同音ギフテッド~角の無い鬼と蔑まれた鬼は同音スキルを駆使して生き抜きます~

ウツロうつつ

第一章 角の無い鬼

第壱話 サカエ村のウツギ

 鬼人族の国、阿修羅の南部にサカエ村という小さな村があった。


 そんな小さな村に一人の子供が生まれた。


 名はウツギ、何の変哲もない鬼人族の両親をから生まれた何の変哲もない鬼人族の子供のはずだった……


「やーい、やーい角無しっ子~くやしかったら角見せろ~」


 鬼人族の子供たちがウツギを馬鹿にするように囃し立てる。

 

 何を隠そうこのウツギ、鬼人族であるにもかかわらず角がない。


 鬼人の歴史上、角のない子供が産まれることは前例が少なく、時代によっては忌子扱いされたこともあるのだが、幸いウツギの産まれた時代にはその様な忌むべき風習は残っておらず、ただ珍しい子が生まれた程度の認識であった。

 

 しかし、それはあくまでウツギを取り巻く大人たちの反応。時として子供というのは大人よりも残酷な一面を垣間見せる。


 角のないウツギは同年代の子供たちからのいじめの標的となり、角のないことを馬鹿にされる日々を送っていた。

 

 当然ウツギはそんな境遇に嫌気がさして両親に相談したこともある。


 しかしウツギの両親は毎度のことのように


「悔しかったら強くなれ」


と言われるばかりか、嘆いてること事態が情けないと逆に叱責を受けてしまう始末であった。


「はぁ……」


 ウツギは一体何度繰り返したのかわからないため息を吐く。


 それでも周りを取り巻くいじめっ子たちは角のないウツギを馬鹿にし続ける。

 

 そんな時であった。


「こらー!!お~ま~え~た~ち~!!」


 と、大声を上げながらウツギたちの下へ走って来る少女がいた。


「おい!ヤバいぞツバキが来た!!」


 いじめっ子の一人が自分たちの方へ一目散に走って来る少女に焦りの色を見せる。


「弱い者いじめなんかしてんじゃねー」


 少女は炎のように赤い髪と瞳を輝かせ、ウツギといじめっ子の間に割って入ってきた。


「お前たち!何度言えば気が済むんだ!!弱い者いじめは鬼人族の恥だぞ!!」


 弱い者、その言葉がウツギの心にチクリと刺さる。


――自分はそんなに弱くない。


 そう思うが、状況がそうとは言っていない。


 駆け付けた少女の目からすればどこからどう見ても弱いものいじめにしか見えない。


 それはウツギもわかっていた。だからどうすることも出来ず、押し黙るしかなかった。


「なんだよツバキ毎回毎回邪魔ばっかりしやがって!!」


 いじめっ子たちの中でもリーダー格の子供が少女――ツバキの前へ出て文句を言うと、ツバキはフン!と胸を張って言い返す。


「お前たちがウツギをいじめるからだろ!弱い者いじめは誇り高い鬼人族の恥だ!!」


「お前毎回そればっかりだな、それ以外言うことないのかよ!!」


「ない!!」


 きっぱりと毅然とした態度で言い放つツバキに、いじめっ子たちはたじろぎ何も言い返すことが出来ない。


「わかったならいじめなんか止めてウツギと仲良くしろ!!」


「なんで俺たちが角無しなんかと仲良くしないといけないんだよ!!」


「角のあるなしなんて関係ないだろ!!な、ウツギ」


 ツバキからの突然の問いかけに、ウツギは戸惑い、何も口にすることが出来なかった。


 そんなウツギの態度にいじめっ子のリーダー――ウルシは腹を立てたのかツバキ越しにウツギに向かって怒鳴る。


「何か言ってみろよウツギ!お前はいつもみたいに黙ってるだけか?」


 そうウツギを煽るがウツギは黙ったままで何も言わない。いや、怖じ気づいて何も言い返せないのだ。

 

