第44話 オークション
オークション開始日までの数日に渡り、シャンプーを売り続けた俺の預金は元の1000万ドラコ(円)を優に超えた。
フハハハッ! 我が資金は十分だ!!
「いざ行かん!オークションへ!!」
「凄い楽しそうだね。何か欲しい物が有るのかい?」
シリウスさんの馬車で一緒にオークション会場へと向かう。
身分を保証するノーブルコインが有るとはいえど招待状がある訳でも信頼できる地位が有る訳でもないので、大人数で推しかければ会場前で追い返される可能性があるからだ。
「うん? 特にはないですよ。初めてのオークションでテンションが上がっているだけです」
オークションの出品カタログを見せて貰ったけど、特に欲しい物はなかった。
素材は今の所作りたい物がないし、最悪自分で取りに行けばいい。魔剣なんかは有っても使わないし、絵画や剥製は持ってても使い道がない。
「というか、妙に見覚えが有ると思ったら出品された調度品の三割がミエーハリー子爵の屋敷から回収した物ですよね?」
気付いたきっかけはシークレット品の一部として公開された絵。シリウスさんに丸投げしたアレだった。
「それだけじゃないよ。彼はこっちの屋敷にも貴重品を溜め込んでいたみたいでね。前の分も合わせると最低でも我が家が3つは建つ程だね。流石に貰い過ぎだから落札額の半分をギルドの口座に振り込んでおくよ。オークション中にお金が足らなかったら遠慮せずに言ってね」
「ありがとうございます。シークレット品狙いなので資金は多い程いいです。もっともスキルオーブでも有ればの話ですが……」
スキルオーブとは、使用するとスキルを習得できるダンジョン産のアイテムのことだ。滅多にドロップすることがなく、高値で取引されている。
「オークションに出るスキルオーブともなると、それこそシークレット品だね。有名所だと"空歩"や"魔眼"系を見た事があるよ」
あっ、それは俺も欲しい。封印されし厨二心が疼く。異世界だから"魔眼の力を見よっ……!"ってやっても問題ないよね? だって、本当に力を使うのだけだから。
「もっとも魔眼系は暴走事件があったから裏のオークションでもない限り見ることはないよ。今は見付かり次第報告義務があって、物によっては国が強制的に回収する手はずになっているからね」
残念だ。ワンチャン、闇オークションなら出品している可能性が有るらしいが伝手がない。それ以前に参加するのも違法ですよね?
「ノアたちは何か欲しいのある?」
「私も公表された物でこれと言って欲しいのはないですね」
『私も同じかな?』
残念ながら目当ての物はない様だ。この感じだともう一台の馬車に乗る奴隷の皆も同じかもしれない。
「おっと、そうこうする間に着いた様だよ」
馬車が止まり窓から覗くとオークション会場である歌劇場の姿と大量の馬車が見えた。
「すごい数ですね。席は空いてるんでしょうか?」
「安心していいよ。君たちは私の貴族席へと案内しよう。広い個室だから全員入ってもまだまだ余裕さ」
馬車を降り、受付を済ませると『108番』と書かれた立て札を渡された。煩悩の数かな?
それからシリウスさん先導の元、貴族スペースにある用意された部屋へと入った。
貴族席というだけあって、部屋は広く装飾が施さている。席前の柵から覗くとステージ右の高台から見下ろす形で、ステージ上の物がよく見えた。
「ここなら〈鑑定〉が問題なく使えますね。詳細が知りたいなら教えますよ」
「それは助かる。私の欲しい物が数点あるんだけど……その中に通常の鑑定をすり抜ける贋作が有るんだ。魔導具士でもあった『土』の勇者【シャラク・ホウコ】の作品でね。伝手で知り得たシークレット品に出品されるんだ」
「シャラク……それ本名ですか?」
「うん? そう伝わっているが……?」
そうか、結構有名な当て字なんだけどな。
"カーンッ! カーーンッ!"
