元・3-Dの命懸け初見プレイ

あつかち

第1話 元・3-D

自分の人生の主人公は自分だけ


いつの時代か、どこかの誰かが言った。実際、人生は自分視点で動き、心情描写も自分のものしかやらない。主人公らしいといえば主人公らしい。

でも、果たして自分が主人公であることが幸せなのだろうか。主人公だからってみんなに好かれるとは限らない。主人公の中にはクズで、みんなから嫌われるような奴もいる。主人公だからって人気とは限らない。人気投票でTOP10にすら入れない主人公なんてザラにいる。キービジュアルにすら映らないような主人公もいる。

もし、そういった作品じんせいの主人公だった時、それは幸せと言えるのだろうか。皆に嫌われたり、何においても二番以下だったり、影が薄かったり、それは本当に幸せなのだろうか。

とはいっても、別に俺は皆に嫌われたりはしてないし、影もそんなに薄くないと思う。何か一番なことがあるかと言われると…ちょっと分からないけど。

でも、やっぱり主人公は本当に幸せなのかと疑問に思うことは、ないとは言えなかった。




かーんこーんきーんこーん…


高校のチャイムが、午後三時を知らせた。その合図とともにほとんどの生徒が教室を出て行った。部活に行く者。学校を出る者。それぞれが、それぞれの目的の場所に向かっている。教室から出ない者は…何をしてるんだ?

俺は家に帰るために下駄箱へ行った。1-7 出席番号一番 あかつき主時ぬしとき。『あ』で名前が始まるので出席番号が一番じゃなかったことはなかった。下駄箱も俺はいつの時代も左上だった。正直、飽きてきた。

学校を出ると、蝉の声が鳴り響いてた。もう七月だということを嫌になるくらい知らせてくる。

歩いて駅まで行き、改札口に定期券をかざして、電車に乗って家の近くの駅で降りる。最初は家から学校までが遠くてきつかったが、もう慣れてきた。

家から帰るとき、途中で俺の通っていた中学の前を通る。

3-D。俺が中三だった時のクラスだ。学校の外から微妙に見えるか見えないかの位置に教室がある。

3-Dはピッタリ30人。偶数人かつキリのいい数字だったのでグループ分けで困ったことはない。この、困ったことがないというのは先生が分けるときに限った話ではなかった。クラス全体的に仲が良く、男女の壁も思春期にしては低かった。なので誰かが休んだ時も、グループ分けするときは勝手に一人多い班ができてたりして、先生も時々困っていた。

そんなクラスが俺は大好きだった。しかし、今年の三月に俺たちは卒業した。高校に行ってもなんとかなるだろうと思ったが、実際はそんなことなかった。男女の壁どころか、仲良しグループの壁が高く、俺含めクラスで孤立している人は少なからずいる。俺はこれで、初めて中学が異常だったのだと知った。別に独りでいることに抵抗はないし、グループ分けの時に余るのにももう慣れた。でも、時々元・3-Dのことが恋しくなったりもする。


「あれ?暁?」


ふと、俺を呼ぶ声がした。


「あ、冠木かぶらぎ。久しぶり」


声のした方を向くと、冠木がいた。

冠木 壮馬そうま。元・3-Dの一人だ。普段は図書室にいて、図書室の番人なんて言われたりしていた。図書室に普段いるからなのか、雑学に関してはクラスで一番の知識を持っていた。


「あれ?冠木って家も最寄り駅も逆側じゃね?」


「まぁ、ちょっと学校の様子見たくなって」


「なるほど。ちょっとその気持ちわかるかも」


「冠木はいいよな。登下校のたびにここの前通れるから」


「その分少し虚しくもなるぞ」


「贅沢な悩み」


「そうか」


卒業してからも、何人かとはあったりしていたが、冠木とは卒業してから初めて会った。校則の緩い学校に行ったというのは聞いてたが、その影響か、中学の時は黒かった髪の毛に白のインナーカラーが入ってる。


「髪、染めたんだ」


「ああ、せっかくだし経験として染めてみた」


「いいな俺も染めてみた」


「暁の学校。校則厳しいらしいしね」


「それなりにはな。少し理不尽なのもあるけどもう受け入れた」


俺の学校は、偏差値が低いので生徒の矯正のためか、校則が厳しい。髪染めやピアス、メイクはもちろん。バイトや校内での携帯の使用も禁止である。


「あ、そうだ暁。ちょっとこっちきて」


「ん?わかった」


俺はそう言って冠木のところまで近づいた。その時。


ぐぎゅっ


冠木が俺のお腹に何かを刺した。見てみるとそれはUSBメモリだった。すると途端に意識が遠くなってきて、俺はその場に倒れこんだ。


「冠木、何した…」


冠木は何も答えない。ただ、俺を見下ろしていた。


「ごめん。暁」


俺は冠木がそういったのを聞き、俺は気を失った。

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