 そんなウツギの態度に気を削がれたのかウルシは呆れたように短くため息ついた。


「そうかよ、じゃあそうやっていつまでもツバキの後ろに隠れてろ!皆行くぞ!!」 


 吐き捨てるようにそう言ってウツギたちの下を去って行く。


 するとウツギの前に立っていたツバキがウツギの方に向き直り、ウツギのことを強い眼差しで見つめる。


「なあウツギたまには言い返さないと舐められたままだぞ」


ウツギは俯いたままで眉をハの字にまげ、視線のみをツバキに向ける。


「だって角なしなのは本当のことだし……」


 あまりに情けないウツギの言い訳に、ツバキはその顔をウツギに寄せてはっきりとした口調で言う。


「だ・か・ら、そんなの関係ないって言い返せって言ってんの!!」


「うう……」

 

 ツバキの圧力に負けて何も言えないウツギに嘆息するツバキ。


 このようにウツギという少年は数年に及ぶいじめっ子からのいじめによって、情けない性格になってしまったのだ。


 しかしながらウツギ自身も自分の性格を変えたいと願っていた。普通の鬼人族の子供たちと遊びたいと思っていた。

 

 だが勇気が出ない、角のない普通とは違う自分を普通の子供たちは受け入れてくれるのであろうか?


 ウツギはそんな不安を抱えたまま、何もすることが出来ずに毎日を過ごしていた


 そんなウツギにある転機が訪れる。



 ある日の朝、ウツギが自宅で朝食を摂っていると、ウツギの父親――コガマが思い出したように言った。


「そう言えばウツギお前はもう10歳になったんだったよな」


「うん、そうだよ」


 普段は大人しい性格のウツギではあるが、それはあくまでいじめっ子たちを相手にした場合で、心を許した相手、この場合には両親に対してはその限りではなかった。


「それじゃあ今日スキル鑑定をしに行ってみるか?」


「行くってどこに?」


「村の神社だよあそこで今日スキル鑑定の儀式があるんだ」


「スキル鑑定の儀式?」


「まあ儀式って言ってもそこまで大層なものじゃない。この村に住む10歳以上の子供のスキル鑑定をするってだけのことだからな」


 がはははははと豪快に笑うコガマ、そんな父を見てウツギは何がそんなに面白いんだろうと思う。


「ふ~ん……って、それって十分に大事だよ!!」


 事の重大性に気付き、今にも食卓を乗り越えんばかりに前のめりになるウツギ。


 そんなウツギの態度にコガマはポカンと呆けてややあって我に返る。


「いやいや、たかだかスキル鑑定だぞ」


「いやいやいや、たかがスキルじゃないでしょ!スキルは将来を左右する重要なものだよ。父さんだってスキル持ってるでしょ?」


「あるにはあるが……」


「何ていうスキル?」


「”怪力”と、他には”剣術”もあるが」


「それじゃあ父さんの職業は?」


「この村の警備兵だ」


「ほら、思いっきりスキルの恩恵を受けてるじゃん。それなのになんでスキル鑑定の儀式が大したことなんて言うのさ!!」


「それは……」


 ウツギからの追及に言葉を詰まらせるコガマ。


「ウツギが余り思いつめないようにするため、でしょ」


 そう言ったのはウツギの父親の隣で静かに朝食を摂るウツギの母親――アケビであった。


「確かにウツギの言う通りスキルは将来を左右する。父さんだって”怪力”のスキルがあったからこの村の警備兵になることを決めたんだ」


「あれ?”剣術”のスキルは?」


 ウツギの疑問にアケビは二ッと笑顔になる。


「そこが大事なところだよ。父さんは生まれつき剣術のスキルは持って無かったんだ。それをたくさんの努力をした結果”剣術”のスキルを授かったんだ」


「そうか、だから父さんは大したことないって言ったんだね」


「そう、スキルは確かに大事なものだけど父さんみたいに後から習得できるスキルもたくさんある。だから生まれ持ったスキルばかりに注目する必要はないんだよ……わかったらさっさと朝ご飯を食べて支度しな!」


「うん!!」


 言ってウツギは残った朝食を急いで平らげて、支度をするために自室に戻っていった。


「すまないなアケビ、お前にはいつも助けられる」


「気にしないでよ、アンタの口下手は今に始まったものじゃないんだからね」


「ああ、ありがとう」


 ウツギの父親がウツギの母に一言礼を言い、改めて食卓を見る。そこには大量の空になった皿があった。


「しっかしウツギ奴、日に増して喰う量が増えてないか?」

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