迫害されてた皇子が皇帝になって後宮ハーレムで世界征服するお話
園業公起
第一章 即位
第1話 迫害の日々
大切な人は俺を置いてこの世を去った。
もう一人の大切な人は俺の目さえ見ない。
だからもうこの世界に僕は何の未練もない。
僕がこの国の皇帝になってしまうその日までは。
【Vanderley The Liberator】
僕の身分は不安定だ。世界に名だたる超大国である神聖イグアス帝国の後宮にて皇子として生まれたのにも関わらず。僕の部屋は後宮の庭の隅っこにあるテントだ。宮殿に僕の部屋はない。母が死んですぐに僕は宮殿から追い出された。かと言って臣籍降下もなく未だに皇族身分のままだ。毎月宦官たちが届けてくるお小遣いだけで世活している。でもそれもあまり多くはない。僕はテントの傍に畑を作ったり、湖で魚を釣ったりして日々の糧にしていた。一応外の貴族たちの学校には通わせてもらってるし、制服とかは支給してくれたけど、それでも生活は苦しい。テントでの生活は冬は寒いし、夏は暑い。今どきは魔導蒸気機関の発展で平民だってエアコンを使っているというのに、僕はスラムの住人並みの生活を送らされていた。でもそれも仕方がない。だって僕は。
「おい。混ざりものの皇子様さんよう!エルフの血が入ってるくせに皇族とか不敬なんだよ!」
「ぐぅ」
今日も学校で貴族の上級生たちに一方的に殴られた。昔は殴り返していたけど、今やその気力もとうに失せていた。
「辞めろ貴様ら!皇族相手に何たる無礼!」
一方的にボコされていた僕を黒服を着たガードマンが救ってくれた。
「このことは皇帝陛下に報告させてもらうぞ!」
「ち!オーフレイム!卑しい宦官風情が!はっ!どうせ陛下だってそいつみたいな混ざりもんには興味もないだろうよ!いままで一度だって罰せられたことなんてないしな!ひゃはは!」
上級生たちは去っていった。僕と黒服のガードマンだけがこの場に残された。
「殿下!ヴァンデルレイ殿下!いい加減このことは陛下に上奏なさるべきです!」
「いいよ。どうせ父さんだって僕のことなんてどうでもいいって思ってるんだからさ。あいつらのいう通りだよ。父さんは僕に興味がない」
「そんなことは…」
「ヤーノシュ。母さんが死んでから父さんは僕に一言も言葉をくれないんだ。宮殿を追い出されたときだって、他の皇妃たちに遠慮して止めてもくれなかった。母さんの遺品だって全部…全部奪われたままだ…」
母さんが持っていた家具もアクセサリーも宝石も魔道具も何もかもが他の皇妃たちに奪われつくした。アルバムさえも焼かれて母さんの顔さえ僕は忘れかかっている。
「学校を卒業したらきっと後宮からも追い出される。そしたら自由だ。だから耐えていればいいんだよ」
黒服の宦官ヤーノシュ・オーフレイムは悔し気に眉を歪めている。
「私は殿下こそが次の皇帝になるべきだと思います」
「そんな大それた夢はいらないよ」
「宦官や亜人にも優しいあなたならこの国をきっとよくできるはずです」
「無理だよ。誰が皇帝なんて認める?ハーフエルフの僕が?誰も認めやしないよ」
僕はヤーノシュに背を向けて校舎へと向かう。早く卒業したい。ただそれだけを考えて。
テストの結果が張り出されていた。いつも通り僕の順位は二位だった。いつも上には平民出身のハルドール・リウィウスという女の子の名前があった。
「殿下!がんばりました!わたし!また一番取れましたよ!」
頭から生えているうさぎ耳をぴょんぴょんさせながらハルドールが僕に近づいてきた。
「すごいねぇ。ハルドールは。発明大会でも銀賞だったんでしょ。えらいえらい」
僕はハルドールの頭を撫でる。くすぐったそうに彼女は微笑んだ。やぼったい大きな眼鏡をしているが綺麗な顔をした彼女の笑顔はとても魅力的なものだった。
「はい。がんばりました。でも金賞取れると思ってたんです。ヤーノシュさんからも聞きました。金賞の貴族のドラ息子はアカデミーにわいろを贈ってたそうです。…わたしたち亜人種が大学への奨学金を取れるチャンスは少ないのに…ヒューマンの貴族はズルばかり」
ハルドールは悲し気に目を伏せた。僕は彼女の肩を優しく抱く。
「いつかはチャンスが来るよ。だからがんばろう」
「…そうですよね」
ハルドールはこの貴族学院に特待生として入ってきたとても優秀な学生だ。なのに不当にチャンスを奪われている。人種なんて選べもしないもので僕たちの人生の道はいつも狂っている。真っすぐに歩ける日はいつ来るんだろう。
学院から高級まで僕は自転車で通っている。だからだろう。たまに他の皇子たちに揶揄われるときがある。
