聖女がいる世界

瑠翠 幻花

第1話



「ねぇ、ーー。外には色んなものがあるんだよ!」


「ーー。大きくなったら色んなものを見に行こう?」


「ーーはどこに行きたい?ぼくはね?」




 たまに見る、小さい頃の夢。まだ名前を呼ばれていた頃。もう男の子の面影も朧げで、ふわふわした栗毛色の髪とキラキラした視線だけを覚えている。




「聖女様、お目覚めになられましたか?」




 遠慮がちな声が私の意識を現実に引き戻した。今日は夢のせいかいつもより起きるのが遅かったみたいだ。




 「今、起きます」




 ゆっくりと身体を起こしながら夢で少年が話していた外とは何か思いを馳せる。

 色々なものとはなんだろう?ここに無いものなんて想像できない。ここには何でも揃っているし自由に使っていいと言われている。お洋服も、お花も、キラキラした宝石やお菓子、ありとあらゆるものがこの神殿には揃っている。




「聖女様?」


「あ、ごめんなさい。着替えます」




 慌ててベッドから下りて身支度をする。

 そっと扉を開けて伺うように扉から顔だけを出し、迎えに来てくれた侍女のサアラに謝る。




「大丈夫です。それよりも、もしかして体調がすぐれませんか?」


「ううん、元気!」




 証明するようにニッコリと笑い、腰に手を当てる。するとサアラは安心したように微笑み見返した。サアラと少し会話をした後、少し後ろにいる護衛騎士のリュカの方に近づき、同じように遅くなった事を謝る。




「いいえ、お気になさらずに」




 そっと差し出された手に、手を重ね祈りの場に向かう。

 祈りの場は20分程離れた場所にある。庭を通り、林になっている所を歩いて行くと吹き抜けになっている建物が見えてくる。その中央には湧き水が溢れており、石造りの水路をその湧き水が流れている。

 そこで30分から1時間程祈りを捧げる。

 あとは治療の時間を教える鐘がなるまで朝食を取ったり本を読んだりと気ままに過ごす。それがいつもの日常だった。



 ゴーン、ゴーンと厳かな鐘が神殿中に鳴り響いた。その鐘の音を聞きながら治療の場として使っている礼拝堂へ向かう。

 今日はどのくらい怪我人がいるだろうか。重症者は?小さな傷ですら痛いのに、大きな怪我をしたら……そう思うだけで辛くなる。早く、治さなければ。

 広い礼拝堂には沢山の人がすでに押しかけている。治療は午前、午後と2部に分けてそれぞれ2時間ほど取っており基本的には午前が重症者、午後に向けて怪我が軽くなっていく。途中で症状の重い人が来ればその人を先に治療する。

 遠い所から癒しの力を当てにしてここまで来る人もいるそうだ。

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