席に座り待っていると会場中に大きな鐘の音が響き渡った。ステージ上に礼服をきた男性が出てくる。
「紳士淑女の皆様、只今よりオークションを開始いたします」
司会の合図で商品を乗せた台をスタッフが押してきた。
「まずは一品目。ミトラスの壺に御座います。最低価格10万ドラコよりスタートです」
「13!」
「15!」
「20!!」
「……他にいらっしゃいませんか? おめでとう御座います! 20万ドラコで15番さんの落札となります!!」
初っ端なから見覚えのある壺が20万ドラコ(円)で落札された。
「早速、子爵の品が売れたね」
「取り分はどうなっているんですか?」
「出品者側が九割、オークション側が一割だね。そらから出品する物で手数料が変わるよ」
レア度の低く物ほど儲けが少ないので、手数料は高くなるらしい。
「続きなる鎧はかの高名な騎士がーー」
「25!」
「30!!」
「30万ドラコで40番さんが落札です!」
最初の内は金額も低く、あっという間に落札されていく。
「次はナイトキャットの毛皮で御座います」
「マスター!アレ、欲しいニャル!食べたいニャル!!」
俺の影から急にヴィオレが飛び出してきたかと思うと食べたいと言い出した。
「えっ、食べるの!?」
「直接見て思ったニャル。アレを食べると……ヴィオレは強くなれるニャル!」
「18!他にいらっしゃいませんか?」
「急ぐニャル、マスター!!」
「分かったよ。20!」
ヴィオレに急かされ、急ぎ札を上げた。
「21」
「25だ!」
「26」
刻むねぇ〜。そんなに欲しいのか?
相手の人はAランクの魔物の毛皮が欲しいのか、提示した額に少しだけ足して追い掛けてきた。
「30!これでどう?」
「31!」
「40!!」
流石に降りるか? それとも……。
「………」
流石にこの額を出すのは難しい様だ。札を上げる気配はなく、悔しそうにしている。
「居ないようなので108番さんの落札になります!」
「やったニャル!ありがとうニャル!」
嬉しさのあまりヴィオレがぴょんぴょんと飛び跳ねている。その姿に部屋の皆はほっこりした。
「落札した商品の交換はいつするのですか? 基本はオークション後に纏めて行うけど、貴族席の客の場合ーー」
"コンコンコン"
部屋をノックされ、相手を護衛が確認し部屋へと通す。
「商品をお届けに参りました」
どうやら貴族の場合、支払いは使用人がするのが当たり前なので個室に居るなら直ぐに持って来る様だ。
名称:ナイトキャットの毛皮
レア度:7
「……確かに受け取りました。それでは失礼します」
〈鑑定〉で確認したが特に問題無かったのでお金を支払うと直ぐに受け取り帰っていった。
「コレで良いの?」
「そうニャル。あ〜〜ん」
「はいはい、あ〜ん」
スライム体の大きく開いた口に毛皮を丸めて入れた。
「くくっ、大胆に使ったね。Aランクの魔物の毛皮を使い魔のご飯にする人を初めて見たよ」
「まぁ、ペットの可愛さあまってと言った所ですかね?」
他の子たちからもらお強請りされたら買ってしまうと思う。
「ごっくん。……おっ、きたきたニャル!」
そう言うとヴィオレは黒猫に変身。何時もより大っきい気がする。
「マスター!ナイトキャットの毛皮を再現出来たニャル。ほら、触ってみるニャル!!」
「ふぉっ!? 何、この肌触り!最高なんですけど!?」
今までの毛皮と一線を画すふんわり加減。もっふもっふでいい匂いがする。お腹じゃないのに猫吸いをしてしまう。
「「「「「…………」」」」」
皆も気になるのか、うずうずしている。よく見るとメイドや騎士さんたちもだ。
そういえば、ヴィオレは伯爵邸のアイドルをしていたのを思いました。
「そんなに気持ち良いのかい? 私にも抱っこさせて欲しいのだけど?」
