第捌話 決意
ウツギと一角熊の戦いから1週間が経った。
ウツギとウルシは戦いの後に駆け付けた大人たちに無事保護され事なきを得た。いや、森に入った子供たちは全員大人たちにしこたま叱られた。これ以上ないくらいに叱られた。だが、森で一角熊に遭遇して全員無事だったのだから叱られただけで済んだのは良かったと言えよう。
「あれから一週間、これで窮屈な外出禁止も解けたことだし、訓練も再開だ!!」
ウツギが元気よく家の庭に出ると、コガマは呆れてたようにため息をついた。
「あのなぁ、ウツギお前本当に反省してるのか?」
「し、してるよ」
ウツギはしどろもどろになりながらも、外出禁止から解放された喜びを隠すように言う。
「だったらいいが……」
ウツギは上手く誤魔化せたとことに安堵したのもつかの間、「そう言えば」とあることを思い出す。
「父さん
一角熊を斃したのは実質ウツギ一人であるのだが、ウツギは一角熊を斃せたのはウルシのおかげでもあると主張していた。
「ああ、基本的に斃した獣は、斃した者の物となるんだがな、ウルシの奴がウツギの手柄を奪う真似はしたくないって言ってな、一応一角熊の素材はお前のものとして処理してある」
「そうなんだ」
「そこでだ!!」
突然大きな声を出すかコガマにウツギは驚き、その体を跳ねさせる。
「どうしたの父さん」
そうウツギが訊くと、コガマはフッフッフと不敵に笑いながら自身の背中に隠し持っていた一振りの剣を取り出した。
「父さんこれは?」
「お前が斃した一角熊の角で作られた剣だ」
「これ、僕が貰って良いの」
「年齢的にはまだちょっと早いんだがな、まあ一角熊を単独で斃したのだから別にいいだろ」
「ありがとう父さん!この剣抜いてみていい?」
「ああ、いいぞ」
言われてウツギは鞘に納められている剣を抜く、すると陶磁のように真っ白な刀身が現われた。
「すごい!きれいだ!」
ウツギが惚れ惚れした様な目で刀身を見つめていると、
「ちなみにだがその剣、魔力を刀身に通すと刀身が強化される魔剣になっている」
「魔剣……」
「他にもお前用に拵えたサイズ調整魔法がかけられた防具一式もそろってる」
「父さん……うちにそんなお金あったの?」
「お前な……父さんの稼ぎをあまり舐めるなよ。それに父さんは昔、冒険者をやっていたんだ。お前の装備一式そろえるくらいの金はある」
因みに鬼人族には成人した我が子に装備一式を贈るという風習があり、今回コガマが用意した一角熊装備一式はそのために貯金されていた費用で賄われている。
「ありがとう、父さん」
「おう、後で母さんにも言っとけよ」
「うん!それじゃあ父さん、早速剣の訓練を始めよう」
やる気に満ちた目でコガマを見つめるウツギであったのだが、コガマはどこか困った様な顔をしており、ウツギはそんなコガマの様子に疑問を持つ。
「どうしたの父さん?」
「いや、ウツギ言い難いことなんだが。父さんとの訓練はもうやめることにしよう」
コガマの突然すぎる言葉に、ウツギは動揺を隠せない。
「ど、どうしてだよ父さん」
「ウツギ、お前はもう十分に強くなった。なにせ鬼人族の大人でも中々斃せない一角熊を成体になったばかりの個体とはいえ、単独で斃したんだからな」
「父さんでもてこずる相手なの」
「馬鹿野郎、父さんは特別だ。やろうと思えば素手でも倒せる」
「だったらなおのことだよ」
「父さんが言いたいのはそういうことじゃないんだ。ええ~っと」
「全く、これじゃあ見てらんないよ」
コガマがあたふたとしていると、家の中からウツギの母――アケビが出て来る。
「アケビ……」
「口下手にもほどがあるってもんでしょうが、しょうがないから私があんたの代わりにウツギを説得するよ」
「すまない」
「ウツギ!!」
「はい!!」
「あんたはいつまでこんな小さな村にいるつもりだい?」
「それは少なくとも成人するまでいるつもりだけど……」
「遅い!!」
アケビ厳しい一言に、びくりと体を跳ねさせるウツギ。
「父さんが言ってたろアンタはもう十分強くなったって、だったら次のステップに入るのが道理ってもんじゃないのかい?」
「次のステップ?」
「都の学園のことだよ」
「そんな、僕は――」
「甘ったれるな!!あんたはもうこの村に治まる器じゃなくなったんだ。強さを知り、弱さを知り、勇気の大切さを知った立派な戦士なんだ。」
そこまで言ってアケビはウツギの肩をギュッと抱く。
「別れは確かに寂しいよ、だけど今生の別れじゃない。どうしても帰りたくなったら帰って来れるんだ」
「うん」
「それじゃあ、わかってくれるね」
「……うん、僕もっと強くなって帰って来るよ」
ウツギは涙をこらえながら決意する。今よりももっと強くなっていつかは父を超える戦士になることを。
「それっじゃあ今日はウツギの決意を祝して御馳走にしよっか」
「本当に!!」
「まったく、お前は本当に現金な奴だな」
そう言ってウツギたちは笑顔で家の中に入っていくのであった。
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