人手不足だから、追放ができない!?~冒険者が不足している世界なので、パーティーから追放したらざまぁ確定です~【短編】

琴珠

短編

 ここはとある田舎町付近の森の中。


「おらあああああああああああああああああああ!!」


 赤髪の少年が、10m程の巨大なオークに向けて剣を振り降ろした。

 オークのHPは0となり、蒸発し消滅する。


「今日もほぼ俺だけで倒せました! 約束通り、報酬の分け前は俺だけ6割でいいんですよね?」


 赤髪の少年は、剣を鞘に納めながら言った。


「あ、ああ」


 歯切れが悪そうに青髪の青年が答える。


「不満ですか? ほとんど俺がダメージを与えたんですけど……」

「それは分かっている! 勿論約束通り、報酬の6割はお前のものだ!」


 赤髪の言う通りだった。


 4人パーティーなのだが、リーダーである青髪を始め、緑髪、黄髪は攻撃力が低く、まともにダメージを与えることができなかった。


 では、なぜそんな自分達に合わないクエストを受けるのか?


 低難易度クエストは人気で、すぐに他のパーティーが受注するので、残っていることが少ないからだ。

 なので、こういった高難易度クエストを受けるしかないのだ。



「どうしたらいいんだ?」


 夜、赤髪が寝た後、2人の青年と1人の少年が焚火を囲う。

 先に弱音を吐いたのは、リーダーである青髪であった。


「ご、ごめん。僕が弱いせいで」


 緑髪の少年も申し訳なさそうな声で、口を開いた。


「いえ、私のせいですね」


 丁寧な口調の眼鏡をかけた青年、黄髪も同じくどこか申し訳なさそうだった。


「いや、お前らは悪くない。勿論、赤髪もな。くそっ! せめて俺ら3人だけで受けられるクエストがもっとあれば!」


 今の時代、冒険者は人手不足の職業だ。

 簡単なクエストも他のパーティーに取られてしまう。


 では、なぜ人手不足なのに簡単なクエストがすぐに取られてしまうのかというと、人手不足だからこそだ。

 人手不足の為、少人数でも受けられる簡単なクエストが人気という訳である。


 本来今回のクエストは最低でも8人パーティーでの攻略が推奨されるのだが、赤髪のおかげで4人でもクエストをクリアすることができた。


 赤髪と出会ったのは、一か月前のことである。



『くそっ! 難しいクエストしか残ってない! でも、そんなこと言ってたら俺達の生活が……』


 クエストボードの前で青髪パーティーが頭を悩ませている所に、赤髪はやって来たのだ。


『そのクエスト楽勝ですよ? 良かったら、俺がパーティーに入りましょうか?』

『こんなに難しいクエストを楽勝だと!?』

『はい! 楽勝です! 入ってもいいですか?』

『勿論だ! いくら募集をかけても誰もパーティーに加入してくれなくて困っていたんだ!』

『分かりました! ただし、報酬の分け前は俺だけ多めの4割でいいですか?』

『ああ! 構わない! よろしく頼むよ!』


 それから、いくつかのクエストを無事にクリアしていった。

 高難易度クエストということもあり元々の報酬自体が高いので、彼に多めの分け前を与えたとしても、問題はなかった。


 何より、非常に助かる存在だ。

 人手不足の今、パーティーに加入してくれたのだから。


 だが、一週間前のことだ。


『ほとんど俺が倒してるんで、もう少し報酬上げて貰ってもいいですか?』

『え……?』

『だって皆さん、ほとんどダメージを与えてないじゃないですか。違いますか?』


 赤髪の口から出てきたのは、正論だった。


『そうだ……その通りだな! 分かった! 皆に相談してみる!』


 今の人手不足の中、赤髪に抜けられては駄目だ。

 そう考えた青髪はパーティーメンバーに相談をし、赤髪の分け前を5割に上げた。


 そして、現在では報酬の6割が彼の分け前となっている。

 報酬自体が高いので、まだギリギリ生活はできてはいるのだが、これ以上は流石に厳しい。



「赤髪の報酬、減らせないの?」

「残念ながらそれは無理だ。もしも、要望を飲まないのなら出て行くと言われている。それに、彼の言うことは事実で俺は戦闘に貢献できていないからな」


 つまり、今の生活は赤髪にかかっているのだ。


「いっそのこと、彼をパーティーから追放するというのはどうでしょうか? 最近はテントを張ったり、食事の準備や片付けも私達3人だけでやっていますし、どうも私達を下に見ているようです。追放した方がお互いの為かと……いえ、現実的ではないですね。すみません」


 赤髪を追放してしまえば、冒険者としてやっていけない。

 そんな現実を思い出したのか、黄髪は軽く頭を下げた。


「ああ。確かに赤髪はかなりの実力者だ。彼を欲しがるパーティーは多いし、最悪ソロでも生活をしていくことは十分に可能だろう。彼も悪い子ではないんだ。ただ、俺らのパーティーには合わない。いや、むしろ俺達が彼に合わせられないのかもしれない」