「……ヴィオレはどう?」
「いつもお菓子くれるから良いニャルよ」
シリウスさんも餌付けしてたのかい。それは知らなかった。
「ふぉ……これは凄いね。さっきの人もこの毛皮の良さを知って求めてたのかもしれないな」
シリウスさんの膝に乗せると彼も魅惑の毛皮に籠絡された。
彼が終わったので他の人達も順番にヴィオレを可愛がった。
「それではここからは皆様ご期待のシークレット品の登場です。まずは、『闇』の勇者が手掛けたとされる絵画になります。500万ドラコからのスタートです」
「510!」
「525 !」
「530!」
「540!」
「600じゃ!!」
「ふんっ、甘いわ。650!」
「なんのっ! 700!!」
貴族席の客がどんどん競い始め、値段が釣り上がっていった。
そして、最終落札額はーー。
「1000万ドラコで落札となります」
900万ドラコもの大金がシリウスさんの懐に入る事になった。
先程の話が本当なら半分は俺の物で……。うわぁ、用意した資金以上が回収されたよ。
「ふむ……思った以上の高値になったな。怖いくらいの金額になったぞ。流石は勇者シリーズと言った所か」
勇者絡みの品々はそう呼ばれるらしい。
「でも、普通は最後の方に回すから他にも勇者シリーズが出る可能性が高いね」
「次なるは『土』の勇者が作ったとされる雷の魔剣です!皆さんも知っての通り、この作成者の物は鑑定をすり抜ける程の贋作が多い事で有名ですが……これ、この通り。確かに雷を纏い斬る事も出来ます。それでは500万ドラコから回収します」
シリウスさんの言う通り、次の商品を注視していると勇者が作った魔剣だった。
本物の証明として、実際に物を斬って見せた。
「ーー1200万ドラコで確定しました。落札おめでとう御座います!」
「続きまして、魔剣と同じ勇者が確実に作ったとされる鑑定のモノクルですが……作成者が鑑定する者によって違います。勇者が使用していたのは間違い有りませんが、他者の作品の可能性も有りますのでご配慮の程をお願いします。それでは200万ドラコから開始します」
贋作の可能性が有るとはいえ、勇者シリーズなのは間違いないのでまばらに手が上がる。
「アレが私の求めた品だよ。実際の所はどうだい?」
「〈鑑定〉」
名称:鑑定のモノクル
レア度:8
作成者:シャラク・ホウコ(本名:堺京子)
説明:『土』の勇者が竜眼を解析して作り上げた模品で同等の鑑定結果を得られる。
「本物です。竜眼と同等の鑑定結果を得られます」
「600万ドラコ!」
シリウスさんは鑑定結果を聞くと場の流れを無視して一気に値段を吊り上げた。
「620!」
「700!」
「……710」
「750!!」
「…………他にはいらっしゃいますか?」
シリウスさん以外に誰も札を上げる気配はない。無事に競り勝った様だ。
「750万ドラコで落札です!」
「よっしゃあぁぁっ!!」
シリウスさんは嬉しさのあまり、珍しく勝鬨を上げていた。
「ふぅーっ、これで今後の仕事がやりやすくなるよ」
「続きましては、スキルオーブです」
「おっ、今度は俺の狙った商品です」
「勇者の血族より出品されました。スキル不明。詳細不明。しかしながら、レア度10。幾人の鑑定士でも見れず、かの竜眼ですら判別出来なかった品に御座います。使用に関しまして一切責任を我々は負いません。それでもという方は1000万ドラコより開始致します」
「「「「「ーーーっ!?」」」」」
あまりにも異様な商品の登場に会場中は困惑した。
「……………………はっ?」
しかし、それ以上に鑑定した俺は困惑することになる。
スキルオーブ:召喚
存在しない筈のスキルだった。
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