騎士団から退きます」


「ふっふっふ。ようやく役立たずの貴様の顔を見なくて済むと思うと清々するわ!」


 普通本人を目の前にして、そういうこと言うかね。

 それだけ俺のことが嫌いだったってことか。


 陛下の命令には従わなきゃいけないし、仕方ない。

 あーあ、次の仕事探すかぁ。面倒臭いなぁ。


「ちなみに貴様の悪評は既にこの国中に広まっておる。冒険者や傭兵など、ほかの仕事に就けると思わないことだな」


 そこまでするか。この人どんだけ俺のこと嫌いなんだよ。

 確かに俺は暗黒騎士だから、人に言えない仕事とかもしてきたけどさぁ。

 あれか、国の暗部の情報漏洩を恐れてるのか?


 いや、団長のドヤ顔を見るに、単に嫌がらせっぽいな。


「そうですか……ではこの国を出ていけと? このユグドラ王国には戻ってくるなと言いたいのですか」


「よく分かっておるじゃないか。さっさと消え去れ、この役立たずのボンクラめ!」


「……わかりました。今までお世話になりました騎士団長」


 あんまり世話になったことはないけど。

 俺と所属が違うし。まあでも、社会人のマナーというやつだ。


「ふん、社交辞令などいらん。一刻も早く消えてくれ。その方がありがたい」


「では失礼します」


 ニヤニヤ顔の団長がむかつくなぁ。

 まぁ、いいか。たった今から俺はこの人とは無関係だ。

 二度と会うことはない。


 俺は本部から立ち去ることにした。


 ◆◆◆


「よっしゃああああ! ブラックな職場から脱出成功だぁぁあ!」


 俺のテンションは爆上がりだった。

 ようやくこの騎士団、いやこの国から出ていける!

 給料がいいから仕方なく働いていたけど、本当に最低な職場だった。


「この国って独自の宗教が根付いてて、しかも思想強めでキツいんだよなぁ。前世で働いてたブラックベンチャー企業みたいだ」


 そう、前世。

 俺にはかつて日本という国で生きていた記憶がある。

 勤め先が訴えられて、その後処理をしている最中に過労で死んでしまったのだ。

 そして気付いたらこの世界に来ていた。


 異世界転生というやつだ。


 この世界には、孤児として生まれた。

 前世知識など無意味なハードモードだった。

 辺境の村の施設で育ててもらって、王国の暗部部隊である暗黒騎士になった。


「生きていくことだけを考えて、前世のことなんて忘れていたけど、俺って前世も今もブラックな職場ばっかり選んでるな……」


 求人広告の謳い文句を間に受けて、いざ働いてみると劣悪な環境。

 ある程度金が貯まったら転職しようと考えていたら、前世では死んでしまった。

 そして今はクビになった。


「おまけにこの国ではまともな職につけない嫌がらせまでされてると来た。異世界転生といったらチート無双でハーレムが夢なのに、残ったのは無職という事実だけ。どうしたものか」