 「追放ざまぁ」という言葉が最近町で流行っている。

 基本的にはパーティーから追放をしたパーティーが、落ちぶれたり、悲惨な目に合うことを意味している言葉だ。


 現在の冒険者は人手不足だ。となると、どうしてもパーティーの中で能力のある存在が実質的な権限を握ることになってしまう。

 紳士的な者であればいい。だが、中には暴力を振るう者や、態度が悪い者もいる。


 そして、そういった被害にあったことを他のパーティーに相談したとしても、実力が低いから悪いということで、逆に叩かれてしまう。


 それに比べると、赤髪はかなりマシな方なのではある。


「そういえばさ、どうして青髪は冒険者やっているの?」

「どうしてか……どうしてだろうな?」


 青髪は昔から、冒険者になるように教育を受けて来た。

 つまりは成り行きである。


「深く考えたことは無かったな。お前らはどうなんだ?」


「僕は報酬が良いって聞いたからかな! でも、僕の場合は実力不足だったみたい」

「私の場合は安定性ですね。私が小さな頃は冒険者と言えば生活が安定する職業でしたので。今は難しいクエストばかりで、とてもじゃないですが実力が高くなければ安定とは程遠いですけどね」


 全員、やりたくてやっている訳ではない。

 そんなことに3人は気づいたのか、お互い顔を合わせて笑った。


「なぁ、俺冒険者辞めようかと思う」

「突然どうしたのですか?」

「いやな。特に思い入れが無ければ、他のことで生活していくってのもありかもしれないと思ってな」

「確かに肉体労働などであれば、冒険者という経歴は活かせるでしょうし、私は止めませんよ」

「悪いな」

「いえいえ、私も考えてみようとは思っていたのですよ。私も辞めますかね。赤髪さんといるのはストレスが溜まりますからね。精神面は生きていくのに大事ですから、稼ぎが少なくとも、精神を病んで働けなくなるよりは良いでしょう。とは言っても、今の稼ぎも良いとは言えませんから、あまり変わらなそうですけどね」


 青髪は特に赤髪を嫌ってはいなかったのだが、黄髪は嫌っていたようだった。


「じゃ、じゃあ僕も……」

「いや、待て」


 緑髪が2人に続こうとした所に、青髪は言う。


「お前は俺らよりも若い。続けたければ続けてもいいんだぞ?」

「おやおや? 青髪さんは年齢をあまり気にしない方だと思われていましたが」

「確かに、剣士ならともかく魔術師とかだったら何歳から目指してもいいかもしれないが……って、俺はそういうことを言おうとしてたんじゃねぇ! 緑髪が俺らに合わせようとしてたから、ついな」

「なるほどです。確かに、そこは自分で決めた方が後々後悔しなさそうですしね」


 そう言われた緑髪は。


「ごめん! 僕冒険者としてもっと強くなりたいんだ!」


「そうか! 頑張れよ!」

「応援していますよ。最近は冒険者をしながら別な副業をする方もいますので、必ずしも冒険者だけで生計を立てなくても問題はない訳ですからね。緑髪さんは器用ですし、おそらく問題ないでしょう」


「皆! ……お別れは寂しいけど、頑張るよ!」


「おいおい、別に合わなくなる訳じゃねぇだろ」

「同じ町に住んでいますし、それに今はネット魔法も開発が始まっているそうですしね」

「ネット魔法?」

「ええ。なんでも、最近別な世界から来た青年が王都で開発している魔法で、今後魔道具化をして、一般の方でも使えるようにするとかなんとか」

「それ使うとどうなるんだ?」

「離れていても、会話ができたりするようです」

「そりゃ凄いな!」


 と、ここで赤髪がテントからあくびをしながら出て来た。


「まだ起きてたんですか? あ、相談なんですけど、分け前を7割……いや、8割にして欲しいんですけど」

「丁度良かった。大事な話がある」



 その後、パーティーは解散した。

 数か月後。


 赤髪は冒険者を続け、緑髪は赤髪の弟子になった。

 緑髪は赤髪の修行により、かなり強くなったようで赤髪も焦っているようだ。


 お互い力を高めていく関係になれれば、幸いだ。


 黄髪は図書館で仕事をしている。

 彼は本が好きなので、今の方が幸せそうだ。


 青髪はというと。


「やっぱり、青髪さんの手料理は上手いな!」


 黒髪の青年に、青髪はシチューを手渡し、それを青年は美味しそうに食べていた。


「普通に飯屋の方が上手いだろ?」

「違った良さがあるんですよ! 野外で食べるならこっちの方が俺は好きです! こう、家庭の味っていうかなんというか……とにかく美味いんです!」

「そ、そうか?」


 青髪は照れながら、言った。

 他のパーティーメンバーにも、シチューを手渡す。


 今の彼は、異世界から来た黒髪の青年が率いるパーティーの料理を担当している。

 冒険者を辞めた青髪は飯屋で働いていたのだが、そこで彼の料理に惚れた黒髪が、青髪をパーティーにスカウトし、再び冒険者として生活している。


 とは言っても、雑用と料理専門なので、一般的な冒険者とは少し違う。

 形だけの冒険者ということだ。


 覚醒して強くなったりはしなかったが、家庭的な味のシチューはパーティーメンバーに大人気なのであった。

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人手不足だから、追放ができない!?~冒険者が不足している世界なので、パーティーから追放したらざまぁ確定です~【短編】 琴珠 @kotodama22

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