亜空間成仏蘇活

白雪れもん

第1話 亜空間漂流者

俺の名前は、もう覚えていない。三年前、どこかの場所で、何かが起こり、俺は死んだ。確かなのは、それがテロによるもので、俺はその犠牲者だったということだけだ。爆発音が響き、視界が暗転し、気がつけば、俺は宙に浮かんでいた。


最初は何が起きたのか理解できなかった。自分の身体を見下ろし、周りを見渡すと、そこには瓦礫の山と血まみれの人々。俺もその一部で、無惨に打ち砕かれた肉体が地面に転がっていた。


恐怖と混乱が入り混じり、声を上げようとしたが、誰も反応しない。俺はその時、すでにこの世の存在ではなくなっていたことに気づいた。


――俺は死んだのか?


その問いに答える者は誰もいなかった。名もなく、形もなく、俺はただ存在していた。死後の世界に送り込まれるはずが、何かが狂ったのかもしれない。俺はこの現世とあの世の狭間に閉じ込められたようだった。


時が経つにつれ、現世での時間の流れが感じられなくなった。昼と夜が交互に訪れるのをぼんやりと眺めながら、俺は何の目的もなくただ漂っていた。人々の生活が変わり、街の風景が移り変わるのを目の当たりにしても、俺には何の感情も湧かない。ただ虚無が広がるだけだった。


やがて、俺は成仏することを考え始めた。このまま彷徨い続けることに意味はない。だが、どうすれば成仏できるのか――その答えは分からなかった。


最初は、人々の未練を解消することで成仏できるのではないかと考えた。生前の記憶を辿り、何かを探そうとしたが、俺にはもうその手がかりすら残っていなかった。すべてが曖昧で、まるで霧の中を歩いているかのようだった。


次に試したのは、自分が死んだ場所に戻ることだった。瓦礫の山が取り除かれ、何もなかったかのように再建されたその場所を訪れたとき、胸の奥に重い痛みが広がった。だが、それ以上の変化は何も起きなかった。俺はただ、その場で立ち尽くすしかなかった。


その後も、様々な方法を試みた。生者にメッセージを伝えようとしたり、他の霊に助言を求めたり、呪いや祈りを試したり――だが、すべてが無駄だった。俺は相変わらずこの世界に取り残され、虚無の中を漂っていた。


ある日、俺はふとしたきっかけで、奇妙な存在と出会うことになる。その存在は、俺のようにこの世界を彷徨う霊でありながら、何か特別な力を持っていた。彼は、自分のことを「案内人」と名乗り、俺に成仏する方法を教えると約束してくれた。


彼の言葉を信じるしかなかった俺は、彼の導きに従い、未知の世界へと足を踏み入れることになる。それは、現世でもあの世でもない、亜空間と呼ばれる場所だった。


そこには無数の道が交錯し、異形の存在たちが蠢いていた。彼らもまた、成仏できない魂たちだった。俺はその光景に圧倒されながらも、前に進むしかなかった。成仏するために――そして、俺がこの場所に来た本当の理由を知るために。


物語は、ここから始まる。俺が「成仏」するまでの、奇妙で不可解な旅路が。


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