「おいおい!我が栄えあるアヘノバルブス皇室の恥のレコードを更新するのはやめてくれよ!末席の末席とは言え一応皇族のお前が自転車通学など臣民の笑い物だぞ!」
後宮の門をくぐるとそこには僕と同い年の皇子である、第12皇子のジェームズがいた。他の皇子たちと一緒に僕を笑っていた。僕はフルシカトで横を過ぎて行く。
「は!こんなにも挑発されてもだんまりか!所詮は野蛮なエルフの子だな!」
ちゃりを漕ぐ足が一瞬止まった。だけど気を取り戻してちゃりを漕ぎなおす。
「ふん。あの母にしてこの子ありか。あの野蛮人共を帝国は絶滅危惧種として保護してやったのに、お前の母は後宮に潜り込んだのをいいことに反乱の手引きなどした恥知らず。その息子が」
エルフを絶滅寸前に追い詰めたのは旧大陸から移民してきたヒューマンたちだ。この新大陸セアラの先住民族である美しいエルフたちをヒューマンは圧倒的な軍事力でもって『狩猟』した。女たちは愛玩用の性処理玩具として、男たちは霊薬や魔道具の材料にされてしまった。母は数少ない生き延びた部族の末裔の一人だ。
「母は反乱なんて考えてなかった。父さんに貞節を持って尽くしていた貴婦人だ」
「ふん!貴婦人?くくく。まあ美しかったのは認めるが、あれは我等の父を色香で惑わせるために遣わせられた毒婦だった。我らの母たちはそれにきづいたからこそあの女の反乱の証拠を集めて告発したのだ!その結果があれだろう?」
燃え盛る火が脳裏に浮かんだ。母は生きたまま火あぶりにかけられた。僕はそれを見ていることしかできなかった。
「あれは見ものだったなぁ。エルフ狩りはもう禁止されてしまったが、たしかにあの光景はたまらなく興奮したぞ。あの美しい顔が焼かれていくのに子供でありながら俺らも開拓者だった父祖たちの様に滾ったものだった!」
そう言い切ったジェームズの顔はひどく醜く歪んでいた。悍ましい笑みに真っ赤な怒りを覚えた僕は、気がついたらジェームズを思い切り殴り飛ばしていた。
「殴ったな!この国の皇子の俺を殴ったなぁ!!」
「母さんを侮辱するな。それだけは絶対に許さない」
僕がさらに殴ろうとジェームズに近づくと誰かに手を引っ張られた。
「やめろ。皇族であるのであれば殴り合いなどではなく、決闘で雌雄を決しろ」
手を掴んでいたのは第三皇子のスペンサーだった。
「第十二皇子ジェームズ。第十三皇子ヴァンデルレイ。お前たちの諍いは第三王子である私が介添え人として預かる。
「上等だ!混じりもん!貴様を今日という今日は後宮から追い出してやる!兄さん!決闘で俺が勝ったらこいつを後宮から追い出してください!」
「わかったいいだろう。ヴァンデルレイ。お前は決闘で勝ったらどうしたい?」
「決闘なんてどうでもいい。そいつをただ殴りたい」
「だめだ。決闘しろ。だからこうしよう。決闘で勝ったらジェームズを好きなだけ殴っていい」
「…わかりました。決闘します」
こうして俺たちの決闘が決まった。場所は後宮内の皇族用訓練闘技場。魔導蒸気で動く人型兵器による一騎打ち。
設定
新大陸
イグアス帝国が存在する大陸。もともとヒューマンや獣人系亜人などは住んでおらず、先住民族のエルフのみがいた。帝国は入植してきたヒューマンたちが主になって建国した国家。二度の世界大戦を乗り越えて世界を随一の超大国となった。
亜人種
けもみみとかエルフとかヒューマン以外の人種のこと。平均的にヒューマンよりも容姿がいい。
ヒューマン至上主義
ヒューマンが人種として最も優れているとする思想。だが実際には亜人種の方が容姿もよく魔力なども高いので、むしろコンプレックスに根差した思想と言える。もしヒューマンに他人種他ない優れた点があるとすればそれは闘争心と繁殖力だろう。
神聖イグアス帝国
新大陸全土を領土とする超大国。魔導蒸気による産業革命を真っ先に成し遂げて巨万の富を築き上げた。もともとは旧大陸列強国たちの植民地だったが、ヒューマンが中心となって独立。アヘノバルブス家が皇室として君臨する階級社会を築いている。
プーパ・エクテス
人型兵器。全長8mほど。この世界の主要兵器。
奴隷
この世界に存在する制度。旧大陸新大陸どちらにも存在している。亜人種の奴隷が多いがヒューマンの奴隷も多い。
宦官
去勢された男性官僚。後宮に出入りできる存在。皇帝の事実上の奴隷とみなされているが俗世に対しては権力があるので人々からは卑しまれている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます