第弐話 スキル鑑定
支度を済ませたウツギは父コガマと共にサカエ村の神社の境内に来ていた。
境内の中には、幾人かウツギの見知った面子がおり、その中にはいじめっ子の他に幼馴染のツバキの姿もあった。
ツバキのことを見つけたウツギはツバキの方に走って行く、これはツバキの近くにいたらいじめっ子も馬鹿にしてこないだろう、と言うなんとも情けない算段による行動であった。
「ツバキお早う」
「おうウツギ今日は元気なんだな」
「今日はって、僕はいつも元気だよ」
「嘘つけ、いつもはいじめっ子にいじめられてシュンとしてるじゃないか」
「それは……そうだけど」
ツバキの鋭い指摘に、最初の元気はどこへやらいつものように元気のない姿になるウツギ。
するとツバキはしまったという顔をして、
「そう言えば今日はスキル鑑定の儀式だな!ウツギはどんなスキルだったら嬉しい?」
そう言って無理やり話題を変えてきた。
しかし、ウツギも単純なものでツバキからの問いに腕を組んで頭を傾げて考え込む。
「う~ん、”剣術”も良いし”魔法”のスキルも良いなぁ。あ!父さんみたいに”怪力”のスキルも良いかも」
そう無邪気に答えるウツギに、ツバキは上手く話題が変えられたことに安堵する。が、
「弱虫野郎がそんないいスキルもってるわけねぇだろ」
と楽しい気分に水を差される。
いつの間にやらウツギたちの下にいじめっ子のリーダーであるウルシが来ていた。
「――またお前は、そんなの鑑定してみないとわからないじゃないか!」
「へん、わかるね。いつも女の後ろに隠れてる弱虫になんかに鬼神様がすごいスキルを授けてくれるわけないだろ」
鬼神様というのは阿修羅の国が祀っている神の一柱であり、最も信仰されている神のことである。
「また、お前は――」
わなわなと体を震わせ、炎のように赤い髪を逆立たせるツバキ、
「ほ、ほらツバキスキル鑑定の水晶が来たよ。もうすぐスキル鑑定が始まるよ」
「フー!!」
威嚇する猫のような唸り声を上げるツバキ。心なしか赤色のオーラのようなものまで纏っている。
そんな椿の様子を見て、いじめっ子のウルシもまずいと感じたのか、
「そ、それじゃあ俺は先に行くぜ」
と尻尾を巻いて逃げ出す。
「ほ、ほらウルシももういなくなったし、いったん落ち着こう、ね」
「ふーふー」
「どうどう」
「ふー……」
ウツギがなだめることによって徐々にツバキは落ち着きを取り戻す。そしてはっと我に返ると
「おいウツギ!鑑定の儀式もう始まってるじゃないか。急ぐぞ!!」
と言ってウツギの手を取り境内の中央まで駆けて行く。
ウツギはなんとかツバキをなだめることが出来たことに安堵し、ツバキと共にスキル鑑定を行っている境内の中央へと向かった。
ウツギたちがスキル鑑定を行っている場所に着くと、既に数名の列が出来ていた。
どうやらウツギたちの番は最後の方になったようだ。
「ああ~あたし一番乗りが良かったのに~」
悔しそうに地団駄を踏むツバキ。
「それじゃあ僕は最後の方で良いからツバキは僕の前に並びなよ」
「ぐうう……今回はそれで我慢することにするよ」
言うとツバキはウツギの前に並び、ウツギと共に先にスキル鑑定を受けた子供たちの反応を見る。
スキル鑑定を受けた子供たちはスキル鑑定の結果に一喜一憂する。そんな子供たちの様子を見て、ウツギは徐々に緊張が増していく……そして
「それじゃあ次の方どうぞ」
「おう!!」
ツバキの番がやって来た。ツバキはスキル鑑定の水晶の前に立つと水晶玉を指差して、
「これを殴れば良いのか?」
物騒なことを言い放つ。ウツギはそんなツバキに今までの何を見ていたのだろうと疑問に思うが、まぁツバキだしという結論に至る。
「殴らないで下さい!手をかざすだけで良いですから」
「なんだ、つまんね」
ツバキは係員の言う通りに水晶に手をかざす。
すると水晶玉の中に文字が浮かび上がってきた。
水晶に浮かび上がってきたスキルは”象形魔法”、”火魔法”、”格闘術”の3つであった。
「お、3つ浮かんできたぞ」
「すごいですよ3つもスキルを持ってるなんて!それにこの象形魔法のスキルこれは間違いなくユニークスキルです!!」
興奮気味にそう話す係員に、ツバキは嬉しくなったのか、近くで様子を窺っていた父親の下へ駆け寄って行く。
「親父!!あたしゆにーくすきるっての持ってるんだって!!」
「本当かツバキでかしたぞ!!」
そう言ってツバキの父親はツバキを抱き上げグルグルと回り出り、娘と共にその喜びを分かち合う。
その様子ウツギは羨ましそうに見つめるが係員からの「次の方どうぞ」という言葉に緊張感が戻ってきた。
「ひゃい!!」
緊張のあまり大きな声で噛んでしまう。
その姿に周りの子供だけでなく大人までも笑い出しそうになるが、ウツギはそんなことは目に入らず緊張したままの状態でスキル鑑定の水晶に手をかざす。
すると水晶玉に揺らぐように文字が浮かび上がってくる。
浮かび上がってきたスキルは全部で二つ”ケン”と”健啖家”のスキルであった。
「”健啖家”のスキルと”ケン”のスキル?こんなスキル聞いたこともないですよ」
「それじゃあ」
「おそらくユニークスキルだと思いますが、どんなスキルなのか見当もつきません」
「そ、そんなぁ」
「でもでも、健啖家のスキルがあるじゃないですか」
「それじゃあその”健啖家”のスキルはどんなスキルなんですか?」
「よく食べるというスキルです。良かったですね健啖家のスキルを持つ人は皆長生きするんですよ!!」
係員がフォローするようにそう言うが”剣術”や”魔法”という実用的なスキルを望んでいたウツギにとってそんなスキルはあってないようなものだ。
ウツギはガクリと肩を落として落ち込んでしまう。
が話はそこで終わらなかった。
ウツギの父コガマが掌をポンと叩いて余計な一言を口走ったのだ
「ああ、だから昔っから馬鹿みたいに喰うわけだ」
その言葉を聞いていた周りの人々は大笑い。その日からウツギへの悪口に大喰らいが追加されたのであった。
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