 とりあえずユグドラ王国を出よう。

 騎士団長の思惑通りになるのは嫌だが、俺としてもこんな国に未練はない。


「いっそのこと、どこか遠くへ行くってのもいいかもしれないな」


 ◆◆◆


 俺が本部から出て行こうとすると、背後から声をかけられる。


「待って、レクス!」


「ローレシア様! どうして聖女のあなたがここに?」


「あなたが騎士団を追放されたって聞いて……私、居ても立っても居られなくなって……」


 聖女ローレシア様。

 この国の実質的なトップの権力を持つ少女だ。

 まだ十五歳で権力者とか羨ましい。

 俺なんて一生下働きだよ。


「嘘でしょうレクス? あなたはこの国に必要な人です。騎士団長の独断で追放なんてあるはずがありません」


「それが本当らしいです。陛下の許可も取ってるみたいでして」


「陛下が了承したのですか? あなたに信頼を寄せていたというのに?」


「ええ。その点は少し残念なような、陛下への御恩を返せず申し訳ないような……」


 陛下はまだガキだった俺を気概のある小僧と言って拾ってくれた。

 陛下のおかげでここまで生きてこれたと言っても過言じゃない。


「何かの間違いです! 私、直接陛下に話をしてきます!」


「いいんですよローレシア様。元々、俺には合ってなかったんですよ。国を守る騎士なんて」


「そんなことないわ。だってあなたはこの国最強の暗黒騎士です。いなくなっていい訳がない」


 ローレシアは優しいな。

 その上美しい。正直話しかけられるだけでも気分が上がる。

 それも今日までか……。


「ありがたいけど、俺のためにそこまでしなくていいですよ」


 もしローレシアが説得に成功したら、騎士団に戻らなくちゃいけない。

 せっかくブラック職場から抜け出せたというのに、それはゴメンだ。


「もう決めたんです。新しい道に進むって」


「決意は硬い様ですね……」


 退職の決意は早ければ早いほどいいからな。

 もっとも今回はクビなんだけど。


「行ってしまうのですね……少し、寂しくなります。あなたは他の方と違って、私とよく話してくれたから」


「俺は偶然話す機会が多かっただけですよ。仕事柄、教会の裏仕事もやらされましたし」


「そう……そうよね。この国も綺麗なことばかりじゃないわ。みんな女神ニーティア様への信仰が生き過ぎていると、私もたまに思うわ」


「女神に祈りを捧げるあなたが言っていいんですか。怒られちゃいますよ」


 まぁ、俺もローレシアには賛成だ。

 この国は少々宗教意識が強い。強過ぎて同調圧力がすごい。

 前世のブラック企業の雰囲気思い出すわ。


「あ、私が愚痴を言ってしまったのは内緒……ですよ?」


 かわいい。

 まさに白き花の聖女と呼ばれるだけはある。

 偉い・かわいい・優しいの最強コンボが揃ってる。


「ローレシア様とお話出来たのは俺の人生で一番の自慢ですよ」


「そんな、悲しいことを言わないで。例えあなたが騎士団を抜けても、あなたはあなたよ。私にとって大切な……えっと……」


「大切な?」


「そう、大切な人なの。え、えっとほら、とても頼りになったから! べ、別にそれ以外の意味なんてないですからね!」


 ああ、知ってる。

 これは前世で言うツンデレってやつだな。

 もしかして俺、聖女ローレシアとフラグが立ってたのか。


 でも騎士団クビになったし、完全にフラグ折れちゃったな。


「俺もローレシア様と会えて嬉しかったです。もう会うことはないかもしれません。どうかお元気で」


「本当に行ってしまうのね……」


「立つ鳥跡を濁さずっていう言葉があるんです。最後くらい綺麗にお別れさせてくださいよ」


「そう、あなたのそういうところも素敵だわレクス」


「ローレシア様ほどじゃありませんよ。優しくて美しい、俺にとっての高嶺の花でしたよあなたは」


「ふふ、お上手ね」


 本心なんだけどなぁ。

 まあいくらカッコつけたところで、もうお別れすると決まってるのだ。

 むしろ二度と会わないからこそ、カッコつけられるのかもしれない。


 聖女ローレシア、とてもいい子だった。

 俺が暗黒騎士とかいうブラックな仕事をして、メンタルがやられなかったのは彼女のおかげと言っても過言じゃない。


 それくらい俺にとって、この異世界での生活の潤いだった。


「それじゃあ、そろそろ行きます。あまり長話をしてるとローレシア様に悪い噂が流れかねない」


「レクス! あなたのこと、きっと忘れません! 絶対です!」


 寂しそうな顔を頑張って堪えるローレシアの笑顔が、俺には眩しく見えた。

 この世界で唯一、俺の味方でいてくれた少女だ。

 その子との別れが辛くないわけないじゃないか。


 でも俺は決めたんだ。

 というか決められたんだ。

 もうこの国にはいられないって。


 だから……


「さよなら、ローレシア」


 俺はセンチメンタルな気分で本部から街道へ続く道を歩き始めた。


「マジで仕事クビになっちまった。前世と同じじゃないか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る